語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】復興に向けて何が必要か ~財源・団結・原子力政策~

2011年03月22日 | 震災・原発事故
(1)復旧・復興の全体構想・費用・財源を示せ
 政府は、人命の救済とともに、被災地の復旧・復興に迅速かつ全力で取り組まなくてはならない。被災者の生活再建はむろん、経済活動の速やかな回復がなければ、被災地以外の経済にも大きな影響が及ぶ。
 (a)住宅・生活再建
 真の災害弱者に手厚く支援するためには、自力で生活再建できる被災者や企業には自助も求めていく必要がある。
 現在、被災者生活再建支援制度がある。最大300万円を国・都道府県が負担する。この金額で全壊した住宅を再建することは難しい。比較的若い人、これからも働いて所得を稼いでいける人については、住宅再建に向けて低利で融資する制度や税減免の制度を使って支援するのだ。他方、高齢者など今後生活の糧に欠く人には、賃貸住宅のあっせんや家賃補助、公営住宅の提供までの支援が必要となる。

 (b)地域経済の再生
 再生が遅れれば遅れるほど、企業の移転や雇用の喪失、国内外の市場を失うことになりかねない。
 ただし、災害前の状態に復旧させるだけでは、同じことの繰り返しになりかねない。利益は出ていなくても、使い古した設備や自宅で事業をほそぼそ続けてきた人もいる。事業再開のために銀行の融資を受けることは、利益が見合わないので難しい。
 政治的には国・自治体が信用保証を施して融資をあっせんすることが求められる。
 しかし、真の地域経済再生の観点に立って検討する必要がある。

 (c)地域の再編成
 被災地の中には過疎地域もある。今後とも災害のリスクが高く、かつ、高齢化の進む地域については地域の再編成も議論されよう。

 (d)復旧・復興の全体構想・費用・財源
 国・自治体が早急になすべきは、復旧・復興の全体構想とその費用、充当する財源を明らかにすることだ。株式市場の動揺を鎮める効果もあるはずだ。
 日本は、財政的難題を抱えている。無制限に借金を増やす余地はない。当面の資金繰りとして追加する赤字国債の償還財源を示しておかないと、市場の不安は増すばかりだ。震災危機が経済危機、財政危機につながる最悪の事態を避けるためにも財源をあらかじめ明確にしておくことだ。
 財源の一つは、所得税の臨時増税だ。
 また、電力にかける消費税の引き上げも一案だ。

(2)日本を造り変える機会に
 時間がたつにつれて日本経済への悪影響をどう遮断するか、という問題が浮上する。
 日本人の強さは、危機のとき一致団結して立ち向かう力だ。地震の傷痕はあまりにも大きいが、これを転機に日本国民が団結して復興に当たれば、より力強い社会に日本を造り変える機会となるはずだ。
 当面の復興事業も、需要面でみれば景気刺激要因でもある。これを機に復興を有効需要拡大の機会としてだけでなく、少子高齢化に対応するインフラ整備の機会としても活用したらよい。
 財源が問題になる。危機のときだからこそ、常識を超えた発想が必要だ。
 一案として、電力などの利用に時限的な復興税をかけるのだ。恣意的な計画停電はいつまでも続けられない。国民全体で電力の節約をするために、電力料金の上に税金をのせ、その税収を復興のための財源として使うのだ。この復興税で省エネ効果が進み、その財源で復興を進める。一石二鳥だ。
 この悲劇を契機に、民主党のマニフェストを見直せ。もっと予算がほしい、という福祉制度の改革も、もう一度根底から考え直す時期だ。
 地震により日本の国債市場はさらに脆弱な状況になっている。正しい改革を行わないと、市場が日本国債にダメをおす。
 国民も政府も、健全で持続的な財政のあり方について真剣に考えることになれば、それは好ましいことだ。

(3)世界の原子力政策に影響を及ぼす福島原発
 今回の原発震災は、わが国の経済や産業などに計り知れない影響を与える。
 福島の原発で起きている問題は、私たちが普段考えている危険とはかなり異質だ。日常生活で意識する危険は、一般常識でその度合いや原因などを判断できる。ところが、原発に係る技術は、私たちの日常生活とは大きくかけ離れた分野で、普通の常識や良識などがまったく通用しない。
 何が起きているかわからない、という事実が、住民や金融市場の参加者の不安を増幅させる。金融市場が不安定になると、経済活動は低下する。
 多くの企業にとって、電気は必要不可欠の要素だ。電気の供給が不自由になると、企業にとって重大な制約となり、産業界に痛手となる。
 このたび生じた原発に対する不信は、簡単に消せるものではない。当分、新規の原発の建設はおろか、既存の発電所の運転再開にも反発が出るだろう。電力供給の3割は原発に頼っている。その原発に対し、国民が不安を感じ、不信感を募らせていることは決して好ましくない。電力供給が不足し、経済活動全体に支障が出ることが懸念される。
 今回の原発の被災は、米国、中国などの原発建設に一定のブレーキをかける可能性がある。防災対策では世界最高水準のわが国で、原発が被害を受け、かなり危険な状況に追いこまれている。この状況を海外各国は、高い関心をもって注意深く見守っている。現在、原発建設を計画している多くの新興国の製作判断にも影響を与えるだろう。
 今後わが国では安全基準が見直されるだろう。政府、関係民間企業、国民を含めた広範囲で、国全体のエネルギー政策の検討が必要だ。その中で、原発の必要性、効率性、安全性、立地など総合的な議論をすることが求められる。
 いま福島原発で起きていること、これから起きることが、今後、世界のエネルギー供給の製作に大きく影響を与える。

   *

 以上、(1)佐藤主光・一橋大学政策大学院教授「財源示し復旧・復興急げ」(2011年3月17日付け日本海新聞「大震災と災害(上)」)、(2)伊藤元重・東京大学大学院教授「団結して復興に当たろう」(2011年3月18日付け日本海新聞「大震災と災害(中)」)、(3)真壁昭夫・信州大学教授「世界の原子力政策に影響」(2011年3月19日付け日本海新聞「大震災と災害(下)」)に拠る。
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【震災】被災者の心、被災者を力づけるもの ~中井久夫「災害がほんとうに襲った時」~

2011年03月21日 | 震災・原発事故
●電話
 「NTTの回線の多くが生きていたのは称賛に値いする。やがて、私には全国から電話が殺到してきた。国際電話もあった。電話は多くの生き残った人に『自分は孤独ではないWe are not alone』という感じを与える効果があったと私は思う。公衆電話優先や回数の間引き(10回に1回通じる程度)は、それだけの骨を折る気のない、動機の弱い通話を淘汰する巧みな方法であったと思う。遅くかけてきた人は『回線がなかなか通じなくて』と断った」

●整理された部屋
 「私は、整理された部屋が一つでもあることは心理的に重要であることを知った。次に私がしたことは、電話番であった。第三の仕事は、ルートマップの作成であった」

●自発的行動
 「有効なことをなしえたものは、すべて、自分でその時点で最良と思う行動を自己の責任において行ったものであった。指示を待った者は何ごともなしえなかった。統制、調整、一元化を要求した者は現場の足をしばしば引っ張った」
 「初期の修羅場を切り抜けおおせる大仕事は、当直医などたまたま病院にいあわせた者、徒歩で到着できた者の荷にかかってきた。有効なことをなしえたものは、すべて、自分でその時点で最良と思う行動を自己の責任において行ったものであった。初期ばかりではない。このキャンペーンにおいて時々刻々、最優先事項は変わった。一つの問題を解決すれば、次の問題がみえてきた。『状況がすべてである』というドゴールの言葉どおりであった。彼らは旧陸軍の言葉でいう『独断専行』を行った。おそらく、『何ができるかを考えてそれをなせ』は災害時の一般原則である。このことによってその先が見えてくる。たとえ錯誤であっても取り返しのつく錯誤ならばよい。後から咎められる恐れを抱かせるのは、士気の萎縮を招く効果しかない。現実と相渉ることはすべて錯誤の連続である。治療がまさにそうではないか。指示を待った者は何ごともなしえなかった。統制、調整、一元化を要求した者は現場の足をしばしば引っ張った。『何が必要か』と電話あるいはファックスで尋ねてくる偉い方々には答えようがなかった。今必要とされているものは、その人が到達するまでに解決されているかもしれない。そもそも問題が見えてくれば半分解決されたようなものである」

●ボランティア
 「ボランティアがいてくれるからこそ、われわれは余力を残さず、使いきることができる。孤立していれば、漂流ボートの食料や孤立した小部隊の弾薬と同じく、自分のスタミナをどのように配分し「食い延ばし」たらいいかわからない。3人しかいなければ3人でできることが頭に浮ぶし、7人なら7人でできることがというふうに」
 「内実のあることをなしえた人たちは本来の意味でのボランティアのみであった。『志願兵』というその元来の意味では私も含めて神戸の精神科医たちは所属を問わず志願兵すなわちボランティアであった。彼らは『志願兵』らしくふだんにはない即興能力(インプロヴィゼーション)を発揮する者が多かった」

●罪悪感
 「いくつかの要因が重なって、震源地から4キロほどの私の家にほとんど何も起こらなかったのであった。/この被害のなさは後に『申し訳ない』という罪悪感を私の中に生むことになる」
 「東部の高級住宅地をカバーしている総合病院・西宮渡辺病院精神科のS医師によれば、周囲が倒壊し、死者を出している中で一軒だけ無事であった家の人が『済まない』という気持ちから抑うつ反応になっているという、理解しうる例がある。この病院に入院していたために助かって、一家が死亡している例の反応はさらに深いものがあるという」

●PTSD
 「多くの精神科医はPTSDについて語っている。しかし、われわれの関係者の私への報告によれば、避難所のようにむきだしに生存が問題である時にはこれは顕在化しない。おそらく仮設住宅に移住した後に起こるのであろう」

●支援者の精神的負担
 「弱音を吐けない立場の人間は後で障害が出るという。私も気をつけなければなるまい」
 「私は行き帰りの他は街も見ず、避難所も見ていない。酸鼻な光景を見ることは、指揮に当たる者の判断を情緒的にする。私がそうならない自信はなかった。動かされやすい私を自覚していた」
 「私はIさんの診療所に顔を出したが、先生は『ちょっとひとりになりにゆく』と外出されたところであった。彼は必死で自分の精神健康を守ろうとしていた。そのうちにわれわれ自身のスタッフの精神健康へのケースワークが必要になって、このせっかくの試みは中断した」

