Dutch Life 備忘録

オランダのミュージアム、コンサート、レストランなどについて記録するノート。日常的な雑記も…。

本「一般意志2.0」

2012-03-05 10:54:07 | Book
東浩紀著「一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル」を読了。
この著者は、会社を立ち上げて「思想地図β」という雑誌を年2回出し始めて、その雑誌が興味深かったのと、twitterの発言などを読んでいて、他の文化人とは違うフットワークの軽さと自由さとある意味の正直さに魅かれるところがありました。思想家、哲学者という立場で書いた本がいくつかありますが、難しそうだったので、そちらには手をだせずにいました。しかし、今回、この本は学術本ではなくエッセイだということなので、読みやすいと思い、手を出しました。結果として、最後まで読み通せたので、よかったです。
この本は、未来社会についてです。インターネットが普及した社会で、その技術を使って、どのような政治形態が可能かということについて、書かれています。それは、誰でも考えそうな電子投票やネット政党というものではありません。もっと今の仕組みとは違った画期的なものです。未来の仕組みを提案するとともに、現在の民主主義政治がうまくいかない理由も、歴史上の偉大な学者の名前を出しながら解説しています。言語が平易で、繰返し手取り足取り噛み砕いて説明してくれるので、わかりやすいです。
著者はこう書いています。
「あと半世紀もすれば、日本文化や中国文化、イスラム文化といった呼称は、もはや伝統芸能にしか用いられなくなっているだろう。東京の住民も上海の住民もカイロの住民も、ニューヨークやパリの住民と同じ本を読み、同じ音楽を聴き、同じブランドの服に身を包み、同じネットサービスを使う。」
50年後の世界に私はもう存在していないですが、50年後の世界がどうなっているか考えることはある意味面白いことです。これくらい先の視点を、思想家とか政治家とか国家や民について語る人はしっかり持ってもらいたいです。
さて、著者のいう未来の仕組みは、ネット内で人が動物的に反応してしまう無意識の部分をすくい上げて、政治に反映するものです。これは、みんながネットを通じて政策決定に直接関与する「直接民主主義」ではなく、またネットの中に蓄えられた膨大な個人情報を用いた「データーベース民主主義」でもありません。みんなが感情的に思っていることがネットの力で現前化され、それを政策を決定する際に大いに参考にされるということです。感情的に思っていることとはつまりその人の意見であって、みんなの感情にそった政策こそ、民意を反映した民主主義的決定に基づいたものになるはずです。また、これは、大衆に政策決定をまかせるという衆愚政治のようですが、あくまでもみんなの感情意見を参考にするということで、政策の作成および決定は専門家が主導します。これまで、みんなの感情意見をうまく現前化する仕組みがなかったのですが、それがネットの力で可能になりそうで、また議論の中にその現前化したものを取り込んでいくことができる仕組みもなんとかできるのではないかということなのです。
著者は書いています。「人間は論理で世界全体を捉えられるほどには賢くない。」「わたしたちは、言葉の力、議論の力を過信することをやめなくてはならない。いくら言葉を尽くしても決して説得できない相手はこの世界に存在し、そしてわたしたちは、彼らとも共存していかなければならないのだ。」
熟議では実際には埒があかないことがあり、また民意を反映していないことがままあります。動物的に人がもつ共感というパワーこそが、世界をまとめて、先に進めていくカギではないかということです。
ところどころ難しいところもあり、ちゃんと理解しているかわかりませんが、未来について想像力が広がる本でした。同著者の他の本も読んでみたいと思います。
体調は、咳があまりでなくなり、快方に向かっているのが実感できました。暖かくなるにつれ、体力も復活し、完治に向かうでしょう。久しぶりに昨日の日曜日は街へショッピングへ出かけました。