人生には「思考停止」のひとときも大切だ。
男子ひとたび家を出れば七人の敵あり、他人はすべて敵だ。
常に緊張し、身構え、時にはこちらから攻撃をしかけ、身の休まるときはない。
思考を停止して、自分の身を他人にあずけ、ゆだねるひとときなどあろうはずがない。
と思うのだが、たとえば理髪店
理髪店の椅子に座ったとたん、そこから先のことは一切他人に身をゆだねることになる。
これから先は何から何まで他人任せだ。
自分から打って出る、ということは一切ない。
思考関係もすべて一時停止だ。
店の人に、指でアゴを突かれてアゴを上げろと言われればアゴを上げ、頭のうしろを突かれて頭を下げろと言われれば頭を下げる。
何でも店の人の言うとおりだ。
これが意外と快感なんですね。
すっかり身をゆだねている快感。
何もかもあなたまかせの快感。
自分からは何もしない快感。
ついウトウトと眠くなる。
普段、身構えて緊張しているからこそ、こういう「だらしなさ」がよけい快感になるのである。