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■中吉功展 (2017年4月12~17日、札幌)

2017年04月15日 21時21分21秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 「絵を描いているときが幸せなんですよ」
と目を細めたベテラン画家の中吉功さん(札幌在住)は、こう付け加えた。
「かならずしも思うようにいかないから、続けてこられたんだと思う」
 筆者の心にしみじみとしみたひとことだった。

 中吉さんは水辺の風景を題材にしつつ、全体を薄紫を中心とした寒色系でまとめた絵を制作してきた。
 以前から、実景と異なる抽象的、心象風景的な画面が特徴だったが、近年はさらに、構図のバリエーションが増え、ピンクと水色の層を重ねた色彩に深みがましてきたように感じられるのだ。


 冒頭の画像は、入り口附近に展示してあるF80の2点。
 左は「朝の港 留萌」。
 筆者の知っている留萌港は、ふだんは船影に乏しいさびしげな港湾で、これも実景ではなく、中吉さんの生み出したイメージなのだと思う。

 右は「河畔・愁想」。
 今回の個展で多く題材になっている市内の豊平川沿い。中央に教会のような建物が見えるので、豊平区側から豊平橋の近辺を望んだ構図だ。もちろん、建物の配置は実際と同じではない。
 沈んで落ち着いていながら輝かしさも宿す青系の色は、ベテランの味だ。


 左から「秋の河畔」(F30)、「冬の河畔」(同)、「霧の摩周湖」(F15)。右端は「朝の湖 サホロ湖」(F8)

 こちらも豊平川に題材を得ている。
 少年時代、中吉さんは、河原で炊事遠足をしたり、泳いだりしたこともあるそうだ。
 当時は高い建物がほとんどなかったという(お話を聞いていて、故・栃内忠男さんが終戦直後に描いた札幌の絵に、丸井今井と三越しか描かれていなかったことを思い出した。「当時はその二つしかなかったんだよ」と栃内さんは話しておられた)

 サホロ湖は十勝管内新得町の人造湖。
 道内あちこちに出かけているのは、ベテラン具象画家の集まり「グループ環」の仲間である香取正人さんのスケッチ旅行バスに同乗させてもらっているのだそう。
「昔は自分ひとりで(講師役を担当するスケッチバスに乗って)絵の批評をしてたけど、さすがに疲れて」


 水色系の絵が多いが、右端の「霧のオロフレ峠」など、オーカー系を前面に出した作もある。
 山あいを流れる霧がつくりだす幻想的な風景は、まさに中吉さんの世界だと思う。

 中吉さんの奥さま、和子さんは、2015年に亡くなったが、晩年にカメラを持つようになり、個展や、功さんとの2人展を盛んに開くようになっていた。
 夫婦で旅行に行くと、功さんが風景をスケッチする間はひまなので、写真を撮るようになったそうだ。
 最初は古いトタンの壁などを写していたが、どんどん上達して、光と影の交錯する心象風景を展開するようになった。
 歿後も、生前までと同じように2人展を開いており、今回も10点が会場の一角に並べられている。


 中吉功さんは1936年、小樽生まれ。
 道展会員、グループ環会員。初個展は1963年。


 他の油彩出品作は次の通りで、このほかスケッチが6点。
風薫るころ さっぽろ六月
晩秋の湿原 釧路湿原
雪が降る 八剣山
花咲く丘
晩秋の八剣山
恵庭岳冬景
冬の羊蹄山
冬の河畔 豊平川
花(同題6点)
さくら
すずらん
レンギョ


2017年4月12日(火)~17日(日)午前10時30分~午後6時30分(最終日~午後5時)
さいとうギャラリー(札幌市中央区南1西3 ラ・ガレリア5階)
 ※ H&M のあるビルです


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