(承前)
絵画。
一般から。
協会賞(最高賞)の加賀見恵美は2点展示。
印象としては(米澤邦子+やまだ乃理子+パウル・クレー)÷3といった感じ。
佐藤弘法「外遊び-春-」。
道新賞、新会友。
もともと筆力のある人だが、これまでは、子どものアルバムを引き伸ばしたという以上の強さがいまひとつ欠けていたのかも。今回は、全体にオレンジや緑の点をちりばめ、画面の輝きを増している。
佐藤仁敬「paranoid(I)」。
佳作賞。若手のホープ。鹿の腰に長い針が数本ささり、血が出ている。なお試行錯誤中といったところか。
これは個人的な好みの問題なんだろうけど、ことしは、奨励賞受賞作よりも、一般入選作におもしろい絵が多かったように思う。
泡を主題にしているのが、久保綾乃「放熱」と黒坂梨乃「空 III」。
久保は以前、會田千夏と2人展をひらいた若手で、細密な描写力に可能性を感じる。
黒坂は正面を向いた裸婦の胴体部分が泡になっていて、怖い迫力がある。
ほかにも、木の幹のようなかたまりをじっくりと描いた島田睦未「真紀」や清野有香「生伸」、女性の顔を魚眼レンズのような超アップでとらえた千葉加菜子「金魚(artificial)」(なんだか、新世紀エヴァンゲリオンの1シーンみたいだ)といったあたりに、若さと、「いかにも公募展向けにまとめてみました」というのが感じられない勢いの良さを感じた。
横山正義「北の海「黒い太陽」」も、留萌という地方都市で風土に精いっぱい向き合っているのが伝わってきて、好感を抱いた。
会友。
會田千夏「train 2008.6.11.b」
これまでの画風を引き継ぎつつの新しい境地にうなった。
緑と紫の森(腐海のようでもある)が広がり、遠く稜線に都市のような影が見える。風景画でも心象画でもないところで展開する不思議な世界。
石本本子「reason」
新会員。長方形の支持体14×14個を排列し、点描のむこうに、磔刑像のようなイメージが見えてくる。
黒木孝子「連なる(1)」
縦線の繰り返しが織りなすシャープな世界。
近藤みどり「守護者の掟 I」
会友賞、新会員。なにせ「会友」でありながら道立帯広美術館で個展-という事態に、審査する側があせったのかも。画風は昨年までとあまり変わっていないが、内臓を露わにしたかのような不気味さのむこうに、人間存在への洞察がうかがえる。
鳴海昭「白亜紀からの警鐘」
一貫してアンモナイトをモティーフにしているが、今回はそれが海の上空に浮かんだ。海面の描写が巧み。
西辻恵三「黒の気配(I)」
縦画面の中央に立つごく細い人物像は以前と変わらないが、今回は黒が多くて、全体が引き締まって見える。
新井田順一「サナトリウム2008」
人物の頭部と脚が器械と合体した奇怪なモティーフ。明るい色づかいに加え、排気口からの煙に星形をちりばめてポップさを出していることもあり、おどろおどろしさはさほどでもないが、相当に奇抜な画題である。諸星大二郎の漫画を思い出した。
会員。
癒やしとか優しさをいちばん感じたのは、会員の作品だった。
ジャズオーケストラと、バイオリンやフルートを奏でる女性、コントラバスを配した池本良三「画室の共演」、キリンにも似た想像上の動物の背に建物が載ったふしぎで心和む情景を描いた板谷諭使「風が南に変わった」などなど。
伏木田光夫「港の葬列」や藤井高志「橋のある情景」などにも、人生のしみじみした情感が漂う。
本城義雄「医の領域「古器物」」も、いつもながらのリアルな筆致で古い静物を描写しているが、鳥の死骸がさりげなく置かれて、死生観の深まりを感じる。近くには、小さな卵が割れて散らばっており、小さな生と死のドラマがある。
これに木村訓丈「光る川」をくわえてもいいかもしれない。
雲の切れ間から夕日がいまにものぞこうとしている一瞬。神々しさすらただようシンプルな画面は、ドイツロマン派のような精神性が感じられる。
一方で、高橋要「想像の大地・羽根」のような高さ743センチという、市民ギャラリーの天井につかえそうな巨大な作品もあるが、そういう過激な作品はあまり多くない。
加藤博希「冬蝶」
奇妙な巨大昆虫を描いていた加藤さんだが、今回は藍色の帽子をかぶった色黒の男性の顔を正面からとらえて迫力がある。
それにしても、まもなく道立近代美術館で展覧会が始まり、死ぬほど忙しいはずの「ACT5」のメンバーが新作を出してきているのは、恐れ入った。
「櫂」の面々も充実しているし、富田知子、宮西詔路、野本醇、高橋三加子、鎌田俳捺子といったあたりも毎度ながらいいなあと思う。
羽山雅愉も佳作だが、昨年の小樽美術協会の出品作である(■画像)。
(この項続く)
08年6月18日(水)-29日(日)10:00-18:00(最終日-16:30)、月曜休み
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
一般800円など
絵画。
一般から。
協会賞(最高賞)の加賀見恵美は2点展示。
印象としては(米澤邦子+やまだ乃理子+パウル・クレー)÷3といった感じ。
佐藤弘法「外遊び-春-」。
道新賞、新会友。
