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■神田日勝と新具象の画家たち (2012年12月9日まで、鹿追)

2012年12月06日 22時32分23秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 菅訓章館長の「特別企画展によせて」という文章に大きな感銘を受けた。すべての美術館関係者、キュレーターに読んでほしいと思った。
 神田日勝記念美術館のサイトにも類似の文章がアップされているが、図録に印刷され、会場に掲げられているものと若干異なっている。

 以下、引用。

 個人名を冠した美術館の役割のひとつは、顕彰する画家の側から日本美術史を照射することにあろう。神田日勝という画家が、いかなる史流に位置づけられるか、また位置づけられなくてはいけないのか、美術館開設以来神田日勝の画業を顕彰する施設に携わった者として、この思いは頭を離れることがなかった。美術館紹介のパンフレットに記載された「戦後の新具象の画家として定位」されたという表現を、もう少し深めて実感したいというのもそのひとつである。

 かつて北海道立近代美術館と下関市立美術館の共同企画になる「日本のリアリズム展」(1992年)において、神田日勝は、曹良奎・中谷泰等とともに1950年代に入る頃に「対象の形態と質感をあえてデフォルメ(変形)により強調して描き出すことで、事物の存在感を画面に刻みつけていくかのような作風」「(曹や中谷は)社会批判的な視点から貧しい庶民や労働者の姿を描き、あるいは人間の生活空間のなかに題材を求めた」(展覧会図録より引用)とされる画家のひとりと評価を与えられたものである。しかしその深化はそれ以降なされていない、それは僕らの責任でもある。

 これで半分である。

 後半は、

・この企画が米山将治・元神田日勝記念館長の積年の蓄積に基づいていること

・作家の選定に、佐藤友哉札幌芸術の森美術館長の教導を受け、夕張の小林政雄、木下勘二の選択につながったこと

・夕張市美術館の倒壊という困難にもかかわらず、同市教委と上木和正・元夕張市美術館長の尽力を得たこと

などがつづられている。
 多くの関係者への敬愛と感謝がこめられた、あたたかみのある文章だ。



 ところで、新具象とはなんだろう。

 昔は、わざわざ「具象画」などとは言わなかったはずだ。
 絵はすべて具象だったからである。

 おそらく、戦後日本の洋画壇を抽象画が席捲したために、わざわざある潮流を「新具象」と呼んだのであろう。

 いま、美術出版社の本などで戦後日本の美術史を振り返ると、具体やハイレッドセンターといった固有名詞が出てくるだろう。
 しかし、それは、のちの時点で歴史の流れを整除した結果であり、1950~60年代当時は、団体公募展の絵画の傾向がどんなものであったかは、いま考えるよりもはるかに重要な事項であったのだ。

 図録には、十勝美術史の生き字引的存在である米山将治さんが「「新具象」の時代」という一文を草して、この用語が何に由来するか、宗左近、吉田豪介、針生一郎といった評論家とその書名を挙げて、解き明かしている。
 これについて述べていくのもおもしろいだろうが、ここにかかずらっていると、いつまでたっても展覧会そのものに話が到達しそうにないので、短く引用するにとどめたい。

 東京発の美術史が述べる「新具象」は、田中亜喜良のパリ移住と曹良奎の北朝鮮帰国で閉幕となるのでしょうが、“地方からの視界”では、それは違います。その後10年こそ、日本「新具象」が熟成と転移を重ねていく、神田日勝の制作期なのです。
 1970年に海老原喜之助が再び訪れたパリで客死し、神田日勝が「室内風景」と「馬(未完成)」を遺して他界する、その時点が本統の「新具象」の時代の終焉なのでしょう。



 ここで、出品作家を挙げておこう。 
 12人を、なんとなく地域別にわけると

●全国=道外 浜田知明、北岡文雄

●道内    與志崎朗、伏木田光夫、小林政雄、木下勘二、豊島輝彦、神田一明

●十勝    葛西新一、米山将治、渡邉禎祥、霜村英靖

となる。
(なお、図録では、小林の出品作は「捨て石の山」となっているが、同じ題の1957年作も同時に出品されていた。つまり、同題の作品2点出品であった)



(長くなったのでいったんアップし、続きはあす以降)

 
2012年10月23日(火)~12月9日(日)午前10時~午後5時(入場~午後4時半)、月曜休み(祝日と重なる場合は開館)
神田日勝記念美術館(十勝管内鹿追町東町3)

一般510円、高校生300円、小中学生200円



・北海道拓殖バスで、帯広駅前バスターミナルから乗車55分、「神田日勝記念美術館前」降車
(新得駅前発は、休日は2往復、平日4往復のみです)






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