あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

夏のお仕事

2019-12-16 | ガイドの現場
夏が始まり、僕も忙しくなってきた。
気が付けば冬が終わって全然ブログの更新もしていない。
兄弟分の山小屋が来たり、夏に向けて引っ越しをしたり、会社の飲み会でいつものように飲みまくってギター弾いたり。
その他諸々の出来事もあったが、ズルズルと12月になってしまった。
なんか面倒くさくなってしまったし、このまま終わっちゃおうかな、などと少しだけ思ったりもした。
でもこんなブログでも楽しみに待ってくれている人もかなりの数いるのだ。
やめるとなればみんな優しいから「気が向けば書けばいいじゃないですか」とか
「その時が来るまで気長に待ってまーす」などと温かいメッセージをくれることだろう。
「バカヤロー、ここまでやってもうやめるとはなんだ。さっさと書けよ、あんぽんたん」
なんて言葉をもらったら、こっちだって「てやんでえ、こん畜生、やってやれるか!もうやめる」となるのだが、そうもいかない。
仕事が忙しかったというのもあるが、晴れたら晴れたで庭仕事などをしてしまう毎日なのである。
まあ今日は雨降りの休日なので久しぶりに机に向かう気になったわけだ。



11月後半から12月前半は仕事が忙しく、あっちこっちへ飛び回っていた。
あるツアーでマウントクックからクライストチャーチの空港へ送るという仕事があった。
お昼にマウントクックでお客さんと合流して、午後はハイキングの予定だったが大雨の上に雷までなり出しハイキングはキャンセル。
今年はとにかく雨が多く、20年ぶりの雨でどの湖も軒並み水位が上がり、湖沿いの場所では洪水に対する対策をしていた。
西海岸では洪水により、道も閉鎖されていた。
聞くとお客さんの行程も毎日雨で、雨の中をハイキングしてきたという。
もう雨はうんざりだと。まあそりゃそうだわな。
それなら天気の良い所で時間を取りましょう、ということになり翌日の朝、雨のマウントクックを後にした。
テカポに向かう途中で雨も上がり、所々で写真撮影の休憩などいれながら、バスを走らせた。
テカポの湖も水位は高く、ルピナスも水没。
滅多にないことなので、僕も呑気に写真を撮った。



テカポから30分ほど走り、フェアリーに着く頃には空はすっかり晴れ渡った。
昼食に名物のパイを公園で呑気に食べ、呑気にウクレレを弾く。
ひたすら呑気なのである。
この時点ではその1時間後に何が起こるのか全く気付いていなかったのだ。
フェアリーからジェラルディンを抜け、国道1号線にでようとした時に異変に気が付いた。
国道に出る所で車が渋滞して動く気配がない。
何だ事故でもあったのか?と思いながらバスを停め、道の真ん中で交通誘導していた人に事情を聞いた。
その先のランギタタという川が最近の長雨で増水し、洪水になっていて通行不可能。
今も水位は上がっていて、今日明日の復旧は無理。
ついでに迂回路の方も閉鎖中。
これにはさすがの僕も驚いた。
ランギタタ川にかかる橋は2か所。そのどちらもクローズとなればクライストチャーチに行けないのだ。
雨の多い西海岸でならこういうことはたまにあるのだが、カンタベリー地方でそれが起こるとは長い経験でも初めてである。
すぐさま事務所に連絡を取り、手配会社に連絡してもらう。
お客さんの日本へのフライトは明日早朝。
今日中にクライストチャーチに行けないということは、日本への飛行機にも乗れないということである。
行程が全て変わってしまうのだから、今後の宿泊そしてフライトその他を全て組みなおさなくてはならない。
どのみちこれ以上は北へ行けないのだから戻るしかない。
ジェラルディンでトイレ休憩を兼ね、仕切り直しといういわけだ。
手配会社から頻繁に携帯に電話がくる。
「聖さん、ダニーデンに夕方7時までに着くのは可能ですか?」
「それは可能です。」
「じゃあ、そっち方面に走らせてください。また連絡します」
あわただしく電話が切れ、数分後にまたかかってきた。
「ダニーデンのフライト取れませんでした。クィーンズタウンに6時15分というのはどうでしょう?」
「いやそれは無理。」
「わかりました、また連絡します」



