語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>結局国民が損する東電救済スキーム

2011年05月21日 | 震災・原発事故
 5月13日、民主党政権の関係閣僚会合決定という形で、東電救済「機構」の設立が決まった。
 東電を含む原発所有電力会社が、新設される「機構」に負担金を支出し、この資金をもとに機構が東電に出資・資金交付し、この資金から東電は被災者らに賠償金を支払う。電力会社の負担金で不足する場合、政府が「融資」する仕組みだ。
 電力会社の負担金は、経済産業省が電気料金算定時の原価に含めることにするため、各社のコスト削減努力で吸収できなければ、電気料金の引き上げとなる。つまり、消費者負担となる。

 問題点の第一。東電に融資する三井住友銀行の原案をもとに政策立案している【注】。
 同行を含む銀行団は、4兆円異常の債権を東電に有する。債権を保全したい銀行のアイデアが政府案のたたき台になったため、当然、銀行はビタ一文も損しない案だ。東電の大株主は、大手生保(第一生命、日本生命)およびメガバンク3行(三井住友など)だ。彼らの懐が痛む減資をするわけがない。東電で儲けてきた彼ら、債権者にして大株主は損をせずに済みそうだ。
 政策形成プロセスを追うと、名門省庁である経産省の政策立案能力の劣化が目立つ。一業者の試案を参考にするとは、誇り高き経産省のキャリア官僚にはあり得なかった。ふつうは、業者が持ちこんでもゴミ箱行きだ。メルトダウンは、福島第一原発だけでなく霞が関でも起きている。

 【注】「【震災】原発>経済産業省の『電力閥』」参照。

 問題点の第二。政策立案省庁と業者との距離感がない。
 有力な天下り先であり、東電と持ちつ持たれつで原子力政策を展開してきた経産省だから、東電に厳しくできない。テレビでおなじみの西山英彦審議官は、資源エネルギー庁電力・ガス事業部長だった09年に娘が東電に入社した。監督官庁と業者との癒着が疑われても仕方ない。

 問題点の第三。賠償金は、電力各社の負担金が基本原資だ。財政支援は腰が引けている。
 財務省は、交付国債という「引き出し枠」を示すだけだ。国庫からキャッシュが機構に積まれるわけではない。電力会社の負担金だけでは足りずに交付国債の一部を換金して賠償に充てても、電力会社が長期の負担金の形で国庫に返済しなければならない。国のカネ(税金)は、あえるのではなくて、返済が義務づけられた融資なのだ。だから、財務省の懐は痛まない。

 かくして新設される機構は、政策立案過程に関与できたメガバンクや経産・財務両省の利害が優先された「東電関係者救済機構」だ。
 結局、政策立案に関与できない国民に、電気料金という形でツケ回しするのだ。

 以上、記事「東電救済スキームのデタラメ 結局は国民が損をする」(「AERA」2011年5月23日号)に拠る。
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【震災】原発>「発送電分離」の意義、ただし菅政権の発言はリップサービス

2011年05月20日 | 震災・原発事故
 最近、急に、官邸の政治家から東京電力の発送電分離についての発言が聞かれるようになり、菅首相も会見でそれに言及した。しかし、正しいコンテクストを政治家が理解しているか、疑問だ。

(1)発送電分離の政策的意義
 (a)損害賠償の原資作り。発送電分離につながる資産売却を通じて捻出できる。
 (b)電力供給の安定化。一つの電力会社がいつでも安定的に供給する、という体制は、大規模な事故が起きた場合に脆弱であることが今回明らかになった。従って、供給の多様化や需要側の自助努力(自家発電など)が必要になる。そうした方向を促すには発送電分離が不可欠だ。
 (c)原子力依存の低下。原発は初期投資のコストが数千億円と膨大なため、コストは長期的にしか回収できない。つまり、電力の独占供給体制の下でこそ有効なエネルギー源だ。発送電分離で電力産業の競争を促進することは、安全性をなおざりにしたまま国策で原子力を強引に推進してきた体制を見直すためにも重要だ。

(2)損害賠償スキームとの矛盾
 発送電分離の意義は大きいが、5月13日に決められた原発事故の損害賠償スキームと矛盾が生じる。
 (a)損害賠償スキームが発送電一体と地域独占を前提にしている可能性が高い。東京電力が損害賠償の責任を無限に負い、機構に対して毎年2千億円程度返済し続けるためには、東京電力が収益性の高い企業であり続ける必要がある。独占の維持が不可欠だ。
 それを逃れるには、賠償金額の多くを、①東京電力のリストラ&資産売却、②政府のムダ金の拠出で一気に捻出するしかない。
 (b)政府は今後も原子力を推進しようとしている。発送電分離を実施した場合、原子力発電事業は初期投資コストや安全面などでリスクが大きいので、民間の事業体で担うのは困難だ。原子力発電所を東京電力から分離して国営にしない限り、発送電分離とは両立し得ない。

(3)それではどうすべきか
 被災者への十二分な補償、発送電分離、電力の安定供給の維持を両立するように損害賠償スキームを修正すべきではないか。その場合のポイントは、次のとおり。
 (a)損害賠償スキームでは「東京電力を債務超過にしない」とあるが、政治的にそれをごり押しするのは不可能であり、ビジネスの現実では債務超過になる可能性も大きいので、損害賠償のためのスキームを法律にする段階では、預金保険法のように一時国有化も政策の選択肢に加える(りそな方式と足利方式のメニューを揃える)。
 (b)東京電力の損害賠償責任を有限にして、それを超える分は国が全面的に責任を負う(ちなみに、東電に会社更生法を適用したら被災者への損害賠償額もカットされるが、この場合も、カットされた分を国が全面的に負担することで対応できる)。
 (c)東京電力に発電所を売却させ、できる限り多くの賠償原資を捻出させる。原子力発電所も別会社化(必要あればいったん国営化)し、徐々に原子力発電の割合を減らして行く。
 (d)政府の原子力予算のムダを徹底的に洗い出し、それを賠償の原資に充てる。

 以上、岸博幸「菅政権の『発送電分離』発言は東電批判に迎合したリップサービスにしか聞こえない ~岸博幸のクリエイティブ国富論【第140回】 2011年5月20日」(DIAMOND online)に拠る。
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【震災】原発>海洋汚染の隠蔽・追記

2011年05月20日 | 震災・原発事故
 日本最大の水揚げを誇る銚子港は、第一漁港を除き、これまでどおり出漁している。
 「『どこで獲っているかって? そりゃ教えられんよ。だいたい海に県境なんてあるか、え? 漁船同士でもお互いの漁場は教えないもんなんだよ。企業秘密ってやつだな』」

 国際環境団体グリーンピースは、原発の南30~70kmにある漁港や海岸などの海草類から極めて高い数値が検出された、と発表した。
 そのグリーンピースが4月19日に申請した領海内の海洋調査を、日本政府は拒否し続けている。「調査申請対象は、岩手、宮城、茨城及び千葉の一部である銚子港から12海里以内の漁場。すでに1ヵ月たつが、政府の姿勢は頑なだ」
 政府の調査は、高濃度の被曝が予想される固定性の海棲生物、ワカメ、昆布、アサリ、ホテテ、ウニなどを省く“おざなりぶり”だ。しかも、頭・内臓・骨を除外した「世界でも類を見ない特殊な方法」で測定している。

 政府は、セシウムとヨウ素の調査を行っているが、他の核種については調査していない。生物学的に非常に危険度の高いストロンチウムが福島原発の沖合4ヶ所かの海水から検出されているのに。
 ストロンチウムは、セシウムより水に溶けやすいため広範囲に移動し、カルシウムに似た成分であるため骨などに溜まりやすい。そして、骨のガンや白血病を引き起こすのだ。
 かつて核実験でばら撒かれた多種類の放射性物質のうち、ヒトに対して最も有害だったのがストロンチウムだ。
 にもかかわらず、自治体はストロンチウムを測定していない。文科省の判断待ちだ、という。

 文科省は、どういう対策を立てているのか。
 ストロンチウム90は、測定する前に、まず他のものから分離しなければならない。その処理工程に2週間を要する。その上で特殊な機器でベータ線を測定するから手間がかかる・・・・と文科省原子力災害対策本部はいう。
 手間がかかるから調べなくていいのか?
 「国は生命を守るために、まずは正確な情報を伝えることに腐心すべきではないか」

 以上、上杉隆「菅政権が妨害した海洋調査 恐るべき『放射能汚染データ』」(「週刊文春」2011年5月26日号)に拠る。
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【震災】原発>海洋汚染の隠蔽

2011年05月19日 | 震災・原発事故
 外務省は、4月27日付けの文書を駐日オランダ大使館へ送った。いわく、「『Rainbow Warrior号』による我が国の領海【注1】における海洋の科学的調査は認められない」「我が国の排他的経済水域【注2】における水産動植物の採捕については、農林水産大臣の承認を得ること」。
 オランダ政府が公式に申し入れた海洋汚染調査を拒否したのだ【注3】。
 調査船「Rainbow Warrior号」の所有者は、国際環境NGOのグリーンピースだ。本部はアムステルダムにある。
 同NGOに、農林水産大臣による承認証は交付された。しかし、条件が付いていた。「水産動植物の放射能濃度の測定にあたっては、ゲルマニウム半導体検出器による検査を行うこと」
 ゲルマニウム半導体検出器は、付属設備を併せて数千万円もする。所有する民間機関はほとんどない。事実上の調査妨害だ。
 日本政府は、他国に調査されたくないのだ。
 そして、政府が行う検査は、独立行政法人水産総合研究センターに委託している。つまり、独立した第三者機関ではない。
 同センターの検査は、「利用形態(食べ方)に応じた前処理・測定を」行っている。つまり、魚体を洗い、頭と内臓と骨を取って測定する。生態系は調査しない。

