語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】日本にベストな復興資金調達法、それを阻害する2つの要因

2011年05月08日 | ●野口悠紀雄
(1)ベストな復興資金調達法
 日本が保有する巨額の対外資産は、554兆円ある(09年度末)。純資産(負債を引いた額)は266兆円だ。復興資金(16~25兆円)のすべてを対外資産取り崩しで賄っても、純資産が1割減る程度だ。
 対外資産は、(a)直接投資68兆円、(b)証券投資が207兆円(米国債が多いと推定される)で、流動性が高い。
 (b)のうち、半分を金融機関が保有し、3分の1を政府が外貨準備として持つ。金融機関のうち、生命保険の比重が高い。
 よって、金融機関が保有する(b)を売り、その資金を国内に持ちこんで国債を購入したり、国内貸し付けに充てれば、国内での金利上昇を抑えつつ復興投資を行うことができる。金融機関にこうしたポートフォリオ変更を強制できないが、金利レートや為替レートが変動する【注】ことで、金融機関はそうした選択をする。
 ただし、ドルを売って円を買うから、円高になる。円高を阻止しようとすると、この取引は進まない。

 【注】民間資金需要(工場や住宅再建)が増加するなかで国債が増発されれば、金利は上昇する。

(2)国債発行で負担を負うのは今の世代
 (a)金融機関のポートフォリオ変更による資金調達は、国内での国債と異なって、負担を将来に移転できる。対外資産の売却代金を日本に持ちこむとは、資源を海外から日本に持ちこむことを意味する。だから、現時点では需給バランスが改善する。しかし、対外資産は減るから、将来世代が得られる運用収入は減る。この意味で、現在の世代は負担を免れ、将来世代が負担を負う。
 (b)復興財源をまず復興債で賄い、しかるべき時点に増税する、という意見がある。国債でも負担を将来の時点に移せるか? 否。償還時に、納税者から国債保有者に所得が移転されるだけだ。国全体としては、使える資源が減少するわけではない。償還時の日本人は、全体としては負担を負わない。
 復興投資に充てられる国債の負担は、国債が発行される時点の人々が負うのだ。生産制約がある状態で国債を発行すれば、金利が上昇する。海外との取引がない経済では、それによって投資が減少する(企業の生産設備の復旧や住宅復旧を犠牲にして道路や橋を建設する)。海外との取引がある経済では、円高が進む。金融緩和をして円高を阻止すれば、物価が上昇して消費が犠牲になる。
 いずれにせよ、その時点で他の需要項目が減少することによって復興投資が賄われるのだ(クラウディングアウト)。
 
(3)ベストな復興資金調達法を阻害する2要因
 (a)日本人の円高嫌悪感・・・・円高を阻止しなければ復興が円滑に進まない、という意見がある。
 本当は、まったく逆なのだ。円高になれば輸入が増える。これは、国内の生産制約を緩和する。
 輸入は、日本国内に希少な資源を間接的に購入することだ。今後の日本国内での生産拡大にもっとも深刻な制約となるのは電気なので、外国の電気が含まれている製品を購入するのがもっとも合理的な解決法だ。これによって日本の電力不足を緩和することができる。<例>外国で生産される鉄やセメントには、電気が使われている。これらを輸入することは、海外の電気を間接的に購入することだ。
 円高容認は、復興戦略の重要なポイントである。ただし、日本人が円高を許容するだけでは十分ではない。
 (b)米国の既得権益・・・・日本が保有する米国債を売却すれば米国の金融市場が混乱する恐れがあるため、米国は資金流出を望んでいない。世界経済は、米国の巨額の経常赤字を日本や中国からの資金流入で補う、という不均衡の上に構築されてしまっている。これが急激に変化することを望まない勢力が、日本だけではなく、米国にもいるのだ。これを打破するのは、容易ではない。
 日本にとってもっとも望ましい形の復興資金調達法を、日本人の固定観念(円高拒否)と米国の既得権益(日中からの資金流入で経常赤字を補う)が阻害している。

【参考】野口悠紀雄「対外資産取り崩しで復興資金を調達する ~「超」整理日記No.560~」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月14日号)
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【震災】菅政権 危機対応の通信簿と改善策

2011年05月08日 | 震災・原発事故
 (a)は評価(優・良・可・不可の4段階)、(b)は評価の理由、(c)は改善策である。

(1)危機対応の組織体制と意思決定システム
 (a)不可
 (b)○○本部、××会議が多すぎる。一刻を争って重大な意思決定を行うべき危機時においては最悪の体制。意思決定に関与する人の数が多すぎ、しかも権限が曖昧。出てくる情報や方針は曖昧で現実感のないものばかり。風評被害の源の半分はここにある。有事は独裁。少数の人が迅速果敢に決断し、すべての結果責任を負うのが有事のリーダーシップ。その覚悟がないせいで、責任を分散しているように見える。
 (c)本部は最大2つ(被災地対応と原発事故対応)で十分。構成メンバーは実質5人以内。法的権限のない会議は不要。

(2)官邸を中心とした政権の幹部人材の資質
 (a)可
 (b)頑張っているのはわかるが、世間向けのアリバイづくりに終始する者が多い。法的、政治的、肉体的リスクをとって、被災地に現実の効果をもたらすところまでやり抜いた人は極く少数。東京の安全な場所で情報収集と検討に時間をかけすぎ、揚げ句のはてに意味不明の指示が現場に下りてくる(燃料問題や原発周辺の避難問題)。多少不明確でも、迅速かつ黒白を明確にしないと現場は動けない(屋内待避や自主避難といった中途半端な暫定措置を1ヵ月も)。他方、現場レベルでは「超法規的措置」リスクをとって頑張った人々がいるので、彼らに免じて限りなく不可に近い可。
 (c)使えない連中は、即時更迭。交代要員は不要。人数が減ったほうが、意思決定の質もスピードも上がる。

