散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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costellation ~ 星座または布置 

2023-04-13 12:04:56 | 日記
2023年4月7日(金)

 A子さん、おっしゃるとおり「布置」は constellation の訳語です。「布置」という字面から意味はわかるけれど、聞き慣れない言葉ですよね。ユングの文脈で御覧になったとのことでしたが、私も心理療法とりわけ精神分析系の人々が好んで使うのを耳にしてきました。
 ユングもフロイトもドイツ語話者ですからドイツ語の Konstellation まで遡るのでしょうが、ともかく彼の地のフロイディアンやユンギアンがこの言葉を使っており、その意味ありげな雰囲気を感じとった翻訳者が、同じ様に意味ありげな訳語として「布置」という言葉を選んだのでしょう。私だったら「位置どり」ぐらいに言い流しておきたいところです。

 constellation という言葉は楽しいもので、辞書を引くと第一に出てくるのが「星座」、ついでその比喩的な用法として「(着飾った紳士淑女などの)一群」とあります。日本語でも「きら星のような」などと言いますね。
 ドイツ語では「星座」が第一義なのは同じですが、比喩的な用法は英語と違って「情勢、状態」などとあります。"die politische Konstellation hat sich verschoben" で「政局が推移した」と。日本語の「星回り」とやや違うものの、通じるところはあるでしょう。風向きが変わったというところですか。
 何しろラテン語の星に由来する stella に接頭辞 con-(kon-) が付いたもので、由来もすっきりした美しい言葉です。
 これを心理療法に転用する際、語源を踏まえてちょっとした造語が行われているようです。夜空に群がる星々の偶然の拡がりの中に、あるパターンを見てとるのが「星座」というものの認知的な意味合いでしょう。そしていったんそのようなパターンを受け容れてしまうと、それ以外のものとして群星を眺めることは非常に難しくなります。ゲシュタルト心理学などが注目する図地反転のからくりですね。
 そのように、一見雑然と分布する要素の配置の中に、ある必然的な意味を見いだす作業を分析家たちが行い、そうした意味ある配置のパターンを比喩的に constellation(Konstellation)と呼んだのでしょう。星座の多くが、人の心に生まれた物語の天空への投影であることも、天から人へ逆向きの転用を励ましたに違いありません。
 そして僕は分析家たちのそうした仕掛けを、さらにつまみ食いしているというわけです。

 ところで constelletion という言葉にはちょっとしたいわくがあり、僕はこの言葉を幼児期から知っていました。
 福岡から東京に移った二~三歳の頃、両親が何かの折りに羽田空港へ連れていってくれたのです。そこで見た当時評判の旅客機が Super Star Constellation という機種だったそうで、すっかり夢中になったこの坊やはそれからしばらくの間、回らぬ舌で「スーパースターコンステレーション!」と叫び続けていたのだとか。
 もちろんそれを自分で覚えているはずもなく、愉快そうに思い出を語る母から聞かされて、二次的に定着した伝聞記憶に過ぎませんが、いま検索すればそれらしい機種が確かに存在していたらしいのが面白い。たとえば下のものです。
 この坊やが長ずるに及んでロッキードやボーイングなどと聞いた途端に目をつりあげるようになるのは、ずっと後の話なのでした。

 
L-1049「スーパー・コンステレーション」の派生型 L-1649「スターライナー」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%89_%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

Ω

二十四節気 清明

2023-04-05 09:12:32 | 日記
2023年4月5日(水)

 贈られた本から、折々に転記してみる。
 
 本日は二十四節気の清明、旧暦三月の節気である。以下、引用:

 …清明とは「清浄明潔(しょうじょうめいけつ)」を略した言葉で、春浅い時期の、清らかで生き生きとした様子を表しています。
 菜の花をはじめ、さまざまな草木に花が咲きはじめます。鳥はさえずり、蝶や虫の姿が目につき、野に山に生命力が溢れる気配を感じます。まさに春たけなわの時候でしょう。
『和の暦手帖』P.42-43

 この記述は昨今の実感としては、もう一、二旬早い時期にふさわしい感じがする。三月に帰省した折りの風情で、書き漏らしているが3月14日に善応寺でツバメを見た。末尾に示したとおり「玄鳥至」が清明初候というのだから、ちょうど二旬のズレである。
 細かいことはさておき「花が咲きはじめ、虫の姿が目につき」は真に実感、閑散としたベランダにもちゃんとその気配がある。

 茉莉花に今春最初の開花あり、

 亀が水から/自ら出てきた。 

 上掲書に追記あり、再び転記:
 清明祭(シーミー)
 沖縄では、清明の日にお墓参りをする風習があります。清明祭とよばれるしきたりで、ご先祖様のお墓に親戚一同が集まり、お供えしたお重の料理やお酒をいただきます。三弦に合わせて歌い、踊り、にぎやかに楽しく先祖をもてなします。
ibid. P.43