もともと筆力のある人だが、これまでは、子どものアルバムを引き伸ばしたという以上の強さがいまひとつ欠けていたのかも。今回は、全体にオレンジや緑の点をちりばめ、画面の輝きを増している。
佐藤仁敬「paranoid(I)」。
佳作賞。若手のホープ。鹿の腰に長い針が数本ささり、血が出ている。なお試行錯誤中といったところか。
これは個人的な好みの問題なんだろうけど、ことしは、奨励賞受賞作よりも、一般入選作におもしろい絵が多かったように思う。
泡を主題にしているのが、久保綾乃「放熱」と黒坂梨乃「空 III」。
久保は以前、會田千夏と2人展をひらいた若手で、細密な描写力に可能性を感じる。
黒坂は正面を向いた裸婦の胴体部分が泡になっていて、怖い迫力がある。
ほかにも、木の幹のようなかたまりをじっくりと描いた島田睦未「真紀」や清野有香「生伸」、女性の顔を魚眼レンズのような超アップでとらえた千葉加菜子「金魚(artificial)」(なんだか、新世紀エヴァンゲリオンの1シーンみたいだ)といったあたりに、若さと、「いかにも公募展向けにまとめてみました」というのが感じられない勢いの良さを感じた。
横山正義「北の海「黒い太陽」」も、留萌という地方都市で風土に精いっぱい向き合っているのが伝わってきて、好感を抱いた。
会友。
會田千夏「train 2008.6.11.b」
これまでの画風を引き継ぎつつの新しい境地にうなった。
緑と紫の森(腐海のようでもある)が広がり、遠く稜線に都市のような影が見える。風景画でも心象画でもないところで展開する不思議な世界。
石本本子「reason」
新会員。長方形の支持体14×14個を排列し、点描のむこうに、磔刑像のようなイメージが見えてくる。
黒木孝子「連なる(1)」
縦線の繰り返しが織りなすシャープな世界。
近藤みどり「守護者の掟 I」
会友賞、新会員。なにせ「会友」でありながら道立帯広美術館で個展-という事態に、審査する側があせったのかも。画風は昨年までとあまり変わっていないが、内臓を露わにしたかのような不気味さのむこうに、人間存在への洞察がうかがえる。
鳴海昭「白亜紀からの警鐘」
一貫してアンモナイトをモティーフにしているが、今回はそれが海の上空に浮かんだ。海面の描写が巧み。
西辻恵三「黒の気配(I)」
縦画面の中央に立つごく細い人物像は以前と変わらないが、今回は黒が多くて、全体が引き締まって見える。
新井田順一「サナトリウム2008」
人物の頭部と脚が器械と合体した奇怪なモティーフ。明るい色づかいに加え、排気口からの煙に星形をちりばめてポップさを出していることもあり、おどろおどろしさはさほどでもないが、相当に奇抜な画題である。諸星大二郎の漫画を思い出した。
会員。
癒やしとか優しさをいちばん感じたのは、会員の作品だった。
ジャズオーケストラと、バイオリンやフルートを奏でる女性、コントラバスを配した池本良三「画室の共演」、キリンにも似た想像上の動物の背に建物が載ったふしぎで心和む情景を描いた板谷諭使「風が南に変わった」などなど。
伏木田光夫「港の葬列」や藤井高志「橋のある情景」などにも、人生のしみじみした情感が漂う。
本城義雄「医の領域「古器物」」も、いつもながらのリアルな筆致で古い静物を描写しているが、鳥の死骸がさりげなく置かれて、死生観の深まりを感じる。近くには、小さな卵が割れて散らばっており、小さな生と死のドラマがある。
これに木村訓丈「光る川」をくわえてもいいかもしれない。
雲の切れ間から夕日がいまにものぞこうとしている一瞬。神々しさすらただようシンプルな画面は、ドイツロマン派のような精神性が感じられる。
一方で、高橋要「想像の大地・羽根」のような高さ743センチという、市民ギャラリーの天井につかえそうな巨大な作品もあるが、そういう過激な作品はあまり多くない。
加藤博希「冬蝶」
奇妙な巨大昆虫を描いていた加藤さんだが、今回は藍色の帽子をかぶった色黒の男性の顔を正面からとらえて迫力がある。
それにしても、まもなく道立近代美術館で展覧会が始まり、死ぬほど忙しいはずの「ACT5」のメンバーが新作を出してきているのは、恐れ入った。
「櫂」の面々も充実しているし、富田知子、宮西詔路、野本醇、高橋三加子、鎌田俳捺子といったあたりも毎度ながらいいなあと思う。
羽山雅愉も佳作だが、昨年の小樽美術協会の出品作である(■画像)。
(この項続く)
08年6月18日(水)-29日(日)10:00-18:00(最終日-16:30)、月曜休み
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
一般800円など
もちろん他にもいろいろありましたが、私は會田さんの作品が非常に嬉しかったのです。
まさしくこれまでの傾向を生かしつつの新境地、素晴らしいものが出てきたと思います。
本当に個展をやってくれないかなあ。
公募展のエントリには意外とコメントしてくださる方は少ないのでうれしいです。
會田さんは東京の画廊がついてるんですよね?
だったら、札幌の貸しギャラリーでは個展はやらないだろうなあ。
何年か前、ユリイカで2人展は開いてましたが。
ユリイカの2人展も見ましたが、確かたぴおで個展をやっていたような記憶があります。
いずれにせよ、もう少し多く見てみたいものです。