(3)経済復興に係る短期的課題
 (a)良(暫定的に、期待をこめて)
 (c)やるべきことは3つ。
   ①緊急の金融政策・・・・資金繰り倒産の連鎖を拡大させない。危機慣れしている金融財政当局の責任の範囲なので、初動は悪くない。今後は実行スピードが勝負。
   ②グローバルサプライチェーンを構成している生産拠点の操業の早期回復・・・・基本的には民間サイドの問題。政策的には金融面や税制面でのサポートになる。産業立地を日本に残すためには、アリバイ作り政策(法人税減税)ではなく、本格的なものをめざすべきだ。
   ③電力供給不足による消費や生産活動の過度の落ちこみ回避・・・・問題はピーク時対応なので、節電アピールはそこに絞りこむ。夜は遠慮なく電気を使い、浮いた電気代は東北の産品を買い、夏休みは長めにとって涼しい東北旅行を促す。

(4)経済復興に係る長期ビジョン 
 (a)不可
 (b)権限のない大人数の会議体をつくった。税と社会保障やTPP等の重要問題を先送りにしている。
 (c)ビジョン策定や財源を論じる際の根本的な価値基準は、子どもたちの世代によりよい故郷、祖国を残すには何をなすべきか、だ。負担は、子ども世代ではなく、高度成長のレールに乗っかって個人金融資産の大半を保有するに至り、その他方で政府の巨大な借金を積み上げてきた今の50~70代に求めるべきだ。この世代の資産と所得を再分配し、復興の原資とするのだ。経済財政諮問会議を復活させ、まとめて議論するとよい。

 以上、冨山和彦「菅政権 危機対応の通信簿と改善策」(「週刊ダイヤモンド」2011年5月14日号)に拠る。

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【震災】インフレという炎を煽る金融緩和 ~国債の日銀引き受け~

2011年05月07日 | ●野口悠紀雄
(1)世界経済の変化
 日本が大震災と原発事故への対処に忙殺されいる間に、世界経済が大きく変わった。インフレ圧力の高まりだ。震災前から進んでいた原油価格、金価格、食料品価格の高騰は、まったく収まっていない。これに対応して、欧米諸国は金融引き締めに舵を切った。
 世界的物価上昇の影響は、すでに日本の統計にも表れている。
 原油価格の上昇は、08年にも起きた。この時は、国内の消費者物価指数の上昇率が年率2%を超えた。これからも同じことが起きるだろう。国内の消費者物価指数は、今後必ず上昇する。
 為替レートは円安に進み、株価の下落は止まったが、輸出は増加しないだろう。震災によって設備が損傷したからだ。今後も電力制約があるので、生産設備が修復されても生産を回復できない。今夏(7~8月)、東日本では、電力需要を25%カットしなければならないので、生産はほぼ同率だけ減少する。これは、サプライムチェーンを通じて西日本の生産をも制約する。輸入インフレの圧力が強まる中で、円安が進み、生産が拡大しないのだ。
 円安は、輸出の増加をもたらさず、原材料コストを引き上げ、輸出関連企業の利益を圧迫するだろう。

(2)歴史はくり返す ~オイルショック~
 (1)は、石油ショック後の英国の状況と似ている。英国は、深刻なスタグフレーションに陥った。米国でもほぼ同じ現象が起きた。英米両国は、この時に受けた経済的打撃から20年間回復できなかった。
 日本は、総需要抑制政策をとり、金融引き締めを行った。円高が生じたが、容認されたため、ドル表示の原油価格が上昇したにもかかわらず、国内での影響は緩和された。
 石油ショックへの優等生的対応に、省エネ技術の開発、賃上げ要求の自粛なども寄与したが、なによりもマクロ経済政策が正しかった。
 供給制約の下で需要が増えればインフレーションになる。石油ショック時には、74年度予算に盛りこまれていた列島改造関連の公共事業が需要増加要因だった。それを急遽取り除いたのだ(もう一つの需要増加要因は、所得税の大減税だったが、田中角栄首相の強い意向でそのままになった)。
 今後の日本での需要増加要因は、復興投資である。しかし、これは取り除くことができない。需要を抑制するためになしうるのは、(a)金融引き締めで円高を実現することだ(輸出-輸入を減少させる)。(b)増税によって消費を減らすことだ。
 (a)も(b)もできなければ、インフレによって強制的に消費を抑制するしかない。

(3)金融緩和は破滅に至る道
 欧米職が金融引き締めに転じるのは、インフレ抑制のためだ。
 日本の物価動向は、実は国内の需給ギャップではなく、国際的な価格に影響されてきた。90年代以降、物価が上昇しなかったのは、新興国の工業化で工業製品が下落したからだ。資源価格が上がれば、日本国内の消費者物価も上昇する。日本は、08年にこれを経験した。経済危機によって需要が急減するまっただ中で、物価が上昇した。当時は、為替レートが円高方向に動いていたので、輸入インフレはある程度抑制された。
 しかし、今は円安方向に動いている。インフレ輸入の可能性はより高い。
 必要なのは、金融引き締めで円安を防ぎ(できれば円高を実現し)、海外からのインフレ輸入を防ぐことだ。日本は、石油ショックの時、そうした政策をとった。
 日本は今、石油ショック時と同じような供給制約に直面している。石油ショック時の供給制約は全世界で生じたが、今は日本だけが深刻な供給不足に直面している。総需要抑制、金融引き締めの必要性は、今のほうが高い。このまま円高回避政策を続ければ、石油ショック後の英国と同じ状況に陥る。
 石油ショック時には、消火活動は迅速になされた。だから火災の拡大を防げた。しかるに、今の日本は、消火に動こうともしていない。それどころか、国債の日銀引き受けによって、火に油を注ごうとしている。破滅に向かってまっしぐらの道を進もうとしている。

【参考】野口悠紀雄「迫る炎に油を注ぐ愚 インフレに金融緩和 ~ニッポンの選択第62回」(「週刊東洋経済」2011年4月30日-5月7日号)
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【震災】原発>原子力予算・埋蔵金を賠償に回せ、電気料金を値上げする前に