 福島第一原発第2号機から漏出した高濃度汚染水は少なくとも520トンだ。放射性物質は4,700兆ベクレル。さらに東電が意図的に放出した汚染水は、すでに1万トンを超えている。もはや漏出はない、とは政府も東電も言わない。事実、5月11日、福島原発3号機から高濃度汚染水が流出していたことが発覚し、海水から基準値の18,000倍のセシウム134が検出された。
 斑目春樹・原子力安全委員長はいう。「放射性物質は海で希釈、拡散される。人が魚を食べてもまず心配はない」
 「汚染排水は海で希釈される」と主張したのは、事実上の国策企業だった新日本窒素肥料(現・チッソ)だ。そして、有機水銀を含む工場排水を水俣湾に放出し続けた。その結果、四肢麻痺、視野狭窄、言語障害などの激しい症状の出る正式認定患者2,200人、潜在患者5万~6万人の被害者を生んだ。
 歴史はくり返す。

 ところで、オランダ政府からの調査申し入れにあたって、政府は次のような動きを見せている(官邸の内部文書4月22~25日付け「緊急参集チーム【注4】協議」に拠る)。

----------------(引用開始)----------------
4月22日 河相官房副長官補
 グリーンピースが正式にオランダ政府を通して海洋調査を申請してきた。断れば、日本は閉鎖的という批判を受けることになり、受け入れても新たな風評被害が出るかもしれない。また、適正とは思えない数値がグリーンピースから出てきた時に政府として反論できる体制をとることが必要。

4月25日 危機管理監
 グリーンピースが泥の調査を実施すれば反論できないため、グリーンピースの調査までに対応・対抗できるように関係省庁で調整してもらいたい。
----------------(引用終了)----------------

 これは奇妙な対応だ。事実を検証しないまま「反論」するつもりらしい。つまり、どんな数値が出ようとも安全である、という前提で動いている。
 グリーンピースの測定結果が安全な数値であれば、「風評被害」は発生しない。安全でない数値が出れば、政府は検証し、グリーンピースの測定結果と同様の数値が出た場合には対策を立てる・・・・のではないらしい。

 グリーンピースは、自分たちの船を使わないで、漁師から提供された海産物の調査を行った。その速報【注5】は恐るべき数値だ。
 福島第一原発から50km沖合のアカモク(ホンダワラ科の海藻)・・・・13,000ベクレル/kg以上の放射性物質を検出。
 同原発の30km南、久之港のホソメコンブ・・・・19,000ベクレル/kg以上の放射性物質を検出。
 同原発の40km南、四倉港のカヤモノリ14,000ベクレル/kg以上の放射性物質を検出。
 
 【注1】海岸線から12海里(約22km)。
 【注2】海岸線から200海里(約370km)。
 【注3】佐藤潤一GPジャパン事務局長によれば、 「過去にグリーンピースの海洋調査を断ったのは、私の把握している限り、インドネシア一ヵ国だけです。ただ、その際、インドネシアのメディアがグリーンピースの調査を断った政府に対して批判的な報道を開始し、調査をさせろという世論が沸き起こり、一ヵ月後にはインドネシア政府も撤回して、最終的には調査ができました。だから、完全に拒否となると世界で日本が初めてということになるかもしれません」(「週刊上杉隆 2011年5月19日」、DIAMOND online)。
 【注4】有事に首相官邸に設置される危機対応チーム。各省庁の局長クラスが参集する。
 【注5】手持ちの機器で測った暫定値。正式な発表は、ドイツの研究所で検査の上発表される。以下のベクレル数は、放射線物質の総量で、細かい核種は不明。ちなみに、もっとも危険性の低い放射性ヨウ素の基準値は、2,000ベクレル/kg。

 以上、記事「福島の海を『第2の水俣』にするのか」(「週刊現代」2011年5月21日号)、記事「水産庁は『魚は安全』捏造していた」(「週刊現代」2011年5月28日号)に拠る。
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【震災】原発>なぜヒトは放射線を浴びるとガンになるのか?

2011年05月18日 | 震災・原発事故
(1)DNA修復機構
 人類の祖先が生まれたのは、今から40億年前のことだ。DNAの大敵は、空から降り注ぐ紫外線と放射線だった。だから、初期の生物もDNAが紫外線や放射線に壊されたときに修復する機能を発達させている。それがDNA修復酵素だ。
 生物の進化につれて、DNA修復機構は次第に複雑になった。この機構は、私たちの体を作っている細胞のなかにもある。
 細菌が生まれて10億年たったとき、太陽のエネルギーを利用して光合成をする細菌が進化した。シアノバクテリアは、地球上で初めて太陽エネルギーを利用した生物で、葉緑体と呼ばれる器管を持つ。太陽光のエネルギーを使って、炭酸ガスと水からブドウ糖を作ることができる。
 ブドウ糖は、いろいろな栄養物を作ることができるから、シアノバクテリアは外部から栄養を摂らなくても自立して生きていける。さらに、ブドウ糖を作る過程で、空中に酸素を放出し、エネルギーを細胞のなかに蓄える。
 シアノバクテリアは、海中のいろいろな細胞の中に入りこんだ。ほかの細胞がシアノバクテリアを取りこんだのかもしれない。
 かくて、海のなかには葉緑体をもつ細胞と、もたない細胞ができた。前者が植物、後者が動物だ。

 光合成でできた酸素が増えると、酸素が3つくっついた分子、オゾンができる。オゾンは紫外線を遮るし、宇宙からの放射線も次第に弱くなっていたので、細胞は海の浅いところでも生きられるようになった。
 紫外線を避けて海に住んでいた植物の中から、陸へ上がるものが出てきた。放射能も生物の生存に差しつかえないレベルまで低くなった。
 最初の植物が陸に上がったのは、今から4億年前のことだ。植物は根を土の中に埋め、枝や葉を地上に出した。
 初期の植物は水際に根を埋めて、用心深く、そろそろと土に上がってきた。生物の生存は、誕生の時から紫外線や放射線との闘いだった。植物が陸に上がると、昆虫も陸に上がった。
 最初の哺乳類は、2億2,500万年前にあらわれたアデロバシレウスだ。そして、カモノハシ、トガリネズミ、カンガルー、ネズミ、ブタ、ウサギなどを経てサルに至る。類人猿と原人が分かれたのが今から700万年前、私たち現人が進化してきたのが20万年前だ。

 人類は、アフリカのイブと呼ばれる一人の女性から生まれた。その子どもたちは、どんどん増えて紀元前8000年には100万人になった。彼らは、アフリカを出て世界各地に移住した。人口はさらに増えた。紀元前2500年には1億人、西暦0年には2億人、西暦1000年には3億人、1650年には5億人、1800年には10億人という速さで増えていった。18世紀、欧州で農業革命が起き、農作物の生産も人口も増えた。さらに産業革命と軌を一にして、急速な人口増加が起きた(人口爆発)。2010年には、69億人に達した。

(2)被曝によるガン
 放射線は、物質を通り抜ける強い力を持つ。放射線を出す作用を放射能と呼ぶ。放射能を出す原子は、放射能を出して壊れ、別の原子になる。そして、ついには放射能を出さなくなる。
 私たちの体は60兆個の細胞からできている。細胞は分子からでき、分子は原子からできている。原子の中心には陽子と中性子からなる原子核があり、そのまわりを電子が回っている。陽子はプラスの電気を持ち、電子はマイナスの電気を持つ。
 放射線が一つの原子にあたると、その原子からは電子が大きなエネルギーを持って飛び出す。飛び出した電子は、行く先々で無数の分子にぶつかって、自分の持っているエネルギーを少しずつ分け与えていく。エネルギーを受け取った分子は興奮状態になったり、電子が飛び出したりする。
 電子を失った原子を電離原子と呼ぶ。放射線の影響のほとんどが、体のなかに生じた電離分子による複雑な化学反応の結果引き起こされる。
 生物の放射線による障害は、電離作用による。生物がどれくらいの放射線にあたったか、ということを放射線の引き起こす電離作用の大きさで表すことがある。その際に用いられる単位はラッド(Rad)だ。
 放射線には、物質を突き抜ける力の強さのちがう3種類のものがある。アルファー線は、薄い紙1枚も突き抜けることはできない。ベータ線は、厚さ数ミリのアルミの板で遮られる。ガンマ線は、数センチの鉛の板でないと遮ることができない。
 陽子やアルファー粒子は、狭い領域に密集してイオンを作るので、同じラッド数の電子やガンマ線に比べて、生物への影響は非常に大きい。そこで、すべての放射線の線量を生物が受ける影響という観点から共通の尺度で表すためにシーベルト(Sv)という単位を使う。シーベルトはいろいろな放射線の生物学的効果をガンマ線の効果に換算して表したものだ。

 ヒトが短時間に全身に浴びたときの致死量は、6シーベルトとされる。短時間に1シーベルト以上の放射能を浴びると、吐き気、だるさ、血液の異常、消化器障害などが現れる(急性障害)。しかし、0.25シーベルト以下になると、目に見える変化は何も現れず、血液を調べても急性の変化は見つからない。
 ところが、細胞を顕微鏡で調べると、DNAからできている染色体が切れたり、離れなくなったりしているものが見られることがある。このような異常は、細胞が分裂して増えていくときにも確実に複写されていく。
 この異常によって、細胞が分裂を停止する命令を受け入れずに増え続けるとガンになる。
 また、顕微鏡で見てもわからないような分子レベルの異常が起こっていて、細胞が分裂停止命令を無視するようになったときにもガンになる。
 細胞のガン化は、外部に見られる障害を与えるよりずっと低い線量で起こる。しかも、今の医学ではガンが見えるようにならないと検出できない。発見されるまでに放射線を浴びてから5年、10年という長い年月がかかる。
 細胞を異常にする放射線量に閾値があるのか、ないのか、研究者の間で議論されているが、いまだにハッキリとした答は出ていない。

