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アートと市場について考えた(2)

2008年10月27日 22時17分04秒 | つれづれ読書録
承前

 いま述べた事情について、鋭く現状を批判しているのが、「日本人は世界一間抜けな美術品コレクター」です。
 この本の著者は、いわゆる現代アートのギャラリストではなく、銀座の画廊主です。銀座が、古きよき画廊街から、海外のブランドに占領されていく近年の様子を、苦々しい表情で見ていることが、文中の端々からうかがえます。
 個展のオープニングに現れる得体の知れない人たち-といった、面白おかしいけれど、あまり本筋に関係ない話が多いのが、この本の特徴です。ただ、日本のアートの現状を憂える度合いについては、他の2冊を上回る真剣さがあります。そして、現状のアートバブルを「六本木限定の美術バブルが一時的に起きているだけ。業界は青息吐息だ」と断ずるあたりに、筋の通った気概がかんじられます。

 信じられないというか、興味深いエピソードも満載です。フランス・ニースのシャガール美術館館長が、日本の美術館の職員がいかに無責任かまくしたてた話とか、高飛車に話す売れっ子画家とか…。
 日本には、東京美術倶楽部以外に、鑑定をする権威ある組織が存在しないというのもおどろきです。
 しかし、いちばんびっくりしたのは、次の話です。

 私が、とある県立近代美術館の友人だった学芸員に請われて、彼が企画した展覧会にぴったりの画家を推薦したことがあった。しかし、依頼されたにもかかわらず、結局断られてしまった。それは、「その画家がどこの美大の出身でもなく、まして独学であるから」という、まったく理由にもならないくだらない館長の独断によるものだった。その館長というのが、仮にも美術に門外漢の役所の方ならともかく、大手新聞社の学芸欄の担当だった人で(以下略、107ページ)


 ひどいなあ。

 この少し前では、ポリシーも何もなく利益率だけを考えて一貫性のないコレクションをして、見るも無残な「売り絵美術館」が作られ、全国にある-などと、舌鋒鋭く批判。それぐらいなら、たとえひとりよがりでも、自分が好きで、自分の目と足で集めたコレクションを展観する美術館のほうが、スケールに欠けてもよほど興味深い-と述べています。
 まったく同感です。
 このほか、絵画を買うには? 抽象画はネクタイを選ぶように選べ-など、興味深い提言も満載です。
(抽象画うんぬんは、森村泰昌がおなじ趣旨の話をどっかで書いてた)

 つまるところ、この筆者は、投資だけを考えずにじぶんの審美眼でコレクションをつくれ! という、しごくまっとうな主張をしているのです。
 こんなことをあらためて言わなくてはいけないところが、日本の現状のなさけなさであるといえるでしょう。
 その主張の裏にあるのが、美術への限りない愛であることは、文章の端々からうかがえました。

この項続く


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