2011年05月07日 | 震災・原発事故
(1)政府のスキーム
 (a)東京電力が損害賠償の責任を一義的に負う。
 (b)電力の安定供給に支障が生じないよう(株式上場を維持して社債にも影響が生じないよう)賠償のための新たな機構を設立する。
 (c)そこに全電力会社から資金を拠出させ、政府も交付国債を発行し、巨額の賠償にも東電が耐え得るようにする。
 (d)東京電力は毎年の利益から機構に賠償金額を返済していく。
 (e)賠償負担の減資を捻出するため、電力料金を東電は大幅に、また他の電力会社もある程度上げる。

(2)政府のスキーム批判
 (a)発表されている東電のリストラ策ではまったく不十分だ。
 (b)本来は、株式については100%減資、社債などの金融債権もある程度のカットが行なわれるべきだ。
 (c)賠償や福島原発への対応で東京電力が債務超過に陥る場合、機構を通じて資本注入するよりも一時国有化すべきだ(資本注入は過少資本=債務超過に陥っていない場合に限定)。
 (d)政府の責任が曖昧になっている。種々の規制の存在、毎年投入される多額の予算からして、原子力発電は事実上、電力会社と政府が一体的に経営してきた。東電のみならず政府(具体的には原子力安全・保安院や原子力安全委員会)の責任は重い。

(3)賠償に充てるべき“原子力埋蔵金”
 (a)政府が損害賠償することはない。原子力損害賠償法第3条が定める“天災地変”に該当しない(同じ震災で女川原発には問題が生じていない)以上、東電が責任主体であるのは明らかだ。
 (b)機構に政府も多額の国費を投入するべきでない。政府の責任も重いが、新たな税負担や電気料金上げという国民負担を強いる形ではなく、“原子力埋蔵金”から供出する形で政府の責任を果たすべきだ。(財)原子力環境整備促進・資金管理センターには、電力会社の積立金(再処理積立金・最終処分積立金)が合計約3兆5千億円もある。
 (c)原子力関連の独立行政法人や公益法人の剰余金などは、すべて賠償に充てるべきだ。<例>最大の日本原子力研究開発機構には、年間1,700億円の予算が投入されている。
 (d)原子力関連予算のうち約2,300億円は、研究開発など原子力推進のために使われている。その中で核燃料サイクル関連の予算は520億円、放射性廃棄物対策の予算は170億円だ。国民感情を考慮すれば原子力推進などの予算の執行を停止し、原子力推進関連予算の例えば半分を賠償に転用するのは、政府として当然の対応だ。
 (e)原子力予算は、過去10年、毎年4,000億円台前半だ。今後10年も同じ規模が続くだろう。今後10年は毎年の原子力関連予算のうち1,000億円を賠償に供すれば、1兆円になる。<例>今年度、政府全体での原子力関連予算は合計4,330億円。うち、安全関連:570億円、立地関連:1,290億円(原発立地自治体への交付金)、国際関連:150億円、残り: 2,320億円。
 政府は、以上のように、その気にさえなれば数兆円の賠償減資を供出することができる。東電と政府の両者がこうした身を切る努力をした後、それでも賠償の資金が足りない場合に、初めて電力料金上げという形で国民にも負担をお願いするのが筋だ。

(4)電力不足に係る政府の責任
 東日本が今後しばらく直面する電力不足について、東電のみならず政府にも責任がある。電力会社の地域独占の継続と原発の推進を政府が容認してきた結果、原発事故によって電力不足が生じたからだ。
 政府はどう責任を果たすべきか。今夏については時間がないので、電力需要の抑制に頼らざるを得ないとしても、それは政府の失敗の責任を国民に転嫁することだ。来年以降の中期的な対応としては、電力の規制緩和という供給側の体制を変革してこそ、本来あるべき政府の責任を果たすことになる。
 政府は、損害賠償のスキームを5月10日に閣議決定しようとしている。東京電力は決算発表を5月17日に予定している。それに支障が生じないよう早めに損害賠償のスキームを確定したいらしい。本末転倒だ。閣議決定の案は、政府が自らの責任を国民にどう転嫁しようとしているかを明らかにするはずだ。すべての国民は厳しく監視すべきだ。

 以上、岸博幸「安易な電気料金値上げに走る前に原子力予算・埋蔵金を賠償に回せ ~岸博幸のクリエイティブ国富論【第138回】 2011年5月6日」(DIAMOND online)に拠る。
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【震災】原発>経済産業省の「電力閥」

2011年05月06日 | 震災・原発事故
(1)経産省からの天下り
 電源開発を含む11の電力会社に、経産相から13人も天下っている。
 資源エネルギー庁の前長官、石田徹は10数年前、電力の小売り自由化をめざして東電と戦った。その石田は、11年1月、副社長含みで東電の顧問に就いた。「監督官庁から取り締まられる側に転じて、なんの恥じらいもない」
 同様に自由化の急先鋒だった迎陽一は、自由化に猛反対した関西電力の常務に就いた。
 「最後は本人の生き方の問題だ」と2人の元上司は語る。

(2)松永事務次官
 石田の天下りを認めたのは、松永和夫・経済産業省事務次官だ。
 松永は、3月下旬、東電のメーンバンク三井住友の頭取にして全国銀行協会会長(当時)の奥正之頭取と秘かに話し合った。金融庁ではなく、経産相の事務次官がメガバンクの頭取と会うのは異例だった。会談の後、三井住友をはじめとする9行が東京電力に約2兆円を緊急融資した。松永が暗黙の保証を行った、と伝えられる。
 その松永は、かつて東電を規制する職にいた。資源エネルギー庁の部長の後、02年7月から05年9月まで原子力安全・保安院の次長、院長を務めた。
 在任中、阪神大震災を受けて、原発の耐震設計審査指針の改訂が行われた。改訂版(現行)の指針15ページのうち、津波への言及はわずか3行74文字。日本の原発は、すべて海岸にあるにもかかわらず、津波にはほとんど触れていない。

