7月25日
朝、モーテルを引き払い出発。
今日でオアマルの撮影は終了、その後クライストチャーチへ移動である。
移動日とあって内容は軽めのようだ。
先ずは車で5分ぐらい、丘のうえで景色の良い邸宅。
ここがメキシコの主要人物の屋敷となる。
今度はメキシコですか、もうどこへでも連れて行って下さい。という気分だ。
美術班の仕事は門の所の看板を外し、メキシコの国旗をつける。
アンディが撮影に付き合い、その他のメンバーは昨日の片付けと移動の準備だ。
その仕事は10分で終わり、後はぼんやり撮影を見たり、天候待ちの時にはスタッフとおしゃべりをする余裕もある。
僕が自分の庭で飼っていたニワトリを食べた話をすると女優のTさんが以前どこかで締めたばかりのニワトリを食べさせてもらってそれがたいそう美味かったとか、モンゴルかどこかの国でロケをした時には大草原についたて一つ立てて、見渡す限りの草原の中で用を足したなどと単なるお嬢さんではないような話を聴いた。
親方は監督やカメラマンと何か話をしている。
ふと思ったのだが、今回の撮影チームの中でうちの親方はかなり重要なポジションにいるのではなかろうか。
ひょっとするとこの業界では名の知れた人なのかもしれない。
そういえば、こういうこと(テレビとか映画とかの美術の仕事)をやる会社の社長とか、働く人も百人ぐらいいるとかって言ってたな。
だからといってどうこうの問題ではないが、僕の今までの経験だと、どの業界でもトップに立つような人はその事に対して全く自慢をしないし、どちらかと言うと謙虚な人が多い。
元厚生大臣もJTBの会長もオリンピック選手も青年実業家も大物人気俳優も、人間として対等のところで話ができた。
上下をつくるのは周りの取り巻きだ。
そしてうちの親方も、会社の社長さんでも現場に出続ける姿はかっこいい。そして決して偉ぶらない。
スターウォーズのダースベーダーのように一つの艦隊の指揮官をフォースの力で殺せるぐらいの絶対的権力を持ちながら、何か事が起これば「オマエ行け」ではなく「オレが行く。ついて来い」というような徹底現場主義。
燃え盛るドラム缶を動かすのに、「オマエ動かせ」ではなく自分でさっさと動かしてしまう行動力。
この時には僕はすっかりこの親方に惚れこんでしまっていた。
お昼を食べにベースに戻ると、エキストラで雇われた友達のシゲさんと息子のリクが来ていた。
シゲさんとは十数年の間柄、普段はなかなか会う事もできないので、一昨日の晩に家に遊びに行った。
その時にエキストラの話は聞いていた。
息子のリクは数年前にクィーンズタウンに遊びに来た時から知っている。
その時さくらんぼ狩りに連れて行ったのだが、ふざけてさくらんぼを投げて落とすので雷を落とした。
食べ物を粗末にする事は自分の子だろうと他人の子だろうと許さん。
悪がき小僧だったリクも今は17、人の子が大きくなるのは早いものだ。
二人の役は日系ブラジル人。
撮影は市内の教会をブラジルの教会に見立てて行った。
ここでは美術班の出番は無し。
今日は楽だな。
他の人の手伝いをする余裕もでてきた。
衣装の人が洗濯をしたいというので、モーテルまで送迎したり買い物に付き合ったり。
撮影が長丁場になるとみんな着替えなどもたいへんだろうな。
ちなみに今回親方は15日間の滞在になるそうで、パンツも15枚持ってきたそうな。
洗濯から帰っても撮影は続いている。
現場に近づくと周りのスタッフが口に指を当て、静かにというサインを出した。本番中なんだな。
覗いて見るとシゲさんが俳優と向かい合って何か話をしている。
おおお、シゲさんセリフ付きの役ですか、と思いきや何かが違うぞ。
よく見るとその声は録音されたものでシゲさんは後ろから映されている。
後ろ頭が映るのでこの為に髪も染めたとか。
日本で撮ったカットと、このカットと繋ぎ合わせて一つのシーンを作るのだろう。
ふーん、いろいろあるんだなあ。
撮影が終わると荷物を車に積み込みクライストチャーチへ。
ベースも引き払うので皆てきぱきと片付けをしている。
昨日のゲリラのアジトは当然ながら跡形も無く、倉庫の片隅、何の変哲も無い空間があるだけ。
確かにこれだけのことをやって一々感傷に浸っていたら何も進まない。
だけど素人の僕だから感じる『何か』もある。
それが何かは分からないが、自分の心の奥にある想いとリンクしていて、それが自分という存在の一部でもある。
経験、それは自分の大いなる財産。
この年になっても貴重な体験という財産ができた。
ただひたすら、ありがたやありがたや、なのである。
親方とマルちゃんを乗せて車を走らせる。
この二人の会話はまるで親子のようだ。
きっと前世のどこかでこの二人は親子だったのだろう。
親方がうちの娘、と言うのが分かる。
そういえば、スタッフの誰かも親方のことをパパと呼んでいた。
親方には自分の子供はいないそうだが、みんなから慕われるお父さんなんだな。
続く
朝、モーテルを引き払い出発。
