北海道美術ネット別館

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■臼井愛子写真展「輓曳 -World’s only horse racing-」 (2016年7月29日~8月3日、札幌)

2016年08月03日 10時24分59秒 | 展覧会の紹介-写真
 現在は世界で唯一、帯広競馬場で行われている「ばんえい競馬」に迫った写真展。

 ばんえいは、優雅なサラブレッドが駆け抜ける一般的な競馬ではなく、北海道のがっしり太った農耕馬が、重い荷を引きずり、坂道などの障碍を乗り越えて走る競馬です。かつては北見などでも開かれていましたが、現在は帯広のみの開催となっています。

 臼井さんは東京出身、帯広在住。以前からカメラや写真が好きでしたが、本格的に学ぶために大学の通信制の門をたたきました。今回はその卒業時に制作したものをベースに、カラー34点を展示しています。プリントは銀塩用だけあって、非常にきれいです。

 とらえられているのは、まだ薄暗い冬の競馬場内の情景に始まり、白い息をはきながら凍てついたコースを進む馬や、厩舎きゅうしゃの内部、蹄鉄ていてつの作業など。
 逆光を効果的に使って、空気感をうまく表現していますが、それほど奇抜なアングルなどの写真はありません。じつは、この写真展は、1点ずつに題や説明などのキャプションがまったくついていないのですが、それぞれの写真が、意図が明確に撮られているので、説明不足や消化不良を感じるところは皆無でした。
 少なからぬカメラマンが、たとえば馬が必死になっている写真に、たとえば「渾身」とか「苦闘」みたいな題をつけたがります。そして、親切心ゆえなのでしょうが、馬の生態についてあれこれ文章で解説しようとします。それをいちがいに否定する気はありません。しかし、写真そのものが良ければ、そういったものは必要ないのです。臼井さんの写真展は、そのことの、良い証左になっていると思います。

 会場には臼井さんがいらっしゃるので、例えば、蹄鉄には冬用があって、滑りにくくなっているといったお話が聞けるかもしれません。

 帯広競馬場の許可を得て、足しげく通っているうちに、中の人たちとも親しくなって、いろいろな場面を撮らせてもらったとのこと。「だから、わたしひとりで撮ったというより、皆さんのおかげでできた写真展なんです」と臼井さんは謙遜しますが、やはり現場に足を何度も運んだ者の強みを、会場で強く感じました。

 筆者がいちばん好きだったのは、若い馬たちが夏を過ごす十勝管内足寄町の放牧場の写真です。
 馬がリラックスして、臼井さんになついているようすがよく伝わってきます。馬のあくびを至近距離からとらえた1枚や、緑の野に並ぶ馬たちを俯瞰でとらえた1枚は、帯広競馬場とはまた違う環境の馬のようすがうかがえて、興味深かったです。


2016年7月29日(金)~8月3日(水)午前10時~午後7時
富士フイルムフォトサロン札幌(中央区大通西6)




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2 コメント

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ありがとうございました! (ウスイヨシコ)
2016-08-04 00:47:39
梁井さん、このたびは足をお運びいただいたばかりでなく、丁寧にご覧いただき、温かい記事も書いていただきとても感激しています。(拝読してうるっとしました)
本当にありがとうございました。
終わったばかりで余韻がものすごく残っており、まだまだ気持ちの整理もつかない状態ですが、またご覧いただけるような作品づくりをしていきたいものです。
初めての個展で反省点も多々ありますが、本当に楽しい時間でした。
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臼井さん、こんにちは! (ねむいヤナイ@北海道美術ネット別館)
2016-08-04 17:38:05
個展、おつかれさまでした。
離れた場所での開催で、お疲れだろうと思います。
なんか変なことを書いてはいないかと、心配です。どしどし指摘してください。

馬の写真を撮ったり絵を描いたりしている人はほかにもいますが、臼井さんの写真は、取材の熱意が感じられて、良かったです。今後もよろしくお願いします。
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