 体の中には免疫機構があって、ガン細胞を異物として排除する。その排除に失敗したときにガン細胞は増え出す。また、放射線の障害を取り除く酵素や修復機構があって、ガン細胞を正常な細胞に修復することもある。
 生命は、誕生したときから放射線や紫外線の被害と闘ってきたので、修復機構は発達している。
 分裂しない細胞では、DNAは何重にも折りたたまれて、染色体という形に凝縮されている。細胞が分裂するときには、染色体の凝縮はほどけて細い糸のように伸びる。このようなときには、放射線の被害を受けやすい。
 成人したヒトでは、一部の細胞しか分裂していない。分裂している細胞がガン化しやすい。
 ところが、胎児や子どもでは分裂している細胞がたくさあるので、彼らは放射線の被害を受けやすい。
 大人が放射線を浴びた場合には、出てくる異常はたいていガンだ。胎児や子ども、特に胎児が放射線を浴びた場合には、細胞に突然変異が起こって、体のいろいろな異常として現れる。

 以上、柳澤桂子「原子力発電から離れよう」(「世界」2011年6月号)に拠る。
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【震災】原発>工程表を阻む3つの壁+要員確保に係る東電内部文書

2011年05月17日 | 震災・原発事故
 4月17日、東電は、「事故の収束に向けた道筋」、通称「工程表」をまとめた。
 工程表の目標は、原子炉を安全な状態に持ちこみ、避難者の帰宅を目指すことにある。原子炉内で水を冷やし続け、炉内温度を100度以下にする。放射性物質が飛散しないようにし、汚染水も処理する。これらを終えるには6~9ヵ月かかる・・・・というものだ。
 だが、専門家は9ヵ月では収まらない、という。

(1)冷却の壁
 原子炉内についてわかっているのは、炉心がまだ熱を出し続け、水が沸騰していることだ。炉心を包む管は壊れ、放射性物質や水素を出した。これが水素爆発を招き、汚染を拡大した。
 最初に東電が取りかかったのは、1号機の格納容器内を水で満たす作業だ(水棺)。格納容器は圧力容器の外側にある。周りを冷やすだけでは効果が薄い。しかも、余震によって水の重みで格納容器が倒れる懸念も強い。水を入れた分、圧力の操作も困難になる。
 水を循環させて冷やす装置を設置すれば、数日で安定する。こちらに全力を傾けるほうが最も近道だ。
 「原子炉の内部がどのような状況かわからないのが問題だ。(中略)塩水を入れたため、時間をかければ腐食が進み状況は悪化する。このままでは早くても1年、下手したら5年かかるかもしれない」(石川迪夫・日本原子力技術協会最高顧問)

(2)汚染水の壁
 水を原子炉内に入れれば入れるほど、放射性物質を含む高濃度の汚染水が出る。この処理の目処が立っていない。炉心を冷やす水が入れられなくなる。
 3号機では、海に抜ける作業用のトンネルに汚染水がたまり、水位は3mを超え、上限まで1mを切っている(4月末現在)。一方で温度が上がり、注水量を増やさなければならない状態だ。
 仮設タンクや水処理施設を設置予定だが、問題のなかった6号機のタービン建屋の地下でも汚染水の水位が上がった。さらに、4号機でも汚染水の水位が上がった。
 対策に振り回されているが、再び海に放出するわけにはいかない。国際社会が許さない。

(3)被曝の壁
 作業員の被曝限度となる放射線量は、年間250ミリシーベルトだ。
 高い放射線が工事を阻む。原発の敷地内には、時間当たり900ミリシートベルトの放射線を出す瓦礫もある。原子炉のある建屋も、1号機では毎時1,120ミリシートベルト、3号機では毎時57ミリシートベルトという高い値が検出されている。
 今、1号機に新たに熱交換器を設置しようとしている。成功すれば冷却は大きく進む。が、工事にあたる作業員の高い被曝が予想される。
 現場には、1日平均延べ1,000~1,200ンの作業員が働く。累積で100ミリシートベルトを超えた人はすでに30人に達した。
 「(前略)そうとうの被曝環境の中でやらなければならず、人の確保が問題になる【注】。工程表の実現は1年以上かかるだろう」(小出裕章・京都大学原子炉実験所助教)

 以上、記事「原発事故の長期化を招いた『想定外』という名のウソ」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月21日号)に拠る。

 【注】記事「スクープ 東電内部文書入手!『フクシマは止められない』」(「週刊現代」2011年5月28日号)によれば、どのくらいの期間で要員が底をつくか、東電は試算している。東京電力の幹部が作成した社内討議用文書「【重要】福島第一原子力発電所安定化に向けた被ばく管理について」は、次のように述べる。

(1)東電内部
 (a)現在、保全・土建関係要員を中心とする300人規模の「復旧班」が現場で作業に従事している。
 (b)これらは、近々、累積被曝量がかなり高い危険な状態に至る。
 (c)交替要員は、数に限りがある。特に保全担当要員は、東電社内に950人しかいない。その3分の2にあたる600人を福島第一原発に送りこんでも、12年1月にはその全員が累積被曝量100ミリシートベルトを超える。
 (d)仮に、他の原発を度外視して、社内のすべての保全担当要員を福島第一原発に総動員しても、やはり12年11月に、全員が累積被曝量100ミリシートベルトを超える。
 (e)かといって、新たに保全担当要員を養成するのは簡単ではない。熟練するまで10年の育成期間が必要なのだ。そして、「現場作業に精通した熟練社員は平均値以上の被ばく線量となる見込み」なのだ。
 (f)600人、950人いずれの体制でも被曝線量に係る緊急時の扱い(250ミリシートベルト)は遵守できるが、柏崎刈羽原発などを維持するための要員は通常時の扱い(100ミリシートベルト/5年)に抵触するため、その後放射線管理下の業務に従事できなくなる。福島第一原発を除く他の原発の「安全運転」ができなくなる。

(2)協力企業
 (a)年度内は各社が設定した緊急時の被曝管理値内で収まる見こみ。
 (b)福島第一原発安定化に要する要員は、今年度内14,400人程度(1日平均1,200人)と想定。
 (c)被曝線量を平均50ミリシートベルトに収めるためには、さらに19,500人程度の補充要員を加えたローテーションが必要。
 (d)東電と同様に、他の現場では通常時の扱いが適用される。作業ができなくなる。雇用継続に不安を持つ社員が多い。代替要員の少ない作業指導者(現場代理人)の被曝をいかに抑えるか、苦労している・・・・との意見が多数。

 東電は、対策を立てることは立てている。工事の遠隔化、自動化、被曝量を細かく管理して2~8交替制をとり、長時間高い放射線を浴びることを避ける。・・・・しかし、現場にいる時間が長くなれば、被曝量は必然的に蓄積される。
 東電はまた、外国人労働者やOBの徴用なども検討している。
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【震災】国の役割・自治体の役割(3) ~復興計画の具体的なあり方~

2011年05月16日 | 震災・原発事故
(6)復興計画の具体的なあり方
 復興計画を策定し、復興事業に着手するために解決しなければならない実務的な課題、懸案がある。過去の震災では必要が生じなかった課題、懸案だ。
 (a)タイムスケジュール
 復旧・復興までの期間は、10年だとあまりにも長い。せめて5年を目標に掲げるべきだ。生活設計も、5年先ならある程度読める。10年先となると、まったく読めない。
 住まいの復興は3年、基本的な復興完成は5年、といった目標を打ち出し、そのタイムスケジュールに向かって国は最大限努力する。その間の明快な手順、進み方を地元自治体と地元住民にわかりやすく示してほしい。誰でもわかりやすい時間軸の目標を早めに打ち出す。それこそ、国の役割だ。さもないと、故郷の都市、集落に戻る目処が立たない場合、壮年層は収入と職を求めて他県に定住してしまう。
 1年目・・・・民有地と漁船も含めた瓦礫の処理、現在地で再建可能な市街地の整地工事、移転する場合は移転候補地選定と用地買収を進める。
 2年目・・・・住まいの建設を急ピッチで進める。来年からは本設の住宅が続々できて家に住めるようになる、とアナウンスする。
 3年目・・・・基本的なインフラが回復され、水産業も再開され、都市復興を実現させる。

 (b)死者・行方不明者の土地・財産
 まだ多数の行方不明者がいる。地震で敷地も微妙にずれている。敷地の境界画定をしようにも、隣が行方不明で死亡も確定していない場合は土地境界の画定ができない。
 行方不明者の土地は、“保留地”として地元自治体管理にするなど特別な措置が必要になる。短期の調停システムなど、緊急時における被災地限定の簡便な土地境界の画定ルールだ。
 相続財産の処理もある。被災地には巨額の国費が投じられ、公共投資が入る予定だ。現地に住むつもりのない相続人には、相続を遠慮してもらうような措置が必要になる。
 境界画定と亡くなった人の土地を集約する措置が必要になる。生活道路の舗装工事などは行政の費用負担で実施する。土地の権利移動、敷地の移動のために、減歩は一切なし、という大前提で簡便な区画整理を実施することが必要だ。これは法改正せずとも実施可能だ。
 自力再建を容認する地域を早めに線引きして公表する必要がある。また、市街地の高台移転を実施する場合には早期に適地を選定し、これも公表する必要がある。
 今回の大規模津波災害で初めて直面する難題は、県と市町村が早めに調整し、方向性や指針を出す必要がある。