(3)日本の原子力行政
 (a)資源エネルギー庁・・・・石油ショックのあった73年、エネルギーの長期的な需給政策を企画立案するために設立された。大きな柱が原発の推進だった。
 (b)原子力安全・保安院・・・・01年の省庁再編の際、旧鉱山保安監督部が改組され、原発事故防止や事故時の対応を担当する規制部門として設置された。
 (c)原子力安全委員会・・・・(b)とほぼ同時期に、原子力安全委員会の事務局もかつて旧科学技術庁から内閣府に移った。(b)と(c)とがダブルチェックで安全審査を行う、という建前だ。

(4)安全規制の空洞化
 (3)の(a)、(b)、(c)の間で人事異動が行われ、実質的に一体の行政を展開してきた。経産相は、原発推進と原発規制の両面をコントロールしてきた。
 (3)の(b)つまり保安院には、その来歴からして鉱山やプロパンガスの専門家が霞が関の本院に101人いる。原子力分野は、251人だ。出先機関にいる防災専門家は自衛隊出身者がいる。保安検査官は、メーカーからの転職組が占める。文科省など6省庁からの出向組も35人いる。院長は事務官だが、ほとんどの課長職は技官が占める。技官は、資源、化学など細分化されて採用され、ポストも冷遇されてきた。畑違いの技官が原子力を担当している。
 米原子力規制委員会(NRC)が専門家をそろえた4千人態勢であるのに対し、いかにも貧弱だ。

(5)原子力行政再編の動き
 (3)の(b)を経産相から分離し、(3)の(c)と統合し、国家行政組織法上の3条委員会とする案が政府内に浮上している。公正取引委員会などと同じく、「庁」と同格の権限を持たせるわけだ。
 しかし、電力会社は強い政治力を持っている。「強い組織に担わせないと、電力にやられてしまいます」・・・・保安院と安全委を統合した上で環境省に移管する、といった抜本的改革をしなければ。   
 「あまりに無能な東電の陰に隠れて見過ごされがちだが、経産相は放射能汚染の原因官庁である」

 以上、大鹿靖明(編集部)「経産省『電力閥』と保安院」(「AERA」2011年4月25日号)に拠る。
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【震災】原発>「残留放射線」の恐怖

2011年05月05日 | 震災・原発事故
 09年5月、原子力安全委員会で新しい『耐震指針』を決める部会が開かれた。『指針』の文面に、想定外の危険が「残余のリスク」とされていた。予測された地震の規模に応じて倒れない原発を建設するが、予測を超えた規模の地震が起きたときには原発が壊れたり、付近住民が被曝しても仕方がない・・・・。
 専門委員だった武田邦彦・中部大学教授は抗議したが、黙殺された。
 福島第一原発事故は、『耐震指針』に沿って、「計画通りに起こった」のだ。設計、施工、運転ともに問題はなかったが、「その決め方、システムが悪かった」。  

 この事故がもたらした最大の災禍は、「残留放射線」で汚染された国土に、これからも住み続けなくてはならないことだ。
 かつて広島と長崎に原爆が落とされた後、救援のため市街地に入った11万人の人々は、残留放射線によって病気になった、と報じられた。白血病、複数のガン・・・・直接被曝した人の症状と同じだった。
 今回の原発事故で漏れ出た放射性物質も、そこに住む人、そこを訪れる人を蝕む。時間当たり2マイクロシーベルトが観測された会津若松や白河など、原発から100km圏内は、「残留放射線」の危険に注意が必要だ。

 むろん、時間が経つにつれ、放射線量は減っていく。
 核分裂生成物の半減期は、長短さまざまだが、おおまかに30年と捉えてよいだろう。半減期までに放射線が減っていく早さの目安は、3段階ある。(1)最初の4日で1,000分の1。(2)次の4ヵ月でさらに10分の1。(3)その後は余り減らない。
 (1)は、ほとんど考えなくてよい。問題は(2)の期間だ。
 被曝量は、それまでに取りこまれた放射性物質の積算量で考える。いくら時間が経過し、汚染度が低くなっても、毎日被曝するならば総被曝量は大変なものだ。

 <例>福島市の場合
 事故当初の汚染度は時間当たり20マイクロシーベルトだった。4ヵ月以内に2マイクロシーベルトまで徐々に減少する。それでも、平常時の値(時間当たり0.1マイクロシーベルト以下)より大変高い。
 しかも、これは体外被曝だけの数値で、空気(呼吸)、水、食物から取りこむ分は含まれていない。これらそれぞれを同じ2マイクロシーベルトと仮定して加えると、被曝量の合計は3倍の6マイクロシーベルトとなる。
 この数値を前提に試算すると、福島市で生まれたばかりの赤ちゃんが30歳になるまでに受ける総被曝量は、実に920ミリシーベルトに達する。
 これは胸部レントゲン写真を30年で2万回、1年間だと700回撮る場合と同じ数値だ。

 この程度の数値なら大丈夫、と無視するか否かは各自の判断だ。
 ただ、国際放射線防護委員会(ICRP)が1年間に浴びてよいとする放射線量は、1ミリシートベルトだ。<例>の赤ちゃんは、今後30年間を基準値の30倍もの放射線量を浴びて過ごすことになる。甲状腺ガンにかかるリスクが増える。
 ちなみに、年間100ミリシートベルトを浴びた人の100人に0.5人はガンになる、とされている。

 放射性物質が飛んできた地域では、それから完全に身を守る方法はない。建物にこもっても、換気しないわけにはいかない。畑、川、牛などに降り注ぎ、野菜、水道水、牛乳などに含まれていく。
 じわじわ広がるのが、放射性物質のやっかいなところだ。
 人体に取りこまれた放射性物質は、一部は屎尿となって排泄され、下水に流れ、処理場を経て海へと注ぐ。流れながらも無くなることはない。徐々に広がって、日本のみならず世界を汚染する。これが「残留放射線」だ。

