2021年6月2日(水)
父は人生のある時期から、ささやかな証券投資に手を染めていた。といってもつきあい半分で二、三の銘柄を買った後は、ごく限られた金額を証券会社に預けてほったらかしという呑気なものである。それでも何十年か経つ間には思いがけない実入りを生んだこともあり、居住地沿線の鉄道会社からは今でも株主優待乗車券がプレゼントされる。それで稼ごうなどと妙な魂胆を起こさない限り、ちょっとした楽しみの種にはなるらしかった。
証券会社とのそんなつきあいを「譲る」と一昨年あたり言い出したのは、終わり支度の一環であるらしい。書類一件、電話一本であっさり事が足り、それ以来、証券会社の月報が自分宛に送られてくるようになった。
これがなかなか面白いのである。
幼年期から金勘定ぐらい苦手なものはなく、儲かるの儲からないのという話には関心もなかったが、考えてみれば偏った話である。投機的な修飾を削ぎ落としてみれば、あるものが儲かるのはそれが人に必要とされている証拠であり、いま何が儲かっているかは、現代の生活者が何を必要としているかに直結する。
そう思って読めば、A3判4ページの月報紙面は面白いばかりでなく相当勉強になる。特に自分のような世間知らずにとっては。
2021年5月号はとりわけ学びが満載。
1面、「5月の参考銘柄」に挙げられた4つの企業は、それぞれ「土壌汚染の浄化事業を主力とする環境関連会社」「中京地域を地盤とするコーヒーチェーン店」「鉄鋼の原料となるフェロマンガンを主力製品とする電気工業」「子供服を手がける製造小売業」である。
コーヒーチェーン店については、コロナ禍で外食チェーンが軒並み大打撃を受ける中、「1ケタ台の減収、30%の営業減益に損害をとどめた健闘ぶり」が注目され、その背景として「在宅勤務者が利用しやすい郊外中心、お一人様客が多く「密」の危険度が低い、アイドル(閑散)時間帯が少なく回転率が高い、非アルコール商品が中心、テイクアウトに向いている」といった特性が明快に指摘されている。
子供服メーカーについては、端的にECが収益を牽引したのだと。恥ずかしながらECが何の略だか、ここで初めて知った自分である。
2面は全面が今秋発足する「デジタル庁」とデジタル改革の紹介にあてられ、同改革を支えるIT企業の将来性が論じられる。オチは「どの銘柄を買うか」に決まっているとしても、まずは国連社会経済局の資料から「世界の電子政府ランキング」を示す説き起こしが天晴れである。ちなみに2018年・2020年の同ランキングで不動の首位がデンマーク、韓国が3位/2位と健闘、日本は10位/14位とふるわない。
さて、今回最も印象的だったのが3面で、この面のテーマは「自動車積載用リチウムイオン電池」である。これまたリチウムイオン電池の原理や特性、リユース(再利用)とリサイクル(再資源化)の違い、前者は実用化段階にあり後者は2030年以降の普及が見込まれることなど、実に手際よく説明されている。
当然ながらこのテーマは環境問題と関連しており、それも二酸化炭素排出抑制という正面に加え、リチウム電池で使用される希少金属の枯渇回避という側面がある。これらを掘り下げていくと、たとえばもう一つの愛読月刊誌である『グリーンパワー』(森林文化協会)の論題と不思議に重なってくるのである。
一方は株式投資、他方は環境保全と全く違った立場から共通のテーマが浮き彫りにされるとしたら、それはこのテーマの喫緊の重要性を裏書きするものであろう。economy も ecology も、元を質せば一つの eco < οίκος をどう整え営むかに関わることである。電池というエネルギーパックが、今はその結節点に位置しているわけだ。
勉強になりました。
(それにしても現代のわれわれの生活は、少々電池(電気)に依存しすぎていないだろうか?体重を測るのになぜ電池が必要か、昔ながらのバネ秤で十分なのに、今は買おうにも売っていない。体温計も同じで、水銀がよくないなら別の素材が工夫できないものか。カメラが電池を必要とすることをMが嘆いたのはもう40年も前のことだが、これは銀塩フィルムが便利で安価なデジタル媒体に置き換えられてしまったから、もう元には戻せまいけれど。停電したら水も止まるというのでは、防災上も甚だ落ち着かない。そして原発!)
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