札幌の画家、香取正人さんが「これで一区切り」と話す、最後の個展。
鮮やかな色の配置、すばやい筆勢など、道内の風景画家でも、あるひとつの達成を成し遂げていると思います。充実した個展です。
道内ベテラン具象画家の集まり「グループ環」のオリジナルメンバーであり、2005年から近年まで新道展の事務局長も引き受けていました。
1936年生まれなので、ことし80歳を迎えますが、スケッチ旅行の講師で全道を飛び回るなど、現在も精力的に活動しています。
道内各地を題材としているのは、そのスケッチ旅行企画のおかげもあるとのこと。
冒頭画像の左側は「弁慶岬」(F80)。
手前に配された黄色が鮮烈で、車道のセンターラインから、道路のカーブを警告する標識にも同系色が使われているので、自然と視線が奥へと導かれていきます。
ところどころに立つ電柱が構図を引き締める役割を担っており、わずかにかしいでいることがかえって画面に躍動感を与えています。
明るい晴れた空にはわずかに薄い青紫がまじり、手前の黄色と補色の関係になって、画面に華やかさを付与しているようです。
手前の黄色について、菜の花かなにかですかとお聞きしたら、ほんとうは雑草で、あんなに黄一面ではないとのこと。
しかし、そういう「現実の風景をアレンジする力」こそが、香取さんの作品を、凡百の風景画とは異なるものにしているのだと思います。
その右側は「漁船」(F100)。
香取さんは風景画がほとんどということもあり、縦構図の絵はとても珍しいと思います。
「これはなかなか絵にならず、時間がかかりました。船は当初からあまり変わっていないのですが、バックを整理するなどして大幅に描きかえ、ようやく作品になりました」
という意味のことをおっしゃっていました。
もとになったのは、後志管内古平町の漁港とのこと。
そのとなりは「踏切」(F80)。
ちょっと坂の上を見上げたような構図が、いいと思います。
左から
「小樽運河」(F20)
「抜海駅」(F10)
「黄色い橋」(F40)
「石狩灯台」(F40)
「埠頭」(F50)
「道南の漁村」(F30)
穏やかな中にも、彩度の高い色を差し込むのが香取さん流。
画面が生き生きしています。
左から
「海辺の村」(P120)
「海辺の一隅」(F80)
「小樽」(F80)
「鉢植えの花」(F80)
横に長い画面の「海辺の村」は、手前の影になった集落と、明るい空のコントラストが印象的。
その白っぽい空が、集落の中を流れる川に反射して、画面に深みを与えています。
空にはいろいろな色彩が置かれています。これも香取さんの絵の特徴で、この自由さが、風景描写にさらなるおもしろみと広がりをもたらしているのだと思います。
右側の3点は、2000年に、同じ会場で初個展を開いたときの出品作だそうです。
筆者ごときが言うのもはばかられますが、近作の数々が、16年前の3点に比べて格段の進歩を見せていることはいうまでもありません。16年前の絵は、もちろんしっかりとした目で風景がとらえられていますが、画面の上ではまだ輪郭線に、形をととのえることについて頼りがちで、そのぶん、最近の作品にくらべると、画面に動きが感じられないのです。
筆者は、香取さんの初個展が意外に遅いことに驚きましたが、60代の初個展からさらなる長足の進展をなしとげていることに、さらに驚きました。
もう一度、右から「抜海駅」「小樽運河」「厚田河口」(F10)、「アンヌプリ風景」(F6)。
「厚田河口」は、今回の個展ではもっとも抑えた筆勢と、落ち着いた配色が、河口のゆっくりとした流れを表現しているかのよう。
「抜海駅」は、JR宗谷線の、稚内郊外にある駅。昔ながらの木造の小さな駅は、道内でも少なくなってきており、このたたずまいは、鉄道好きにはたまらないものがあります。
おなじく稚内にある高橋英生さんのアトリエに行った際にスケッチしたとのことでした。
薄い黄色から灰色がかった青へとうつりゆく空の色調の美しいこと!
ほかの出品作は次のとおり。
P120 北の岬
F20 樽前ガロー
F6 丸加高原 樽前ガロー 兼六園
F4 暗い空 サンゴ草 日和山灯台 丸加高原
F3 丸加高原 天狗山にて
SM 厚田夕景 埠頭 サロベツ 定山渓紅葉 石狩灯台
0号 弁慶岬 イタンキ浜 樽前ガロー
2016年11月7日(月)~12日(土)午前10時~午後6時(最終日~5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
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