碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

志田未来主演「下山メシ」新たな<グルメ女優>の誕生だ

2024年11月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

新たな「グルメ女優」の誕生だ

志田未来主演「下山メシ」

 

なぜ山に登るのかと問われて、「そこに山があるからだ」と言ったのはイギリスの登山家であるジョージ・マロリーだ。

しかし、木ドラ24「下山メシ」(テレビ東京系)の主人公、フリーのイラストレーター・みねこ(志田未来)は違う。声を大にして「下山メシがあるから!」と断言する。下山メシとは、文字通り山を下りた後に味わう、おいしい料理を指す。

第1話で登ったのは奥多摩の御岳山(みたけさん)。立ち寄ったのは、古里(こり)駅前の「はらしま食堂」だ。まずは生ビールを一杯。志田の飲みっぷりがいい。続いてメインの「あじフライ定食」に取りかかる。

ここからは一気に志田未来版「孤独のグルメ」だ。ただし井之頭五郎(松重豊)の〈心の声〉ほど饒舌ではない。あじフライにかぶりつき、「ああ、カロリーで疲れが癒されていく」と言った後は、ひたすらもぐもぐ、サクサクと食べ続ける。

そして「やっぱり揚げ物の選択は間違ってなかった」と満足げにつぶやいたのは、何と2分後のことだ。ワンカット長回しのカメラを前に、セリフ無しの食べる動作と顔の表情だけで、料理の味と下山メシの愉悦を表現してみせたのだ。

しかも見る側をまったく飽きさせないのは、少女時代の「女王の教室」(日本テレビ系)や「14才の母」(同)から現在まで培ってきた強靭な演技力の賜物といえる。新たな「グルメ女優」の誕生だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.11.19)


松下洸平主演「放課後カルテ」丁寧なドラマ化アレンジ

2024年11月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

松下洸平主演「放課後カルテ」

「セクシー田中さん」問題を踏まえた、

丁寧なドラマ化アレンジ

 

松下洸平主演「放課後カルテ」(日本テレビ系)は良質な医療ドラマだ。

主人公は大学病院から小学校に赴任してきた、小児科医の牧野峻(松下)。産休に入った養護教諭の代役だ。口のきき方や態度に愛嬌がなく、横柄な印象を与える牧野が、様々な問題を抱える生徒たちと向き合っていく。

たとえば、授業中でも友だちと話している最中でも、突然眠くなってしまう生徒がいる。教室では浮いた存在であり、本人も「こんな自分が嫌い」と悩んでいた。牧野は睡眠障害の「ナルコレプシー」だと指摘。親だけでなく、生徒たちにも理解と協力を求める。

また、クラスで作った七夕飾りを密かに壊す女子生徒もいた。両親の離婚問題からくる孤独感。抑えきれない破壊衝動は自傷行為へと走らせる。隠していた傷に気づいた牧野は、「私は私が怖い」と言う彼女の本心を引き出そうとする。

当初、公立の小学校に医師が常駐するという設定に違和感があった。しかし、それも徐々に消えてしまった。医師である牧野は、周囲と適度な距離を保っているからだ。親とも先生とも違う、その「近すぎない関係」が生徒たちの命を救うことにつながっていく。

原作は日生マユの同名漫画。「セクシー田中さん」問題を踏まえて、ドラマ化に際してのアレンジは丁寧に行われている。脚本は「救命病棟24時」などのひかわかよだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.11.12)

 


「民王R(たみおう アール)」光る遠藤憲一の快演

2024年11月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

光る遠藤憲一の快演

「民王R(たみおう アール)」

(テレビ朝日系)

 