●校長の精神的負担
 「突然、避難民をあずかる羽目になった校長先生と教員たちの精神衛生はわれわれの盲点であった。校長先生たちは災害においてこのような役割を担おうとは夢にも思っておられなかったはずである」
 「突然、避難民をあずかる羽目になった校長先生と教員たちの精神衛生はわれわれの盲点であった。校長先生たちはある意味ではもっとも孤立無援である。避難民には突き上げられ、市にはいっさいの人員援助を断られ、そして授業再開への圧力がある。災害精神医学というものを曲りなりにも知っていた精神科医とちがって、校長先生たちは災害においてこのような役割を担おうとは夢にも思っておられなかったはずである。そして、精神科医に対して偏見がある方も少なくなかった。精神科医にも校長先生や学校に対して偏見があるであろう。精神科医たちが一堂に会した時、いかにいじめられっ子出身者が多かったかに驚いたことがある。いじめられっ子は先生に絶望した体験を持っているものだ。私は今、精神科関係の挨拶回りがいちばんの仕事として要請されている。やはり人間は燃え尽きないために、どこかで正当に認知acknowledgeされ評価appreciateされる必要があるのだ。しかし、校長先生には精神科教授など迷惑な存在の親玉にしかみられまい。私はマスコミ関係者ごとに、先生がたの話の聞き役になっていただきたいと頼んでいる。大学のC3I室で校長先生への不満が噴出したことがあった。私には、ある女性医師がなぜひとりうつむいているかがすぐにわかった。父君が校長先生なのである。作家の加賀氏に真先にしていただいたのが校長先生の訪問である。初日に5人の校長先生に会われた。避難所をもまわられた氏の万歩計は2月7日の一日で3万1000歩をこえた」

●花
 「看護管理室に居合わせたナースたちは加賀さんに会いたいと5、6人が用を作って現れた。一人が色紙をさし出した。私は、これは『ミーハー』的行為ではないと思った。皆、加賀さんの花のことを知っていた(『花』が大事だという発想は皇后陛下と福井県の一精神科医とがそれぞれ独立にいだかれたものという。『花がいちばん喜ばれる』ということを私は土居先生からの電話で知った)」
 「現在、もっとも喜ばれた一つに、福井県の精神科医がかついできた大量の水仙の花がある」

●電話機・コピー機・ファックス・ワープロ
 「NTTの回線の多くが生きていたのは称賛に値いする。やがて、私には全国から電話が殺到してきた。国際電話もあった。電話は多くの生き残った人に『自分は孤独ではないWe are not alone』という感じを与える効果があったと私は思う」
 「後のことになるが、今回の震災において、活躍したのは電話とともにコピー機とファックスとワードプロセッサーとであった。ファックスは電話よりもはるかによく通じた。ワープロは『ひとが読める』情報紙面を叩き出し、コピー機がそれを何十倍何百倍と複製して流布させた。これらなしにはわれわれの活動ははるかに非能率であったろう」

●コミュニティ
 「米国と(おそらく関東大震災とも)違うのは災害に続く略奪・暴動・放火・レイプがなかったことである。『要するにコミュニティが崩壊しなかったことだね』と師の土居健郎氏はいわれた(私は師によく電話で報告し、師から支持や見解をいただいた。それは家族を別にすれば私を孤独感から大いに救った)」

●被災1ヵ月後1995年2月24日からみて・・・・
 「『共同体感情』はほぼ終わった。ただし、反動的な無関心、アパシーではなく、ほぼ軟着陸しつつあるといってよいであろう」
 「一般に周囲の夫婦仲は明らかによくなっている。10ヵ月後には人口の一時的増加が見られるのではないかというワルイ冗談がある。いっぽう、突然同居を強いられた親子、親戚、姻戚の間で葛藤が再燃するということはあるが、これはいっときのものであってほしい」

   *

 以上、「東北関東大震災下で働く医療関係者の皆様へ――阪神大震災のとき精神科医は何を考え、どのように行動したか」(文:中井久夫、データ提供:みすず書房)に拠る。サイトは次のとおり。

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【震災】災害被災地における心のケア ~援助のために~

2011年03月21日 | 震災・原発事故
(1)トラウマ(心的外傷)とは何か
 トラウマとは、衝撃的な出来事による心への特殊な作用を意味する。以下、援助に必要な性質にしぼって記す。
 ①発生
 トラウマは、通常は当然のように存在する安全感が、突然、破壊されることによる恐怖(典型的には生命の危機に由来する)によって生じる。

 ②特殊な記憶と関係
 トラウマ記憶がトラウマに伴うことが多い。トラウマ記憶は、断片的な映像、印象、物語として語ることができない。今の体験であるかのような生々しさがあり、意識に無理矢理押し入ってくる感覚(侵入)がある。時間による変化を受けない。衝撃的体験に際して生じ、記憶が「緊急事態モード」となって、こうした事態が発生する。
 複数の事件が連鎖を起こして、より深刻な作用を及ぼすことがある。震災の被害によって、過去の別の事件の記憶が甦る、など。

 ③気分の変調
 抑鬱傾向の発生が多い。その体験からして自然な感情ではあるが、遷延することで生活の建て直しが困難になり、変調がさらに進むという悪循環が生まれやすい。
 被災直後に躁気分となり、過度にがんばり続けることもよくあるが、過活動が一定期間続いた後に鬱気分に転じやすい。

 ④身体の変調
 トラウマは幅広い身体症状を伴う。自律神経の変調だ。トラウマは、心身的現象である。
 ショックの身体的反応が多様であるのみならず、二次的な作用が引き起こす変調も多い。生活の激変による生活リズムの変化が身体に影響を及ぼす、など。

 ⑤感情の複雑化
 生き残ったことに対して感じる「生存者の罪悪感」や「役立てなくて申し訳ない」「元気になれなくて申し訳ない」など、罪悪感に関わるさまざまな感情を生む。「自己効力感」が脅かされている状態だ。
 あるいは、加害者への怒りが発生する。付随的現象によって怒りが発生することが少なくない。天災の場合、行政に対する怒り、災害後の生活で発生するトラブルへの怒り、など。

 ⑥コミュニティ機能を阻害
 災害は、従来存在した信頼できる人間関係やコミュニティを破壊する。
 それに由来する孤独感に、③や⑤の作用が複合すれば、強度の孤独感をもたらす。

 ⑦揺らぐ主体性
 これらすべての統合作用によって、主体性の感覚が脅かされる。この感覚の回復が援助の最終目標となる。
 これらの現象が、衝撃的体験の後にある程度起こるのは心身の正常な反応である。多くは時間の経過とともに軽減し、平常に復する。
 しかし、一部は遷延し、診断名のつく障害となる。PTSDはその代表だ。

(2)自然災害への「心のケア」
 ①予防的側面
 一般の防止対策が有効だ。また、早い時期に救援活動が始まること、それを被災者に伝えることが、「見捨てられる」「取り残される」恐怖感を最小限にとどめる。

 ②初期対応
 治療よりも安全を確保し、安心感を与えて心身のストレスを緩和すること。心身に備わっている回復力を支え、補助するのだ。
 そのなかで特に深刻な影響を受けている個人への専門的援助を考える。被災前から医療を受けている人に医療サービスを提供することも必要だ。

 ③中期的対応
 災害ないし症状発生から1ヵ月程度を目処として、回復に向かうか、遷延化に向かうかが判断される。
 早い時期に症状に気づき、手当を受ければ、悪循環によるストレスの加算を避けることができる。

 ④長期的対応
 被災の影響は長年にわたって残る。
 長期にわたるストレスによって、後に症状が発生する場合もある。生活困難が悪化し、心身症状になって顕現することもある。それまで持ちこたえていたが、新たな被害が引き金になって症状を形成することもある。

 ⑤救助者・援助者へのケア
 援助者も災害被害に直面する。「二次被害者」となり、「二次的外傷性ストレス」を体験することもある。休息、有効な活動ができたという「自己効力感」を保てるように支援することも必要だ。
 無理をしないこと、休息をとること、横のつながりをもつこと。

(3)プライマリ・ケアと「心のケア」
 身体面の不調は訴えやすく、相談に抵抗が少ない。被災地では、一般の医療保健活動のなかで心の側面に配慮することが望ましい。
 身体的訴えの背後に災害の作用がある可能性を考える。処置の第一は、質のよい睡眠を含む休息である。激しいストレスの後に起こりうる症状などを説明し、それらは正常な反応であることを伝える。自己理解を促す。身体的訴えを通して受診すること自体が、孤立を緩和する働きをもつ、と考える。などなど。

   *

 以上、森茂起「被災地での心のケア」(「JIM」2005年8月号)による。
 なお、医学書院は「JIM」2005年8月号 特集:災害被災地におけるプライマリ・ケア」を当面の間、全文無料で公開している。
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【震災】基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう ~野口悠紀雄の緊急提言2~

2011年03月20日 | ●野口悠紀雄
 第1回の提言を行なったとき、明確には書かなかったものの、従量料金の引き上げを念頭に置いていた。しかし、基本料金の引き上げのほうが「ピーク時需要の軽減」という観点からも、また「所得が低い家計に負担をかけない」という観点からも、優れている。
 以下、「各家庭の基本料金を、40A以上は5倍程度に値上げする」という方式を検討する。
 なお、「40A」も「5倍」も例示に過ぎない。具体的な設定は、さまざまなデータを勘案して決定するべきである。また、法的な側面の検討も必要だ。

(1)電気料金の仕組み
 家庭の電気料金は、「基本料金」と「電力使用量料金」によって計算される。東京電力の場合、「基本料金」は、契約アンペア数に応じて設定されている。30Aは月額819円、60Aは1,638円など(消費税込み)。電力使用量料金は、電力使用量に応じて課金される料金で、使用量が増えるごとに単価も高くなる。ただし、契約アンペア数にはよらない。1kWhあたり料金は、最初の120kWhまで17.87円、120kWhを超え300kWhまで22.86円、それを超過する場合に24.13円だ。
 契約アンペア数を超える電流が流れると、アンペアブレーカーが作動して、電気の供給を自動的に止める。その場合、いくつかの電気器具を止めてからスイッチを入れ直す。
 「基本料金」とは、「同時に使える電力に関してより大きな自由度を獲得するための料金」のことだ。そして、1か月間に使用した総電力料は、契約アンペア数によらず、「電力使用量料金」に反映される。
 通常の財やサービスの料金は「電力使用量料金」に相当するものだけだ。これとは異なる料金体系が電力に採用されているのは、ピーク時の供給対応が重要な課題だからだ。

