飲み会の会話も録音される時代に
普通の男性4人の後悔
普通の男性4人の後悔
通信会社勤務のA氏(58)は社内の送別会がもとで、大変な目に遭ったという。
「酒が回った派手めの女性社員が『胸元の開いた服のほうが似合うって言われるから着てるんです』と楽しそうに話していたので、私もつい『その服装だと、オジサンたちは目のやり場に困るよ。でも、そういう方が僕は好みだな』と気軽に相槌を打っていました」
半年後、社内の同僚から「Aさん、セクハラが問題になっているよ」と唐突に告げられた。
「送別会の会話がスマホで録音されていて、他部署の社員にまで音声データが広まっていたのです。面白半分だったようですが、真面目な女性社員が『これはセクハラだ』と問題にして、触れ回ったとか。その場のノリなのに、こんな大問題になるなんて……」(A氏)
総務部の口頭注意で済んだが、A氏は一部から「エロオヤジ」扱いされて肩身の狭い思いをしている。
商社勤務のB氏(50)は「相談がある」という女性部下と食事に出かけた。
「彼女は人事異動への不安をひとしきり話すとすっきりしたようで、“年下のダメ彼氏”の話を次々に披露。私も社交辞令のつもりで、『次は大人の男性と付き合った方がいいかもね』と返していたんです」(B氏)
ところがその後、望まぬ部署への異動内示が出た女性部下の態度が急変。人事権を持つB氏に不機嫌な態度を取るようになった。
「ショックだったのは彼女が私と飲んだ時のセクハラ発言音声があると周囲に仄めかしていると分かったこと。私が『大人と付き合えば』と語ったところだけ切り取られると“年上の俺と付き合え”と口説いたように聞こえるかもしれません。今後いつ、どんなふうに録音を使われるのか、気が気でなりません」(B氏)
◆録音している側に悪意がなくても…
さらに厄介なのは、録音している側に悪意はないのに問題に発展するケースだ。雇用延長で働くC氏(63)は、こう話す。
「若手社員の相談を聞くための飲み会で、部長のパワハラの話が出たんです。内心“若い連中はまだまだ甘いな”と思ったものの“アイツは昔から荒っぽい言い方しかできないし、直らんのだよ”とほどほどに同調しておいた。
そうしたら後に彼らがパワハラ相談室に訴えた際に、“Cさんもパワハラだと認識してくれていました”と私の音声まで資料として提出していた。若手の1人が、貴重な話が聞けても酔うと忘れるからと、律儀に録音していたようなんです。そんなヤツがいると思わないじゃないですか。こちらは定年後の身だから社内のゴタゴタに関わりたくないのに」
自営業のDさん(55)も、こんな目に遭ったという。
「商工会の会合で2次会のカラオケが盛り上がって、私も30代女性とノリノリでアドリブを交えながらデュエットしたんです。そしたら後日、妻に“あなた、商工会でずいぶん調子に乗っていたのね”と嫌味を言われたんです。若手メンバーが動画を撮影していて、それをSNSに〈Dさん、上手~い〉と載せたのが拡散されて、妻の目にとまった」
ネットに投稿した人に悪気がないため、Dさんは誰にも文句を言えず妻の嫌味に耐えるしかなかった。
上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)はいう。
「多くの人が高性能カメラとICレコーダーを兼ね備えたスマホという記録ツールを常時携帯して使いこなすのが当たり前になっています。とりわけ若い世代はSNSで日常の出来事を発信することに慣れているので、“そんなものも!?”と驚くようなことも記録しています。不用意な発言は注意しないといけませんし、酒の席では常に“録音されているかもしれない”と意識するのがちょうどいいくらいかもしれません」
とても酔えそうにない。
(週刊ポスト 2018年7月6日号)
テレビ東京「宮本から君へ」
バリカンで髪の毛を刈り込んだ
池松壮亮の役者根性に拍手
バリカンで髪の毛を刈り込んだ
池松壮亮の役者根性に拍手
懐かしいタイトルだ。テレビ東京系で放送中のドラマ25「宮本から君へ」。新井英樹の原作漫画が「モーニング」に連載されていたのは1990年代前半。まだバブルの余韻も残る時期に、汗くさくて泥くさくて暑苦しい新人営業マンの物語がヘンに新鮮だった。
主人公は文具メーカー「マルキタ」営業部の宮本浩(池松壮亮)。仕事も恋愛も不器用で、力が入りっぱなしの空回りばかりだ。仕事では結果が出ないし、受付嬢の美沙子(華村あすか)や先輩・神保(松山ケンイチ)の仕事仲間である靖子(蒼井優)との恋愛も一筋縄ではいかない。
