あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

フォークス日記 8

2011-05-14 | 
フォークス最終日。
今日はクィーンズタウンへ帰る日だ。いつまでも遊んでいる訳にはいかない。
前日はテントをあきらめ家の中のソファーで寝た。
朝、小降りの雨の中、キミが仕事へ出かけた。
じきにタイも起きてきた。ヤツは今日は休みだ。
朝飯を食べているうちに辺りが明るくなってきた。
これは雨が上がるかもしれないな、などと思っていると本当に止んでしまい青空も見えてきた。
こういう時は即行動に移るべし。
マー君とタイでオカリトツアーだ。今日のガイドはタイである。
オカリトはフォークスから車で10分。海岸沿いにある小さな集落で人口は推定15人。
こんな場所でもゴールドラッシュの時には何千人もの人が住んでいた。
オカリトには潟があり、そこは鳥の聖域でもある。
白鷺を始めとする水鳥達、そしてこの辺りはキウィもいる。道にはキウィ注意の看板があり、記念撮影をする人も多い。
7年ぐらい前か、ここでシーカヤックをやって感動のあまり涙を流したこともあった。この国にやっつけられてしまったのだ。
今日のオカリトツアーは、まずはビーチへ。雨上がりの散歩を楽しむ人がチラホラ。
山に囲まれたクィーンズタウンにいると、突発的に海が見たくなる。
山のエネルギーがあるように、海には海のエネルギーがある。
ボクが山で感じるエネルギーを一言で現すと、絶対的な存在感というものか。
海は全ての生命の源であり、大きな力で包み込んでくれるもの。
氷河が娘ならば、海は母だ。そうなると山は父だな。



次は近くの高台までちょっとしたハイキング。
ここは今まで何回も来ているが、コースのレイアウトが変わったようで、タイも変わってから初めてきたようだ。
フラックスの茂みを抜けると湿地帯にかかる木道が出てきた。これは新しいものだ。
「へえ、こうなったんだねえ。見てよこのS字。センスあるじゃないの」
ボクはタイに言った。
「いやあ、ホント、これは良いセンスだ。氷河での道作りもそうなんですけどね、センスのあるヤツが作ると面白いコースが出来るんですよ。センスの無いヤツが作るとただの移動の為の道になっちゃうんですよね」
この木道も合理性と機能性だけ考えれば直線にした方が作業も楽だ。だがそこに面白みはなくなる。ただの道になってしまう。
そこをあえてこういう風に作ったのはプランした人のセンスというものだ。



「あれ?何だろう?」
前方に何か白い物が動いている。
白鷺だ。
白鷺はマオリの言葉でコトゥク。神聖な神の使いでもある。
ニュージーランドではオカリトに唯一の繁殖コロニーがある。
大きくて優雅な鳥は見栄えも良い。
「いやあ、やるなオカリト。こんなタイミングでこの鳥を見せてくれるなんて。ありがとうありがとう」
しばし鳥に見とれていたがいつまでもそうしているわけにもいかない。
もっと見ていたいなあ、と思いつつ近づくと鳥は飛び立ち、その先S字型の遊歩道の先端に再び止まった。
まるで僕らを待っていてくれるかのように。
こうなればいいなあ、と思うとそうなる。
ボクの心は鳥に対する感謝、天気に対する感謝、そして自然に対する感謝で一杯だ。
再び鳥に近づく。今回は水面に姿を映してくれている。
やるなあオカリト。演出がにくいぜ。
鳥はしばらくそこにいたが「さあ、もういいでしょう」というように飛び立ち、優雅に湿地帯の上を飛び去って行った。
ボクは心の中で何回もありがとうとつぶやいた。



木道が終わると山道になり、ゆっくりと上りになる。
この道はゴールドラッシュ時代に、この奥にある集落まで続いていた道だ。今は人は住んでいないでトレッキングの道だけがある。
タイが言った。
「この奥は3マイルラグーン、それから5マイルラグーンと続いているんですよ。ひっぢさん、行ったことあります?」
「いや、無いんだよ。いつか行きたいなあと思っているんだけどね」
「そうですか。この奥もなかなかいいですよ。どうでしょう?天気も良いですし、この先まで行ってみませんか?」
こういう誘いは危険だ。
ここに住んでいるタイはこんな時にいくらでも遊べるが、ボクはこの後テント撤収そしてクィーンズタウンまで5時間のドライブが待っている。
「行ったら数時間のコースだろ?テントもそのままだし今日は止めとく」
行けば面白いのは分かっているが、後先を考えずに遊んだら痛い思いをするのは自分だ。
それに今日はそこに行くタイミングではないな、という思いがなんとなくした。
なんとなくは直感だ。それに従っていれば間違いはない。
先になにがあるか分からないが、今この瞬間を楽しむのみ。
タスマン海を見ながらボーッとそんなことを考えていた。



コメント
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