(2)40A以上の基本料金を値上げすれば、自主的な節電と利用平準化が進むだろう
 仮に「40A以上は5倍にする」という基本料金の引き上げを行なった場合、人々はどのように反応するだろうか?
 現在の契約が60Aだとすると、値上げ後は月額8,190円になる。これを30Aに変更すれば819円で済むので、月7,371円の節約になる(契約アンペア数の変更は無料)。したがって、現在40A以上の契約をしている家計のなかで、40A未満の契約に変更する家計が出てくるだろう。余計な電気器具を使わないような努力がなされるだろう。
 また、電力使用を時間的に平準化する努力もなされるだろう。家庭の電気機器でアンペア数が大きいのは、エアコン、ドライヤー、電子レンジ、炊飯器、アイロンなどだ。契約アンペア数を下げれば、これらを同時に使わないよう注意するようになるだろう。
 契約アンペア数の引き下げは、「使いすぎの警告が出やすくなる」という意味も持つ。だから、社会全体の電力使用量の抑制に協力したいと考えている家計は、「節電が進む」という効果を重視して、契約アンペア数を引き下げるかもしれない。
「一定以上のアンペア数の基本料金を引き上げる半面で、一定以下のアンペア数の基本料金を据え置く」という上記の措置は、そうした努力をする家計に対する補助金だと考えることもできる。
 これまで電気器具別のアンペア数などをあまり意識せずに使用していた家庭には、契約アンペア数を下げることで「教育効果」ももたらす。これも決して馬鹿にできない効果を持つ。上記の措置は、このような意識改革を促進するための補助金でもある。

(3)価格メカニズムの長所を活用すべきとき
 <長所1>最も重要なのは、判断が個々の家計にゆだねられていることだ。契約アンペア数の引き下げさえ、強制的なものではない。各家庭が個別事情を勘案して、自主的に決めればよいことだ。その時々の節電、利用の平準化なども、各利用者の個別事情を勘案しながらなされるだろう。
 <長所2>「価格を引き上げると、所得が低い家計が購入できなくなる」という問題も発生しない。基本的な生活には支障が出ない。
 計画停電方式の最大の欠点は、こうした個別事情が勘案できないことだ。実際、計画停電によってさまざまな不都合が生じていることが報道されている。こうした事態が長期的に続くことは、是非避けるべきだ。
 電気の場合に重要なのは、ピーク時の需要を減らすことだ。したがって、利用の時間的平準化努力が行なわれることは、大きな意味がある。電力使用は、1日のなかでは10時頃から18時頃にピークとなる。その時間帯における電力使用をここで述べた方式で抑制できれば、事態は大きく改善されるに違いない。

(4)冷房用電力使用が増える夏への対処が重要
 現下における電力の需給状況は、供給能力は想定需要量を下回るか、あるいはぎりぎりということだ。
 今後、震災で損傷した発電所のうち、火力発電は復旧できるだろう。また、現在休止中火力の稼働再開もなされるだろう。しかし、事故を起こした福島第1原発(発電量約470万kW)の再建は絶望的だ。こうした事情を考慮すると、電力不足は一時的なものでなく、ある程度の期間、継続する可能性がある。
 そして、夏になると、冷房が必要となり、電力需要は増える。最近の年度では、7、8月のピーク需要は、3月の2割増し程度になる。したがって、今後の火力の復旧があっても、かなり深刻な事態に陥る可能性を否定できない。
 ここで述べた方式は、エアコン用電力の節減には、一定の効果を発揮するだろう。したがって、早急に検討を進めるべきだ。
 もちろん、どれだけの節減効果があるかは、事前には予測しにくい。また、基本料金の見直しだけでは、ピーク時需要を十分抑えることはできないかもしれない。だから、計画停電のような量的制限の必要性は残るかもしれない。しかし、先に述べたような計画停電の問題点を考えれば、あくまでもそれは補完的な措置とすべきだ。また、量的制限の方法についても検討を加え、より合理的なものとする必要がある。

(5)電力需要の抑制は、長期的にも不可欠
 より長期的に考えると、原子力発電一般に対する社会的な反対が強まるのは、十分考えられる。すると、新規建設はおろか、現在稼働中の原発が停止に追い込まれる事態も、考えられなくはない。
 原発はすでに日本の発電総量の約3割を占めており、2019年にはこれを4割超にまで高めることが計画されていた。その達成が不可能となれば、日本の総発電量は大きく低下し、日本経済は深刻な打撃を受けざるをえない。今後に計画されている原発比率の上昇が実現できないだけでも、日本の発電総量は1割程度不足してしまう。
 したがって、何らかの意味での料金体系の見直しは不可欠だ。
 その際重要な意味を持つのは、家庭用以外の電力の節電だ。09年度における販売電力量合計8,585.2億kWhのうち、家庭用は2,849.6億kWhに過ぎない。残りは企業等によって経済活動のために使われているものである。
 したがって、家庭用の節電だけでは、全体の需要を抑制する効果は限定的だ。
 とくに、大口需要家の契約をどうするかが検討されなければならない。これは、日本の産業構造の問題とも密接にかかわる大きな問題だ。

【参考】野口悠紀雄「緊急提言2:基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう」 ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第2回】2011年3月19日~」(DIAMOND online)
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【震災】電力需要抑制のための価格メカニズム活用 ~野口悠紀雄の緊急提言1~

2011年03月20日 | ●野口悠紀雄
 今後の日本経済にとって、電力制約はかなり深刻なものとなりうる。電力需要抑制をいかなる手段で行なうかは、重要な意味を持つ。
 一般に、財またはサービスの需要を抑制するための手段としては、(1)強制的な量的規制、(2)価格引き上げによる調整、(3)自発的需要抑制の要請、の3つのものがある。今回行なわれた計画停電は(1)だ(経済学では「割り当て」rationingと呼ばれる)。
 電力供給能力を早期に回復することは困難で、長期にわたって電力不足が継続する可能性がある。原子力発電に対する猛烈な逆風が今後生じうることを考えると、半恒久的に不足が継続する可能性すらある。夏季には、冷房のための電力需要が増加するだろう。
 だから、計画停電だけに頼るわけにはいかない。これを補完し、あるいはそれに代替する手段として、価格メカニズムの利用を検討しなければならない。

(1)強制的な量的規制
 計画停電の長所は、需要の総量を確実に供給量の範囲内に抑えられることだ。
 他方、最大の短所は、個別的な必要度や緊急度に応じた供給制限ができないことだ。必要度の高い需要も含め、停電対象地域内の電力使用を一律にカットしてしまう。合理的な需要抑制とは言えない。
 きめ細かい対処が試みられるとしても、すべてに個別的事情を勘案して給電することは、困難だ。

(2)価格引き上げによる調整
 価格メカニズムの活用には、(a)電気料金の臨時的な引き上げ、(b)電力使用に対する課税の二つがある。
 (a)電気料金の臨時的な引き上げ
 <長所1>これが最大だが、必要度に応じた削減が可能になることだ。必要度の判断は個々の利用者にゆだねられる。したがって、料金に応じて、必要度の低い用途から順次削減されてゆくこととなる。こうして、電力需要者が個々に抱えるさまざまな事情を的確に反映することができる。この意味で、合理的な削減が可能となる。
 <長所2>条件の変化に柔軟に対応することもできる。
 電気料金の場合に限らず、個別的な事情に応じた利用が可能となることこそ、価格メカニズムの最大の機能だ。
 どのような利用が必要不可欠で、どのような利用の必要度が低いかは、個々の利用者しか判断できない場合が多い。このようなon the spotの情報を適切に反映する資源配分は、価格メカニズムによってしか実現できない。
 そもそも、今回の災害によって電力供給能力が大幅に減少したのであるから、需給調整のために電気料金が上昇しなければならないのは、マクロ的な観点から見ても、当然のことである。供給力が大きかった条件下での料金を維持すれば、超過需要が発生するのは不可避のことだ。この意味においても、料金を維持したまま計画停電という量的規制に長期的に頼ることは、適切でない。
 原油価格の高騰を考えても、電気料金の値上げはいずれは不可避な状況にある。

 <短所1>需要総量を供給量の範囲内に収めるためにどの程度の値上げが必要かが、事前には確実には分からないことだ。したがって、価格を試行錯誤的に調整しなければならない。このため、需要が最初から供給量の範囲内に収まる保証はない。これに対処するため、補完策として量的規制を併用することも考えられる。
 <短所2>所得分配上の観点からのものだ。必要度が高い需要であっても、所得が低ければ、料金が上がると購入できなくなる場合もある。こうした状態を放置すれば、「金持ち優遇」との批判が生じる。
 したがって、ある程度以上の値上げが必要とされる場合には、所得が低い家計に対して、何らかの補助策を講じる必要がある。もっとも、場合によっては、わずかの値上げで済む場合には、こうした補助策は不必要かもしれない。
 <短所3>価格引き上げの対象地域をどこにするかである。東京電力と東北電力について必要とされることはいうまでもないが、それ以外の地域についてはどうか。
 日本の場合の特殊事情として、東日本と西日本のサイクル数が違う(50Hzと60Hz)ため、西日本の使用電力を節約しても、それを東日本に融通することができないという問題がある。
 当面は、東日本地域の電力料金のみを高くすることが考えられる。これによって、生産活動の西日本地域への移動を促進することとなるだろう。しかし、家計の使用電力については、公平の観点から問題が生じるかもしれない。

 (b)電力使用に対する課税
 価格の引き上げと同じ効果は、電気料金に対する課税によっても達成できる。
 利点は、税収を被災地救援や災害復旧事業に用いることが容易になることだ。
 ただし、税率は法律で決めなければならない。需給を均衡させるための税率は、価格の場合と同じように試行錯誤的に決めざるをえない。いちいち法律で決めることには困難を伴う。
 電気料金は、経済産業大臣の認可をえれば変更できる。税率に比べれば遥かに柔軟に変更できる。
 電気料金は、将来の合理的な期間における総括原価を基に算定されることとされている。ここで提案しているような理由による料金引き上げが、現行法の範囲内で可能か否かは、検討の必要がある。