 (c)水没地の扱い
 仙台平野の水没地全体の嵩上げは、農業水利・排水を含めて大工事となり、容易ではない。
 実現可能な方策は、津波による浸水を機会に離農する権利者の土地を土地改良事業により海沿いに換地・集約化し、地元自治体で買収し、これを種地として海浜沿いの区域を堤防状に嵩上げし、防潮堤と防潮林を兼ねた海浜公園を整備することだ。
 その実現には、農林水産省の農地行政と国土交通省の海岸行政・都市行政の全面的な協力が必要になる。

 (d)地元自治体の機能の回復
 マンパワーが圧倒的に不足している。
 国、都市再生機構、地方自治体の現役職員や退職直後のOBを含めて大量に支援投入するしかない。こうした人材を、例えば国関係の職員は国土交通省東北地方整備局に重点的に配置し、さらに拠点都市に東北地方整備局出張所を設けて駐在員とし、現地と本省の連絡拠点とする。地元の行政や関係者からの国に対する陳情や相談、補助金申請の窓口とするのだ。
 地元の市役所・町役場に投入する人材は、現場の実務を知っている市のベテラン・中堅職員が適している。
 被災地の自治体に長期間、組織的に人員を派遣する体力と能力を持つ自治体は、人口50万人以上の政令指定都市、中核市に限られる。全国各地の主要都市が被災地の拠点都市の支援に向かうことが望ましい(4月20日に名古屋市は陸前高田市に1年以上職員を派遣すると決定した)。その縁組み斡旋は県の役割だ。人員派遣の費用負担は、全額国費とする特別地方交付税で負担する、と国が表明すれば、縁組みは次々に実現するはずだ。

 復興のために、国がなすべきことは、法制度と財政面で復旧・復興を全面支援することだ。国の税金で支援できる範囲と年限を早急に明示し、強い意思表示を行うことが、地方分権下で必要とされる国の復興政策、国のリーダーシップである。
 6月末の復興構想会議の提言を受けて政府が指示し、それから中央官庁が動くのでは、あまりに遅すぎる。

   *

 以上、越澤明(北海道大学教授)「復興は時間との勝負である ~『復旧』さえ進んでいないのは遅すぎる~」(「中央公論」2011年6月号)に拠る。
 ここでは、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、福岡県西方沖地震では必要が生じなかった課題、懸案を踏まえて、具体的な復興計画を提起している。ただし、論じた分野は限定されている。(4)で指摘のあった「深刻な高齢化を踏まえた計画」は展開されていない。
 なお、「東日本大震災復興特別措置法」の要綱案では、「例えば、宅地や農地など土地の種類ごとに分かれている規制を一元化。各省庁縦割りの手続きをひとくくりにして被災自治体が復興計画を進めやすくする。津波被害を受けた地域が農地だった内陸部に宅地を造成することや、農地や宅地だった場所を利用して大型の漁港施設を整備することを迅速に進める狙いだ」(2011年5月13日15時1分 asahi.com)。
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【震災】国の役割・自治体の役割(2) ~問題点の整理~

2011年05月15日 | 震災・原発事故
(3)現実的なまちづくり
 明治の三陸津波では、政府には被災地の都市復興や集落再建の共通方針はなく、個別に復旧の土木工事が実施された。
 昭和三陸大津波では、被災町村の復興計画は内務省都市計画課が自ら調査立案し、大蔵省による国庫補助を折衝して、地元の県と町村が復興事業を実施した。土木・建築・都市計画の視点では、復興計画として想定される公共事業の内容は当時も今もほとんど同じだ。
 三陸地方は、良好な漁港が成り立つと同時に、津波の被害を受けやすい地形だ。三陸地方では、漁港・市場・水産加工場は海沿いにしか立地できない。関連する商業やこれらの産業に従事する住民の住宅地も、海沿いの低地に立地しがちだ。住宅地を高台に移転しようとしても、市街地の背後の山林を切り崩して宅地造成するとなると、土砂崩れ対策などが容易ではない。
 よって、現実的な復旧・復興の方策は、大津波から逃げやすいまちづくりだ。次のようにせざるをえない。
 (a)地震で地盤沈下した海に近い土地は、嵩上げ工事で地震前の地盤面に戻す。
 (b)丘陵部の小規模な宅地造成は実現可能性があるため、海に近い住宅地の一部や役所・消防署・病院など重要な建物は高台の造成地に移転する。
 (c)海からやや距離のある市街地では、50年や100年に一度の大津波が起こった場合に浸水する心配はあっても、現在の場所に家屋を再建し、避難路や避難階段を整備する。
 (d)山麓沿いでは、斜面式マンションやビルを建設し、低い市街地と高台の両方にエントランスを設けるような建築があってよい。
 拠点都市(大船渡・気仙沼・石巻など)の早期復興は、地域経済再生と雇用確保の鍵だ。市街地の嵩上げが必要か、何を一番急ぎ、何が可能かは地元の首長・役場・議会がわかっているはずだ。県や中央官庁、復興構想会議が絵姿を描いたり、口出しすることではない。

(4)深刻な高齢化を踏まえた計画が必要
 復興計画策定に当たり、地元の県市が切実に知りたいのは、国の財政支援の中身(国庫補助の期間・施策メニュー・対象)だ。
 漁村集落の復興、高台移転は、地元の合意があれば可能だ。だが、ただ移転すればよい、という単純な問題ではない。漁村集落は、高齢化が深刻な「限界集落」が大半だ。地元で今後も暮らし続けたい、というニーズに応えるには、介護福祉など行政サービスを可能とする配慮も必要だ。
 4月27日の国会で、「介護サービス付き高齢者住宅」の整備を推進する法改正が可決された。これは、高齢者向け賃貸住宅と一部の有料老人ホームを統合するサービスで、賃貸住宅であって、老人ホームではない。高齢者のプライバシーと尊厳を保ちながら、見守りや訪問介護など必要な介護サービスを受給できる。談話室や食堂を設け、コミュニティ醸成にも配慮する。
 このサービスは大都市圏を想定しているが、漁村・農村の暮らしにも適するよう工夫することは可能なはずだ。
 このたび漁村集落を復興するに当たり、現在地に住宅再建する場合でも、戸建て住宅ではなく、集合住宅で再建したほうが、用地確保・住宅費用負担の軽減となり、高齢者の暮らしとコミュニティの維持にも資するはずだ。

(5)理想の復興ではなく迅速な復旧を
 復興計画策定に当たり、次の三点を踏まえずに議論することはできない。
 (a)過去の三陸地方の津波被害復興計画の内容と成果の有無の再検証。
 (b)被災地域の基礎的情報の整備。<例>敷地境界・地籍、建物被災と浸水の度合い、地盤の高低差、生活道路の幅員。
 (c)地元の都市経済や集落社会は過去の津波(地震)と何が異なり、何が新たな課題か。
 優先するのは、住まいの復興だ。しかも、できるだけ早く。意欲ある壮年層が地元で暮らせる目処がたてば、経済活動の再建と活性化が始まるはずだ。
 復興より復旧を優先すべきだ。復興の中身も地元市町村でよく吟味したほうがよい。遠大で派手な復興を地元が望んでいるとは考えにくい。必要最小限の設備が整った家に住み、地元の漁業・水産業と関連産業に早く復帰したい、と考えている人が大半ではないか。
 10年後に「理想的」な町ができあがるまでに壮年層が職を求めて仙台や関東地方に流出してしまえば、基幹産業(漁業・水産業)の担い手がいなくなる。三陸地域の産業と雇用が崩壊してしまう。

   *

 以上、越澤明(北海道大学教授)「復興は時間との勝負である ~『復旧』さえ進んでいないのは遅すぎる~」(「中央公論」2011年6月号)に拠る。
 このくだりは、問題点の指摘だ。これを踏まえて、次に具体的な復興計画のあり方が提起される。
 ちなみに、越澤教授は工学者、都市学者、都市計画家。国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会会長、都市計画・歴史的風土分科会会長の経歴がある。
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【震災】国の役割・自治体の役割(1) ~混乱の整理~

2011年05月15日 | 震災・原発事故
 被災から2ヶ月間を阪神・淡路大震災(95年)と比較すると、仮設住宅の建設は用地難から大幅に立ち遅れている。建築基準法による建築制限の導入など、復興まちづくりに向けた準備作業も進んでいない。阪神・淡路大震災では、震災直後から区画整理、再開発が必要な箇所の洗い出しを地元の県市町が行い、震災から2ヵ月目に地元で都市計画審議会が開かれて都市計画が決定された。
 東日本大震災と阪神・淡路大震災とは単純に比較できないが、新潟県中越地震(04年)による山古志村(現・長岡市)の復興、福岡県西方沖地震(05年)による玄界島の復興など、わが国の政治・行政は大震災の復興に対する経験がかなり蓄積されているはずだ。
 復旧・復興のためには当然ながら国の手厚い支援が必要である。しかし、国が果たすべき役割は何か、現在混乱がある。

(1)過去の事例
 国には、大震災後の復興計画を全面支援した事例が過去3度ある。(a)関東大震災(23年)、(b)全国115都市の戦災復興、(c)阪神・淡路大震災・・・・だ。今回を含めて、それぞれ復興の仕組み、国と地方の役割分担が異なるのは、至極当然だ。
 ちなみに、「復旧」と「復興」を明確に定義して、「復興」の概念を確立したのは、後藤新平だ。「復旧」は、被災前の姿に戻す現状復旧を指す。「復興」は新たな水準のインフラを加えることだ。