 以上、記事「『残留放射線』の恐怖について」(「週刊現代」2011年5月7・14日号)に拠る。
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【震災】菅首相が(当面)続投すべき理由、辞めるべき時期

2011年05月05日 | 震災・原発事故
 大震災に直面して、日本政治は機能不全を露呈している。(a)菅政権の問題、(b)野党を含めた政党政治の問題・・・・の二層がある。

(1)菅首相は震災対策の基礎を固めるまで辞めてはならない。
 (a)地方選挙の敗北は理由にならない。国政選挙で選ばれた指導者は、国政選挙で辞めさせるのが筋だ。
 (b)民主党内での倒閣運動には、まったく大義名分がない。この国難のさなかに党内の権力闘争にうつつを抜かすような政党は、政権担当の資格がない。民主主義政治に加わる資格もない。民主党が結束して必要な政策を決定、実行することに死に物狂いにならないなら、国民は民主党を決定的に見放す。
 (c)自民党は、仮に政権を担っていても民主党以上の対応はできなかった。復興策の財源や原発の将来をめぐる谷垣禎一総裁の発言の軽さを見れば、民主、自民の対立はどんぐりの背比べだ。
 (d)皮肉なことに、ねじれ国会において野党は法案の正否を左右する権力を握っている。野党が反対して法案が成立しないという印象を国民が持つならば、政党政治そのものを拒絶する感覚が広がるであろう。当面の震災対策には野党も協力しなければならない。

(2)菅政権がなすべきこと
 今までの震災対応の不十分さを率直に検証、反省し、政策内容と政策決定の仕組みについて基本的な枠組みを整備しなければならない。
 (a)震災対策に係る菅政権の混乱は、「政治主導」の空転と表裏一体だった。
 (b)特に原発について、問題を作り出した経済産業省と東京電力に、情報や技術知識の提供を頼らざるをえないために、政治主導はジレンマに陥った。官邸が独自にブレーンを置いても、独自に情報を集め、対策を練るのは難しい。対策会議を置いても、役割や権限は不明確で、会議は踊った。
 (c)地震の復興について、被災地域の再建・被災者の生活・生産の再建のためどのように財政資金を投入するか、明確な指針を示す。

(3)指導者がなすべき意思決定の課題
 (a)政治家は、全体を見渡して決定をくだす責務を負う。個別的問題に具体的な答を出す必要はない。震災のショックという多面的問題を、解決可能な要素に分割し、答を書ける問を専門のチームに割り当てるのが指導者の役割だ。菅首相の迷走も、この点についての誤解に起因していた。
 (b)復興構想会議に、具体的な役割を与えなければならない。特に①1~2年の課題(被災者・地域に対する直接的支援策や市街地再建)と②中期的な文明論(原発依存の低減・自然エネルギー開発・生活様式見直し・TPP)を切り離すことが必要だ。
 (c)地震対策も原発事故対策も、従来の法制度では対応できない規模の問題だ。新たな法律上の課題が目白押しだ。こうした分野ごとに政治家を集めたチーム(超党派)を立ち上げ、議論がすぐさま立法に結びつく仕組みを整備するべきだ。
   ①地震対策・・・・インフラと地域基盤の再建、農林水産業や中小企業の生産設備の再建、教育・医療サービスの供給。
   ②原発事故対策・・・・鎮静化のための技術的対応、補償のための仕組みの整備、避難者への生活支援。

(4)菅首相の最大の使命
 すべての救援・復興政策の土台となる基本理念を明確に示すことだ。
 (a)被災地の復興のために公的資金の投入を惜しまない。
 (b)財源は、時期はさて措き、国民連帯によって確保することを基本原則として打ち出す。
 「野党の協力を引き出すためには、震災対策の基本が固まったら身を引く覚悟を示すことも必要である」

 以上、山口二郎(北海道大学大学院教授)「対策固まるまで続投を 復興政策の理念示せ」(「週刊東洋経済」2011年4月30日-5月7日号)に拠る。
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【読書余滴】三崎亜記の、海に沈んだ町

2011年05月04日 | 震災・原発事故


 9編の短編小説をおさめる。全編、近未来小説とも寓話ともいえる。どの短編にも共通して色濃く漂うのは喪失感だ。

 寓意がことに目立つのは「午前四時八分」。ひとつの町全体が、標題の時刻以降、眠りについたのだ。例外的な少数が覚醒し、そして眠ることがない。歳をとらない。覚醒者は、旅人を無事に町の外へ連れ出すべく案内する。次の町にも、寓意に満ちた異変が起きている。

 表題作「海に沈んだ町」は、このたびの震災を予知したかのような作品だ。少なくとも評者の読後感は、震災前とそれ以降ではまったく異なった。「失って初めてわかることもある」と主人公はつぶやく。ありふれた感慨だが、まるごと失われたものが故郷となると切実だ。

 「橋」では、市役所から委託を受けた(小説では不明の機関の)女性が、一介の市民にカフカ的迷路をもたらす。昨日かくてありけり、明日もかくてありなむ、の日常性のもろさを剔抉する。これも、震災前とそれ以降では異なる読後感を与える作品だ。

 書き下ろしの「ニュータウン」は、喪失感が希望に転じている。国家にささやかな抵抗を試みる庶民のエネルギーと狡猾さ、連帯が描かれて、読者にかすかな笑みをもたらす。幾分重苦しい作品群の最後にかかる作品を配するとは、心憎い。

 白石ちえこの、随所に挿入された写真は、それ自体、鑑賞に耐える作品だ。小説と併せ眺めるとき、言葉なき写真の背後に無数の言葉が河となって流れているような錯覚を与える。

