あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

10月9日 ブロークンリバー

2011-10-13 | 
10月に入り近辺のスキー場は軒並みクローズ。
この辺で開いている所はマウントハットとブロークンリバーだけだ。
この時期になると山に雪はあっても人が来ない。
先週はブロークンリバーでも20cmの新雪があったが、タイミングが合わなかった。
週末、天気が良くなるのを見計らって、オークランドから帰ってきた女房も一緒に家族でブロークンリバーに出かけた。
この日はクラブフィールド2回目というユタカも一緒だ。
彼は元ガイド、今は専門学校で建具の勉強をしているという。オリンパスに1回行ったことがあるがブロークンリバーは初めてだ。
金曜日に西海岸に住むタイから連絡があった。
週末にブロークンリバーに上がるという。
それならホワイトベイトを持ってこい、こっちからは自家製卵を持っていくぞと。
今年はまだホワイトベイトを食べていない。それを楽しみに僕らは山に向かった。
他のスキー場がクローズ、そして天気の良い日曜日、学校は春休みとあって駐車場はいっぱい。
グッズリフト乗り場にも行列ができ30分ほどの待ちがあった。
以前は駐車場から30分かけて歩いていた。それを思えば30分待ちというのはトントンだ。
だが人間の慣れというのは恐ろしいもので、これぐらいの待ちでもイラっとしてしまう。
まだまだ人間ができていない。
雪の状態は、日の当たらない場所はガチガチ。日が当たり緩んだ所を狙って滑る。
春の山の楽しみ方である。
上へ行くとすぐにタイに出会った。ユタカも言葉を交わす。
ユタカはタイと1回だけ面識があり、又会いたいと思っていたそうだ。
こうなればいいなと思ったことは実現する。それにはタイミングというものも大切だ。



パーマーロッジに着き、先ずはビールを1本。
ひたすらのんびり、これが春スキーだ。
女房と娘はここで読書。ゆったりするために本を持ってきてある。
ボクとユタカは山頂へ向かう。
100人いたら100通りの山の楽しみ方がある。こうでなければいけないというものはない。
山頂まで行けば奥の景色も見える。
ボクには見慣れた風景だが、ユタカは感動の渦に巻き込まれているようだ。
そりゃそうだろう。
自然が好きで山が好きでスキーが好きな人がここに来て感動しないわけがない。
彼はガイドをしていたぐらいなので、この辺の地理にも明るい。
アーサーズパスの主峰ロールストンもすぐに見つけられた。
全てを説明しなくても、1教えれば10理解できる。こういう人と一緒に行くとこっちも楽だ。
そしてアランズベイスンへ。スキー場のメインから全く見えないところで広大なエリアがあるというのは魅力だ。
ここへ来れば人工構造物は一切なく、気分はバックカントリーである。
自然の中に身を置くことにより、人は人間の小ささを知り自然の雄大さを知る。
そこらじゅうに雪崩の跡はあり、時と場合によっては人は埋まって死ぬ。
人間は自然の中では無力であり、死は常に隣り合わせのものだ。
故に生きているこの瞬間の大切さもそこにある。
山は何も言わないが、自分の心を通してそれを教えてくれる。
フィールドは常に学びの場であり、自分が試される場でもある。