 (a)大正期に都市問題が深刻になった。その解決のため後藤らが都市計画法制定に取り組んだ数年後、関東震災が起きた。首都東京と横浜の復興は、当然国の仕事であるとして帝都復興院が設立され、国と東京市が分担して帝都復興事業が実施された。30年に復興が完成した。

 (b)空襲・戦災・占領の責任は国にあるとの考えから、内務官僚主導で迅速に戦災復興院が設立され、戦災地復興計画基本方針が閣議決定された。全国各地の復興計画を国が積極的に支援した。内容は、法制度の整備、手厚い国庫補助(49年に大幅縮小)、人員の派遣であり、具体の事業は多くが県や市に委ねられた。

 (c)貝原俊民兵庫県知事(当時)は、内閣官房長官から復興院構想を打診されたが、直ちに断った。東京でつくった計画を被災者は受け入れない、地元自治体に任せてくれ、と。
 内閣総理大臣の臨時の諮問機関「阪神・淡路復興委員会」が設立され、3つの意見と11の提言をまとめた。委員会の議論とは別に、国会では急ピッチで特別立法が実施され、地元では復興計画策定、まちづくり協議会設立、用地の先行買収などが開始された。委員会は、「官庁と地元の取り組みを追認し、PRするムードメーカーの場であり、新たな政策形成や財源・税制を議論する役割は小さかった」。

(2)市町村の権限強化
 00年に地方分権一括法が制定された。その目玉となったのが都市計画まちづくりの権限委譲だ。大部分の都市計画は市町村の権限となった。市町村がまちづくりの主体となった。国や県の関与が大幅に削減され、機関委任事務から自治事務に変わった。
 建築制限を最長2ヵ年に伸ばすことができる「被災市街地復興推進地域」という都市計画決定も、市町村に権限がある。
 よって、東日本大震災の復興まちづくりは、被災した市町村の要望を尊重することが、大前提となる。
 宮城県、岩手県、福島県では、財政的に弱体な市町村が多い。東京や関西の大都市圏と比べると、県の発言権が強い。しかし、復興の計画と推進に際しては、県は被災市町村の自主性をできるだけ引き出し、水平関係のパートナーとしての姿勢で臨むことが大事だ。
 県は、県道や防潮堤の復旧工事など土木インフラ整備で全面協力する。
 そして国は、法制度と財政面での手厚い支援方策は何か、という議論に徹したほうがよい。

   *

 以上、越澤明(北海道大学教授)「復興は時間との勝負である ~『復旧』さえ進んでいないのは遅すぎる~」(「中央公論」2011年6月号)に拠る。
 このくだりは、いわば総論である。復興のどの部分をどこが担うか、の基本的枠組が整理されている。被害を受けた行政機関への支援については、この論考の最後で案と現在進行中の実例が示される。
 なお、堺屋太一によれば、阪神・淡路大震災のとき緊急非常の権限をもつ機関をつくるべきだと提案したが、各省庁の猛烈な抵抗に遭って委員会という調整機構に縮小された(「堺屋太一の、東北振興とニッポン再生の秘策 ~「東北復興院」~」【注5】)。抵抗は、地元の自治体からも遭ったのだ。
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【震災】寄付金は果たして有効に使われているか?

2011年05月14日 | 震災・原発事故
●NGO「ピースウィングス・ジャパン(PWJ)」と公益社団法人「Civic Force」
 PWJが世界の紛争地帯、被災地で支援活動を行っているのは有名だが、「Civic Force」はどんな活動をしているのか?【渋澤】
 企業社会の協力を円滑に、幅広く推進していく。具体的には、企業と事前に覚書を交わし、運営費を拠出してもらったり、いざという時に社員をボランティアで派遣してもらったり、商品やサービスの提供を依頼したりする。中越地震の時に、大手流通業者イオンと協力して被災者を受け入れた。企業とNPOや自治体が組めば、いろいろなことができる。企業はドナーにとどまらず、「実施者」にもなりえる。公益法人は、そのための調整役だ。【大西】

●義援金と支援金の違い
 被災地支援のために同じ金額を寄付するにしても、義援金にするか支援金にすRからで使い途は違ってくる。義援金は被災者に配分され、支援金は被災地で活動するNGOやNPOの資金となる。ところが、大多数の人たちはその違いを意識していない。【渋澤】
 今回初めて少し理解が進んだのではないか。例えば義捐金はすぐに被災者の手元に届くわけではない。【大西】
 日赤のチームが被災地の医療に取り組んでも、そこに義援金が投下されることはない。【渋澤】
 被災者が一律に35万円を貰っても、解決できない問題が山積みしている。食事付きホテル住まいなら1ヵ月やそこらでえ消えてしまう。1年くらい住めるところを提供するNPOの活動があれば、そちらのほうが有効かも。他方、財産を一切合切失った人にとっては、当座の現金はありがたい。【大西】
 要はバランスが大事だ、ということだ。【渋澤】
 今の義捐金は、支給のスピードが遅すぎる。どのくらいの額が集まりそうなのかは、途中経過を見ればわかる。政府や金融機関が一時的に立て替えてもいいじゃないか。毎週3~5万円ずつでもよいから、早くリリースしたほうが被災者にとっては役立つ。こうしたことを踏まえて、現地で支援をプロジェクト化している団体に寄付するか、義援金にするか、寄付者が判断するとよい。【大西】
 募金・義援金を出し、受け取るのは一方通行の関係だ。寄付であれば、寄付した側とされた側のキャッチボールがある。こういうプロジェクトのために使った、と投げ返し、納得したらもう一度支援できるかも。投げたボールを相手が落とせば、二度と寄付する気にはなれない。日本に欧米のような「寄付文化」が育ちにくかったのは、寄付された側からのレスポンスが疎かだったところに大きな原因がある。【渋澤】
 寄付する側は答を求めるべきでない、寄付された側は答えなくてもよい、というのが、日本のカルチャーかも。【大西】
 典型が「伊達直人」だ。キャッチボールは必要ない、という姿勢が明確だった。善意の行為であることは確かだが、あのやり方からは「文化」は育たない。案の定、数ヶ月のブームとなり、雲散霧消した。【渋澤】
 善行は隠れてよるのが尊い、とは、すぐれて日本的だ。【大西】
 善意の投げっぱなしにとどまれば、いつまでたっても地蔵性のある寄付のロールモデルはできない。【渋澤】

●なぜ寄付文化が必要か
 こうした状況が続くのは、「寄付制度」の確立が遅れているせいだ。阪神・淡路大震災を契機に「器」の整備はそれなりに進んだが、寄付税制などは論議が抜け落ち、15年たってしまった。15年間でNPOの数はすごく増えたが、内実はどうか。ちゃんとしたNPOを見極めて、そこに活動にふさわしい資金を供給する仕組みが必要だ。NPOは事業体だ。きちんとした規則があり、指揮権が明確でなければならない。欧米では当たり前のこうした原則が、日本ではともすれば曖昧で、自発的サークル活動のような組織が少なくない。寄付制度を充実させると同時に、プロジェクト監査まできちんとやって、ダメなところにはダメと言える仕組みを構築すべきだ。【大西】
 「制度」をしっかりさせることは、「文化」の涵養にもつながるはず。寄付文化を根づかせようとしたら、政府のあり方まで遡って考える必要がある。政府は市民社会の「代理」というのが民主主義の原理だ。米国社会が典型で、国民は社会は我々がつくった、という強いオーナーシップを持っている。税金を通じた間接的な資源配分と同時に、寄付という間接的な分配の仕方もある、と考える。翻ってわが日本は、政府=統治者の感覚だ。これだと、税金収入はもともと政府のものだ、という意識になりやすい。寄付のような直接分配は、あくまで「おまけ」という存在に陥ってしまう。欧米に比べて日本に寄付文化がなじまない理由を所得や宗教観の違いに求める見方が一般的だが、それだけでは日米で一人当たりの寄付額に何十倍もの隔たりがあることの説明にはならない。【渋澤】 
 日本人は、昔からすべてをお上に託していたわけではない。瀬戸内の港町には、民間の寄付で開かれたところが多い。例えば鞆の浦は、幕府も福山藩も関与せず、大店、中店、小店がそれぞれの格に合わせて寄付し、みんなのために港町をつくった。地方のインフラ整備まで政府にお任せのシステムが固定化したのは、田中角栄の日本列島改造論あたりからではないか。【大西】
 明治の、北海道は十勝の民間開拓もそうだ。24人の民間人が、現在の金額にすれば億円単位の投資をし、26年かけて現在の十勝の基礎を築いた。日本人にも社会に対するオーナーシップが残っていた頃、民間ベースの長期投資や寄付文化はたしかに存在していた。寄付文化を取りもどす過程は、日本人が政府や社会との関わり方を再考する道筋と言える。【渋澤】

●東日本大震災への取り組み
 今最大の問題は、依然として15~20万人の被災者が一次避難所で暮らしを余儀なくされていることだ。仮設住宅建設は急務だが、土地が足りない。東北にあった仮設住宅の最大手が被災したため、そもそも住宅の絶対数が不足している。事態打開のため、コンテナハウス・トレーラーハウスのような「1.5次避難所」を供給できないか、と自分は考えた。実物を取り寄せ、自治体などへ紹介し始めている。【大西】
 初期の活動で余った金を振り向けるわけだ。【渋澤】
 少し先のターゲットに考えているのは、零細漁民対策。路頭に迷った彼らをカバーするところはどこにもない。放っておけば、軒並みに廃業だ。低利融資と助成金を組み合わせたソーシャルファンド的な仕組みを構築できないか、話を始めている。「使い切り」でもいい。こうした事業のために資金の4割ぐらいは残し、長期にわたって地域のニーズに応えたい。【大西】
 被災地の雇用づくりは、最高のリターンになる。民間ならではの、すばらしい構想だ。【渋澤】

