コロナ禍に疲弊したら…
外出自粛中に読みたい厳選30冊
「社会」「カルチャー」という観点から
お花見もできないまま4月が終わり、「ゴールデンウィーク」という呼び名にも寂寥感が漂う、異例の連休となりました。
とはいえ、「緊急事態」が続く中では外出も控えるしかない。自宅での楽しみはいくつかありますが、「本」の世界もまた、コロナ禍に疲れた私たちを大歓迎してくれます。
今年1月から3月にかけて出版された、「社会」と「カルチャー」に関連した新刊の中から、読んでみてオススメできるものを30冊選んでみました。好奇心と興味関心のアンテナが少しでも反応するようなら、読んでみてください。
【社会】
内田樹、えらいてんちょう(矢内東紀)『しょぼい生活革命』
晶文社 1650円(税込み、以下同じ)
両親は東大全共闘の生き残りだという30歳の異色起業家と、「生きているうちに伝えておきたいこと」があるという70歳の対談集だ。共同体、貧困、資本主義、国家、家族、教育、福祉など話題は多岐に及ぶ。「分断と自閉の時代」を生きるヒントとして秀逸な一冊。
NHKスペシャル取材班『憲法と日本人~1949-64年 改憲をめぐる「15年」の攻防』
朝日新聞出版 1650円
日本国憲法が70年以上も改正されなかったのはなぜか。かつて展開された白熱の改憲論議を検証し、憲法の現在とこれからを探る試みだ。改憲論の原点とは? アメリカや経済界からの改憲圧力の内幕。改憲と護憲の攻防戦。果たしてそれは「押しつけ憲法」だったのか。
橋本健二『<格差>と<階級>の戦後史』
河出新書 1210円
現代社会を語る際、必須の概念となっている「格差」。本書は、経済史や世相史、さらに文化史なども踏まえ、格差の問題を「戦後日本の歴史的な文脈に位置づけ、評価し直す」試みである。格差の背後に「階級構造」があるという指摘が、戦後史の見方を変えていく。
籠池泰典、赤澤竜也『国策不捜査~「森友事件」の全貌』
文藝春秋 1870円
「森友学園」前理事長は、詐欺などに問われた裁判で有罪判決を受けた。一方、国有地を不当な安値で売却した背任や、行政文書の改ざんなどを行った側は刑事責任を問われていない。公権力は何をして、何をしなかったのか。本書は事件の核心部分を暴く重要証言だ。
石川文洋『ベトナム戦争と私~カメラマンの記録した戦場』
朝日新聞出版 2200円
ベトナム戦争終結から45年が過ぎた。著者は戦時中、約4年にわたってサイゴンに住み、南ベトナム政府軍や米軍に同行撮影した。さらに北ベトナムにも入り、戦場のリアルと民間人の日常を目にする。「これが戦争なのだ」という実感が伝わる、貴重な回想記だ。
片山夏子『ふくしま原発作業員日誌―イチエフの真実、9年間の記録』
朝日新聞出版 1870円
新型コロナウイルス騒動で脇に置かれた、今年の3月11日。しかし9年が過ぎたことで、ようやく明かされる真実もある。「行ってはいけない」場所で働く人たちは、その目で何を見てきたのか。取材を続けてきた記者が伝える、終わりなき原発事故のリアル。
内田 樹『サル化する世界』
文藝春秋 1650円
著者によれば、為政者から市民までを支配する気分は「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」。つまり「朝三暮四」の論理だ。ポピュリズム、憲法改正、貧困など多様なテーマを論じる本書。正しい書名は「サル化する日本と日本人」かもしれない。
橋爪紳也『大阪万博の戦後史―EXPO'70から2025年万博へ』
創元社 1760円
大阪を舞台とする「現代史読み物」であり、軸となるのは昭和45年の大阪万博だ。万博以前、万博そのもの、そして万博後と、編年体の通史になっている。中でも万博主要パビリオンの解説は圧巻。世紀のイベントが大阪という街にもたらしたものは何だったのか。