   *

 本書は、アスパラクラブのブックモニターとして3月8日に受理、一読。震災後に再読し、震災前とは別の感銘を受けた。

【参考】三崎亜記『海に沈んだ町』(朝日新聞出版、2011)
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【震災】原発>小佐古敏荘・内閣官房参与辞任の真相 ~【佐藤優の眼光紙背】~

2011年05月04日 | ●佐藤優
 4月29日、小佐古敏荘・東京大学大学院教授が、4月30日付で内閣官房参与を辞任する意向を表明した。同教授は、チェルノブイリ原発事故の研究家として国際的に認知されている。3月16日、内閣官房参与に任命された。
 辞任は、政府に対する抗議であった。政府の福島第一原発事故の対処が、「法と正義」の原則に則さず、「国際常識とヒューマニズム」にも反している、という糾弾だ。
(1)福島県の小学校などの校庭利用に係る政府の線量基準(年間20マイクロシーベルト)を、乳児、幼児、小学生に適用することは絶対に受け入れられない。
(2)福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県など関東、東北の全域にわたって、隠さず迅速に住民の放射線被曝線量(甲状腺等価線量・実効線量)を法令、指針の定めに従って正直に開示せよ。その場かぎりの「臨機応変な対応」で、事態収束を遅らせるな。

 4月30日の枝野幸男内閣官房長官の会見記録によれば、小佐古教授の批判を「誤解である」と繰り返し批判している。政府/内閣としてのファーストオピニオンは原子力安全委員会であり、参与はセカンドオピニオンだ。文科省が示した指針等については、「原子力安全委員会はもとより、官邸の原子力災害の専門家グループでも放射線医療等の専門家の皆さんの意見はおおむね一致している 」。
 枝野長官の理屈が正しいならば、小佐古教授は専門分野でない放射線医学の分野で自説に固執し、それが受け入れられないので辞表提出、記者会見という極端な態度をとって国民を惑わせたことになる。
 ほんとうにそうなのだろうか?

 空本誠喜衆議院議員(民主党)【注】によれば、履歴からして、小佐古教授は線量計測分野、特に放射線の人体に与える影響の研究に係る国際的権威だ。しかも、「ICRP(国際放射線防護委員会)の委員を12年務め、ICRP2007年勧告などの基準作りの中心的人物で、特に1~20mSvを決め、10年かけて決めてきた経緯を全て知っている」。
 「小佐古先生は原子炉の専門家で、放射線の人体に与える影響に関する専門家ではない」とは、枝野長官は誤解しているのではないか。
 官僚は自らの過ちを認めたがらない。小佐古教授に関して、「極端な意見に固執する学者がただでさえ複雑な状況を一層複雑にしています」というような情報操作を、官僚が枝野長官に対して行っているのではないか。
 日本国民の生命と健康、特に子どもたちの未来に直接かかわる事案だ。政府が官僚の面子にふりまわされていたら、国益(国民益+国家益)を毀損する。

 【注】早稲田大学理工学部卒、東京大学大学院工学研究科博士課程修了、工学博士。1994年、は応用物理学会から放射線賞奨励賞を受賞。「原子力分野にもっとも通暁した国会議員」

 以上、佐藤優「小佐古内閣官房参与の爆弾発言に注目せよ 佐藤優の眼光紙背:第102回」(BLOGOS)、同「小佐古内閣官房参与辞任について、枝野官房長官は情報操作されているのではないだろうか? 佐藤優の眼光紙背:第103回」(同)に拠る。
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【震災】原発>「風評被害」の元凶は誰か? ~情報開示のあり方~

2011年05月03日 | 震災・原発事故
(1)不適切な情報開示 ~農産物~
 政府やマスコミは消費者の買い控えを「風評被害」と呼ぶ。まるで消費者の行動が合理的でないかのような、まったく的外れの表現だ。
 政府の情報開示が不十分だから、不信感を持たれるのだ【注】。
 政府は、食品について地域別・品目別の詳細な汚染情報を開示しない。政府が定めた安全基準より放射線量が多いものを出荷停止としただけだ。それ以上の情報を出さない。
 放射線レベルが高まった3月17日に、水道水の摂取制限や飲料・食品の出荷停止基準を大幅に緩和した。これも不信感を増大させた。
 こうした状況では、できるだけ体内被曝を避けたいと考える消費者が、原発に近い地域の農作物をすべて敬遠するのは当然だ。かくて、まったく汚染されていないものまで価格が大幅に下がった。

(2)政府が本来とるべき行動
 徹底した情報開示で市場機能を回復させるのだ。
 放射能に汚染された地域の農地や港から出荷される生鮮食品については、ロットごとに汚染の水準を表示して販売する。表示を偽った業者には厳しい罰則を課す。安全基準内であれば、汚染水準の開示を条件に出荷を認める。
 そして、次のようなやり方で、汚染された食品が出回るのを防ぎ、汚染されていない食品が売れずに生産者が不当な損害を被ることも阻止できる。

 (a)開示制度が信頼を得られれば、汚染度合いが非常に低い産物には、通常の価格がつくはずだ。
 (b)汚染があっても基準を下回るものには、それ相応の安い値段がつく。これは風評による安値ではなく、市場が評価した正当な値段ということになる。
 (c)安全基準を上回って汚染されている食品は、出荷を停止し、その損失は東京電力が直ちに買い取りに応じることで補償する。
 (e)(b)の汚染によって下落した商品の価格と、汚染されずに正当な価格がついている商品との差額を東京電力が補償する。