遠藤憲一主演「民王」(テレビ朝日系)が放送されたのは2015年。この秋、9年ぶりの続編として登場したのが「民王R」(同)だ。

前作では、時の総理大臣・武藤泰山(遠藤)とバカ息子(菅田将暉)の心と身体が入れ替わったことで大騒動が起きた。

一方、今回の入れ替わりの対象は「全国民」だ。毎回、泰山が予測できないランダムな人物の中に入ってしまう、破天荒な設定となっている。

初回では秘書の冴島優佳(あの)と入れ替わった。

与党の長老たちが、自分たちの利権や都合で閣僚人事を決める様子を目の当たりにしていた優佳は、泰山として臨んだ記者会見で叫ぶ。

「よく聞けよ、永田町の政治家ども! 政治家が互いの貸し借りやシガラミのために理想を語れなくなって、どーすんだよ!」

また第2話では、中小企業で働く青年と入れ替わった。真面目に働いても手取りは少なく、将来の希望も見えづらい若者たち。

何でも「自己責任」だと言われ、孤立化する彼らの現実を知った泰山は、「疲れたら足を止めてもいい。だが、また走り出したくなった時、目の前に走れる道を用意する。それが政治家の務めだ」と決意する。

全体は奇想天外なドタバタ劇だが、笑いながら政治や社会に鋭いツッコミを入れていくところがこのドラマのミソだ。遠藤の快演がそんな離れ業を可能にしている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.11.05)

 


『Qros(キュロス)の女』栗山(桐谷健太)の記者魂

2024年10月31日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

栗山の「記者魂」が光る

桐谷健太主演

「Qros(キュロス)の女

 スクープという名の狂気」

 

ドラマプレミア23「Qrosの女~スクープという名の狂気」(テレビ東京系)。主人公は、「週刊キンダイ」で多くのスクープを放ってきた芸能記者、栗山孝治(桐谷健太)である。

タイトルの「キュロス」とは、「ユニクロ」のようなファストファッションのブランド名だ。そのCМに登場した謎の美女(黎架)が話題となり、栗山たちも正体を明らかにしようと動き出す。

ただし、このドラマは彼女をめぐる探索物語に留まらない。芸能界の裏側で発生する、いくつものスキャンダル。それを暴こうとする側と隠そうとする側のリアルな攻防戦が大きな見所だ。

たとえば、人気アイドルと有名塾講師の不倫。スピリチュアル団体のビジネスに利用される若手女優。さらに大物落語家によるセクハラ、モラハラ、パワハラの三大ハラスメントもあった。

いったんスクープされれば、彼らの芸能人生命は断たれてしまう。やり過ぎだという声に対し、編集長の林田(岡部たかし)が言う。「俺たちはネタを提供してるだけ。それを元にジャッジしてるのは世間様だ」と。

さらに「人間の後ろ向きな欲望みたいなものが膨らんで、そのはけ口として誰かをめちゃくちゃに攻撃して暴走する。その群集心理が一番怖いんだよ」

だからこそ、間違った情報を世の中に出さないためなら何でもする、栗山の「記者魂」が光る。 

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.10.30)

 


「ドクターX」の〈後継医療ドラマ〉として真価が問われる「ザ・トラベルナース」

2024年10月23日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「ドクターX」の

〈後継医療ドラマ〉として問われる真価

「ザ・トラベルナース」

 

岡田将生主演「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日系)が2年ぶりの復活を果たした。

このドラマの特色は3つある。まず、あまり知られていなかったトラベルナース(有期契約で仕事をするフリーランスの看護師)をテーマにしたこと。

次にナースとして男性看護師を設定したことである。看護師と聞けば女性を思い浮かべる人は今も多い。しかし現場では多くの男性看護師が活動しているのだ。

そして第3のポイントが、主人公の那須田歩(岡田)と対比する形でベテランのスーパーナース、九鬼静(中井貴一)を置いたことだ。

歩は、医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療を行うことが可能な「ナース・プラクティショナー」の資格を持つ。腕もいいが自信過剰でプライドも高い。

そんな歩を「プライドだけが無駄に高く、患者に寄り添えない、不適切で無能なナース!」などと諭せるのは静しかいない。

前シーズンの舞台は、利益第一主義の院長・天乃(松平健)が君臨する「天乃総合メディカルセンター」だった。

今回の「西東京総合病院」では、新たに院長に就任した薬師丸(山崎育三郎)がもくろむ「改革」が、様々な波紋を起こしそうだ。

12年も続いた「ドクターX」が、12月公開の「劇場版」で幕を閉じることが報じられた。〈後継医療ドラマ〉としての真価が問われる秋になる。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.10.22)

 


NHK土曜ドラマ「3000万」は、一見の価値あり!