陸路が無理ならば空路しかない。
この日のうちにクライストチャーチかオークランドまで飛べば、翌日の日本行の飛行機に乗れる。
だがグループは総勢15人。15人分の席を確保するのは難しいだろう。
僕は車を走らせながら、マイクでお客さんに向けて話した。
「えー皆様、トラベルの語源はトラブルと申しまして、旅というものはいろいろな事が起こるものでございます。天変地異によるルートの変更、荷物の紛失、泥棒や置き引きやスリと言った犯罪。病気やケガなど健康上の問題。果てはお客様同士の痴話喧嘩から刃傷沙汰まで、実に様々なことが起こるものなんです。そういった局面ごとに困難を乗り越えて、前に向かって進んでいく。何か人生と共通するものがあるではありませんか。お客様は今この車がどこに向かっているのか分からない。添乗員さんも分からない。運転している僕もとりあえずどうなってもいいように分岐点には向かっているもの、その後はどうなるか全く分からない。誰も何も分からない。これぞ正真正銘、本物のミステリーツアーが今始まりました。」
車内に笑いがあふれ、拍手までおきた。
お客さんは全員山歩きの人である。
自然の中ではどうしようもないことがある、ということを身をもって知っている。
自然を恐れ自然を敬い、人間の小ささを知る人は強い。
こういう人達と一緒にいると仕事も楽しい。
実際にその時に僕は状況を楽しんでいた。
行程表通りにツアーを進めるのは当たり前の話である。
だがこんな状態でこの後どこに行くのかも分からないなんて、そうそうある話ではない。
もうドキドキワクワク、気分は昂る。
嵐が来る前にワクワクするような感覚と似ている。
昔一緒にやっていた相方JCの口癖「ピンチはチャーンス」というフレーズが頭に浮かんだ。



結局の所、その日のフライトは確保できなかったようだ。
そうなると今度は、じゃあ今晩はどこに泊まるの?という話になる。
翌日以降の行程も全く決まっておらず、手配の人も頭を悩ませたことだろう。
電話でのやり取りの末、ワナカに宿が決まった。
ただし確実なのはその晩までで、翌日以降は臨機応変にということだ。
こういうのは大好きだ。
人にはきっちりと決められた通りにやるのが好きな人と、ある程度のラインが決まれば後は状況に応じてやるのがいい、という人がいると思う。
僕はまさしく後者であり、楽器の演奏もアドリブとか大好きだし、料理もその場にあるもので旨い物を作るというのが好きだ。
だがアドリブだって基本があってのもので、料理も音楽も基本ができていないでアドリブをやってもうまくいかない。



ワナカに泊まった翌日、会社から連絡がありその翌日のクィーンズタウン発の飛行機が取れて、ワナカに連泊が決まった。
ホテルは街の中心から離れた所なので1日ワナカの市内観光の仕事になった。
ワナカの湖もかなり増水していて、湖に一番近い道路はクローズだし、湖沿いの店舗は土嚢を積んで警戒をしていた。
ただ地元の人には悲壮感は無く、滅多にみられないような状況を楽しんでいるようでもあった。
僕らの市内観光も洪水見物のような雰囲気になった。
普段は車がビュンビュン通っている所で犬と水遊びをする人もいたし、スケートパークではたまった水で泳ぐ子供もいた。
生活に支障をきたすような時には真摯にその対処をするが、そうでなければその状況を楽しんでしまう。
ニュージーランドのそういうところが好きだ。









その翌朝の早朝、クィーンズタウンの空港までお客さんを送り、お仕事終了。
お客さんは結局二日遅れての日本帰国となった。
夏はまだ始まったばかりだ。







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