(承前)
版画。
一般は、依然として写実的な木版が多いものの、その枠におさまらない作品も増えてきたようだ。
先も述べたが、林由希菜のイマジネーションが爆発した道新賞受賞作「夢想」は、いつまで見ていても飽きない。
高崎勝司、高崎幸子がそろって奨励賞を受賞したのもその現れか。木版では、阿南ゆう子「夏めく」が、数多い版で精緻な画面づくりで目を引いた。佳作賞。
賞には漏れた作品では、田口春香「I」が、正面を向いた女性から植物がにょきにょき生えてくるというシュールな表現でおもしろい。
注目の道都大勢は、岩井玄、柚原一仁らが入選している。
会友では、清水淑枝が、女性の体の一部をモティーフにした作品から大きく画風を変えて、カラフルになったのが目を引いた。
会友賞は武田輝子と中村得子。
中村は、おそらく道新文化センターの教室から、拓銀本店の解体工事現場をスケッチしたのだろう。
先述の「生と死をみつめる」視点については、やはり会員の作品に色濃く感じられるように思う。
マレーシアの庶民や札幌の市場でたくましく生きる人々を描いていた大井戸百合子が「死者の道」などという題の、モノトーンの作品を出してくるなんて、誰が想像できただろう。
佐野敏夫「かそけきもの」にしても、かつての彼のパワフルな表現を思えば、その枯れた味わいには、考えさせられるものがある。
一方で、坂井笙子「ひかるとう」の、おびただしい色数を駆使した表現や、大ベテラン大本靖「inrock3」の抽象表現の若々しさにはおどろかされる。
大高操は、サミットの年にふさわしい、環境への祈りを含んだ1点。
関川敦子、手島圭三郎、渡会純价、和田裕子、大野重夫といったプロはさすがに安定。水落啓と伊藤倭子はちょっと小さめ。森ヒロコが出品していない。
彫刻。
道教大函館校の小川誠教授(会員)が輩出した大量の弟子は、師匠に似て、丸みを帯びたやさしい作品を手がける人が多かったが、ここにきて、師の作風を脱しようとする人が出てきたのはよろこばしい。
道新賞を受けた向川未桜「心の淵」も、ねじれたような頭髪の表現は、心の叫びのようなものを感じさせる。
一方で佳作賞の佐々木甲二「stream」は重量級の存在感で迫り、奨励賞の高木裕介「Fashionable」はメルヘン的な空間構築、畑中茜「登登」は木の質感を生かした人体表現、福井也寸志「贐」はオーソドックスな裸婦…と、じつにバラエティに富んでいるのがうれしい。
賞に漏れた作品でも、小原敏哉「decision」の柔和な裸婦立像や、上縄手淳「Hanpen」の楽しげな首など、佳作が多かったと思う。
会友。
ここも力作ぞろい。
先ほど述べた「脱・小川」の流れでいえば、新会員になった佐藤志帆「自我の傾き」がその尖端だろう。
ねじったような体の表現は、造形的におもしろい上に、心の叫びのようなものを表現している。
おなじく新会員の橋本諭「沈黙」。人体のデフォルメに、ジャコメッティの影響を感じさせるが、そういう表面的な類似を超えて人間存在の本質に迫る力がある。
韮沢淳一も新会員。北海道立体表現展よりは小さいものの、おなじタイプの作品で、とらわれた存在というものについて考えさせる。
野村裕之「幸福の背中 小さいもののために」も目を引いた。
横184センチという大作だが、どちらかというと作者は、恐竜の背中にのった小さい作品のようなほうを作りたいのではないか。ただ、てのひらにのるような作品では公募展にそぐわないので、小品が20個ほども連なったような形状の作品にしたのではないか。
公募展と作品のサイズについてあれこれ思いをめぐらせてしまった。
安藤佐智子「遠い道」は、図録に「会友賞」の文字が抜け落ちているが、宮沢賢治を聯想させる帽子の人物が、題の通り、はるかなものに思いをはせる人物像を浮き彫りにしている。
石河真理子「RIN-8」の会友賞はうれしい。
作品が小さいので目立たないのだが、慈母のように美しい女性の首を、筆者は以前から評価してきたからだ。
会友の上川川上加奈は漆、会員の伊藤隆弘は木など、これまでと異なる素材に挑んでいる作家が多い。
(7月4日、お名前を訂正いたしました。申し訳ございませんでした)
伊藤隆弘は木に取り組んでも、かぎりない優しさをたたえた曲線が組み合わされている。
むかしはやんちゃな作風だった二部黎も、木のもつ性質にさからわない自然なつくりになった。人物もさることながら、地面の部分の木目が美しい。
最後は工芸。
1999年の大量脱退事件から9年をへて、ようやく部門としての幅が出てきたようで、よろこばしい。
染織、陶芸のほか、ガラスもいろいろな作品が並ぶようになっている。
新会友の村椿富子は2点出品である。
とりわけ陶芸で、北国の風土を反映した作品が多い。新会友の原久肖子をはじめ、平川ひでよ、中村友信、山田光風、山谷智子らがそうであり、全道展の特色になりつつあるといえるかもしれない。
なんだかんだいって、見ごたえあるので、見に行ってください。
08年6月18日(水)-29日(日)10:00-18:00(最終日-16:30)、月曜休み
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