2024年10月16日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

ライト感覚のクライムサスペンスは

一見の価値あり!

安達祐実主演「3000万」NHK

 

土曜ドラマ「3000万」(NHK)の主人公、佐々木祐子(安達祐実)はコールセンターで働く派遣社員。夫(青木崇高)と小学生の息子と暮らす、ごく普通の主婦だ。

ところが、ある事故をきっかけに夫婦は3000万円を手に入れてしまう。しかもそれは強盗事件に絡むヤバい金だった。

このドラマの特色は、NHKが立ち上げた「脚本開発チーム」による作品であることだ。

海外ではシリーズドラマの制作に複数の脚本家が関わり、共同執筆することは珍しくない。ストーリーやセリフなど各人が得意な部分で力を発揮したり、アイデアを出し合って最適解を探ったりする。

今回のプロジェクトはNHK独自のスタイルで進められたようだが、2話までを見た段階で言えば、脚本は上々の出来具合いだ。

生活感あふれる日常から、犯罪という非日常へとジャンプする導入部。シアワセを呼ぶはずだった札束に振り回される悲喜劇の連続。

佐々木夫妻、強盗グループ、そして警察の三者が絶妙に交錯していく展開は、つい先が見たくなる。

俳優陣も大健闘だ。安達祐実は良識的かと思えば突然大胆な行動に走って、見る側をハラハラさせる妻を熱演。青木崇高は根拠なき楽観主義が苦笑いを誘う、元ミュージシャンの夫がよく似合う。

いわばライト感覚のジェットコースター型クライムサスペンスの本作、一見の価値は十分ある。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.10.15)


朝ドラ「おむすび」 ギャルで「納得と共感」を得られるか

2024年10月09日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

ギャルで「納得と共感」を得られるか

NHK朝ドラ「おむすび」

 

新たな連続テレビ小説「おむすび」(NHK)がスタートした。

舞台は2004年の福岡県糸島郡。主人公は高校1年の米田結(橋本環奈)だ。両親と祖父母との5人暮し。姉の歩(仲里依紗)が東京に居るらしい。

第1週で分かったのは、このドラマが「食」「ギャル」「災害」という3つのテーマを含んでいることだ。

結の家は農家で、食べることも大好き。「おいしいもん食べたら悲しいこと、ちょっとは忘れられるけん」などと言わせて、食に関わる将来を暗示させている。

また、結は1995年の阪神淡路大震災の被災者でもある。神戸に住んでいたが、震災を機に父親の故郷である糸島に移り住んだ。災害に遭遇した人たちの当時と現在、さらに「これから」も描こうとしていると見た。

さて、問題は「ギャル」である。ギャル文化の全盛期は90年代後半だ。ドラマの背景である2000年代半ばにもギャルはいたものの、往時の勢いはない。特に地方では微妙な存在と化していた。

そのギャルを、物語の中で何らかの価値観の「象徴」にしたいようだが、やや強引な印象は否めない。「食」や「災害」といったテーマとは異なり、ギャルに理屈抜きの拒否反応を示す視聴者は少なくないからだ。

石破首相の所信表明演説ではないが、ギャルで見る側の「納得と共感」を得られるのか。逆に制作陣の腕の見せ所かもしれない。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.10.08)

 


「虎に翼」画期的な “社会派の朝ドラ”となった

2024年10月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「虎に翼」

画期的な

“社会派の朝ドラ”となった

 

連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)が幕を閉じた。見終わって再認識したのは、この作品がいかに“異色の朝ドラ”だったかということだ。

佐田寅子(伊藤沙莉)のモデルは三淵嘉子。戦前に初の女性弁護士となり、戦後は初の女性判事となった。「あさま山荘事件」が起きた1972年には初の家庭裁判所所長に就任している。

司法界の「ガラスの天井」を次々と打ち破っていった嘉子の軌跡は、戦前・戦後における“試練の女性史”だ。それはドラマにも十分反映されており、画期的な“社会派の朝ドラ”となった。

ややもすれば堅苦しくなりそうな物語だったが、硬軟自在の伊藤に救われた。寅子が納得のいかない事態に遭遇した時に発する「はて?」は、見る側の心の声も代弁する名セリフとなった。