長谷部恭男『憲法講話~24の入門講義』
有斐閣 2750円
法は「人として本来すべき実践的思考を簡易化する道具」だと著者は言う。頼り過ぎも危険であると。その上で使える道具としての憲法を講じていく。平和主義と自衛権。表現の自由と規制。内閣総理大臣の地位と権限。現代社会を再検証するための教科書だ。
宇梶静江『大地よ!―アイヌの母神、宇梶静江自伝』
藤原書店 2970円
俳優・宇梶剛士の母でもある著者は、アイヌの自立と連帯を体現してきた女性だ。昭和8年北海道生まれ。23歳で中学校を卒業した。詩作と、アイヌの叙事詩を古布絵として表現する活動が現在も続く。本書では自身の軌跡はもちろん、リアルなアイヌ文化を語っている。
小川和久『フテンマ戦記~基地返還が迷走し続ける本当の理由』
文藝春秋 1980円
軍事アナリストの著者は長年、普天間問題に関わってきた。本書はその回想録であると同時に、日本の民主主義に対する警鐘だ。無責任な首相や防衛官僚だけでなく、最高権力に近い奸臣の存在も指摘する。問題の経緯と原因を明らかにした貴重なドキュメントだ。
小田嶋 隆『ア・ピース・オブ・警句~5年間の「空気の研究」2015-2019』
日経BP 1760円
アベノミクス、モリカケ問題、文書改ざん、東京五輪など、現在まで続く事象の大元、その本質は何なのか。5年分の時評コラムを読み進めながら、「そうだったのか」と何度も得心がいった。様々な局面で露呈する「事実」の軽視。それはコロナ禍の現在も変わらない。
【カルチャ―】
<本>
北上次郎『息子たちよ』
早川書房 1870円
平日は会社に泊まり込み、家に帰るのは日曜の夜だけ。それが20年続いたことにく。いわば無頼の書評家が、子供としての自分も踏まえて2人の息子への想いを綴った。「家族はけっして永遠ではない」と覚悟しながら愛し続けた家族と本をめぐるエッセイ集だ。
吉田 豪『書評の星座』
集英社 2970円
著者はプロ書評家にしてプロインタビュアー。格闘技専門雑誌『紙のプロレス』に参加していた、生粋の格闘技ライターでもある。この15年間に書いた、膨大な「格闘技本」の書評をまとめた本書だが、実は著者初の「書評本」だ。裏格闘技史としても画期的。
三浦雅士『石坂洋次郎の逆襲』
講談社 2970円
『青い山脈』『陽のあたる坂道』などで知られる作家、石坂洋次郎。かつてのベストセラーや大ヒット映画に比して、現在その名を見聞きすることは稀だ。しかし「主体的な女性を追究した」作品群が現代につながると著者は言う。新たな視点による石坂文学再評価だ。
柴田元幸『ぼくは翻訳についてこう考えています』
アルク 1760円
ポール・オースターなどアメリカ現代作家の翻訳で知られる著者。過去30年の間に翻訳について書いたり話したりしたことのエッセンスが一冊になった。「翻訳は楽器の演奏と同じ」「読んだ感じがそのまま出るようにする」など、100の意見と考察が刺激的だ。
毎日新聞出版:編、和田誠:画『わたしのベスト3―作家が選ぶ名著名作』
毎日新聞出版 2200円
「毎日新聞」書評欄の人気コーナー、15年分である。肝心なのは選者だ。誰が、誰の、どんな作品を選ぶのか。原尞のチャンドラー。逢坂剛のハメット。太田光の太宰治も好企画だ。さらに、みうらじゅんのスキャンダル、三谷幸喜が選んだ和田誠の3冊も見逃せない。
三島邦弘 『パルプ・ノンフィクション~出版社つぶれるかもしれない日記』
河出書房新社 1980円
2006年、著者は単身でミシマ社という出版社を興した。動機はシンプル。自分が思う「おもしろい本」を出したかったのだ。本書は過去5年分の回想記であり、「本」をめぐる思考の記録でもある。この小さな版元は、なぜ今もリングに立ち続けていられるのか?