一般800円など
版画。
一般は、依然として写実的な木版が多いものの、その枠におさまらない作品も増えてきたようだ。
先も述べたが、林由希菜のイマジネーションが爆発した道新賞受賞作「夢想」は、いつまで見ていても飽きない。
高崎勝司、高崎幸子がそろって奨励賞を受賞したのもその現れか。木版では、阿南ゆう子「夏めく」が、数多い版で精緻な画面づくりで目を引いた。佳作賞。
賞には漏れた作品では、田口春香「I」が、正面を向いた女性から植物がにょきにょき生えてくるというシュールな表現でおもしろい。
注目の道都大勢は、岩井玄、柚原一仁らが入選している。
会友では、清水淑枝が、女性の体の一部をモティーフにした作品から大きく画風を変えて、カラフルになったのが目を引いた。
会友賞は武田輝子と中村得子。
中村は、おそらく道新文化センターの教室から、拓銀本店の解体工事現場をスケッチしたのだろう。
先述の「生と死をみつめる」視点については、やはり会員の作品に色濃く感じられるように思う。
マレーシアの庶民や札幌の市場でたくましく生きる人々を描いていた大井戸百合子が「死者の道」などという題の、モノトーンの作品を出してくるなんて、誰が想像できただろう。
佐野敏夫「かそけきもの」にしても、かつての彼のパワフルな表現を思えば、その枯れた味わいには、考えさせられるものがある。
一方で、坂井笙子「ひかるとう」の、おびただしい色数を駆使した表現や、大ベテラン大本靖「inrock3」の抽象表現の若々しさにはおどろかされる。
大高操は、サミットの年にふさわしい、環境への祈りを含んだ1点。
関川敦子、手島圭三郎、渡会純价、和田裕子、大野重夫といったプロはさすがに安定。水落啓と伊藤倭子はちょっと小さめ。森ヒロコが出品していない。
彫刻。
道教大函館校の小川誠教授(会員)が輩出した大量の弟子は、師匠に似て、丸みを帯びたやさしい作品を手がける人が多かったが、ここにきて、師の作風を脱しようとする人が出てきたのはよろこばしい。
道新賞を受けた向川未桜「心の淵」も、ねじれたような頭髪の表現は、心の叫びのようなものを感じさせる。
一方で佳作賞の佐々木甲二「stream」は重量級の存在感で迫り、奨励賞の高木裕介「Fashionable」はメルヘン的な空間構築、畑中茜「登登」は木の質感を生かした人体表現、福井也寸志「贐」はオーソドックスな裸婦…と、じつにバラエティに富んでいるのがうれしい。
賞に漏れた作品でも、小原敏哉「decision」の柔和な裸婦立像や、上縄手淳「Hanpen」の楽しげな首など、佳作が多かったと思う。
会友。
ここも力作ぞろい。
先ほど述べた「脱・小川」の流れでいえば、新会員になった佐藤志帆「自我の傾き」がその尖端だろう。
ねじったような体の表現は、造形的におもしろい上に、心の叫びのようなものを表現している。
おなじく新会員の橋本諭「沈黙」。人体のデフォルメに、ジャコメッティの影響を感じさせるが、そういう表面的な類似を超えて人間存在の本質に迫る力がある。
韮沢淳一も新会員。北海道立体表現展よりは小さいものの、おなじタイプの作品で、とらわれた存在というものについて考えさせる。
野村裕之「幸福の背中 小さいもののために」も目を引いた。
横184センチという大作だが、どちらかというと作者は、恐竜の背中にのった小さい作品のようなほうを作りたいのではないか。ただ、てのひらにのるような作品では公募展にそぐわないので、小品が20個ほども連なったような形状の作品にしたのではないか。
公募展と作品のサイズについてあれこれ思いをめぐらせてしまった。
安藤佐智子「遠い道」は、図録に「会友賞」の文字が抜け落ちているが、宮沢賢治を聯想させる帽子の人物が、題の通り、はるかなものに思いをはせる人物像を浮き彫りにしている。
石河真理子「RIN-8」の会友賞はうれしい。
作品が小さいので目立たないのだが、慈母のように美しい女性の首を、筆者は以前から評価してきたからだ。
会友の
(7月4日、お名前を訂正いたしました。申し訳ございませんでした)
伊藤隆弘は木に取り組んでも、かぎりない優しさをたたえた曲線が組み合わされている。
むかしはやんちゃな作風だった二部黎も、木のもつ性質にさからわない自然なつくりになった。人物もさることながら、地面の部分の木目が美しい。
最後は工芸。
1999年の大量脱退事件から9年をへて、ようやく部門としての幅が出てきたようで、よろこばしい。
染織、陶芸のほか、ガラスもいろいろな作品が並ぶようになっている。
新会友の村椿富子は2点出品である。
とりわけ陶芸で、北国の風土を反映した作品が多い。新会友の原久肖子をはじめ、平川ひでよ、中村友信、山田光風、山谷智子らがそうであり、全道展の特色になりつつあるといえるかもしれない。
なんだかんだいって、見ごたえあるので、見に行ってください。
08年6月18日(水)-29日(日)10:00-18:00(最終日-16:30)、月曜休み
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
一般800円など