先日「小さな幸せ」というタイトルで、蚊をうまく叩くことを書いた。
もうひとつ書くと、ゴキブリホイホイがいっぱいになる、という「小さな幸せ」がある。
ゴキブリホイホイを台所の片隅に仕掛けておいて、翌朝ホイホイの底面一杯にゴキブリがかかっていたりすると、心の底から幸せを感じる。
マット一杯に貼りついて、大勢でもがき苦しんでいるのをしみじみと眺め、ニンマリしてくる。
幸せで胸が一杯になる。
大きいのあり、小さいのあり、まだ元気のいいのあり、弱りきったのあり、脱出の意気いまだ盛んなのあり、いろんなゴキブリが貼りついてうごめいている。
背中が貼りついて仰向けになってもがいている奴、ヒゲの先端だけ貼りつき、ひとふんばりすれば取れそうなのだがどうしても取れない奴。
半分観念したものの、まだ半分は望みを捨てず、ときどきピクピクと未練げに手足を動かしている奴。
どれもこれも見ていて飽きない。
「あのときのあの一歩さえ誤らなかったら」
「あそこへさしかかったときの、あの甘い香りの誘惑にさえ負けなかったら」
「あそこで一歩、踏みとどまっていたら」
など彼らの無念さを思うと、更にいっそう幸せな気持ちになる。
「みんなうんと苦しみなさい」と、一匹一匹に励ましの言葉をかけてあげたくなる。
(成功の甘き香り)などという言葉も頭に浮かび、もう一度もがき苦しむ彼らを眺め、小さな幸せとはこういうことだったんだな、としみじみ思う。
反対に仕掛ける位置、角度などを十分に考えて仕掛けたにもかかわらず、一匹もかかっていなかったときの空しい気持ちは毒舌につくしがたい。
ポッカリと、心に穴があいたような淋しい気持ちになる。
自分の能力、判断力、才能、全てが否定されたような気持になる。
小さな不幸とはこのことか、とさえ思うのである。