ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2016.6.17 集合住宅に思いを寄せて~海よりもまだ深く&団地~

2016-06-17 21:18:22 | 映画
 高度成長期のシンボル、“団地”を舞台にした映画を2本観た。
 1本目は、ご贔屓の俳優・アベちゃんがダメダメ50男を演じた「海よりもまだ深く」。2本目は、映画出演は16年ぶりという藤山直美さんのために書き下ろされた完全オリジナル脚本の「団地」。

 どちらもその舞台は古き良きエレベーターのない団地だ。
 私自身、集合住宅に暮らすのは就職後、小さなマンションで一人暮らしを始めて以降のこと。3歳で今の実家に引っ越すまではアパート住まいだったというが、これは殆どというか全く記憶にない。
 けれど、四半世紀弱暮らした実家の近くには、街の名前を冠した第○団地といわれる大規模な集合住宅があり、当然幼稚園、小学校、中学校の友人たちもここに住んでいる人たちが多かった。

 母親役の樹木希林さんが甲斐性なしの息子・アベちゃん演じる良多に向かって「まさかここに40年も住むと思わなかったわねえ~」と呟いていたけれど、当時、団地の友人宅に遊びに行くと、「うちも今にここを出て○○ちゃん(私のこと)よりも大きな家に引っ越すからね」と友人のお母さんに言われ、子ども心になんとなく居心地の悪さを感じたものだ。

 団地は生涯住むところではなく、いずれは一戸建てに、という夢の途中の住処だったのかもしれない。けれど、私は私で平屋でなくて階段があって(当時は4,5階建てでエレベーターがない団地が殆どだった。)、我が家より見晴らしが良くて、コンパクトで機能的な2DKや3DKのベランダのある家はいいなあ、などと思っていたのである。なんとも隣の芝生、である。

 妻に見切りをつけられ、未練タラタラで離婚した主人公の良多は、ギャンブル好きでかつて1作、賞を取って以降鳴かず飛ばずの小説家。今は取材と称して探偵事務所で糊口をしのぎ、半年前に急逝した父の形見を換金しようと実家にこっそり忍び込むようなトホホな男。養育費もろくに払えず、1ヶ月に1度面会を許されている11歳の息子と会うことだけが楽しみだ。

 その息子と元妻が台風のために、偶然訪れた団地の実家で足止めを食らい、期せずしてともに1晩を過ごすことになる。
 もしや復縁の可能性はないのか、といそいそと得意な料理を振る舞い、川の字に布団を敷く母。宝くじが当たったらおばあちゃんも一緒に暮らそう、と孫に言われて涙ぐむ母。ダメ息子の母の気持ちも、ダメ夫が嫌いになり切れずにいる元妻の気持ちも、両親の間に挟まりつつ、彼なりに皆に気を遣う思春期直前の真悟君の気持ちも、なんだかとてもリアルに想像出来て、にやり、くすりとしながらもしんみり切なくなってしまった。

 それにしても「エヴェレスト 神々の山嶺」で孤高のアルピニストを演じたかと思えば、こんな風采の上がらないダメ息子もぴったりハマるようになったアベちゃんはいい役者になったなあ、と贔屓の引き倒しの私は思う。

 一方、団地。
 最愛の一人息子を不慮の事故で亡くし、悲しみを抱えたまま家業の漢方薬局を畳んで大阪近郊の古ぼけた団地に引っ越してきた初老の夫婦が主人公だ。ここに昔の顧客だったというちょっと変わった青年が登場する。岸辺一徳さん演じる夫・清治さんの訳ありな行方不明事件を経て、ラストには夫婦揃ってこの青年に連れられて・・・というSFファンタジーなのだけれど、ひたすら夫婦漫才顔負け、丁々発止の会話がメインの、大阪らしいテンポの映画。おもしろうてやがてかなしき、というか、ヒナ子役の藤山さんの一人芝居の流石なことと言ったら。

 彼女はパートでスーパーのレジ係をしているが、上司いわく鈍臭くて(顔なじみのお客さんへの対応が丁寧すぎて)クビになってしまう。それでも店の裏口で一人、手を動かしてバーコードの読み取りをする仕草を淡々と繰り返す姿には涙を誘われてしまった。

 どちらも甲乙つけ難く、観て決して損はしない作品だと思う。
 団地という存在は、かつて日本を支えてきた人たちの憧れの住まいだったのだと、懐かしくもほろ苦い感じが心に残る。

 おかげさまで今日無事に55歳の誕生日を迎えました。“四捨五入すれば60歳!”と自分で書いて思わずのけぞっています。よくぞここまで生き延びることが出来ました。
 これからも細く長くしぶとく、マイペースで頑張り過ぎずに頑張っていきます。引き続きどうぞ宜しくお願いいたします。

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする