会社を定年退職したおとうさんたちが、退屈まぎれにまず最初に取りかかるのが自分史の編纂だという。
自分はこれまでいかに生きてきたか。
定年という区切りを契機に、一度総まとめをしておきたいという気持ちになるらしい。
〇年〇月〇日、〇〇県〇〇町〇〇番地にて産声をあげる。
父 〇山◇男
母 △子
と書いているうちにだんだん気分が高揚して、文体も荘重になっていく。
余はいかにして定年退職を迎えしか、という気分になっていく。
そしてどうしても全体が偉人伝風になる。
ジョージワシントンの桜の木の枝を折るサワリ、野口英世が囲炉裏に落ちてやけどをした手をジッと見て医者になる決意をするサワリ。
そういう自分なりのサワリもさり気なく潜ませてある。
パソコンを駆使して、ところどころに記念の写真を配した簡単なものから、ちゃんとした出版社に頼んで立派な本に仕立てている人もいる。
そうした自分史は、正直言って読んでもひとつも面白くない。
他人の人生に人はあまり興味を抱かないものである。
したがって自分史など綴っても何の意味もないので、アタクシはそんな無駄なことはしないのであります。