 以上、渋澤健(コモンズ投信会長)/大西健丞(認定NPOピ-スウィンズ・ジャパン代表理事)「寄付金は果たして有効に使われているか」(「中央公論」2011年6月号)に拠る。
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【震災】原発>東電の埋蔵金

2011年05月13日 | 震災・原発事故
 「当社の実質的な負担可能限度も念頭に置いたうえ、公正、円滑な補償に資するものとなるよう配慮をお願いする」
 この、東電のあまりに身勝手な「要望書」は、文科省に設置された「原子力損害賠償紛争審査会」に送付された。受理されたのは、第一次指針が決まる3日前の4月25日だった。
 委員には、最初の会議の後に知らされたが、「今の段階で早くも負担額に上限を求めていいのか」(一委員)。

 要望書が提出された日、東電はリストラ策を発表した。常務以上の取締役の朋友を半減、執行役員は4割減額、一般社員は2割減額。・・・・この甘すぎるリストラ策に批判が集中した。
 役員報酬は、半減でも平均2,000万円。人員削減も、新規採用の見直しと退職者の自然減の数千人レベル。これで身を削ったとは、とうてい言えない。
 東電は身内意識の強い会社で、昔から社内結婚と持ち家を奨励していた。社内結婚は、情報を外部に漏らさないため。持ち家は社内ローンを組ませることで離職を防ぐ目的がある。常務以上は千代田区の東電本社から30分以内のところに家を持て、と勧められ、役員報酬も手厚かった。

 4月20日付け読売新聞、同日付け日経新聞、4月21日付け朝日新聞は、原発賠償に係る国の支援が既に決まったかのような記事を掲載した。報道の素になった素案は、東電のメインバンクたる三井住友銀行が経産省に持ちこんだものだ。賠償のための「機構」を設立し、公的支援をしたうえで東電ではなくて機構が賠償する、という案だ。東電の破綻や債務超過を回避することを優先している。東電に1兆円を融資している三井住友に都合のよいシナリオだった。
 奥正之・三井住友ファイナンシャルグループ会長(全国銀行協会会長)は、政府にプレッシャーをかけた。

 だが、さすがに銀行の思惑通りには進まなかった。
 経産省で、賠償スキームの骨組みが作られていった。賠償のための「機構」に原発を持つ各電力会社からも資金を拠出させ、国は機動的に現金化できる交付債を機構に交付。東電は機構から資金支援を受けて賠償金に充て、毎年返済するというものだ。返済額は最大1,000億円、期間は10年とされていた。
 だが、電気料金値上げの前提、上限設定に否定的な意見が経産省案を押し戻した。
 交付国債の発行は、財務相主計局の縄張りだ。公的資金はできるかぎり入れたくない。96年の住専処理の際、6,850億円の公的資金投入で国民から批判を浴び、大蔵省解体まで追いこまれたからだ。

 三井住友銀行側はへこたれない。4月27日に東電のアナリスト説明会を仕掛け、今後の社債発行が難しくなる、と勝俣恒久会長が説明した。
 東電は、3月末時点で国内最大の社債(5兆円)発行企業だ。電力各社を含めれば、市場の3割を占める。東電が破綻すれば市場が大混乱に陥る、という“金融世論”を固めていった。

 東電は、容易に電気料金を上げる前に、まず過去の蓄積で自己責任を果たすべきだ、と町田徹(経済ジャーナリスト)はいう。10年の春にメキシコ湾で原油流出事故を起こした英国の大手石油会社が、事故対策ファンドを作っていち早く補償に手を付けた例に学ぶべきだ。東電の利益余剰金や原発事業に関連する積立金が、使用済核燃料再処理等引当金など3つあり、これを転用するだけで3兆6,000億円以上を捻出できる。これで補償用のファンドを作るのだ、云々。
 東電には、売却できる資産がまだある。保養所などの所有不動産、ゴルフ会員権、絵画など。
 業界団体への不要不急の支出も巨額に上っている。例えば、(財)電力中央研究所というシンクタンクへ売上げを0.2%を拠出することになっていて、毎年100億円も出しているのだが、この支出は電気料金の原価に上乗せされている。この研究所の仕事に雷の研究があるが、雷は送配電線にとって天敵なるがゆえに各電力会社も独自に研究している。研究内容はダブっている。見直しは必要だ。
 また、各電力会社によって63年に発足した任意団体「公益産業研究調査会」は、月刊誌「公研」の発行と月1回のセミナーを開催し、学者や官僚の“癒着材”としての役割を担ってきた。会長は荒木浩(元東電会長)、実務を仕切る専務理事も東電OBだ。電気事業以外への出費には、厳しい目が向けられることになるだろう。
 賠償に充てられそうな資金は、まだまだある。「原発埋蔵金」だ。(財)原子力環境整備促進・資金管理センターは、放射性廃棄物専門の研究機関だ。ここには「再処理等積立金」「最終処分積立金」合計3兆5千億円が眠っている。核燃料サイクル事業は頓挫しているから、この中の一部を取り崩して賠償に充てることができる。

 以上、記事「東京電力 血税投入! 悪だくみの全貌」(「週刊文春」2011年5月19日号)に拠る。
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【震災】原発>まだまだ隠されている問題

2011年05月12日 | 震災・原発事故
 東電が発表した福島第一原発事故の収束に向けた工程表は、単なる願望で、希望的観測のレベルにも達していない。【田原】
 建屋の中で作業できる状況じゃない。建屋の中は複雑な配管や配線があって、作業には慎重を要する。現場作業員の年間被曝量の上限50ミリシーベルトを撤廃した(5年で100ミリシートベルトの基準は維持)が、それでもすぐに累積してしまう放射線濃度だ。人手がいくら必要かもわからない。今作業しているのはベテランが多いようだが、彼らが100ミリシートベルトに達したら、誰が最終的な作業を行うのか。人が現場に近づけないから、水棺にしようとしている。が、格納容器に水を満たした場合の耐震性や耐久性は未知数だ。耐久性に問題があれば、汚染水が地下に染みこんでいく危険性がある。非常に厳しい状況だ。【金子】
 一番の問題は、東電がこうした事態をまったく想定していなかったことだ。米国では作業員のみならず近隣住民にも避難訓練を行っている。東電は、原発は安全だ、と公言してきた以上、避難訓練ができなかった。自縄自縛だった。【田原】
 「想定外」という議論には、無数の批判がある。例えば、東電の原発専門家チームは、福島原発は今後50年以内に9m以上の津波に襲われる可能性が1%程度ある、15m以上の大津波が発生する可能性すらある、と報告していた。【金子】
 フロリダの国際会議(07年)で発表したレポートね。13m以上の津波については0.1%と分析していた。【田原】

 地震当日のデータが隠されている。気になる。東電は、データは中央制御室にある、と言っているが。【金子】
 東電のデータは、1号機の建屋の水素爆発が起きた12日からのものだ。【田原】
 3月14日に3号機の水素爆発が起きて、翌15日から20日までに周辺地域にどの程度の放射性物質が飛散したかも明らかになっていない。放射能汚染は積算の数字が重要なのに、その一番危ないときのデータがないから、どこがどれくらいの放射能で汚染されたか、正確にはわからない。これほどの人命軽視はない。【金子】
 米国が無人機を飛ばして福島原発上空で集めたデータは、防衛省が完全に握りつぶした。政府にも保安院にも渡っていない。【田原】
 米国には、軍事衛星で撮った非常に精密な映像もあるはずだし、赤外線で分析した放射能汚染のデータもあるはずだ。【金子】

 原発の作業員は、ほとんど素人だ。のろのろしていると被曝するから、作業時間は短い。1号機の屋根が吹き飛んだのも、ボルトの締め付けがいい加減だったからではないか、と言われている。また、日本で使われている防護服はインチキだ。本当に放射線を防御する機能を備えている防護服は、米国が持っている。核戦争を想定した防護服だ。その防護服の提供を日本は米国に求めているが、まだ届かない。【田原】
 最大の軍事機密だから、米国は出したがらない。【金子】

 今回の原発問題は東電と政府の両方に責任があるのに、政府は東電を悪者にしようとしている。【田原】
 政府と東電の関係が現在のようになったのは、02年から03年にかけてがひとつの境目だった。【金子】
 02年の事故隠し。福島原発の1号機、2号機を手がけたGEが調査し、告発した。本来どんな小さなヒビ割れでもすべて発表することになっていたのだが、そのつど原発を停めないといけないから、東電は事故を隠した。【田原】
 あのとき、経産相が発電の自由化と、送配電の分離を進めようとしていた。東電は、事故隠しの引責辞任という混乱に乗じて、改革をうやむにしてしまった。結局、東電と経産相は双方痛み分けみたいな格好になって、あれ以来、経産省から全国の電力会社への天下りが完全に確立してしまった。【金子】
 国=経産省は、原発の危険性に目をつぶり、東電とグルになっていった。【田原】
 保安院は、科学技術庁所管の業務と通産省所管の業務とに分かれていた。それが01年の中央省庁再編のとき、統合されて経産省の外局となったために、原発を許認可する側と安全性をチェックする側が一緒になってしまった。同じお仲間になってから、緊張感がなくなって、悪事を見抜けなくなった。原子力学会や電気学会の会長や副会長も、電力会社の重役が就任するケースが多いし。【金子】
 ああいう学会のカネは、電気事業連合会と電力会社からかなり出ている。【田原】
 みんな、もたれ合いのカネ漬けになってしまった。【金子】