ただ、さすがに後半は少し詰め込み過ぎだったかもしれない。「戦争責任」「原爆裁判」「尊属殺の重罰」「少年法改正」などが並び、さらに「同性婚」「夫婦別姓問題」「女性と仕事」といった現在につながるテーマも取り込んでいった。

しかし、これも制作陣の確信犯的仕掛けだったはずだ。憲法第14条が明記する「法の下の平等」や「差別禁止」は、どのような経緯をたどってきたのか。そして、今の社会においても本当に実現されているのか。この問いかけこそ本作を貫く大きなテーマだった。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.10.02)


大泉洋主演「終りに見た街」が描いた、現実的な「苦み」

2024年09月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

戦争は過去のものではない

という現実的な「苦み」

大泉洋主演

「終りに見た街」

(テレビ朝日系)

 

先週末、テレビ朝日の開局65周年記念ドラマ「終りに見た街」が放送された。

原作は山田太一の小説。1982年と2005年にドラマ化されている。今回の脚本はクドカンこと宮藤官九郎だ。

田宮太一(大泉洋)は売れっ子とは言えない脚本家。妻(吉田羊)、高校生の娘(當真あみ)、小学生の息子(今泉雄土哉)と暮らしていたが、突然、戦時中の昭和19年にタイムスリップしてしまう。

そこは社会の空気も人々の気持ちも、現代とは違い過ぎる日本だ。太一たちは周囲に悟られないよう適度に溶け込みながら、終戦を待とうとする。

戦時下の「現在」で生きること。東京大空襲や敗戦という「未来」を知っていること。太一の葛藤は深まる。

だが、それ以上の苦悩は、子どもたちがこの時代に飲み込まれていったことだ。娘は「お国のために死んだ人を笑うの?」と怒り、息子は「僕だって戦いたい!」と叫ぶ。

「正気を失っている」と太一は驚くが、普通の人たちが「正気を失う」のが戦争なのだという事実に見る側も慄然とする。

そして、衝撃のラスト。現代に戻った太一を襲う悲劇は原作の通りだが、起きていることを理解する時間がないため、どこか置き去りにされた感じは否めない。

しかし、山田太一とクドカンが伝えようとしたのは、戦争は過去のものではないという現実的な「苦み」だったことは確かだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.24)

 


小泉今日子・小林聡美「団地のふたり」の滋味

2024年09月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

何十年も寝かした結果の付加価値

小泉今日子・小林聡美

「団地のふたり」

(NHKBS)

 

プレミアムドラマ「団地のふたり」(NHKBS)の舞台は、築58年になる夕日野団地だ。

大学非常勤講師の野枝(小泉今日子)とイラストレーターの奈津子(小林聡美)。2人はこの団地で生まれ育った幼なじみだ。

若い頃は結婚や仕事で他の街に住んだりしたが、今は団地の実家で暮らしている。どちらも55歳の独身だ。

このドラマで最も魅力的なのは彼女たちの関係性かもしれない。保育園に始まり、小学校も中学校も同じ地元の公立で、ずっと親友だった。今は奈津子が作った夕食を差し向かいで楽しんでいる。

昔のことも今のことも、たわいない話を延々と続けられる相手がいるシアワセ。

野枝が仕事で落ち込んだ時、奈津子は何も聞かずにわざとバカなことを言って笑わせる。そして「大丈夫、私はノエチ(野枝の呼び名)のいいとこも悪いとこも知ってるから」と励ますのだ。

そんな2人の日常は淡々としているが、小さな出来事は起きる。野枝の兄(杉本哲太)が保存していたオフコースなどの古い「楽譜」を、奈津子がフリマアプリで出品すると高額で売れたのだ。

何十年も寝かした結果の付加価値。「この団地も立ってるだけでそうなったらいいなあ」と奈津子。「そうなったら素敵だね」と野枝。

見ているこちらもつい、「人間もそうだといいね」と応じたくなったのは、このドラマの滋味のせいだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.17)


「鉄オタ道子、2万キロ~秩父編~」旅先の〝ありのまま〟と向き合う

2024年09月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

旅先の〝ありのまま〟と向き合う

一人旅が心地いい

 