パーマーロッジに戻り昼飯だ。
お目当てのホワイトベイトを持っているタイはまだどこかで滑っているのだろう。
まあそのうちに来るだろうから、自分の持っている物を焼き始める。
いつもこの時期は来る途中にアスパラを買い込んで、持参のベーコンでアスパラベーコンをするのだが、今日はアスパラが無かった。
行きつけの肉屋のグルメチーズソーセージを焼く。
ソーセージは大きいので半分に切って焼く。焼いているうちに中のチーズが溶けてにじみ出てくる。旨そうだ。
ちょど焼けたころ、タイとキミがパーマーロッジに戻ってきた。
いよいよメインディッシュのホワイトベイトである。
そそくさと準備を始めたタイに言った。
「タイよ、知ってるか?ポルシェだってフェラーリだってガソリンが無きゃ走らないんだぞ」
「はあ、まあそうですね」
「だからオマエもこれを飲みながらやりんしゃい」
ボクはスパイツのロング缶をヤツに手渡した。
こうでなけりゃ始まらない。
先ず卵を黄身と白身に分け白身を泡立てる。黄身も良く溶きホワイトベイトを入れ、泡立てた白身をそこに入れざっくり混ぜる。そして焼く。
「このレシピはアイヴァンが教えてくれたんだけど、これが一番美味いんですね」
タイが言う。
アイヴァンは僕達の共通の友達で、鴨撃ちもすれば、海に潜りクレイフィッシュも取る。自然の中で採れる食べ物は山菜、木の実、獣から鳥、魚介類、何でも取る男だ。
前回の話でさんざん白人の味覚をこきおろしたが、こういう繊細な味を作るワイルドな男もいる。
そして美味いやり方があれば、すぐに自分の物として取り入れてしまうのが僕達日本人だ。
タイが西海岸で取ってきたホワイトベイト、東海岸の家の庭で取れた卵がブロークンリバーでご馳走になった。まるで交易所だ。
「うわあ、黄色い!」
キミが叫んだ。。庭の菜っ葉を食べて育ったニワトリの卵は黄色が濃く、そしてこくがある。
持参したレモンを絞り、パンにレタスをはさみ、いただきます。
焼き上がりはふっくら、ホワイトベイトの白身の繊細な味、卵のこく、シャキシャキのレタス、風味付けのレモン。全てが完璧だ。
深雪も喜んでガツガツ食う。子供が健全な食べ物を喜んで食べる姿は宝だ。
しかもこのロケーション。雪山、青空、家族、友人、美味い食い物、ビール。
欲しいものは全てここにある。





パトロールのヘイリーがやってきてサーモンを焼き始めた。
タイがホワイトベイトのパテをヘイリーに差し出す。
ヘイリーにとってホワイトベイトは珍しいものではない。ヤツはちょっと味見して残りはカナダ人のスタッフにさらにおすそ分け。
こうやって幸せのバイブレーションは人から人へ伝わる。
なんとなくヘイリーと2ショットで一枚パチリ。この男とは長い付き合いだが一緒の写真はほとんど無い。たまにはこういうのもいいだろう。
焼きあがったサーモンをわさび醤油でヤツが食い、半分ぐらい残っているのを僕達のテーブルにドンと置き、「残り全部食っちゃえ」と言い残し去っていった。
テーブルの上には、これでもかと言わんばかりにご馳走が並ぶ。
横で見ていた人が「ソーセージにホワイトベイトにサーモン?次は何が出てくるんだ」と目を丸くしていた。
筋書きなら前菜に春の味覚アスパラベーコンだったけど、とてもそれは食いきらなかった。
アスパラが無かったというのも、これまたタイミング。
持ってきたベーコンはタイに西海岸に持って行ってもらう。ブロークンリバー交易所だ。





食後の運動に再びアランズベイスン。
雪山体験のグループが雪洞を掘った跡が残っており、深雪が中に入って遊ぶ。
いつかはこういう所で親子でキャンプをするのもいいだろう。
そして最後の1本はアランズベイスンから駐車場までのロングラン。
雪は適度に緩み滑りやすい。
「気持ちいい~」
女房が歓声をあげて滑ってきた。
そう、スキーは気持ちのいいものだ。
一番下まで滑ると雪はなくなり小川が流れている。
その小川の水をすくって飲む。
雪融け水は芯から冷たく、そして旨い。
何の心配も無く流れている水を飲める場所で僕たちは遊ぶ。
これこそが至上の喜びであり、こういう場所にいられることに感謝なのだ。
帰り際に振り返り、山の神に別れを告げる。
自分が感謝の心を忘れずに謙虚な気持ちで山に向かうことで、山は大きな喜びを人に与えてくれる。
僕たちは自然のエネルギーを充分にもらい帰路についた。


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