(3)自発的需要抑制の要請
 各利用者の自発的な需要抑制も、もちろん必要とされる。
 しかし、これがいつまで継続するかは確かでない。抑制が長期間にわたって必要とされると、次第に抑制努力が衰える可能性もある。とりわけ、産業用の電力使用については、自発的善意による抑制を長期にわたって期待するのは難しい。夏季における冷房のための電力需要を、どの程度自主的に抑制できるかも、不確実だ。
 総じて、いま必要とされる需要削減は、こうした自発的努力で達成できる限度を超えている。

【参考】野口悠紀雄「緊急提言:電力需要抑制のために価格メカニズムの活用を ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第1回】2011年3月16日~」(DIAMOND online)
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【震災】遠隔地で地震問題にかかわることからくるストレスへの対処

2011年03月20日 | 震災・原発事故
(1)ニュースを見続けない
 際限なく災害のニュースを見続けることはストレスをより悪化させかねません。もし大切な方々が被害にあっていて情報をアップデートし続けていたいと思っていても、途中で休憩を挟み心身の負担を減らしてください。

(2)出来ることをやっていく
 仕事や学校に行ったり食事を作るなど、普段どおりの生活をおこなっていくこと。そうした日常生活をやり続けることは、地震について常に考え続けることを中断するのに役立ちます。

(3)健康的な行動をする
 バランスの取れた食事を取り、普段のエクササイズをし、しっかりとした休養をとること。身体の健康を強化することは、あなたの精神的健康維持にも役立ち、また、こうした問題を対処する際の能力を高めます。

(4)事実を正しく捉えておく
 地震で恐ろしいほどの困難と損失を被るとしても、あなたの人生における良いことに意識を向け続けることを忘れないでください。困難に屈せず、先にあるさまざまな困難に立ち向かえる自身の能力を信じてください。

(5)可能ならば有効に援助する方法を見つける
 多くの機関がさまざまな方法で被害者を援助する方法を提供しています。そうしたものに貢献したりボランティアをすることはあなたが何かをすることを助ける前向きな行為となります。

(6)前向きな見とおしに努める
 これらの方法をとることで多くの人々は現在の問題を乗り越えられるかもしれませんが、人によっては強いストレス反応が出るかもかもしれません。日常生活に支障を起こすような場合は専門家の助けを得て、前に進み続けられるようにしてください。

   *

 以上、さるメーリングリストに紹介された記事を転載した(転載自由)。
 なお、転載にあたって改行などを補正した。

【出典】APA(米国心理学協会)の提案する災害時ストレス対処法
“Managing Your Distress About the Earthquake from Afar”
http://apa.org/helpcenter/distress-earthquake.aspx
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【震災】復旧のための税財政措置・緊急地震速報がハズれる理由・東京電力の隠蔽・原発震災の最悪シナリオ

2011年03月19日 | ●野口悠紀雄
●未曾有の大惨事から復旧するための税財政措置
 東北関東大震災の被害は、人命以外の物的資産だけをとっても、GDPの数パーセントに及んでいる可能性がある。日本は、それだけ貧しくなったのだ。だから、日本人の生活が平均的にそれだけ貧しくなるのは不可避だ。加えて、今後の経済活動への間接的な影響がある。広範囲にわたる被害なので、産業活動への影響は甚大だ。
 災害特需によってGDPが増える、といった類の意見は、不謹慎うんぬん以前に経済学的に誤りだ。特需によってGDPが増えるのは十分な供給能力が存在する場合のことだが、今後日本経済が直面するのは、供給面における深刻な制約だからだ。
 供給面の制約は、備蓄が不可能な電力について、すでに発生している。
 これから災害の復旧活動と被災者の支援活動が始まり、そのための救援募金やボランティア活動が行われるだろう。こうした活動は、もちろん歓迎するべきだ。しかし、今回の損害は、かかる自発的善意によってカバーしうる限度を遙かに超えている。被災地での当面の生活を確保するだけでも数兆円の財源が必要とされる可能性がある。政府の補正予算の内容も規模も、従来の災害復旧事業とは大きく異なるものにならざるをえない。
 「復旧と支援のための費用は、何らかのかたちで全国民が負担しなければならない。損失を国民全体で分かち合う覚悟が必要だ」
 そのためには、国家の強権による措置が必要だ。国債の増発のみならず、臨時増税措置を行うべきだ。予定されていた法人税減税は、当面のあいだ棚上げにするべきだ。
 GDPは特需で増えることにはならないが、一部の業種に限ってみれば、利益が一時的に増加することは十分にありうる。このような利益は、公平の観点からして、国が吸い上げる必要がある。
 10年所得を課税ベースとして、所得税の臨時付加税を実施するべきだ。消費税の臨時的な税率引き上げが検討されてもよい。ただし、恒久化しないよう、使途についても規模についても慎重な検討が必要だ。
 しかし、今回の災害の規模は、異例の措置をとらなければとうてい対処できない。この点をはっきり認識するべきだ。
 歳出面での措置で、もっとも重要なのは、マニフェスト関連の無駄な支出を即刻やめることだ。11年度予算におけるマニフェスト関連経費は3.6兆円ある。これらをすべて災害復旧費にまわすだけで、必要な財源のかなりが確保できる。

 以上、野口悠紀雄「未曾有の大惨事に異例の税財政措置を ~「超」整理日記No.554~」(「週刊ダイヤモンド」2011年3月26日号)に拠る。
 
    *

●緊急地震速報がハズれっぱなしの理由
 緊急地震速報は、気象庁からテレビ局や携帯電話のキャリアを経て配信される。だから、タイムラグがある。地上デジタルテレビの放送では1秒程度だが、携帯電話の場合、最大10秒弱の配信時間を要する。各端末と基地局との関係によっても配信時間が変わる。
 携帯電話の場合、震度4以上が予測される地域にいると受信する(はずだ)。しかし、緊急地震速報は、断層のズレがはじまった直後の揺れだけを捉えて予測しているから、何百キロにわたって断層のズレが続くと、予測は難しくなる。
 震度だけではなく、地域もハズレる。緊急地震速報は、同時に2つの地震があると対処できないのだ。それまで太平洋側だけだった地震が、離れた長野でも起きると、2つを別の地震と区別できず、検出する震源地がズレて、マグニチュードも大きく見積もってしまう。

 以上、記事「緊急地震速報がなぜハズれっぱなしなのか」(「週刊文春」2011年3月24日号)に拠る。
 
    *

●総点検を拒否した東京電力
 2007年7月、福島県議らは、東京電力社長に対し、福島第一と第二の原発、計10基について耐震安全性の総点検を求める申し入れをした。
 「機器冷却海水の取水ができなくなることが、すでに明らかになっている。最悪の場合、冷却材喪失による苛酷事故に至る危険がある。その対策を講じるように求めてきたが、東電はこれを拒否してきた」(申し入れ書)。

 以上、記事「原発列島沈没の瀬戸際」(「サンデー毎日」2011年3月27日号)に拠る。

    *

●福島第一原発震災の最悪シナリオ
 小出裕章・京都大学原子炉実験所助教によれば、福島第一原発の1号機および3号機の炉心が溶融して大爆発したら、「おしまいですよ」。
 この場合、1平方キロあたり1キュリー以上の汚染を受ける土地(放射線管理区域)は、原発から700キロ先まで広がる。これは名古屋、大阪まで入るほどの広さだ。原発から10キロ圏内の急性死亡率は99%を超える。南西方向に風速4メートルの風が吹いていた場合、ある程度の時間がたって発症する放射能の「晩発性影響」によるガン死者は、東京でも200人を超える。
 さらに、半減期が30年のセシウム37などの放射性物質が大量に放出され、飛散する範囲は半径320キロにも及ぶ。北は岩手から南は神奈川、山梨まで、本州の関東以北は事故後数十年にわたって土壌が放射能に汚染され、人間が住むことができなくなってしまう地域が出る。
 すでに福島第一原発から100キロ離れた女川原発(宮城)の敷地内でも、一時、放射線量が通常の4倍の数値を記録した。格納容器の弁のフィルターが多量の水分で目詰まりを起こして吹き飛んでしまった可能性がある。そのため、ヨウ素など、本来なら外に出るはずもない放射性物質も飛び出しているのではないか。今回、周辺で被曝した人たちのなかには「除染」を受けた人もいたが、すでに放射性物質は体内にも入っていると考えられる。
 1号機はウラン燃料、3号機は2010年9月からMOX燃料を使っている。プルトニウムの生物毒性は、ウランの20万倍とも言われる。プルトニウムは、本来、高速増殖炉で使用するべきものであり、福島第一原発にある沸騰水型炉で使用するべき燃料ではない。家庭用の石油ストーブにガソリンを混ぜた灯油を入れているようなものだ。軽水炉でMOX燃料を使用すること自体が非常に危険だ。
 日本は、世界有数のプルトニウム保有国だ。長崎に投下された原爆はプルトニウム爆弾だが、現在、日本はプルトニウム原爆を4千個も作れるほど保有している。

 以上、記事「放射能 目に見えない恐怖と知っておくべき『本当の話』」(「週刊朝日」2011年3月25日号)に拠る。
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【震災】福島原発事故が過去の2大事故と違う点(ナショナルジオグラフィック)

2011年03月19日 | 震災・原発事故
 福島第一原発事故は、スリーマイル島とチェルノブイリにならぶ三大原発事故として記録に残るだろう。
 ただし、他の二者とは大きく異なる点が既にいくつかわかっている。

(1)原子炉の種類
 福島第一には、計6基の沸騰水型軽水炉(BWR)がある。BWRは通常の水を使用する軽水炉の一種で、H2Oの代わりに酸化重水素(D2O)を使用する重水炉と区別される。
 スリーマイルの軽水炉は、加圧水型原子炉(PWR)という別のタイプだった。
 どちらの原子炉でも、水が2つの役割を果たしている。炉心で発生した熱を取り出す冷却材、そして核分裂反応で放出される中性子の速度を下げる減速材の働きだ。
 加圧水型では水に高い圧力をかける。炉心が加熱した冷却水を蒸気にすることなく、沸騰水型よりも高温で運転する。炉心の温度が高くなり、熱効率が上がるのだ。一方、沸騰水型は加圧水型に比べ低温のため、原子炉の構造が簡単で、部品が少なく済む場合が多い。
 チェルノブイリは、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK)だ。軽水炉と同様に冷却材として水を使用するが、減速材には黒鉛が使用されていた。黒鉛の減速材と水の冷却材を組み合わせた原子炉は、ロシアで運転中の数台しかない。
 米国では、原子力発電所のほとんどがBWR型かPWR型の原子炉を使用している。安全性に大差はない。どちらもそれぞれ自己制御性(負の反応度フィードバック)を備え、炉内の温度が上昇すると自然に核分裂反応が弱まって、出力が減少する。しかし、RBMK型は正の反応度フィードバック特性を持つ。温度が上昇すると出力が上がり、さらに温度が高まるため、原子炉の暴走が生じやすい。

