(承前)
ハービー・山口といえば、雑誌のタレントのグラビアやポップスのCDジャケットなどで活躍するオシャレな業界の写真家というイメージが強かったけれど、それはちょっと偏見だったようで、モノクロのポートレートの佳品などをたくさん撮っていることを知りました。対象へのやさしいまなざしが印象的です。
道内では初の大規模な個展となります。
冒頭画像と次の画像は、ロンドンでの写真をラミネートしたもので、1984年の渋谷PARCOでの個展ではじめて発表したもの。
その後も、壁一面に貼り付けたり、廃線跡に沿って何十メートルにもわたって敷き詰めたり、何度も発表してきたそうです。
今回は「小川の流れの」ように設置してみました。
2枚目の手前に、パンクロックの帝王ジョン・ライドンがいます!
ハービー・山口さんは1950年東京生まれ。
小さい頃は結核性の疾病腰椎カリエスを患い、病弱だったそうです。
写真家を志し、大学卒業と同時に73年、ロンドンに渡りました。
写真展のはじめは、渡英前の初期作品。
この3枚は1967~70年ごろにピークをむかえ、全国(欧米も)のキャンパスを吹き荒れた学生運動の嵐をとらえています。
当時は新左翼と呼ばれる党派がたくさん活動し、党派に属さないノンセクトとよばれる学生も含めて、授業料値上げ反対からベトナム戦争反対までを叫んで、大学構内をバリケード占拠するなどしていたのです(日本共産党は暴力反対だったので、新左翼からは生ぬるいと批判されていました)。
この中で「Z」と書かれたヘルメットは革マル派(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)のもの。
当時、四年制大学に通っていた女子はまだ少数で、左側の写真は珍しい場面。
口のまわりを白い布で覆っているのは、警察の機動隊がデモ隊排除に使う催涙ガス対策でしょう。
右の写真、路上に白いS字カーブが見えます。
近年のデモ行進といえば、警察の規制を守る行儀の良い行進が大半ですが、この時代には「ジグザグデモ」が盛んでした。
長い縦列になってやや中腰気味のムカデ行進のように、道路をジグザグに歩いて気勢を上げるのです。
当時のフィルムは感度が低かったため、夜は長時間露光になり、こういう写真になったのでしょう。
この写真家のキャリアで大きな転機となったロンドンでの写真群。
画像の手前は、地下鉄のなかで偶然会ったジョー・ストラマーに、頼んで写真を撮らせてもらったという「Joe in the Tube」。
ジョー・ストラマーは、ジョン・ライドンのセックス・ピストルズと並んで、パンクロックを代表するバンドだった「ザ・クラッシュ」のリーダーです。
まさに、1970年代英国ロックシーンのアイコン的な存在ですが、地下鉄で移動してたんですね。
会場のパネルには、次のようにありました。
なんか、いい話です。
ほかにも、人気ロックバンドU2、XTC の写真も並んでいました。
キャプションには明記されていませんでしたが、どう見てもボーイ・ジョージ(1980年代前半に人気を得たバンド「カルチャークラブ」のボーカル)をとらえた一枚もありました。
あとで調べたら、デビュー前のボーイ・ジョージと一時いっしょに暮らしていたんですね。おどろきました。
次のシリーズが「代官山17番地」。
渋谷に近いオシャレな街区の印象がありますが、1990年代にここにあった同潤会アパート(1996年解体)に通い詰めて、住民を撮ったもの。
みんな、イイ顔をしているんだよなあ。
ただ、ズカズカとこちらの内面に入り込んでくるような暑苦しさはなくて、ちょうどいい距離感があるような気がします。
東日本大震災の後、懸命に生きる人たちのスナップ「HOPE」。
こちらも明るい表情をした人が多いです。
最後は、髪を染めた若者たちを撮った「TOKYO color_x」と、この写真展にあわせて東川町を訪れた際に写した撮り下ろしのシリーズ。
「TOKYO color_x」はカラーで、ときどき空の写真などが挿入されます。
この画像、カメラを構えて鏡にうつった「自画像」ならぬ「自写像」になっているのがユニークです。
1970~80年代前半、国内の音楽シーンにロックバンドが少なかったころ、英国のロックバンドやミュージシャンがどれほど日本の若者にとってあこがれだったのか、いまの若い人にはその感じがなかなか伝わらないかもしれません。
70年代のクイーン、レッド・ツェッペリン、パンクロックのセックスピストルズやザ・クラッシュ、パンクの後を継いだニューウエーブのカルチャークラブなど、言葉が分からないなりに、ラジオにかじりついて聴いていたものです。
ファッションでも、ヴィヴィアン・ウェストウッドやマーガレット・ハウエルなど、英国から多くのブランドが生まれています。
バービー・山口の写真は、あの時代のロンドンのストリートの雰囲気を、ダイレクトに伝えてくれたんだなあと思います。
そして、それにとどまらず、人間存在を肯定的にとらえる視線が良かったと感じられる写真展でした。
2024年4月27日(土)~5月26日(日)午前10時~午後5時、会期中無休
東川町文化ギャラリー(上川管内東川町東町1丁目19-8)
□Herbie Yamaguchi Official website http://www.herbie-yamaguchi.com/
・旭川電気軌道バスの「道の駅ひがしかわ道草館」から約450メートル、徒歩6分
ハービー・山口といえば、雑誌のタレントのグラビアやポップスのCDジャケットなどで活躍するオシャレな業界の写真家というイメージが強かったけれど、それはちょっと偏見だったようで、モノクロのポートレートの佳品などをたくさん撮っていることを知りました。対象へのやさしいまなざしが印象的です。
道内では初の大規模な個展となります。
冒頭画像と次の画像は、ロンドンでの写真をラミネートしたもので、1984年の渋谷PARCOでの個展ではじめて発表したもの。
その後も、壁一面に貼り付けたり、廃線跡に沿って何十メートルにもわたって敷き詰めたり、何度も発表してきたそうです。
今回は「小川の流れの」ように設置してみました。
2枚目の手前に、パンクロックの帝王ジョン・ライドンがいます!
