今朝の病院の待合室。
午後から大雨の予報が出されている影響か、皆さん、足元が悪くならない内の
診察を希望されてのことでしょう、いつも木曜日よりご高齢の患者さんが
多く見受けられ、大変混雑していました。
昔から病院は高齢者の情報交換の場。
今の暮らしのこと、お子さんやお孫さんのこと、自分の体調のことなど
様々な話題で盛り上がり、お話しされています。
皆さん、一様に明るく、時折笑い声も聞かれて和やかの雰囲気です。
私はそんな風景が嫌いではありません。
むしろ「この場こそが診察室であり、お話しをすることが最高の治療なんだな~」と感じるほどです。
経験豊富でネタの尽きないお年寄りの皆様のお話し声をBGMに、少し寝不足気味の私は
静かに睡眠の世界へ誘われていきました。
しばらくすると私は待合室ではなく、病棟のある部屋にいました。
そこには一人の年配の女性がベットに横たわり、少し息苦しそうな細い呼吸をしながら目を閉じてられました。
看病に当たっているのでしょう、お子さんらしい兄妹二人がそのベットの横に立ち、心配そうに
病状を見守ってられました。
それまで瞳を閉じられていたその女性は突然、目を覚まされ、
側らに立つ子供たちに、しっかりとした声でこう言われました。
「お父さんを呼んで!」
お父さんとは、長年連れ添った、旦那さまのことでした。
旦那さまも連日、病院に通い看病をされていましたが、もう夜も遅いので一度、帰宅されたところでした。
お子さんたちは「もう、遅いから駄目だよ。また明日の朝、来るから・・・」と言うのですが
どうしても旦那さまを呼べと聞かないのです。
仕方なく、お子さんたちは電話で旦那さまを呼び出すことにしました。
旦那さまが駆けつけるとその女性は「ふたりだけにして」と言い、子ども達に席を外す様に
お願いされました。
夫婦水入らずとなった病室で、彼女は旦那さまの手を優しく握りしめました。
何時間、時が流れたでしょう。
ふたりはその間、言葉を交わすことなく、ただ、手を握りしめていただけだった、といいます。
夜が明ける頃、女性は再び、目をつぶり静かな眠りに入っていきました。
その二日後、目を再び覚ますことなく、彼女は旅立ちました。
すると、どこかで私の名前を呼ぶ声が聞こえてきます。
それは、診察室へ入る様に命じる看護師さんの声でした。
辺りは明るい電燈の光に包まれ、私の耳には年配の患者さんたちのお話しする、
賑やかで楽しそうな声が周囲から聞こえてきました。
目頭の周りが熱く感じられて、指を運ぶとなぜでしょう、一筋の涙が流れてきました。
人間はどんな人でも必ず‘死’は訪れます。
生まれた限り、死は宿命付られているもの。
であるなら、人間はどの様な死に方が一番いいのでしょう。
どんな終焉の時を迎えることが幸せなのでしょう。
私は最も愛した人と手を握り合いながら、最後の時を迎えられることほど、
幸せなことはない。と思います。
いつまでも心の中で離すことがない、最愛の人の手を。
生まれ変わった時、その手の感触を忘れないように。
そして、ふたり、また再び出会い、二度と離れない様に指と指をしっかりからませて・・・
*文中に出で来る病室の話は以前、ある人から聞かせて頂いた実話に基づいています。
午後から大雨の予報が出されている影響か、皆さん、足元が悪くならない内の
診察を希望されてのことでしょう、いつも木曜日よりご高齢の患者さんが
多く見受けられ、大変混雑していました。
昔から病院は高齢者の情報交換の場。
今の暮らしのこと、お子さんやお孫さんのこと、自分の体調のことなど
様々な話題で盛り上がり、お話しされています。
皆さん、一様に明るく、時折笑い声も聞かれて和やかの雰囲気です。
私はそんな風景が嫌いではありません。
むしろ「この場こそが診察室であり、お話しをすることが最高の治療なんだな~」と感じるほどです。
経験豊富でネタの尽きないお年寄りの皆様のお話し声をBGMに、少し寝不足気味の私は
静かに睡眠の世界へ誘われていきました。
しばらくすると私は待合室ではなく、病棟のある部屋にいました。
そこには一人の年配の女性がベットに横たわり、少し息苦しそうな細い呼吸をしながら目を閉じてられました。
看病に当たっているのでしょう、お子さんらしい兄妹二人がそのベットの横に立ち、心配そうに
病状を見守ってられました。
それまで瞳を閉じられていたその女性は突然、目を覚まされ、
側らに立つ子供たちに、しっかりとした声でこう言われました。
「お父さんを呼んで!」
お父さんとは、長年連れ添った、旦那さまのことでした。
旦那さまも連日、病院に通い看病をされていましたが、もう夜も遅いので一度、帰宅されたところでした。
お子さんたちは「もう、遅いから駄目だよ。また明日の朝、来るから・・・」と言うのですが
どうしても旦那さまを呼べと聞かないのです。
仕方なく、お子さんたちは電話で旦那さまを呼び出すことにしました。
旦那さまが駆けつけるとその女性は「ふたりだけにして」と言い、子ども達に席を外す様に
お願いされました。
夫婦水入らずとなった病室で、彼女は旦那さまの手を優しく握りしめました。
何時間、時が流れたでしょう。
ふたりはその間、言葉を交わすことなく、ただ、手を握りしめていただけだった、といいます。
夜が明ける頃、女性は再び、目をつぶり静かな眠りに入っていきました。
その二日後、目を再び覚ますことなく、彼女は旅立ちました。
すると、どこかで私の名前を呼ぶ声が聞こえてきます。
それは、診察室へ入る様に命じる看護師さんの声でした。
辺りは明るい電燈の光に包まれ、私の耳には年配の患者さんたちのお話しする、
賑やかで楽しそうな声が周囲から聞こえてきました。
目頭の周りが熱く感じられて、指を運ぶとなぜでしょう、一筋の涙が流れてきました。
人間はどんな人でも必ず‘死’は訪れます。
生まれた限り、死は宿命付られているもの。
であるなら、人間はどの様な死に方が一番いいのでしょう。
どんな終焉の時を迎えることが幸せなのでしょう。
私は最も愛した人と手を握り合いながら、最後の時を迎えられることほど、
幸せなことはない。と思います。
いつまでも心の中で離すことがない、最愛の人の手を。
生まれ変わった時、その手の感触を忘れないように。
そして、ふたり、また再び出会い、二度と離れない様に指と指をしっかりからませて・・・
*文中に出で来る病室の話は以前、ある人から聞かせて頂いた実話に基づいています。