(2)事故の原因
 福島原発の事故では、津波が直接の原因となった可能性が高い。
 設計通り地震の揺れを検知して運転を自動停止したが、 約1時間後に大津波が押し寄せ、すべての電源を喪失した。地震で冷却ポンプの動作を保つ外部電源が停止、冷却系への電力供給を担う非常用ディーゼル発電機は津波をかぶり故障した。非常用バッテリーもわずか8時間で切れたため、移動式発電機が搬入されている。
 一連の災害と事故との因果関係を判断するのは時期尚早だ。
 スリーマイル島原発事故では、機器の欠陥が事故の発端だが、人為的な操作ミスが決定的要因となった。作業員が非常用冷却系統を誤操作により停止してしまったため、深刻な事態に進展した。もし作業員または監督者が事故の初期段階で非常用冷却系統を作動させていれば、あれほど重大な事故にはならなかった。
 一方、チェルノブイリでは動作試験が行われていた。計画自体に不備があり、実施時にも複数の規則違反があった。予期しない運転出力の急上昇により蒸気爆発を起こし、原子炉の蓋が破損。その結果、溶融した燃料と蒸気が反応してさらに激しい爆発が起こり、炉心も溶融、建屋もろとも爆発炎上した。

(3)問題の究明
 スリーマイルとチェルノブイリ以降の数十年で、何が原子炉内で起こっているのか、原子力発電に関する情報が公開されるようになった。
 スリーマイルでは、事故3日目までに公開した情報のほとんどが不正確だった。燃料溶融の状況や1日目に炉内で発生した水素爆発の事実すら、何年もの間公表されず、情報がまったく闇に葬られていた。
 警報システムの不備があった。スリーマイル事故の最初の数分間、100以上の警報が鳴り響いたが、重要な信号を選択して通知するシステムは確立されていなかった。状況が急速に変化する事故現場は混乱の極みに陥る。問題は、その状況下における人間と機械との相互作用に注意がほとんど払われていなかったことにある。
 コンピューター化と情報伝達の向上により、少なくとも理論的には、日本の当局者は事故の状況をはるかに詳しく把握できたはずだ。だが、スリーマイルにはない地震と津波が相次ぎ、パニックに陥ったことは間違いないだろう。

(4)放射能漏れの影響
 スリーマイルと同様に、福島原発の原子炉でも、燃料被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器の3重の壁で放射能漏れを防いでいる。チェルノブイリは格納容器が無い設計だった。
 放射性物質が大気中に漏出すると、広大な範囲に影響を及ぼす可能性がある。汚染の度合いは距離と関係ない。つまり、遠く離れているからといって必ずしも被曝量が少ないわけではない。卓越風により、影響を受ける範囲が変わってくる。チェルノブイリでは、発電所から150キロ以上離れた場所が数十キロ圏内よりも高濃度で汚染された。
 チェルノブイリはまったく常軌を逸していた。放射性物質は格納容器のない原子炉構造と黒鉛の火災が原因で上空に舞い上がった。黒鉛火災は10日間続き、長引く漏出の間に天候が変わった。放射性物質の気体と粒子は風に乗って上空まで運ばれ拡散し、現場から遠く離れたところで雨と共に地上に降り注いだ。
 スリーマイルの放射能漏れは即座に健康被害が出るほどのレベルではなかった。国際原子力事象評価尺度(INES)では、レベル5(施設外へのリスクを伴う事故)に分類している。チェルノブイリはレベル7(深刻な事故)にランクされ、極めて多数の被曝者を出した。
 福島第一は、当初レベル4(施設外への大きなリスクを伴わない事故)にランクされていたが、今後どこまで影響が及ぶのかは未知数だ。

(5)被曝に関する正しい知識を
 (略)

(6)情報開示の大切さ
 福島の危機を乗り越えるために、世界中の原子力業界が共同体勢を取って情報交換している。業界内で活発な情報交換が図られている点で、スリーマイルやチェルノブイリとまったく違う。
 当然、原発事故に関する情報は業界外にも伝わる必要があるが、東京電力はこの点で厳しい批判にさらされている。
 スリーマイルの事故当時は、原子炉を冷やして安定化させる作業が行き詰まっていても、当局側は国民に対して「危険は過ぎ去った」と説明するだけだった。チェルノブイリでも情報はほとんど開示されていない。
 日本でも、状況が悪化するにつれ、高まる危険性を過小評価するような関係者の発言に非難が集中している。
 判明した事実と不明点。損害の大きさとそれがもたらす結果。情報を率直に伝えることが、国民からの信頼につながる。
 日本政府は、東電からの情報伝達の遅さを非難している。東電の会見は回を重ねるごとに曖昧になっている。
 日本の関係者から出される情報の精度にばらつきがあるのは明らかだ。だが、それはいまだに状況把握に追われている状況を示しているのかもしれない。現場は相当な混乱状態にあるだろう。
 福島第一原発事故は、原子力開発の歴史上、最も深刻なレベルにある。

   *

 以上、Josie Garthwaite「福島原発事故、二大事故との違い(1)および(2)」(National Geographic News/March 18, 2011)に拠る。
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【震災】原発・被災者支援・救援物資の流通・危機管理の司令塔・今後の政治 ~識者の意見~

2011年03月18日 | 震災・原発事故
(1)原発
 日本原子力研究開発機構からは、30人近くが交代で福島原発で対応している。現場では不眠不休で努力しているはずだ。精神的にも肉体的にも疲労が蓄積するかもしれない。人為ミスは絶対に避けなければならない。十分な人員の確保などサポート態勢を整える必要がある。【高嶋】
 ことここに至っては、電力会社も政府もすべての生データをリアルタイムで公表し、諸外国を含めて専門家の意見を秘録求めてはどうか。その上で、混乱を避けるために決定は当事者がやればよい。【高嶋】  

 第一段階で制御棒を入れ、核反応を止めたことでは成功した。ただ、制御棒はしっかり入っているのか。計器上はそうなっていても、別の方法でダブルチェックするべきなのだが、その情報がない。核反応がきちんと止まっているかどうかは一番重要なことだが、制御棒位置に係る発表が何もないことが気になる。【住田】
 海水注入による原子炉冷却という前例のない方法に、廃炉覚悟で踏み切ったことは、設置者の判断として正しい。だが、判断のタイミングがいかにも遅かった。発表はさらに遅れた。【住田】
 1999年、東海村で起きた核燃料加工会社JCOの臨界事故の際、原子力安全委員会委員長代理として、現場で臨界を止める作業にあたった。当時と比較して唯一評価できるのは官邸の対応だ。首相や官房長官が積極的に前に出ているのは評価したい。一方、原子力・安全保安院は十分に機能していない。東海村事故では、多くの研究機関がデータ収集で協力し、各電力会社も放射能を測定するモニタリングカーを派遣した。原子力関係者が総力をあげて助言やバックアップし、危機を乗り越えた。今回は東京電力と保安院がすべて抱えこんでしまったため、バックアップがほとんど活用されていない。【住田】

 作業員は、一般の住民に比べればはるかにリスクの高い環境で作業しているが、個人線量計を身につけ、被曝線量の限度を決めて作業時間を限り、交代しながら作業している。【前川】

(2)被災者支援
 地震の規模は巨大、被害はケタ違いに広範囲だ。このため、市民レベルでは、被災の少ない周辺地域からボランティアが現地入りして被災地に援助の手をさしのべる、という従来の方法がとりにくい。【広瀬】
 被災者は避難所で、命があっただけでよかった、という高揚感でエネルギーを出せているかもしれないが、数日もすれば深い喪失感と悲しみに襲われる。適切な精神的ケアと生活環境の整備もまた、従来とは異なる規模で必要になる。【広瀬】
 被災地の人を励まし、生活の援助をするメニューの考案は急ぐ。インターネットなどを通じて、積極的にアイデアを募るべきだ。ネットはデマや流言蜚語の温床になるが、民間の知恵の集積地にもなる。そのためにも、正確な事実を広めていくことが重要だ。ことに原発について。深刻で重大な事態に陥っているなら、それを国民にきちんと知らせないと、逆に不安やストレスをあおる結果となる。パニックは隠蔽が引き起こす。民衆の想像力は、被災者を支援したり、元気づけたりする方策にこそ使われるべきだ。【広瀬】

 被災地は、何でもありの場所だ。独断専行は控えつつ、思いついたことを積極的に提案し、実行に移す気持ちを誰もがもってほしい。被災地の情報収集や支援も、被害の少ない近隣の自治体が責任をもてば、きめ細かい支援ができるのではないか。より大きな形での「自立・分散型」だ。【松崎】
 情報の品質管理も重要だ。連絡のつかない「沈黙の避難所」をなくすること。情報を絶えず更新し、デマの広がる隙をつくらないこと。情報媒体としての「紙」の力も再認識するべきだ。【松崎】

(3)救援物資の流通
 政府は、救援を急ぐよう関係省庁に矢継ぎ早の指示を放っている。届きさえすれば、との期待が大きい。自衛隊の動きも素早い。東海地震でシミュレーションをしていた十数万人による「オールジャパン」の体制で動きを開始している。米軍の横田基地には海兵隊部隊が集結。自衛隊との連携にも不安はない。【麻生】
 ところが、原発事故以外に、政府の予想していなかった事態が発生する危惧が高まっている。20~30キロ圏内の屋内待避を勧告した直後から、地元住民が車で脱出し始め、ただでさえ救援物資を運ぶ車両で渋滞する国道の幾つかの場所で渋滞が発生中なのだ。政府に求められるのは、救援物資ルートと脱出ルートを別個に確保するための法的措置と、自衛隊、警察への政治指導だ。【麻生】