<音楽>
野川香文『ジャズ音楽の鑑賞』
シンコーミュージック・エンタテイメント 2640円
昭和23年に刊行された日本初の本格ジャズ評論集の復刻版だ。明治生まれの野川がジャズ研究を始めたのは昭和5年頃。出版当時44歳だったが、黎明期、ラグタイム時代、ブルースの誕生とたどる発達史は画期的なものだった。70年前の情熱が甦る、歴史的な価値をもつ新刊だ。
古関正裕『君はるか―古関裕而と金子の恋』
集英社インターナショナル 1760円
この春に始まったNHK朝ドラは『エール』。主人公のモデルは作曲家・古関裕而と妻の金子(きんこ)である。本書は夫妻の長男によるノンフィクション・ノベル。オペラ歌手を目指す少女が書いた、一通のファンレターから始まる文通と恋は、小説より奇なる純愛物語だ。
<芸能>
塩澤幸登『昭和芸能界史 [昭和二十年夏~昭和三十一年]篇』
河出書房新社 2970円
戦後の芸能界を多角的に描いた労作。映画、音楽、放送はもちろん、出版にも目配りした点がユニークだ。当時、雑誌の連載小説を映画化し、読者を観客として動員する流れが王道だった。時代を作ったスターやアイドルの原風景がここにある。
<映画>
崑プロ:監修『映画「東京オリンピック」1964』
復刊ドットコム 4950円
昭和39年10月10日、国立競技場。古関裕而作曲「オリンピック・マーチ」と共に5千人を超える選手が入場し、東京五輪が始まった。この世紀の祭典を記録したのが市川崑監督率いる550余名の制作陣だ。企画、準備から本番、編集まで極秘作業の全貌が明かされる。
<テレビ>
藤村忠寿『笑ってる場合かヒゲ~水曜どうでしょう的思考2』
朝日新聞出版 1430円
全国区のローカル番組『水曜どうでしょう』のディレクターが、新聞に連載したコラム集だ。5夜連続放送のドラマ制作。役者として参加した劇団の舞台。マラソン大会への出場。そして『水どう』ファンとの祭り。他人と積極的に関わることで自分が見えてくるそうだ。
<落語>
川田順造『人類学者の落語論』
青土社 1980円
文化人類学の泰斗と落語の組み合わせが新鮮だ。戦後の小学生時代から落語と接してきた経験は、後のアフリカ口承文化研究につながっている。著者が愛する八代目桂文楽や五代目古今亭志ん生の芸と、現地で採取された「アフリカの落語」が地続きとなる面白さ。
立川談四楼『しゃべるばかりが能じゃない~落語立川流伝え方の極意』
毎日新聞出版 1650円
他者に何かを伝えようとする時、その人の個性が出る。書けば文体、しゃべれば口調。立川談志の口調は「断定型」だが、真似ても劣化コピーにしかならないと著者は言う。かつての弟子として、落語家として、さらに師匠としての体験を交えて語る「伝わる」の極意だ。
<美術>
渡辺晋輔、陳岡めぐみ『国立西洋美術館 名画の見かた』
集英社 2310円
開館から60年が過ぎた上野の国立西洋美術館。2人の著者はその現役学芸員であり、イタリアとフランスの美術史専門家だ。静物画や風景画など、ジャンル分けした収蔵品を解説しながら西洋美術史をたどっていく。また美術館と作品をめぐるコラムもトリビア満載だ。
とに~『東京のレトロ美術館』
エクスナレッジ 1760円
歴史のある美術館ではなく、レトロな趣が漂う34の美術館が並ぶ。いずれも美術作品は白い壁で囲まれた展示室ではなく、個性に満ちた空間に置かれている。著者はアートを愛する、お笑い芸人。朝倉彫塑館、原美術館、五島美術館など建物も含めて丸ごと鑑賞したい。
<建築>
隈 研吾『点・線・面』
岩波書店 2420円
新国立競技場の外壁は、なぜ杉の板なのか。「風通しをよくしたい」と建築家は言う。人と物、人と環境、人と人をつなぎ直すために、建築という大きなボリューム(量塊)を点・線・面へと解体するのだと。世界を巡り、過去へと遡る思考の旅。その全記録である。
<茶道>
伊東 潤『茶聖』
幻冬舎 2090円
千利休という「茶聖」と「茶の湯」のイメージを一新させる長編歴史小説だ。秀吉が茶の湯に求めた「武士たちの荒ぶる心を鎮める」機能。利休が天下人に求めた「人々が安楽に暮らせる世」の実現。互いの領分を侵さぬはずが、やがて表と裏の均衡は崩れて・・・。
<陶芸>
加藤節雄『バーナード・リーチとリーチ工房の100年』
河出書房新社 2750円
イギリス西南端の街、セントアイヴス。リーチ工房はそこにある。フォトジャーナリストである著者が初めてこの地を訪れたのは45年前。やがてリーチへのインタビューも実現させた。美しい写真と簡潔な文章が、リーチの人物像と工房の歴史を浮き彫りにしていく。