ハービー・山口さんは1950年東京生まれ。
小さい頃は結核性の疾病腰椎カリエスを患い、病弱だったそうです。
写真家を志し、大学卒業と同時に73年、ロンドンに渡りました。
写真展のはじめは、渡英前の初期作品。
この3枚は1967~70年ごろにピークをむかえ、全国(欧米も)のキャンパスを吹き荒れた学生運動の嵐をとらえています。
当時は新左翼と呼ばれる党派がたくさん活動し、党派に属さないノンセクトとよばれる学生も含めて、授業料値上げ反対からベトナム戦争反対までを叫んで、大学構内をバリケード占拠するなどしていたのです(日本共産党は暴力反対だったので、新左翼からは生ぬるいと批判されていました)。
この中で「Z」と書かれたヘルメットは革マル派(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)のもの。
当時、四年制大学に通っていた女子はまだ少数で、左側の写真は珍しい場面。
口のまわりを白い布で覆っているのは、警察の機動隊がデモ隊排除に使う催涙ガス対策でしょう。
右の写真、路上に白いS字カーブが見えます。
近年のデモ行進といえば、警察の規制を守る行儀の良い行進が大半ですが、この時代には「ジグザグデモ」が盛んでした。
長い縦列になってやや中腰気味のムカデ行進のように、道路をジグザグに歩いて気勢を上げるのです。
当時のフィルムは感度が低かったため、夜は長時間露光になり、こういう写真になったのでしょう。
この写真家のキャリアで大きな転機となったロンドンでの写真群。
画像の手前は、地下鉄のなかで偶然会ったジョー・ストラマーに、頼んで写真を撮らせてもらったという「Joe in the Tube」。
ジョー・ストラマーは、ジョン・ライドンのセックス・ピストルズと並んで、パンクロックを代表するバンドだった「ザ・クラッシュ」のリーダーです。
まさに、1970年代英国ロックシーンのアイコン的な存在ですが、地下鉄で移動してたんですね。
会場のパネルには、次のようにありました。
恐る恐る声をかけたら撮影をOKしてくれた。数枚撮らせて頂きお礼をいうと、「撮りたいものは全て撮るんだ! それがパンクなんだ!」という言葉が返ってきた。
なんか、いい話です。
ほかにも、人気ロックバンドU2、XTC の写真も並んでいました。
キャプションには明記されていませんでしたが、どう見てもボーイ・ジョージ(1980年代前半に人気を得たバンド「カルチャークラブ」のボーカル)をとらえた一枚もありました。
あとで調べたら、デビュー前のボーイ・ジョージと一時いっしょに暮らしていたんですね。おどろきました。
次のシリーズが「代官山17番地」。
渋谷に近いオシャレな街区の印象がありますが、1990年代にここにあった同潤会アパート(1996年解体)に通い詰めて、住民を撮ったもの。
みんな、イイ顔をしているんだよなあ。
ただ、ズカズカとこちらの内面に入り込んでくるような暑苦しさはなくて、ちょうどいい距離感があるような気がします。
東日本大震災の後、懸命に生きる人たちのスナップ「HOPE」。
こちらも明るい表情をした人が多いです。
最後は、髪を染めた若者たちを撮った「TOKYO color_x」と、この写真展にあわせて東川町を訪れた際に写した撮り下ろしのシリーズ。
「TOKYO color_x」はカラーで、ときどき空の写真などが挿入されます。
この画像、カメラを構えて鏡にうつった「自画像」ならぬ「自写像」になっているのがユニークです。
1970~80年代前半、国内の音楽シーンにロックバンドが少なかったころ、英国のロックバンドやミュージシャンがどれほど日本の若者にとってあこがれだったのか、いまの若い人にはその感じがなかなか伝わらないかもしれません。
70年代のクイーン、レッド・ツェッペリン、パンクロックのセックスピストルズやザ・クラッシュ、パンクの後を継いだニューウエーブのカルチャークラブなど、言葉が分からないなりに、ラジオにかじりついて聴いていたものです。
ファッションでも、ヴィヴィアン・ウェストウッドやマーガレット・ハウエルなど、英国から多くのブランドが生まれています。
バービー・山口の写真は、あの時代のロンドンのストリートの雰囲気を、ダイレクトに伝えてくれたんだなあと思います。
そして、それにとどまらず、人間存在を肯定的にとらえる視線が良かったと感じられる写真展でした。
2024年4月27日(土)~5月26日(日)午前10時~午後5時、会期中無休
東川町文化ギャラリー(上川管内東川町東町1丁目19-8)
□Herbie Yamaguchi Official website http://www.herbie-yamaguchi.com/
・旭川電気軌道バスの「道の駅ひがしかわ道草館」から約450メートル、徒歩6分
(この項続く)