クルマを運転していると、左側の細い道から出てきて左折しようとしているクルマに出くわすことがある。
道は渋滞気味で、どのクルマも左折車の進入をなかなか許さない。
もうだいぶ前から、左折のライトをピッカピッカ光らせているのに、みんな知らん顔だ。
そういうとき、急に義侠心のようなものが湧いてくることがある。
充分に間隔をあけて、手で合図して割り込ませてやると、喜びをあらわにして車の列に加わってくる。
このときの気持ちというものはなかなかいいもので、自分が急に大人物になったような気分になる。
ふつふつと湧きあがる良民の意識。
困惑している民衆を救うため、自らリーダーシップをとってその進入を許してあげた心の広い自分。
進入を許してやった前の車の人はもちろん、周辺の車の人々も賞賛を惜しまないであろう。
前の車の人はバックミラーをのぞきこみ、うしろの大人物の風貌を確認して、ありがたく感謝していることだろう。
この先長い道中、前の車の人に感謝をうながしつつ、恩を売りながら走っていくことにしよう。
そう思って少しづつ前の車について走っていくと、前の車はほんの数メートル走っただけで、次の交差点で右折してアッという間にどこか行って見えなくなってしまう。
突然、夢も希望もなくなってうなだれるのであった。