(4)危機管理の司令塔
 国家的危機管理の際、専門家を集めた「司令塔チーム」の設置が不可欠だ。被災地が求めるものの情報を一ヵ所に集約し、その時点で必要と判断した地点に、救助要員と資材や機材を集中的に投入するためだ。チームは10人程度がよい。政治や行政が不作為に陥らないよう、あらゆる例外規定を使ってでも臨機応変に実行するべきだ。【小川】
 被災地の市町村役場が多数、機能できなくなった。道路も鉄道も使えない。電話もつながらない。情報収集と救助に、もっと大量のヘリコプターを活用するべきだ。陸自の大型ヘリCH47だけで54機ある。立った状態なら1機100人が乗れる。【小川】
 実際に活動を続ける中で、何が必要で誰が必要かわかってくる。そのつど、とりあえずつくった司令塔に必要な人材をつけ加えていけばよい。【小川】

(5)今後の政治
 新しい国をどう造るか。復旧というレベルではない。政治はそこに踏み出さねばならない。【御厨】
 現政権の初動はよかった。自民党は、自然災害に直面しても、派閥や政治家個人の利益や思惑が先に立ち、もたついた。裏の芸当ができないと揶揄された民主党だが、こと災害対策に関しては、持ち前のオープンさは安心感につながる。【御厨】
 自民党も、野党の立場からきちんと議論するべきだ。【御厨】
 災害対策費をどう工面するか。予算配分の仕組みを劇的に変えなくてはならない。【御厨】

   *

 以上、(1)2011年3月16日付け朝日新聞「オピニオン」欄、(2)2011年3月17日付け朝日新聞「オピニオン」欄に拠る。
 語り手/寄稿者は、(1)高嶋哲夫(作家・元核融合研究者)、住田健二(大阪大学名誉教授・元原子力安全委員会委員長代理)、前川和彦(東大名誉教授・放射線医学総合研究所被ばく医療ネットワーク委員長)、広瀬弘忠(東京女子大学教授・災害心理学)。(2)松崎太亮(神戸市復興支援員)、麻生幾(作家)、小川和久(軍事アナリスト・NPO国際変動研究所理事長)、御厨貴(政治学者)。
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【震災】広瀬隆の、福島原発事故の真相・・・・の補足

2011年03月17日 | 震災・原発事故
(1)当面の危機
 14日に水素爆発で建屋が吹き飛んだ3号機で使われているMOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料は、従来のウラン燃料よりも大量の放射能を出す。3号機は炉心の溶融が相当進行していた、と推定される。非常に危険な放射性物質が、すでに外部に出ている可能性は高い。
 13日午後、1時間あたり1557・5マイクロシーベルトを記録した。これを年換算すると、通常の年間被曝量の1万3千倍を超える。
 現場に行ったジャーナリストの広河隆一によれば、13日夜、3台のガイガーカウンターが1千マイクロシーベルトの目盛りを振り切っていた。3キロ離れていてもそういう状態だったのだ。
 15日に2号機も水素爆発、炉心溶融の最後の危機に直面している。
 もし1基でもメルトダウンから爆発という最悪の事態が起きれば、容易に近づくことはできなくなる。今は止まっている4、5、6号機も含めて6基すべてがメルトダウンし、さらに福島第二原発にも被害が拡大する、という事態も考えられる。

(2)長期的な危機
 今起きていることは、ほんの始まりに過ぎない。
 大事故に至る危機が終息するのは、電気系統が回復して、ポンプで冷却水を循環させることができたときだ。
 しかし、原子炉への水の注入を消防車のポンプに頼っている現状では、復旧のめどはまったく見えてこない。水を入れただけではダメだ。循環させなければ、いずれは行きつくところまで行ってしまう。
 1基の原子炉が全部放射能を放出するような事態が起きた場合、風向きや風力次第だが、台風が日本を横断する時間と同様に、ほぼ1週間で日本全土が放射能に包まれる可能性がある。広い範囲にわたって田畑が放射能汚染を受ける。缶詰しか食べるものがない、というような世界になる。
 テレビに出ている自称専門家は、今そこにある危機について、正しい知識を伝えていない。

(3)他の原発
 M9.0の巨大地震に続き、長野や茨城沖でも大きな地震が続いている。太平洋プレートの境界で大地震が続くだけでなく、過去の歴史から見ると、フィリピン海プレートも絶対に動く。地震が比較的少ない静穏期から、江戸時代や関東大震災前後のような地震多発の時代に入ったのだ。東海や相模湾でいつ大地震が起きてもおかしくない。だから、静岡の浜岡原発は、どんなことをしても止めなくてはいけない。
 戦前の記録で地震がかなり起きていた若狭湾も同様だ。若狭には13基の原発がある。地理的に津波が危ないし、活断層も通っている。
 全国の54基すべての原発が、危ない状態にある。

  *

 以上、 「週間朝日」によるインタビュー記事(3月15日午後4時現在)に拠る。
 その内容は、ダイヤモンド・オンラインに掲載の、著者による特別レポートと内容はほぼ重なる。要点は、「事故の経過を見ると、悲観的にならざるを得ない」ということだ。
 特別レポートの要約を補足する形で、インタビュー記事からさわりを抜いた。

【参考】広瀬隆/堀井正明(聞き手)「福島原発で本当に起きていること [11/03/17]」(アスパラクラブ ブックclub)
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【震災】広瀬隆の、破局は避けられるか――福島原発事故の真相

2011年03月17日 | 震災・原発事故
(1)「想定外」を濫用する電力会社とマスメディア
 3月11日14時46分頃に三陸沖で発生した巨大地震のマグニチュードが、当初8.4、次に8.8、最後に9.0に修正された。
 これは疑わしい。原発事故が進んだため、「史上最大の地震」にしなければならない人たちが数値を引き上げたのだ。四川大地震の時に中国政府のとった態度と同じだ。
 地震による揺れは、宮城県栗原市築館で2,933ガルを観測した。しかし、2008年の岩手・宮城内陸地震では、マグニチュード7.2で、岩手県一関市内の観測地点で上下動3,866ガルを記録した。今回より大きい。
 建物の崩壊状況を見てわかるとおり、実際の揺れは、阪神大震災のほうがはるかに強烈だった。東北地方三陸沖地震の実害と、原発震災を起こした原因は、津波だった。
 では、津波の脅威は、誰にも予測できなかったのか。日本の沿岸地震では、1896年の明治三陸地震津波で、岩手県沿岸の綾里では38.2m、吉浜24.4m、田老14.6mの津波高さが記録されている。「想定外」という言葉を安っぽく濫用してはならない。

(2)冷温停止に至らず迷走運転中の原子炉8基
 2010年3月25日、東京電力は、40年経過して超老朽化した福島第一原発1号機を運転続行する、と発表した。60年運転も可能だ、と言い、原子力安全・保安院がそれを認めた。
 これは福井県の敦賀原発・美浜原発に続く、きわめて危険な判断であった。
 2010年10月26日、34年経過して老朽化した福島第一原発3号機で、プルトニウム燃料を使った危険なプルサーマル営業運転に入った。
 福島第一原発は、設計用限界地震が、日本の原発で最も低い270ガルで建設された。最も耐震性のない原発だ。
 地震発生後、原発は「止める」「冷やす」「閉じ込める」機能があるので大丈夫だと宣伝してきたが、ほかの原発も含めて、自動停止した11基の原子炉のうち原子炉内の温度が100℃以下、圧力も大気圧に近い状態で安定した「冷温停止」に至ったのは、14日現在、福島第二原発3号機と女川原発1・3号機の3基だけだ。残り8基は迷走運転中だ。

(3)炉心溶融(メルトダウン)はわずか600℃で起こる
 電気出力100万kW原子炉では、熱出力がその3倍の330万kWある。この原子炉では、自動停止しても、その後に核分裂生成物を出し続ける。その崩壊熱は、1日後にも1万5,560kWもある。発熱量がどれほど小さくなっても、永遠に熱を出し続ける。燃料棒が原子炉にある限り、それを除去し続けなければならない。原子炉という閉じ込められた容器内では、熱がどんどんたまっていく。
 それを除去できなければ、水は沸騰してなくなり、燃料棒がむき出しになる。そして、超危険な放射性物質が溶け出し、燃料棒の集合体が溶け落ちる。それが炉心熔融だ(メルトダウン)。
 燃料棒の集合体が次々に溶け落ちると、炉の底にたまって、ますます高温になり、灼熱状態になる。やがて原子炉圧力容器の鋼鉄を溶かし、釜の底が抜けると、すべての放射性物質が外に出て行く(「チャイナ・シンドローム」)。
 一方、燃料棒被覆管のジルコニウムは水と反応して酸化される。水素ガスが発生する。水素ガスの爆発限界は、最小値が4.2%だ。
 原子炉の正常な運転条件は、福島原発のような沸騰水型では、280~290℃、70気圧だ。炉心溶融は、スリーマイル島原発事故などの解析によって、600℃で起こることが明らかになった。

(4)原発震災の現実化
 福島第一原発では、地震から1時間後、15時42分に全交流電源が喪失し、外部から電気がまったく来なくなった。所内の電源が動かなければ、何もできない。そこを津波が襲い、15時45分にオイルタンクが流失した。さらに配電盤などの配線系統が水びたしになって、内部はどうにもならなくなった。
 初め、炉心に水を注入するためのECCS(緊急炉心冷却装置)を作動したが、すぐに注水不能となった。非常用ディーゼル発電機はまったく作動しない。電気回路が大量の水を浴びて、配線系統がどうにもならない。コンピューターも何もかも、電気がなければ何もできない。
 このような所内電源と非常用ディーゼル発電機による電力のすべてが失われた事態に備えて、原子炉隔離時冷却系(ECCSの一種)がある。これは、炉心の崩壊熱による蒸気を利用してタービンを起動させ、ポンプを駆動して注水する装置だ。しかし、これも制御機能が喪失すれば駄目になる。
 そもそも、地震発生当初から非常用ディーゼル発電機がまったく働かなかったのだから、電源車が到着したかどうかが鍵だ。その最も重要なことについてさえ、報道されなかった。テレビの報道陣が、いかに原発事故について無知であるかをさらけ出した。
 そして、1号機の原子炉内の水位がぐんぐん下がり始めた。非常用復水器と原子炉隔離時冷却系によって、何とか水位の復帰につとめた。しかし、格納容器(ドライウェル)内の圧力が、設計上の使用最高圧力4気圧をはるかに上回る8気圧に達している可能性が高かった。加えて、除熱されていないから水位が下がりゆき、4メートルの燃料棒は1メートル以上、水の上に顔を出した。
 格納容器の圧力が高まると破壊される。バルブを開き、高圧になった気体を放射性物質と共に外部に放出する作業に入った。だが、15日昼頃には、敷地内での放射能が通常の350万倍に達した。
 さらに2号機で格納容器の破損が起こった。4号機で建屋内の使用済み核燃料のプールが沸騰し始めた。ここには、原子炉より多くの放射性物質が入っている。作業者が近づけない場所だから、処理はおそらく不能だろう(15日17時現在の推定)。
 福島第一原発の6基のうち、1基がメルトダウンすれば、そこには職員がいられなくなる。連鎖的に事故が広がる。