 こうした電力行政の構造が今回の事故を引き起こしたわけだが、事故後の菅政権の対応が話にならないくらいひどい。【田原】
 民主党の原発政策は、もともと安全投資重視、再生可能エネルギーへの転換が主軸だった。ところが、政権交代が見えてきた09年になると、原発推進の方向へ変わってきた。電力総連などの原発に関わる労組の影響だ。政権をとった後は、成長戦略がない、という批判を受けたものだから、経産省の役人を重用するようになり、どんどん原発依存にシフトしていった。その揚げ句、今回の事故が起きたものだから、すっかりうろたえている。【金子】

 原発被害の補償にしても、被災地への義援金分配にしても、ちっとも進んでいない。【田原】
 当面の仮払いをしながら賠償のための枠組みをつくっていかないといけない。ところが、まずいことに政府の経済被害対応本部は、トップの海江田経産相以下みんな経産省の役人だ。原発事故を起こした当事者が、その賠償の中身を決める。特別立法でしっかりした第三者機関をつくらないとダメだ。【金子】

 以上、田原総一朗(ジャーナリスト)/金子勝(慶應義塾大学経済学部教授)「『東電と原発のタブー、率直に語ろう』 ~これは国家ぐるみの八百長ではないのか~」(「週刊現代」2011年5月21日号)に拠る。
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【震災】原発事故がもたらしたこころの病 ~「原発鬱」~

2011年05月11日 | 震災・原発事故
(1)チェルノブイリよりも大きな心のダメージ
 チェルノブイリ原発事故と健康被害の因果関係はまだはっきりしないが、現段階で最も深刻なのはメンタル面の被害だ。原発事故の影響を受けていないグループと比較すると、うつ病やPTSDを発症するケースが明らかに多い。原発事故を経験していない子どもたちにも影響が出ている。事故当時チェルノブイリ周辺にいた者が精神的に不安定になり、彼らが親になってから事故の話を聞いた子どもたちの心が不安定になっているのだ。
 チェルノブイリでは、直接被害を受けた地域の人が避難しなければならないというストレスがあった。それと同時に「目に見えない」「いつ来るかわからない」「いつ終わるかわからない」という不気味さによるストレスが大きかった。
 今回の福島第一原発の事故でも、ストレスの構造はチェルノブイリと同じだ。ただ、今の日本のほうが、心理面に与えるダメージは大きい。

(2)情報過剰で、しかも正確な情報が不明
 チェルノブイリ事故の時代は、情報伝達手段が少なかった。情報が隠蔽されていた社会主義国家での出来事だった。情報欠如による恐怖は少なからずあったが、不安は限定的だった。
 今回の日本の場合、情報過剰によるストレスが浮き彫りになっている。情報が多いほど安心につながる、とこれまで言われていたのに、多すぎるため、目を背けることも逃げることもできなくなっているのだ。
 政府発表を聞いて、すべての情報が公開されていると考える人は、今やほとんどいないだろう。けれども、政府や東京電力がどこまで真実を把握していて、どのような情報を隠しているのかは、誰もわからない。
 今回、改めて注目されたツイッターも、情報のうちどれが正しいもので、どの情報に拠り所を置いていいのかがわからない。
 より正確な情報を見極めることができないことが、人々の大きなストレスになっている。

(3)不確かさに耐えられない日本人
 現代日本人は、物事の黒白をすぐにつけたがる。大好きか、大嫌いか。熱狂的に支持するか、そっぽを向くか。黒白をはっきりさせようと急ぎ過ぎて、振幅が大きくなっている。こうした傾向が強まっている日本社会は、どちらに転ぶかわからないけれども待つしかない、という状況に耐えられない。
 原発事故は、爆発という最悪の事態に陥らない一方で、一気に解決まで進まないという膠着状態が延々と続いている。しかも、いつこの膠着状態が動き出すかすらわからない。
 これが不安で仕方がないのだ。「目に見えない」「いつ来るかわからない」「いつ終わるかわからない」不気味な状態の行く末を冷静に見守る耐性が弱くなっている。今回の原発事故は、現代の日本社会にとって最も苦手な部分に突き刺さり、日本人の心に大きなダメージを与えている。

(4)原発事故が顕在化させた人間の不安・恐怖
 明確に意識されていないにしても、人間は誰もが何らかの不安や恐怖を抱えているものだ。特別の原因もないのに、そうした考えを増幅させてしまうのが「被害妄想」だ。これがエスカレートすると、すべてのものに毒が入っているのではないかと疑う「被毒妄想」も生まれる。
 かつて最先端のテクノロジーが世の中に出現したとき、自分の妄想を結びつけて考える人が数多くいた、新しいテクノロジーに遭遇したとき、目に見えない、自分にはコントロールできない、という不安から被害妄想を持ってしまう人は、いつの時代にもいた。
 いま、放射性物質が大気中に溢れ、飲み水にも入っている。
 今回の原発事故によって、誰もが潜在的に持っている根源的な恐怖(「被毒妄想」に代表される)が増幅されてしまったのかもしれない。実際に、原発事故が起こってから頭痛や吐き気の訴で病院に駆けこむ人が増えている。

(5)「原発鬱」
 現在進行中の原発問題は、黒白の図式にあてはめることはできない。好転したかと思えば、悪い情報が入ってくる。
 人生には本来、自分の思うようにならないままひたすら待つしかない情況は山ほどある。恋愛はその典型だ。
 こういう情況への耐性が、現代日本社会では脆くなっていることを今回の原発事故は浮き彫りにした。震災後に、心の不調を訴えて病院に来る人は確実に増えている。また、これまで心の病を抱えて病院に来ていた人の症状も、震災後悪化しているケースが多い。これは、「原発鬱」とでも呼ぶべき状態だ。症状には個人差があるが、多くの人が原発事故に伴うストレスを抱えていることは間違いない。
 原発事故は、放射線汚染による人体や環境への影響、さらに地域住民の生活に多大な影響を及ぼす大きな問題だ。のみならず、原発事故に伴って日本で多くの人が甚大な心理的ストレスを抱えるにいたったことを見逃してはいけない。

 以上、香山リカ「不安の正体は原発問題。いま「原発鬱」とも呼ぶべき症状が増加している ~香山リカの『こころの復興』で大切なこと【第5回】2011年5月10日~」(DIAMOND online)に拠る。
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【震災】世論を買い占める東電、恥ずかしい広告を出す政府~佐高信と寺島実朗の対談~

2011年05月10日 | 震災・原発事故
 前回【注】は、東北をどう復興させるか、構想力が問われる、という話になった。それを語るには、政治の責任に触れざるをえない。福島第一原発の事故やその後の処理は、明らかに天災とは異なる問題だ。【佐高】
 政治の責任を語る前に、今回の震災で機能したこと、機能しなかったことをちゃんと整理しておく必要がある。前者についていえば、地震が起きたとき激震地を新幹線が88本走っていたが、1人の死傷者も出さずに全列車を無事に停車させた(関東大震災では走行中の列車24本が脱線転覆した)。これは、日本の鉄道技術蓄積による成果の一つだ。【寺島】
 建設中の東京スカイツリーも無事だった。【佐高】
 エレベーターシャフトのパネルに一部損傷はあったが、持ちこたえた。これも技術蓄積だ。今回、津波がなくて地震だけだったら、犠牲者は千人に満たなかっただろう。日本の建築物の耐震技術が向上しているのは間違いない。地震と津波だけだったら、我々ももっと早く一丸となって復興に取り組もうと奮い立つことができたのではないか。ところが、まったく異質の問題(原発事故)を引き起こしてしまった。現代文明が震え上がるほどの問題を世界に投げかけてしまった。にもかかわらず、政府の原発事故への対応は酷い。【寺島】

 国は、本当に復興に本腰を入れているのか。東北地方は、歴史的に中央から差別を受けてきたし、過疎や出稼ぎの問題もある。今回は福島が原発の犠牲になる。福島原発で作られた電力は、東京を中心とした首都圏で消費されるものであるのに。【佐高】
 震災直後から、世界に対して責任ある情報の発信体制を確立すべきだ、と強調してきた。福島原発で何が起きていて、それにどう対応し、最悪の場合どんな危険性と影響が考えられるか、というメッセージを事故直後から世界に発信しなければならなかった。メッセージは、日本政府として出すのではなく、たとえばIAEAを含めたタスクフォースのような、国際的に信用され、責任ある国際組織から多言語で的確に発信し続けるのだ。【寺島】
 今でもまったくできていない。【佐高】
 官邸、東電、保安院がそれぞれバラバラに情報を出し、不確かな情報が増幅されてきて、本当のところが見えないまま不安が広がってしまった。これがまず大問題だ。【寺島】

 日本の企業はすごく内向きだ。世間から批判されると、批判の嵐が過ぎるまで頭を低くしておいて、当面の嵐が去ったら元どおりでやっていける、と考えている。だから、外からの批判に対して堂々と反論して対峙しようとしない。かかる日本企業の象徴が東電だ。東電は、大手メディアにどんどん広告を打って、原発安全神話を宣伝してきた。カネで世論を買った。科学技術は、批判されることで進歩するのに、その批判を封じてきた。そういう姿勢があるから、今回も世界が納得する情報を出せないでいる。【佐高】
 政府も東電も似ている、と。【寺島】
 反原発の物理学者、故・高木仁三郎に、ある原子力関係情報誌の人が、某社が3億円(現在なら100億円の価値)出すからエネルギー政策研究会を主宰しないか、と持ちかけた。背後に電力会社がいたのは確実だ。高木は断ったが、こういうふうにして世論を買い占め、情報を操作してきたのが東電をはじめとする原子力推進の人々だった。【佐高】