 【注】危機を過小に見せようとする政府
 (a)放射線量のピークは、水素爆発が相次いだ直後(3月14~16日)だが、十分な対応をとっていない。  
 (b)水素爆発直後の数週間は本来もっと広範囲の住民に対して避難勧告し、ことに風下の住民に対して警告を発するべきであった。
 (c)3月30日、IAEAが飯館村は放射線量が高く避難するべきだ、と指摘したが、4月11日まで意思決定を先延ばしにし、さらに1ヵ月以内の「計画避難」という中途半端な指示を出した。
 (d)被曝リスクは累積線量で考えるべきだが、時間当たり線量で発表を続けた。
 (e)首相官邸のホームページには、国際機関によるチェルノブイリ原発事故の報告の一部が掲載されているが、肝心の「長期的には9,000~1万人がガンと白血病により死亡する」との見通しを載せていない。
 (f)気象庁や日本気象学会は、風に乗って広がる汚染を予測して避難を呼びかけるべきだった。しかし、気象学会は学会員に対して、汚染情報を公開しないように、との通達まで出した。学会の自殺行為だ。

 以上、深尾光洋(慶應義塾大学教授)「『風評被害』の元凶は誰か 政府の情報開示法は誤り」(「週刊東洋経済」2011年4月30日-5月7日号)に拠る。
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【震災】原発>原子炉の欠陥を知りながら放置した東電

2011年05月02日 | 震災・原発事故
●「マークⅠに問題あり」/デール・ブライデンボー(79)、元GEプロジェクトマネージャー、マークⅠ設計者、米カリフォルニア州
 福島と浜岡の原発は、私(ブライデンボー)が扱っていたマークⅠ型原子炉を使っている。
 ゼネラル・エレクトリック(GE)に在任中の75年、マークⅢ型原子炉のテスト過程で、大事故のような異常な負荷に耐えられない、ということに気づいた。格納容器をデザインし直す必要性が生じた。それで、マークⅠにも同じ問題があるはずだ、ということになった。
 米原子力規制委員会(NRC)は、マークⅠを所有していた16の電力会社に書簡を送り、私が16社をまとめて「マークⅠオーナーズ・グループ」を作り、GEに問題解決を求めた。当時稼働中のマークⅠは、米国内に16基。ところが、GEは問題を外部機関に委ねたため、私たちはマークⅠの原発を閉鎖するべきかどうかもわからない状態が1年余も続いた。

 76年2月、私は同僚2人とGEを退職し、NRCとともにマークⅠの製造中止をGEに働きかけた。
 米国内のマークⅠに必要な追加開発と改良が完了するのに5年もかかった。

 これら一連の経過は、日本、ドイツ、スイスのマークⅠオーナーにも連絡がいったはずだ。
 福島原発事故は、マークⅠの構造が事故の発端だったことは間違いない。マークⅠの冷却システムは、限定的な容量しかないため、緊急時の電源供給が途切れると冷却し続けることができなくなる。爆発が起こる。このことは、GEも東京電力も認識していたはずだ。マークⅠは、依然として格納容器の損傷につながるほど、ダメージを受けやすい問題がある原子炉なのだ。

 以上、記事「100人の証言」(「AERA」臨時増刊No.22 2011年5月15日号)に拠る。
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【震災】原発>行政改革で規制機関の独立性が消えた

2011年05月02日 | 震災・原発事故
●「原子力に『役所の論理』 行革で独立性が消えた」/中川秀直(67)、元官房長官・元科学技術庁長官、東広島市
 福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」は、開発段階でいえば実験炉の次の原子炉だ。冷却材は水ではなくてナトリウムを使う。
 そのナトリウムが配管から漏れて燃える事故が95年12月に起きた。
 私(中川)は、その1ヵ月前に発足した橋本政権で科学技術庁長官に就き、政府の原子力委員長として原因究明にあたった。
 配管の破断した部分が設計図と違っていた。つなぎ目の強度が足りなかった。
 あれだけ精緻なシステムでもミスが起こるのだ。

 原子力は、一度事故が起こると地元住民の不信感を簡単には払拭できない。
 事故発生4ヵ月後、敦賀市民を対象に、「大臣と原子力を語る会」を開いた。私の口から率直に話した。反原発の有識者会議も10回は開いた。報告書作成に当たり、スタッフと細かいところまでやりとりした。私が一字一句チェックし、根拠もここに書け、と。1年以上かけて信頼回復に努めた。

 科学技術庁では、原発推進の原子力委員会と、規制監督の原子力安全委員会が同じフロアにあった。私は、原子力安全委員会を別フロアに移動させ、両者の間のファイアウオールを強化した。両委員会とも会議をほとんど一般公開した。
 原子力安全委員会は、公正取引委員会のように行政から切り離し、事業者に指示命令できる強い権限を与えるべきだ(当時の中川の立場)。
 訪米したとき、米原子力規制委員会のスタッフが4千人以上いると聞いて驚いた。日本の態勢が不安になった。いまだに、内閣府、経産相、地方を合わせて700人程度だ。

 私が退任後、橋本行革で省庁再編が決まった。科学技術庁は文部省と合体し、経済産業省に原子力安全・保安院ができることになった。学者で構成する原子力安全委員会は内閣府に残ったが、もともとあった独立した存在感、強さがどこかに消えて、官僚主導の保安院が圧倒的に強くなった。
 審査の独立性を高めるべきなのに、当時の通産省は時代に逆行するように、組織内に取りこもうとした。「原子力に役所の論理を持ち込むな」と忠告したが、幹部諸君に押し切られた。「私の力不足でした」

 案の定、規制監督する保安院を原発推進の経産相に置いたことが、福島第一原発の事故で裏目に出た。各機関で説明がバラバラ。ポンプ車の投入に時間がかかる。米軍の支援も断ってしまった。防護服や測定器さえ自前では足りない。
 IAEAのようなリスク管理を必死にやっている機関の援助を初動段階から求めないと、態勢が追いつかないのは想定できたことだ。
 これだけ国際問題になっているのに、政府は対応を一企業の東電に押しつけたままだ。国として無責任だ。

 以上、記事「100人の証言」(「AERA」臨時増刊No.22 2011年5月15日号)に拠る。
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【震災】原発>東電は、被爆者がガンに罹っても補償しない ~100人の証言~