今日でオアマルの撮影は終了、その後クライストチャーチへ移動である。
移動日とあって内容は軽めのようだ。
先ずは車で5分ぐらい、丘のうえで景色の良い邸宅。
ここがメキシコの主要人物の屋敷となる。
今度はメキシコですか、もうどこへでも連れて行って下さい。という気分だ。
美術班の仕事は門の所の看板を外し、メキシコの国旗をつける。
アンディが撮影に付き合い、その他のメンバーは昨日の片付けと移動の準備だ。
その仕事は10分で終わり、後はぼんやり撮影を見たり、天候待ちの時にはスタッフとおしゃべりをする余裕もある。
僕が自分の庭で飼っていたニワトリを食べた話をすると女優のTさんが以前どこかで締めたばかりのニワトリを食べさせてもらってそれがたいそう美味かったとか、モンゴルかどこかの国でロケをした時には大草原についたて一つ立てて、見渡す限りの草原の中で用を足したなどと単なるお嬢さんではないような話を聴いた。
親方は監督やカメラマンと何か話をしている。
ふと思ったのだが、今回の撮影チームの中でうちの親方はかなり重要なポジションにいるのではなかろうか。
ひょっとするとこの業界では名の知れた人なのかもしれない。
そういえば、こういうこと(テレビとか映画とかの美術の仕事)をやる会社の社長とか、働く人も百人ぐらいいるとかって言ってたな。
だからといってどうこうの問題ではないが、僕の今までの経験だと、どの業界でもトップに立つような人はその事に対して全く自慢をしないし、どちらかと言うと謙虚な人が多い。
元厚生大臣もJTBの会長もオリンピック選手も青年実業家も大物人気俳優も、人間として対等のところで話ができた。
上下をつくるのは周りの取り巻きだ。
そしてうちの親方も、会社の社長さんでも現場に出続ける姿はかっこいい。そして決して偉ぶらない。
スターウォーズのダースベーダーのように一つの艦隊の指揮官をフォースの力で殺せるぐらいの絶対的権力を持ちながら、何か事が起これば「オマエ行け」ではなく「オレが行く。ついて来い」というような徹底現場主義。
燃え盛るドラム缶を動かすのに、「オマエ動かせ」ではなく自分でさっさと動かしてしまう行動力。
この時には僕はすっかりこの親方に惚れこんでしまっていた。
お昼を食べにベースに戻ると、エキストラで雇われた友達のシゲさんと息子のリクが来ていた。
シゲさんとは十数年の間柄、普段はなかなか会う事もできないので、一昨日の晩に家に遊びに行った。
その時にエキストラの話は聞いていた。
息子のリクは数年前にクィーンズタウンに遊びに来た時から知っている。
その時さくらんぼ狩りに連れて行ったのだが、ふざけてさくらんぼを投げて落とすので雷を落とした。
食べ物を粗末にする事は自分の子だろうと他人の子だろうと許さん。
悪がき小僧だったリクも今は17、人の子が大きくなるのは早いものだ。
二人の役は日系ブラジル人。
撮影は市内の教会をブラジルの教会に見立てて行った。
ここでは美術班の出番は無し。
今日は楽だな。
他の人の手伝いをする余裕もでてきた。
衣装の人が洗濯をしたいというので、モーテルまで送迎したり買い物に付き合ったり。
撮影が長丁場になるとみんな着替えなどもたいへんだろうな。
ちなみに今回親方は15日間の滞在になるそうで、パンツも15枚持ってきたそうな。
洗濯から帰っても撮影は続いている。
現場に近づくと周りのスタッフが口に指を当て、静かにというサインを出した。本番中なんだな。
覗いて見るとシゲさんが俳優と向かい合って何か話をしている。
おおお、シゲさんセリフ付きの役ですか、と思いきや何かが違うぞ。
よく見るとその声は録音されたものでシゲさんは後ろから映されている。
後ろ頭が映るのでこの為に髪も染めたとか。
日本で撮ったカットと、このカットと繋ぎ合わせて一つのシーンを作るのだろう。
ふーん、いろいろあるんだなあ。
撮影が終わると荷物を車に積み込みクライストチャーチへ。
ベースも引き払うので皆てきぱきと片付けをしている。
昨日のゲリラのアジトは当然ながら跡形も無く、倉庫の片隅、何の変哲も無い空間があるだけ。
確かにこれだけのことをやって一々感傷に浸っていたら何も進まない。
だけど素人の僕だから感じる『何か』もある。
それが何かは分からないが、自分の心の奥にある想いとリンクしていて、それが自分という存在の一部でもある。
経験、それは自分の大いなる財産。
この年になっても貴重な体験という財産ができた。
ただひたすら、ありがたやありがたや、なのである。
親方とマルちゃんを乗せて車を走らせる。
この二人の会話はまるで親子のようだ。
きっと前世のどこかでこの二人は親子だったのだろう。
親方がうちの娘、と言うのが分かる。
そういえば、スタッフの誰かも親方のことをパパと呼んでいた。
親方には自分の子供はいないそうだが、みんなから慕われるお父さんなんだな。
続く
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