 道理で。
 日頃熱心な沖縄出身のゼミ生が、珍しく欠席を届けてきた。
 「本家の清明祭が重なってしまった」という簡単な文面だが、その重みは十分に伝わってくる。清明祭の日取りが本家と分家で違うものではないだろうから、
 「本家の墓所に集まって行うことになっている恒例の清明祭は、ゼミ程度で欠席するわけにはいかない」
 の謂いであろう。むろん咎めなどしない、大いに諒とするところ。ただ、日頃勉強熱心な学生が清明祭にどのように歌い踊るのか、拝めないのが残念である。
 
ちなみに本節の七十二候
 清明初候 玄鳥至(つばめきたる)新暦4月5日~9日
 清明次候 鴻雁北(こうがんかえる)新暦10日~14日
 清明末候 虹始見(にじはじめてあらわる)新暦15日~19日


 これが証拠、3月16日に納屋の梁で撮影したものである。右側のツバメの胸が薄緑色がかっており、こんな個体は初めて見た。今後の観察を楽しみにしていたところ、悲しいかな翌々朝には巣が土間に落ちており、鳥はそれきり姿を現さなかった。
 こんなことは昔はなかった、今時のツバメは営巣が下手だと父が悔しがるが、ツバメの技量よりも一帯の土質が変わったのではあるまいか。福岡県久留米市出身のY教授が「こちらの田舎も同じです」と教えてくださった。農業とりわけ泥土と縁の深い、稲作のあり方の何らかの変化を示唆するもののようである。
 ツバメの姿はなかなか見えないが、声がするから近隣にいるのである。梁に下支えの板を打ちつけ、帰来に備える今年の清明。

Ω

受難節にツミと直面すること

2023-04-04 08:12:41 | 日記
2023年3月28日(火)

 ふと見ると電線に見慣れない鳥がとまっている。ヒヨドリより一回り大きく、淡い彩りが遠目を引きつける。手許のカメラでともかく一枚、めいっぱい望遠にしてもう一枚、やれ、まにあった。
 一枚目:

 二枚目を強拡大:
 
 画像をGoogle検索にかけるとその正体は…

 ツミという鳥であるらしい。名も存在も初めて知った。
 以下引用:
 「ツミ」と聞いただけで「日本最小のタカ」とわかる人はそう多くないだろう。
 漢字で書くと「雀鷹」と書く。スズメというにはちょっと盛りすぎで、雌はハトくらい、雄はヒヨドリくらいの大きさだ(雄はオカメインコより小さい)。小さくても形はタカそのもので、同じくらいの大きさのヒヨドリも仕留めるハンターだ。日本にはツバメと同じ夏鳥として、繁殖のためにはるばる中国南部や東南アジアからやってくる。
 ツミは幻の鳥とも呼ばれ、滅多にお目にかかれない鳥──だったのは昔の話。なんと近年、関東限定で都市公園や街路樹などで繁殖していることがわかっている。それどころか、ツミを含む「ハイタカ属」というタカのグループではオオタカも都会進出を果たしているという。知らない間にツミやオオタカが家のすぐ近くで子育てをしているかもしれないのだ。

 BuNa誌の記すところを地で行くような、東京23区住宅地での「ツミ」との出会いである。上の写真の撮影データに「2018年5月、大田区洗足池」とあり、タカの飛翔力を考えれば、わが家の一帯は当然その活動範囲内におさまっている。
 日本最小のタカ、南からの渡り鳥、頭から背の灰緑色と白い胸に薄茶の彩り、一目で惚れ込む居住まいとプロフィルだが、ベランダ常客のスズメやヒヨドリはさぞ恐ろしかろう。
 不思議なのは「ツミ」というその名である。いろいろ書かれているが、結局よくわからない。
 『サライ』誌が面白い話をいろいろ載せている中に、下記の記述がある。
 以下引用:
 ツミは漢字で「雀鷹」と書きます。この「雀鷹」はもともとメスに付けられた名前で、オスは「悦哉」(エッサイ)と呼ばれました。これは「悦び従う」という意味だそうですが、もともとツミはオス、メス共に鷹狩りに使われていました。特に大きな獲物を狙うメスは重用されていました。いっぽう、小柄なオスは別の種類だとみなされていたようです。
 『小学館国語大辞典』『野鳥の名前』(山と渓谷社)によれば、平安時代の辞書である『和名類聚抄』を引用して、「雀鷂」(ツミ)、「須須美多加」(ススミタカ)または「豆美」(ツミ)、との表記があります。同じ属の鷂(ハイタカ)はツミより少し大きな別種で、雀は「小さい」の意。「豆」は小さい、「美」は鳥の名を表す言葉に付く接尾語とのこと。オスとメス共通の名前「ツミ」は、この「豆美」が由来なのでしょう。
 ちなみに英名のJapanese Sparrowhawkも、「雀鷹」を意味します。

 そういうことなら、今朝ここで出会ったのは正しくは悦哉ということか。エッサイのパートナーがツミだとは、少々できすぎに時宜を得たものだ。
 ただいま受難節も大詰め近く、4月2日が棕梠の主日、4月9日が復活祭(イースター)という今年の暦である。
Ω