2011年05月01日 | 震災・原発事故
●「後に影響が出ても誰も責任はとらない」/鈴木篤(65)、弁護士(江戸川法律事務所)
 福島第一原発の事故現場では、当初、放射線量を測る線量計が足りなかった、という。
 ならば、被曝量を測らずに作業していたのか。
 通常の被曝線量の上限は、累積100ミリシーベルトだが、今回特例として250ミリシーベルトまで上限が引き上げられた。これから何年か経過したとき、作業員に何らかの症状が現れるのではないか。

 私(鈴木)は、77年から82年まで福島第一原発などで働いていた男性の裁判を担当した。男性は、退職後に多発性骨髄腫と診断され、一審中の07年に死亡した。
 被曝による労災は認定されたが、損害賠償を求めた訴訟では、東電側は責任を認めず、請求は棄却された。
 放射能被曝と多発性骨髄腫の因果関係が認められなかったのだ。

 因果関係以前に、多発性骨髄腫ではない、という主張を、一審、二審で東電側は繰り返した。直接診断していない医師や御用学者を引っ張り出して反論する。そこまでして責任を否定する姿勢は、腹立たしかった。
 高裁でようやく因果関係が争点になった。
 が、それを裁判所が認めるためには、「高度の蓋然性」が必要なのだ。可能性ではダメだ。
 因果関係は疫学によって証明される。原因確率が8割・・・・というのが判例だ。本来5人に1人発症するところを4人発症しないと裁判所は認めないのだ。

 男性の場合、疫学調査の結果、原因確率は6割だった。ただ、疫学調査は、純粋に科学的な立場で調査しているものもあれば、推進派の立場からしている調査もある。
 だから、報道を見ていると背筋が寒くなる。「100ミリシーベルトまでは問題がない」・・・・。私が担当した男性の被曝量は、4年3ヵ月で70ミリシーベルトだった。
 線量計を持たない周辺住民も心配だ。この男性レベルの被爆者は相当いるのではないか。
 将来、誰が責任をとるのか。
 男性は、多発性骨髄腫で労災認定されたが、法廷外補償では裁判に負けた。
 この判例は、今後何万人と出てくるであろうガン患者が賠償請求する際、東電に有利なものとなる。

 以上、記事「100人の証言」(「AERA」臨時増刊No.22 2011年5月15日号)に拠る。
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【震災】原発>100人の証言(抄) ~地元の責任・支援者の立場・風評被害防止策~

2011年05月01日 | 震災・原発事故
●「まず地元町長よ、謝れ」/内装業男性(60)、福島県いわき市→東京都足立区避難所
 いわき市や南相馬市など大きな人口を抱える周辺自治体が、原発開設に係る意思決定に関与できなかったことが大きな問題だ。地元の小さな町が、活性化や雇用のために原発は安全だ、と主張して押し切ってしまったのだ。
 地元の町長たちの中には、「事故で裏切られた」と言っている人もいるが、「ふざけるな」。自分たちが同意しなければ、原発はできなかった。町の自己責任は大きい。
 自分たちの町がつぶれるだけならまだしも、周辺のこれだけ多くの人に被害が広がっている。この責任をどう考えているのか。まず、地元の町長から周辺自治体の住民に対して「申し訳ない」の一言があってしかるべきだ。
 県知事も同じだ。「ノー」と言っていたら、原発はできていなかった。
 福島出身の政治家たちも、選挙のときはしょっちゅう顔を出しているのに、原発事故後はほとんど顔を見せない。ふだんはテレビでしょっちゅうコメントしている政治家も、ニュース番組で見ることすらない。
 こんなに大事故が起こったのに、責任を誰もとらない。

●「『鴨川モデル』の定着を」/鯨岡栄一郎(39)、介護老人保健施設「小名浜ときわ苑」施設長、福島県いわき市
 施設には、150人の入所者がいる。30人のデイケアも実施している。地震で施設の一部が損壊した。断水もあった。食事は1日2回、おにぎりなどに限られた。
 施設は、福島第一原発から50キロ離れた場所にある。避難地域ではなかったが、安全第一を考え、いつでも他県に避難させられる態勢にした。
 原発事故が長引くにつれ、入所者やスタッフに疲労と不安が増していった。千葉県鴨川市の「かんぽの宿」が受け入れる、という。県外避難を決めた。3月21日、バス6台に分乗して、6時間かけて到着した。
 施設がまるごと他県に移る間も、入所者が介護保険を使えるようにしなければならない。いわき市から鴨川市の幹部に連絡をとってもらった。
 医療機関との連携は、宿舎近くの亀田総合病院が引き受けてくれた。
 災害時の避難、介護保険に係る解釈は、このような「鴨川モデル」が定着していくといい。
 避難先では食事や入浴が普通にできた。しかし、家族を福島に残したまま入所者とともに避難してきたスタッフが多く、ストレスがたまっていった。スタッフの子どもの入学式など家庭の事情も生じた。
 損壊した施設は応急的に復旧した。いわき市に戻ることにした。4月10日と11日の2回に分けて戻った。
 原発や地震の不安は残るが、家族と離れて避難先でケアを続けるスタッフの立場も後回しにはできない。

●「迅速な情報公開で被害を食い止めた」/伊藤俊彦(53)、農業生産法人・販売会社長、福島県須賀川市
 1990年代半ばに発足した農業生産法人「稲田アグリサービス」社長として、専業・兼業あわせて150軒の農家とともに有機栽培で、注文に応じて米、酒米、野菜を作っている。需要のあるものを作る生産方式のシステム化に成功し、需給のバランスを維持してきた。
 また、有機野菜などの班美会社「ジェイラップ」社長として、米や野菜の宅配サービス会社と提携しながら、長年、消費者に安全な食品を提供してきた。
 原発事故の3日後、玄米やキュウリについて放射能の測定機関に独自に依頼した。結果をホームページなどで積極的に公表した。
 幸い「検出せず」という結果がでた。いまのところ、量販店など一部の取引先を除き、注文のキャンセルはほとんどない。

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