玉城ティナ主演

「鉄オタ道子、2万キロ~秩父編~」

 

玉城ティナ主演の連ドラ「鉄オタ道子、2万キロ」(テレビ東京系)が放送されたのは2022年1月から3月だった。

家具メーカーで営業の仕事をしている大兼久道子(玉城)は、大の鉄道好きだ。出張先で地元の鉄道を楽しむのはもちろん、2日の有給をとって列車に乗り込み、ローカル駅や秘境駅を目指す。

2年前は、駅舎が民宿を兼ねる函館本線の比羅夫駅に始まり、福島県・会津鉄道の大川ダム公園駅、地下40mのトンネルにある新潟県の筒石駅などを訪れていた。

先週木曜の深夜に流された「秩父編」は2年ぶりの新作の前編だ。開通55周年の西武秩父線に乗り、終点の西武秩父駅で降りた道子は、横瀬駅までのんびりと歩く。

途中で小さな滝を眺めたり、アニメの聖地巡りの男女と出会ったりするが、ドラマチックなことが起きるわけではない。

横瀬駅前の食堂で食べるのも、ごく普通の野菜カレーだ。名所や名物には無関心な道子だが、食堂のおばちゃんの話には耳を傾ける。窓から見える武甲山を削って生まれたセメントが戦後、東京のビルや高速道路の建設を支えたというのだ。

初めてのホームに降り立った時、必ず「ここ、どこだよ……」とつぶやく道子。その上で、行った先の「ありのまま」と自然体で向き合っていく。そんな道子流一人旅が心地いい。

後編は12日(木)深夜に放送される予定だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.10)

 


中村倫也主演「Shrink(シュリンク)」は、精神科や精神科医に対するハードルを下げる!?

2024年09月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

精神科や精神科医に対する

不要なハードルを下げる効果がありそうだ

 

「Shrink(シュリンク)

ー精神科医ヨワイー」

 

先週末、土曜ドラマ「Shrinkー精神科医ヨワイー」(NHK)がスタートした。

主人公の弱井幸之助(中村倫也)は新宿の路地裏で精神科医院を営んでいる。ハーバードの医科大学院に留学した俊英だが、大学の医局を辞めて開業医の道を選んだ。

第1話の患者はシングルマザーの雪村葵(夏帆)。保育園に通う息子を育てながら働いているが、突然、通勤電車の中で胸が苦しくなり、倒れてしまう。

「パニック症」だった。過労や徹夜、ストレスなどによって交感神経が過剰に働き、激しい動悸や息苦しさなどの症状を起こす病気だ。

弱井は「脳の誤作動」によるものだと説明し、葵は「この苦しさに名前をつけて欲しかった」と感謝する。電車や会議室といった閉鎖空間に不安を覚える葵だが、弱井の指導で少しずつ日常を取り戻していく。

アメリカでは精神科医をスラングで「シュリンク」と呼ぶ。患者の日常的な悩みをシュリンク(小さく)してくれる身近な存在という意味だ。

一方、日本では昔から精神科はどこか「特別なところ」と思われているふしがある。受診をためらい、悩みや苦しみを我慢してしまうことの危うさ。

このドラマには、精神科や精神科医に対する不要なハードルを下げる効果がありそうだ。物語は全3話。この後は「双極症」「パーソナリティ症」が続く。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.04)

 


栗山千明主演「晩酌の流儀3」「孤独のグルメ」と並ぶ定番へ

2024年08月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「孤独のグルメ」と並ぶ定番へ

栗山千明主演

「晩酌の流儀3」

 