 4月11日、日本政府が世界6ヵ国の一流紙7紙に意見広告を出した。日本語で「絆(Kizuna)」という文字を強調し、各国の支援に感謝する、という内容だった。世界の常識からすると、驚くべき劣悪広告だ。日本政府が今出すべきメッセージは、福島原発事故で大変な迷惑をかけているが、自分たちは責任をもってこの困難に立ち向かい、この体験を世界に役立てたい、という意思表示の表明だ。それと、原発のどの部分に問題があると認識していて、それをこういう方法で解決するつもりだ、という正確な情報だ。感謝の言葉なんて、諸外国の人々は何の関心もない。【寺島】
 本気で原発問題に向きあうなら、反原発ジャーナリストの広瀬隆や京大の反原発学者の小出裕章を呼べばいい。原発推進派は、世界が日本の原発事故対応のどこに不満があって、何を恐れているのか、わかっていない。反原発のほうがよくわかっている。批判者の声に耳を傾けないから、お友だち政権のままで、温かい支援をありがとう、みたいな恥ずかしい広告になってしまうのだ。【佐高】
 この政権が責任をもって事態に立ち向かっていく態勢にならないのは、指導者に政策思想の軸がないからだ。会議や委員会を作って、みんなの意見を聞いて・・・・など無能な経営者がやることだ。トップに立つ人間は、まず自らの政策や思想を示さねばならない。菅首相には、まず日本をこういう形で甦らせたい、という「軸」が必要だ。【寺島】

 菅首相は、戦後日本人の一つのタイプを象徴している。戦後民主主義のなかで育ち、市民運動とかリベラルとかいったものを吸収してきた。その時代ごとに注目されるテーマ、薬害エイズや諫早湾の干拓など、市民受けするテーマに乗っかって、「皆さん、そう思いませんか」とメッセージを出す。菅のように周囲を駆りたてる側にいた人物は、組織の下支え経験や問題解決のためのプロセスに呻吟することもなく、薄っぺらな戦後なるものを体にあふれさせている。菅直人(昭和21年生)、仙谷由人(昭和21年生)、鳩山由起夫(昭和22年生)、寺島(昭和22年生)は団塊の世代だ。もしかすると、この世代は、本当の危機に直面したとき、解決に立ち向かう力がないことを露呈しているのではないか。【寺島】
 市民運動の限界をすごく感じる。市民運動は「アフターファイブ」の活動だ。無党派であって、政党のしがらみを背負わない。国家のしがらみも会社のしがらみも背負わない。だから軽い。【佐高】
 今回でも、自分の周囲に賑やかにいろんな会議や参与を配置する。それでもって問題が解決すると思っているなら哀しい。【寺島】
 参与は何の責任も負わない。菅首相自身が参与なのだ。“参与首相”みたいなものだ。【佐高】
 O517騒動のとき、カイワレ大根を頬張ってみせたのと同じ。福島県産キュウリとイチゴを食べて、それがパフォーマンスだと思っている。本気であの地域の農業を再生させたいなら、再生プランを示さないといけない。【寺島】
 首相になって、あれほど育たない人間はいない、と誰かが言っていた。【佐高】

 日本全体が、現実を見据えて立ち向かうよりも、美しいキャッチコピーに酔ってしまうところがある。現実に存在する問題を解決するための知恵とは、エンジニアリングだ。今本当に問われている日本の力だ。キャッチフレーズに酔いしれている場合じゃない。【寺島】
 あるNPOが東北の被災地に行って、「頑張ろう東北」みたいな合い言葉を掲げたら、被災者に「これ以上、どう頑張れというんだ」と言われた。あんたたちに言われなくても、こうして避難所でずっと頑張っているじゃないか、って。【佐高】
 今必要なのは、極めて具体的で戦略的な計画だ。たとえば、放射線汚染が懸念される地域の農家に対して、私なら、コメをおおいに作ってください、と言う。東電に買い上げさせて、もし本当に食べられないコメだったら、再生可能エネルギーのバイオマスエタノールに利用するのだ。用途はいくらでも考えられる。農地は、何も作らないで放置していると痩せてしまう。土地の再生のために農作を続けるべきだ。【寺島】
 東北人は、農業、漁業を中心にやってきた。定住型思考だ。菅首相は、移住型。こっちがダメならあっちでいいんじゃないか、という考え方。だから、その地で暮らし続けるという発想がない。【佐高】
 首都機能の分散は必要だ。たとえば、那須だ。岩盤が強い。那須塩原に副首都機能をおいて、ICT(情報通信技術)を分散させる。「杜に沈む都」構想(超高層ビルを廃し、森林に囲まれた低層の街を作る)を推進し、21世紀型の環境保全都市を創造するなど、夢がある。これまでのように東京集中の発想の延長線上で東北の再生を議論しても限界がある。それを超える発想と構想力が問われている。【寺島】

 以上、佐高信(評論家)/寺島実朗(日本総合研究所理事長)「『世論を買い占めてきた東電、参与のような菅首相』 ~この国はどこで失敗したのか(後編)~」(「週刊文春」2011年5月21日号)に拠る。

 【注】「札束で頬を叩いて原発を始めた自民党、原発を推進した民主党
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【震災】復興のカギはパイプ役(住民の自主組織) ~神戸の過ち、奥尻の教訓~

2011年05月09日 | 震災・原発事故
(1)神戸市(95年1月被災)
 (a)大規模公共事業
 神戸市は、「創造的復興」の掛け声のもとに、さまざまなプロジェクトを強行した。道路、港湾、空港といったインフラ整備に巨額の復興予算をつぎこんだ。
 甚大な被害をだした新長田駅南地区の再開発事業もその一つだ。対象面積20ヘクタール、総事業費2,710億円。復興事業の目玉の一つだった。11年現在も進行中で、当初計画の約40棟のうち31棟のビルが完成している。再開発ビルの商業用床面積は、76,000平米。従前の48,000平米を大きく上回る。再開発事業では、ビルの区分所有権を売却し、それを事業費の返済に充てる仕組みだ。
 だが、これまでに売却できた商業用床面積は半分ほど。残りは、市の外郭団体「新長田まちづくり株式会社」が一括賃貸し、テナントを募集している。
 店舗が半壊したある商店主は、権利を市に売却し、再開発ビルに入居した。内装費などを借り入れ、再出発した。ところが、新たなビルが完成するたびに店の売上げは落ちていった。商店主は、やむなく廃業を決意。しかし、店舗は売れないし、借り手も見つからない。それでも管理費と固定資産税は払わねばならない。
 ケミカルなどの町工場、小規模住宅、小売店が混在していた新長田は、震災後の地場産業衰退と人口減によって徐々に活力を失ったのだ。

 【参考】長田区の震災前(94年10月推計)と震災後(11年4月推計)の人口等の推移
  人口・・・・・・・・・・・・・・・130,466人 → 101,2348人
  世帯数・・・・・・・・・・・・・53,284 → 48,300
  製造事業所数・・・・・・1,534 → 566
  製造業従業者数・・・・8,883人 → 7,866人

 (b)コミュニティの崩壊
 仮設住宅や復興住宅への入居を抽選にしたため、コミュニティがバラバラになった。高齢者や障害者を優先したが、結果的に弱者を孤立させ、多数の孤独死を生んだ。
 「震災復興の目的は大規模開発の“創造的復興”ではなく、被災者の住まいと暮らし、人とのつながりを回復させる“人間的復興”でなければならない」(池田清・松蔭女子学院大学教授)

(2)北海道奥尻町(93年7月被災)
 死者・行方不明者198人。被害総額664億円(cf.町の年間予算規模50億円)。
 町の復興に大きな役割を果たしたのは、行政と住民とのパイプ役を務める自主組織だった。被災者の設立した「奥尻の復興を考える会」がそれだ。島内で最大の被害を受けた青苗地区の被災者を中心に105世帯が加わった。
 まちづくりの専門家を独自に招いて勉強会を開き、雲仙普賢岳の復興過程を調査。被災者へのアンケートをもとに町に質問状を出し、提言した。

 (a)義援金(190億円)の使途決定
 パイプ役が大きな力を発揮した。義援金で設立された「災害復興基金」の使途に住民の意向を反映させた。もっぱら被災者の自宅や仕事場の再建支援に活用された。
 混乱はあった。行政が発行する罹災証明書(助成金額に関係する)をめぐるいざこざ。助成金に依存し、自力再建の気持ちを弱らせる被災者。
 だが、義援金の分配、手厚い支援策によって将来に希望が持てるようになった。

 (b)災害後のまちづくり
 パイプ役が存在感を示した。最大の課題、壊滅的な被害を受けた青苗区の再生について、町を支援する北海道庁は復興計画案を2つ示した。①岬周辺(5ヘクタール)のすべての土地を町が買い上げ、低地部を含む全戸を高台に移転する。②港近くに漁師町ゾーンを残し、一部を高台に移転する。
 高齢者を中心に、住み慣れた土地で再建したい、という声も上がり、住民の意見は3つに分裂した。
 「考える会」は、行政から説明を受けた後、勉強会や住民アンケートを実施。漁業者の強い声を勘案し、一部高台移転案を「総意」とした。
 話し合いの過程でカギになったのは、元の住居に近い仮設住宅だ。住民の心が落ち着いた状態にならないと、話し合いにならない。被災者は、新しいまちづくりに参加できない。奥尻町では、津波被害から16日後という早さで仮設住宅への入居が決まった。

 以上、記事「神戸の過ち、奥尻の教訓 復興実現のカギはパイプ役」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月14日号)に拠る。
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