【参考】広瀬隆「破局は避けられるか――福島原発事故の真相 ~特別レポート【第140回】 2011年3月16日~」(DIAMOND online)
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【震災】東京電力の隠蔽体質

2011年03月16日 | 震災・原発事故
 都合の悪い事実は隠す。
 そうという姿勢が、このたびの報道対応から垣間見える。
 原発の状況報告に当たって、原子炉内の水位、放射線の測定結果など、都合の悪い数値は、東電自らが進んで明らかにすることはない。
 <例1>15日未明の記者会見でのこと。福島第一原発の正門で高い放射線量が測定されていたにもかかわらず、その2分前の、より小さい測定値を挙げて説明した。記者から指摘され、ようやく高い測定値の存在を認めた。
 <例2>中性子線【注1】が検出された事実を、はじめは明かさなかった。

 こうした隠蔽体質は、いまに始まったことではない。
 2002年、原子炉内の設備の損傷を隠蔽した。これは表面化した。
 2007年、制御棒【注2】の駆動装置の検査で、福島第二原発の担当者が、予備品の不足を隠蔽するため模造品をつくって国を欺いた。これも発覚した。

 隠蔽の背景に、官僚との関係がある。
 経済産業省・資源エネルギー庁の前長官、石田徹は、2011年1月1日付けで東京電力に顧問に就いた。いずれ副社長となる道が約束されている・・・・らしい。東京電力も資源エネルギー庁も否定するが、「天下り」であることは、経済産業省幹部の中では、昨夏から、とうに認識されていた。
 東京電力は、過去3人の通商産業省(現経済産業省)OBを役員に迎えた。資源エネルギー庁【注3】からは、石田が2人目だ。

 隠蔽の背景には、政治家との関係もある。
 東京電力の荒木浩顧問【注4】は、歴代首相や有力政治家を囲む会を定期的に開催している。今井敬・新日本製鉄名誉会長や上島重二・三井物産顧問とともに。現役の日本経団連会長や日本商工会議所会頭も加わる。
 荒木は、小沢一郎・民主党元代表を囲む会の世話役的存在でもある。

 電力会社は、原発が立地する自治体が首長選挙を行うと、全国から車両と人をかき集めて選挙応援する。原発反対派の首長を誕生させないために。
 「それで当選した保守派の政治家は、電力会社に頭が上がらなくなる」  

  【注1】核分裂反応を引き起こす。金属板も貫く危険な放射線。
  【注2】原発を停止させる。
  【注3】電力料金改定や規制の権限を有する。
  【注4】社長、会長を歴任した。

   *

 以上、2011年3月16日付け朝日新聞に拠る。
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【震災】佐藤主光の、東日本大震災による経済的損失の全貌と対応策

2011年03月16日 | 震災・原発事故
 このたびの地震はどれほどの経済的損失をもたらすか。景気回復基調に向かっていた日本経済にどのような悪影響を与える可能性があるか。

(1)東北地方への経済的なインパクトと日本経済全体に対する短期的・中長期影響
 試算は、津波を伴う東南海・南海地震の被害想定をベースに、大まかな範囲の被災地の県内GDP比で調整をした。道路等の公共インフラの毀損や企業間のサプライ・チェーンの断絶、原子力発電所事故や電力不足の影響は反映していない。直近の景気の回復も折り込んでいない。あくまで「粗い試算」だ。
 (a)日本経済全体への影響
  (ア)短期
 直接的被害や被災地経済の落ち込みがマクロ(日本)経済全体に及ぼす影響は、成長率、インフレ率でみると限定的だ。
 岩手・宮城・福島といった大きな被害を被った地域の経済規模(県内総生産)が日本全体のGDPに占める割合は、4%程度だ(平成19年度約20兆円)。家計の心理面の悪化による消費の落ち込みがあっても、復興事業が景気を底上げする。
 日本経済は慢性的にデフレギャップ状態だったため、一時的な生産力の落ち込み、総需要の増加が高いインフレにつながる懸念は少ない。
 ただし、電力を含めたサプライ・チェーン【注】の断絶が長く続くと、供給面からマクロ経済への負の影響は大きくなる。この場合、負の影響は日本国全体に広く波及する。被災地域から仕入れ・調達を行っている企業、あるいは被災地域に販売をしている企業は、企業自体が被災地域以外に立地していたとしても、影響を被る。

 【注】ここでは部品調達・仕入れ、電力等の生産に係るエネルギー供給などを通じた企業の経済活動間の連関を指す。部品工場の破損により、トヨタなど自動車企業が国内全体で生産休止に追い込まれるのがサプライ・チェーン断絶の一例だ。

  (イ)中長期
 復興事業支出がかさむことで、国の財政はますます悪化する。被災地域の自治体の財政悪化はいうまでもないが、激甚災害に指定されたこともあって、復旧・復興事業において国からの補助率は通常よりもかさ上げされる。
 特別交付税や復旧・復興事業に係る地方債の元利償還費に対する交付税措置により、こうした自治体の財政は相当程度、支援される。地方税収も大きく落ち込むが、その分(75%)、交付税の増額が見込まれる。
 ただ、被災自治体にとっては財政的損失よりも、多数の職員が被災したことによる人的損害の方が大きい。よって、復旧・復興事業の費用は多くは国の負担となる。
 さらに、法人税・所得税を中心に税収の落ち込みも予想される。ただでさえ多い国の借金がますます増加し、財政再建はいっそう困難になる。中長期的には国債金利に上昇圧力が働き、このことが市場金利の上昇となってマクロ経済にマイナス効果となる。財政の破綻リスクは上昇する。

 (b)東北地方を中心とした被災地域への影響
 今回の震災は致命的になる可能性がある。復旧・復興が遅れると、自動車関連企業など企業の流出を招いたり、被災地域の製品(第1次産業を含む)が国内または海外の市場を失ったりしかねない。阪神淡路大震災の場合、神戸港は国際貿易港としての地位が大きく低下した。また、ケミカル・シューズは中国からの輸入品に市場を奪われた。
 すでに斜陽気味の企業で、減価償却済みの機械や工場で生産を続けてきたところは、被災後、改めて借金をして新しい設備を購入することは難しい。さもなければ時間をかけて撤退していくはずだった零細企業が、これを契機に一気に倒産していくシナリオもあり得る。
 政治的にはこうした企業に対する支援が要請されるが、非効率、競争力に乏しい企業や産業をそのまま復旧させることは、長い目でみれば被災地経済の復興に繋がらない。この点が難しい。
 しかも、被災地域は多くの過疎地域・限界集落も抱えている。こうした地域を「原形復旧」することは、過疎問題の本質的な解決にはならない。これを契機に地域の再編成、場合によっては危険地域からの撤退も視野に入れる必要がある。

(2)東北経済(被災地を除く)への影響
 各企業のBCM(災害時の事業継続計画)次第だ。部品等の代替的調達計画が行き渡っているかどうかが鍵となる。
 広域連動地震の場合、被害が幅広くなっているので、単に自社の施設に問題がなくても、あるいは復旧が早くても、サプライ・チェーンに属する他の企業や生産設備が被災したままでは、復旧は困難だ。大手企業では導入が進んできたとされるが、BCMは中小企業レベルではまだまだ可能性が高い。

(3)政府や自治体に求められる対応
 (a)優先事項
 原発事故など、起きてしまったことに対する「戦犯探し」(責任論)はさしあたり棚上げして、今後の復旧・復興への対応を急ぐべきだ。

 (b)国・県の仕事
 被災地の復旧・復興プラン作成に早く取り組むべきだ。
 被災市町村は、統治(行政)能力を多く失っていること、残った力を被災者の救援に充てるべきであることから、復旧・復興は国・県が主導的な役割を果たさねばなるまい。この非常事態に「地方分権」云々を言っている場合ではない。端的なやり方を言うと、甚大な被災を被ったエリアは国・県が収用し(所有者には一定額を補償)、早急に新しい街づくりを始めるべきだ。

 (c)経済政策と社会政策の区別
 復旧・復興においては、経済政策と社会政策を区別しておく必要がある。
 経済復興のための政策としては、インフラの復旧、融資等企業に対する支援がある。社会政策としては高齢者対策がある。
 ここで難しいのは、斜陽の零細企業および小規模農業の扱いだ。これらに従事してきた人たちがすでに高齢であれば、無理に事業を復旧させるのではなく、社会政策として彼らに所得補償等生活支援を施すことも一案だ。経済政策として復興させるのは、あくまで、平時に戻れば自立可能と見込まれる企業・産業である。

 (d)将来の予見可能性を高める
 震災からの回復には相当な時間を要するかもしれない。ただ、その道筋(プラン)を見せて、将来の予見可能性を高めることが市場に対する対応として不可欠だ。投機を除けば、市場の反応は、現在起きていることだけではなく、将来的な見通しに大きく依拠する。
 むろん、その際、財源についても明示しなくてはならない。今日、借金をして復旧にあたるのはやむを得ないが、その償還プランも合わせて示さないと国債に対する信認をますます損ねかねない。財政破綻リスクが高まったと解釈されれば、金利が高騰して、財政は一層苦しくなり、日本経済にとって不安要因になってしまう。

 (e)被災者・市場・納税者
 政府はこれから次の三者と対話しなければならない
  (ア)被災者。彼らに向かってこれから実施できる支援を明確にする。政府が「できること」と「できないこと」をはっきりと分けて説明する。
  (イ)市場。(国債だけではなく、株式等を含む)市場からの信認を取り付け続ける努力を意識的に行う。
  (ウ)納税者。復興のための増税は、「助け合い」というだけでは納税者を説得できない。単に情に訴えるだけではなく、日本経済にとって(よって納税者自身にとっても)、なぜ被災地域の復興が重要なのかを説得力(ロジックとエビデンス)をもって説明しなければならない。
 震災からの復興を次の成長、産業の振興に結びつけられるかどうかが鍵になる。