栗山千明が金曜深夜に帰ってきた。ドラマ25「晩酌の流儀3」(テレビ東京系)である。

シーズン1の放送は一昨年の夏。まだ続いていたコロナ禍の中、「家飲み」に注目したグルメドラマだった。

自分の家で、誰にも気兼ねすることなく、好きな酒を好きな料理と共に味わう。一見当たり前の行為に新たな価値を見出したのだ。

不動産会社勤務の伊澤美幸(栗山)は、一日の終わりにおいしい酒を飲むことが無上の喜びだ。食材を調達して料理を作り、晩酌に臨む。

今回もこの基本構造は変わらないが、いくつかのマイナーチェンジが行われた。

まず、引っ越しをしたことによる出会いがあった。商店街の魚屋(友近)や肉屋(ナイツの土屋伸之)だ。彼らとのからみが晩酌へのいい助走となっている。

しかも、これまで行きつけだったスーパーの店長や店員も出てくるのが嬉しい。知った顔がいる安心感はシリーズ物には必要だ。

そして、大きな変化は晩酌の酒にある。美幸はいつもひたすらビールを飲んできた。

しかし今回、1杯目はビールだが、2杯目にバリエーションが生まれたのだ。

ジンソーダ、緑茶ハイなどが登場し、先週はハイボールだった。料理とのマッチング具合も見る側にとって晩酌のヒントとなる。

食も酒も身近な存在だが、奥の深いテーマだ。「孤独のグルメ」と並ぶ定番を目指して欲しい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.08.28)


「錦糸町パラダイス」地元ドラマとして、一見の価値あり!

2024年08月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

“地元ドラマ”として、一見の価値あり!

「錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜」

 

深夜ドラマの醍醐味は、ゴールデン・プライムタイムではお目にかかりそうもない作品と出会えることだ。今期のドラマ24「錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜」(テレビ東京系)は、まさにそんな1本となっている。

小さな清掃会社の社長を務める大助(賀来賢人)。そこで働く幼なじみの裕ちゃん(柄本時生)。同じく社員で2人の後輩・一平(落合モトキ)。錦糸町は3人にとっての故郷であり地元だ。

そしてもう一人、錦糸町出身のルポライター・坂田(岡田将生)がいる。地元で起きたワケありな事件を調べ、QRコードを利用して公表していく謎の男だ。若手企業家を支援する補助金の不正受給。違法なフィリピンパブ。女性社員を困らせるセクハラ上司。さらに、女子中学生の飛び降り自殺の真相も探っている。

とはいえ、ドラマ全体として大きな筋の物語が展開されるわけではない。清掃の依頼先での出来事や、行きつけの喫茶店や居酒屋でのやりとりが、ゆるやかに描かれていく。

また、車椅子生活となった裕ちゃんと大助の過去の因縁はあったりするが、ヘンに重く扱ったりしていない。俳優たちの演技も含め、いわゆるドラマチックな作りとは距離を置いた見せ方と空気感がやけに心地いい。

何かと賑やかな「新宿野戦病院」(フジテレビ系)とはひと味違う “地元ドラマ”として、一見の価値ありの佳作だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.08.20)

 


「しょせん他人事ですから」中島健人のコメディセンス

2024年08月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

見る側を和ませる

中島健人のコメディセンス

「しょせん他人事(ひとごと)ですから

~とある弁護士の本音の仕事~」

 

弁護士が活躍するリーガルドラマは数えきれないほど作られてきた。

今期の「しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~」(テレビ東京系)は、主人公の保田理(中島健人)が「ネットトラブル」専門の弁護士であることが新鮮だ。

最初の依頼人は人気の主婦ブロガー(志田未来)。人妻風俗勤務という事実無根の噂を広められて炎上した。

また兄妹2人組のアーティスト(野村周平・平祐奈)は、身に覚えのない「中学時代のいじめ動画」が拡散されて炎上。物心両面で大きな被害を受けた。

このドラマの見所は、ネットトラブルへの具体的な対処法がわかることだ。書き込みやサイトを消す「削除請求」や、書き込んだ者を特定する「情報開示請求」などの流れが物語の形で示される。

さらに問題となる書き込みをした側の顛末も描かれる。主婦ブロガーを中傷していたのは同じマンションに住む主婦(足立梨花)だった。

そしてアーティストの偽情報を広めたのは広告会社の部長(小出伸也)だ。どちらも「ちょっとつぶやいただけ」という認識だが、リツイートであっても責任を負う場合がある。

自分が扱う案件を「他人事」と言い切る保田は変わり者に見える。

だが、一歩引いた全体の俯瞰と、第三者としての冷静な対応は見事で、弁護士として優秀だ。演じる中島のコメディセンスが見る側を和ませてくれる。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.08.13)