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■池田緑展 Silent Breath―沈黙の呼吸 (10月24日まで)

2010年10月13日 07時33分56秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 
 道内を代表する現代美術作家、池田緑さん(帯広)が、道立釧路芸術館で個展を開催中だ。
 といっても、メーンのスペースではなく、フリーアートルームというサブの展示室なのだが、これが彼女にとって2度目の公立美術館の企画展であることには変わりない。

 内容は、副題が示すとおり、マスクを用いた作品を中心にした回顧展的なもの。テープによる作品は出品されておらず、版画もない。
 純然たる新作は「ひとつの事態 マスクをかけた2000の樹」というスライドショーのみなので、この展覧会のためだけに札幌から釧路まで駆けつけるには及ばないが、ふだん現代美術に接する機会の少ない釧路や根室、北見の方々には見てほしい展覧会である。

 くだんのスライドショーは、マスクを13×13=169枚、床面に敷き詰め、そこに映像を投影しているのがおもしろい。




 上の列は「Silent Breath サホロの2ヶ月/3ヶ月/12ヶ月/33ヶ月」。
 2009年作、各65.5×66.7cm(額装サイズ85.7×85.7cm)、インクジェットプリント、紙。
 
 下の列は「MASK SPECIMAN サホロの72ヶ月(1999年8月13日-2005年8月13日)」。



 池田緑さんの作品に親しんでいる人には説明不要だろうが、彼女は、十勝のダム湖の近くにある木にマスクを長時間掛けっぱなしにしておき、その変化を写真に記録した。

 6年にわたって屋外にあったマスクは黒ずんでぼろぼろになっている。
 それは、公害のためというより、ほこりなど自然の原因で黒くなったのだろうが、地球環境の悪化のメタファたりえている。




 映像作品「36 months in NYC(Silent Breath-Speak)」と「36 months in NYC(Silent Breath-Hand Movement)」。いずれも2004年作で、前者は5分8秒、後者は3分55秒とクレジットされている。

 札幌では、道立文学館での「田園都市のコンテンポラリーアート 雪と風の器」(08年3月)が初出と記憶している。
 あの「9・11」で世界貿易センタービルが倒壊したとき、池田さんはニューヨークにいた。
 その衝撃を、ニューヨーカー36人に短い言葉と身ぶりで表現してもらったもの。
「Need hope!」
という叫びが耳から離れない。
 彼女は3年後、ニューヨークを再訪し、かつての出演者にふたたび連絡をとって映像作品に再出演してもらっている。14人に再会することができたとのこと。

 モノクロの沈鬱な作品である。




 「A World Masked,1999-2008」「A World Masked,1999-2010」
 いずれも2010年作、420.0×127.0cm、インクジェットプリント、布(ポリエステル織物)。
 サホロのプロジェクトと並行して池田さんは、あちこちにマスクを掛けるパフォーマンスを開始した。
 それも、世界各地で。

 上のそれぞれの画像で確認できただけで、中国語、英語、ドイツ語、ロシア語、フランス語が画面に見える。アルプスらしき写真がある一方で、南国の木の街路樹にマスクを掛けた写真もある。

 個人的にいちばん傑作だと思ったのは、米国の「自由の女神」像の模型にマスクを掛けた1枚。
 「9・11」後、愛国的な雰囲気の高まりで、言論に制約が出てきた米国の姿が皮肉られていると感じたのは、筆者だけだろうか。

 左のモニターには「New York Masked,2008」が流れている。
 2009年作、40分の映像作品で、ニューヨークの街角にマスクを掛けまくっていた記録である。




 「Silent Breath サホロの60ヶ月(1999年8月13日-2004年8月13日)」「Silent Breath サホロの72ヶ月(1999年8月13日-2005年8月13日)」。
 前者は2004年作、後者は05年作で、いずれも10点組の内の8点。
 各76.5×57.0cm(額装サイズは、前者が89.3×69.2cm、後者が89.5×69.5cm)。

 このほか、ことしの札幌・ギャラリー門馬アネックスで新境地をひらいた「444の日」も展示されている。


 ところで、作品もさることながら、この展覧会の特筆すべきところは、わざわざ
「撮影OK」
と書かれた紙を壁に貼っていることだろう。
 もちろん、ストロボ・三脚は禁止、池田緑展会場であることを明示してください…といった制約はあるのだが。
 欧米の美術館では、撮影禁止の制約についてはかなり緩くなっているらしいが、日本の美術館はあいかわらず撮影禁止のところがほとんどだ。著作権が切れたような作品ばかりが並んでいる常設展でもそういう場合が多いのだが、そろそろ考え直す時機かもしれないと思う。



2010年9月14日(火)~10月24日(日)9:30~5:00 月曜休み(ただし9月20日と10月11日は開館し翌火曜休み)
道立釧路芸術館(釧路市幸町4)

□池田さんのサイト http://www.ima.me-h.ne.jp/~ikeda.midori/

「池田緑展 Silent Breath―沈黙の呼吸」の予告エントリ

池田緑展-六つのこと・444の日- (2010年6月)
池田緑さんによるマスクイベント アジアプリントアドベンチャー
池田緑 1993-2008現代美術展(08年6月)■続き
深川駅前にマスクの花(同)
田園都市のコンテンポラリーアート 雪と風の器(08年3月)
越後妻有(つまり)アートトリエンナーレ(06年)
十勝千年の森=水脈の森・万象の微風 自然=人間=大地(03年10月8日の項)
十勝の新時代 池田緑展(02年、道立帯広美術館)
池田緑展アーティストトーク(同上)
とかち環境アート(02年)

□「てんぴょう」誌に筆者が寄稿した文章




(今回行った際は、芸術館の駐車場が満杯で、上の地図の中心にあたる「市営錦町駐車場」に車を入れました。芸術館受け付けで駐車券にスタンプを押してもらうと1時間まで無料となります)


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