【参考】「未曾有の東日本大震災による経済的損失の全貌 一橋大学大学院経済学研究科 佐藤主光教授 緊急インタビュー ~特別レポート【第138回】 2011年3月15日~」(DIAMOND online)
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【震災】中井久夫の、被災者を力づけるもの、立ち直るコツ ~災害時の精神保健~

2011年03月15日 | 震災・原発事故
 中井久夫は、阪神・淡路震災直後に『1995年1月・神戸「阪神大震災」下の精神科医たち』 (みすず書房、1995)を編んだ。また、「こころのケアの推進」と題して、震災時のメンタルヘルスケア活動を検証している。
 ここでは、被災者の心理と行動に係るエッセイから引く。たとえば、被災した年の3月25日に次のように書く。

 「電話、手紙、小包、義援金、援助物資、ヴォランティアの殺到は、われわれは孤独ではない、日本中、あるいは世界が心配してくれているという感じを与えた。全国的に『自粛』が行われたのは、日本人が連帯感を持っている大きな証拠だった。国際的にもだ。あのサラエボからも援助物資がきたという。モンゴルからも毛布が、ロシア、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)からもお金が。中国からは多種の物資がきた。スイスの救助隊はほんとうに真剣だった。フランスも」
 「犯罪が少なかったのには、警察、消防、自衛隊がいっぱいいたせいもあるだろうし、交通事情が東部からの犯罪集団を遮断したということがあるかもしれない。しかし、神戸市民の自助努力は相当なものだったし、世界からいろいろな人間が集まって作った街だという感覚も生きていた」
 「初期から電話が通じた。電気の復興が早かった。鉄道も意外に早い。避難所になった学校の教員方は慣れない仕事によく頑張っておられた。とにかく、整理と再建の息吹が早くから感じられた。これは力になった。非常時の緊張は40日から50日で気が抜けるから、それまでにやれることはやってしまうことがコツなのだ」

 以上は、「阪神大震災に思う」から抜粋したが、中井は後日付記して次のようにいう。
 「震災後ほどなく会った都庁の人は『都の備えは万全です』と語った。ほんとうだろうか。都市は1日のうちでも1時間ごとに姿を変える。24時間にわたるシミュレーションが必要だろう。神戸市民に聞き取りすることも欠かせないことのような気がする。公的機関の報告書から洩れている大事なことがいっぱいあるからだ。それでも必ず『予想外』があるのが災害だ」
 そして事実、このたび「想定外」が起こった。

   *

 あるいは、「震災後150日」と題し、同年6月24日付けで次のように書く。
 「会う人の多くは疲労をにじませている。震災以来働きつづけてきた人たちである。警察や消防や教員、一般行政の人もある。被災企業の人たちの再建の努力。渋滞の中で何度も夜を明かした運輸の人。求めに応じて無理を重ねた物資供給に携わる人。報道の人もそうだ」
 「たしかに略奪、放火、暴行、強盗が横行しなかったために精神的後遺症がこれまでの海外の報告より軽く済む希望がある。天災だけならば純粋な恐怖と悲嘆とであるが、人災が重なると怒り、憤り、怨み、萎縮、人間一般への不信、絶望が加わる。人災のほうが長く深く尾を引くのだ。余震への恐怖とか悪夢とか、5時46分より少し前に目覚めるとかはたしかにあるが、私の診療から見るかぎりは徐々に収まってきている。むしろ、1ヵ月間は睡眠が短くて、1ヵ月後からはいくら眠っても眠り足りないという人が目立つ。これは身体の中の自然がそうさせているのだろう。従うのがよいというほかない」

 そして、後日付記する。
 「震災の翌年、ロサンゼルスに視察と研修に何人かで行った。アメリカでは天災の後、必ず暴動が起こることを計算に入れている。2日間は暴徒のなすがままに任せて、3日目、彼らが疲れてくるのを待って制圧にかかるのだそうである。2001年9月11日事件でも、瓦解した世界貿易センターの周囲では略奪があったとはアメリカ人の直話である」
 だが、歴史を振り返れば日本でも似たようなことがあったのだ。
 「もっとも、江戸時代から第二次世界大戦までの日本では、震災は『富める者が貧しくなり、貧しい者が富む』絶好のチャンスだった。小判を降らす『鯰大明神』が崇拝された。いち早く木材を買い占める投機もあったが、主に略奪である。関東大震災では、略奪者に備えて組織された自警団が残虐事件の一方の主役となった」

   *

 中井久夫は、2011年3月15日付け朝日新聞で新聞社からの問いに回答している。上記エッセイに書かれていることと重なる事項もある。
 たとえば、「『誰かがいてくれる』というだけでも意味がある」「阪神大震災の時は、各自治体の救援の車が見えただけでも心の支えになった」。
 あるいは、「40~50日でやるべきことはやっておかないと、その後は頭が動かなくなる。第一次世界大戦の時、兵士が戦場に40~50日いると、限界がきて武器を投げ出したくなったという話がある。私も40日過ぎに、丸1日眠り続けた」。
 エッセイに書かれていないこともある。
 「温かいご飯と、ゆっくり休める場所。災害直後はPTSD(心的外傷後ストレス障害)の予防にそれが一番重要になる」
 「食事も大切だった。乾パンと水で持つのは2日、カップ麺で持つのは5日。1週間過ぎたらうまい食事をとらないと、精神的にも苦しくなる」

【参考】中井久夫『清陰星雨』(みすず書房、2002)
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【震災】福島原発震災に対して行政がとるべき対応~チェルノブイリの教訓~

2011年03月14日 | 震災・原発事故
(1)チェルノブイリ原発事故に次ぐ大事故
 3月13日現在進行中の福島原発震災を考えるにあたり、参考にするべきは25年前のチェルノブイリ原発事故(1986年)だ。スリーマイル島原発事故(1979年)に類似しているという説もあるが、建屋が吹き飛ぶ爆発を起こしたのはチェルノブイリだけだ。
 もちろん、原発の構造も規模も事故の性質も違う。事故を起こしたチェルノブイリ原発4号機の場合、原子炉の外は建屋で、福島のように格納容器はなかった。だから、原子炉の暴走、爆発によって建屋が崩壊すると、一挙に膨大な放射性物質が上空高くまで飛散した。
 福島第一の1号機建屋内の水素爆発で崩壊したのも建屋構造物だが、チェルノブイリとは異なって、崩壊したのは建屋だけだ。格納容器は損傷していない。核分裂反応の暴走による大爆発ではない(留意点)。
 したがってチェルノブイリ級の重大事故のレベルではない。
 しかし、世界史的に見てチェルノブイリ原発事故に次ぐ大事故であることはたしかだ。
 しかも、危機は去っていない。ほかの5基の原子炉も冷却装置が作動しなくなっている。13日20時現在、冷却剤の注入はこれからだ。核物質の崩壊熱はどんどん上昇している。1号機の冷却剤は海水である。これは未経験の事態だ。その後3号機も海水を注入した。

(2)チェルノブイリ原発事故後の当局の対応、飛散した放射性物質とその影響
 1986年4月26日のチェルノブイリ事故では、ソ連(当時)政府は、半径30キロ圏内の13万5千人を避難させ、立ち入り禁止とした(25年後の今も同じ)。
 福島原発震災で「最大事故を想定」するならば、30キロ圏内からの脱出を準備すべきだ。
 チェルノブイリ事故で飛散した放射性物質は、ヨウ素131とセシウム137だ。
 放射性ヨウ素は半減期が8日と短く、影響は数キロ圏だ。ヨウ素は甲状腺に蓄積され、約10年後に甲状腺機能障害や甲状腺ガンを引き起こす可能性が高い。今もウクライナでは患者が多い。
 セシウムはヨウ素よりやっかいだ。生物の体内に入りこみやすく、長期間(半減期は30年)にわたって放射線を出す。放射線は細胞どころか遺伝子を傷つけ、ガンを誘発する。体内被曝である。
 そのセシウムが食物連鎖をたどって動物に現れたのがチェルノブイリ事故から2か月後だった。6月に英国で羊からセシウムが検出され、イタリアでは汚染したウサギ数万匹を処分した。
 8月には、トナカイから検出された。木の実や植物に付着したセシウムを動物が摂取し、これを食肉にしようとしたときに検出されたのだ。
 9月には、フィリピンでオランダ製の粉ミルクからセシウムが検出された。5か月で加工食品に出てきたのだ。
 9か月後の1987年1月、日本の厚生省(当時)は、トルコ産ヘーゼルナッツから520-980ベクレルのセシウムを検出した、と発表した。当時の安全基準は370ベクレルだった【注】。つづいて、スパゲッティ、マカロニ、菓子、チーズなどからも検出された。輸入加工食品が出回り始め、東アジアへ到達したのだ。
 チェルノブイリ事故の後、約2年間、このように輸入食品からセシウムが検出され続けた。

(3)福島原発震災に行政がとるべき対応
 まだ収束したわけでない。今のところチェルノブイリ級の下に位置づけられている事故だ。
 だが、国内だから、食物からのセシウムの検出が政府の重要な職務になるだろう。
 パニックにならなくてもよい。まず原発に近い住民は、野菜、キノコ、果物をよく洗ってから食べること。放射能の除染作業とは、水で洗い流すことなのだ。
 政府は今後、放射性物質の検査を各地で頻繁に行ない、すぐに公表することだ。すでに大量のセシウムやヨウ素が飛散したという前提で行なう必要があるが、飛散による被曝の危険性は30キロ離れれば問題ない。しかし、食物に入りこむと、はるかに広域へ拡散する。風評被害が起きる可能性がある。これを避けるためにも、検査の充実と迅速な公表が求められる。
 全国の自治体が協力しあえば、より正確な情報を得られ、国民全体にも国際的にも利益になる。
 これがチェルノブイリの教訓だ。

 【注】1986年のセシウム食品安全基準は、食物1キログラム当たり370ベクレルだった。日本では現在、飲料水・牛乳・乳製品が200ベクレル、野菜類・穀類・肉類・卵などが500ベクレルを指標としている。なお、ベクレルとは放射性物質が放射線を出して別の物質に変化する時間を単位にしたもの。1秒間に1回変化すると1ベクレル。1ピコキュリーは0.037ベクレルだ。

【参考】坪井賢一(ダイヤモンド社論説委員)「福島原発震災――チェルノブイリの教訓を生かせ ~特別レポート【第136回】 2011年3月14日~」(DIAMOND online)
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