少年カメラ・クラブ

子供心を失わない大人であり続けたいと思います。

博士の愛した数式

2005-03-26 22:57:30 | 哲学
ちょっと前から気になっていた本を購入して読んだ。決め手は、ぱっと開いたページに

exp(i*pai)+1=0

というオイラーの公式が出ていたことだ。この式は全く違ういくつもの定数が、これほど簡単な式によって結び付けられている。この式を人類の至宝とも呼ぶらしい。

この本に出てくる博士は事故で頭を打って80分しか記憶が持続しなくなってしまっている。数学者である博士と、お手伝いさんに来ているシングルマザーとその子供との間でおこった、何と言うことはない出来事がつづられていた。

お手伝いさんが毎日やってくるたびに、博士は見知らぬ女性の訪問を受けるのだ。全ては毎日そこから始まる。

私も博士号を持っている。ピッツバーグのカーネギーメロン大学からPh.D.の学位を授与されてからもう10年になる。学位をとったからといって別に何かが変わるわけではない。が、時間が経つにつれて不思議な感覚を持つようになってきた。

それはなんというか、博士の愛した数式の話の全く反対なのである。それは、人々の記憶が比較的短い時間しか持続していないのではないかと思えるときがあるのだ。未来に起こることに不安をいだき、過去に起こったことを後悔する。でも、よくそれらを目を凝らしてみてみれば、過去は失敗でもなんでもなく様々な経験を私たちに与えてくれているし、未来は全くの予測不可能な存在でもなんでもなく、過去と現在との因果によって起こるべくして未来は作られていく。

と私には思えるのだけれど、人々はほんのわずかな時間の出来事だけに右往左往し、悪者探しを朝から晩までやっている。そして僕が「どうしたの」と手を伸ばそうとすると、強烈な拒絶にあう。あたかも違う世界の人間のようだ。

時間軸を拡張して認識が出来るようになればなるほど、現在における存在は他からは見えなくなってしまうらしい。僕の手は、人々に接することなく体を通り越してしまう。そんな感じがする。

本の博士とは全く逆なのだが、彼の気持ちを僕はとてもよく分かる気がする。いい本なので是非読まれることをお勧めする。