しかしドラマの後半戦に入って、宮本は俄然仕事に燃え始めた。ライバル会社の益戸(浅香航大)や仲卸会社の島貫部長(酒井敏也)といった立ちはだかる壁の存在が効いて、一気に「仕事ドラマ」としてヒートアップしてきたのだ。
先週は原作でも話題となった名場面「怒涛の土下座」が満を持して登場した。必要な見積りを書いてくれない島貫に対し、街中で土下座する宮本。歩み去ろうとする島貫の前に回り込み、土下座を繰り返す姿は、はなはだみっともなくて、とてつもなくカッコいい。
アスファルトの路面にこすりつける宮本の頭は、仕事上の失敗を反省した丸坊主だ。原作通りとはいえ、電気バリカンで自分の髪の毛を刈り込んだ池松の役者根性に拍手である。その熱量を今週の最終回まで見届けたい。
(日刊ゲンダイ 2018.06.26)
週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
徳大寺有恒 『徳大寺有恒ベストエッセイ』
草思社文庫 972円
『間違いだらけのクルマ選び』で外国車の魅力を知った人は多い。本書は書籍や雑誌に掲載されたエッセイの集大成だ。VWゴルフの重量感。ミニの風格。2CVのカッコよさ。クルマはもちろん食やファッションにも男の美学で迫る。名車復活に似た喜びの一冊だ。
高野秀行、清水克行 『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』
集英社インターナショナル 1620円
辺境ノンフィクション作家と日本中世が専門の歴史家。2人が語り合うのは、アマゾン奥地の少数民族を描いた『ピダハン』や作者不詳の軍記物語『将門記』といったマニアックすぎる8冊だ。町田康『ギケイキ』をロードムービーと解釈するなど独自の視点が熱い。
(週刊新潮 2018年6月21日早苗月増大号)
週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
加田伶太郎 『完全犯罪 加田伶太郎全集』
創元推理文庫 1404円
加田伶太郎はミステリを愛した作家、福永武彦の別名だ。半世紀近く前に出版された一巻の全集が文庫となった。マルセイユから日本へと向かう船上で展開される「完全犯罪」談義。予告の手紙を送り、密室と化した屋敷で主を殺害したのは誰なのか。また方法は?
中野 明 『流出した日本美術の至宝』
筑摩選書 1836円
海を渡った日本古美術の名品は数多い。なぜそんなことが起きたのか。ボストン美術館のコレクションに関わったフェノロサやモース。鉄道王にして収集家のフリーア。浮世絵ディーラーだった建築家のライト。さらに海外流出を後押しした日本人たちにも言及していく。
(週刊新潮 2018年6月14日号)

「TBSレビュー」
2018年6月24日(日)
あさ5時40分〜6時
アンナチュラルはこうして生まれた
「重版出来」「逃げるは恥だが役に立つ」…これらのテレビドラマの脚本を手がけたのは野木亜紀子さん。いま最も注目される脚本家のひとりだ。そんな野木さんがオリジナル脚本に挑んだのが「アンナチュラル」。
ドラマは不自然死を究明する研究所。意外な舞台設定とそこで働く登場人物たちの個性的なキャラクター。このドラマはいかにして生まれたのか。ここで描きたかったものとはなにか。野木さんをスタジオに招き、多角的に話を聞いた。
キャスター:
秋沢淳子(TBSアナウンサー)
出演者:
野木亜紀子(脚本家)
碓井広義(上智大学教授)
番組webサイトより
WOWOW連ドラ「不発弾」
凛として光る黒木メイサのまなざし
凛として光る黒木メイサのまなざし
WOWOWの「不発弾~ブラックマネーを操る男~」は、大人に嬉しい社会派サスペンスである。
大手電機メーカー「三田電機」が、7年間で1500億円の「不適切会計」を発表する。ただし、あくまでも不適切な会計であり、「不正経理」でも「粉飾決算」でもないというスタンスだ。
これに疑いを持った警視庁捜査二課管理官・小堀弓子(黒木メイサ)は捜査を開始する。浮かんできたのが金融コンサルタントの古賀遼(椎名桔平)の存在だ。椎名は、一見クールだが重いものを背負って屈折した男を丁寧に造形している。
物語は主人公である古賀の過去と現在を交互に描きながら進む。九州の炭鉱町の貧しい家庭で育った若者が、東京でいかにして生き抜いてきたのかが見ものだ。また80年代から始まるいわゆるバブル期の金融界と、その裏側でうごめく人間たちの生態も興味深い。
原作は相場英雄の同名小説。読めば三田電機のモデルが「東芝」であることは明白で、発表当時も話題となった。ドラマ化に際しての大きな変更は、キャリア警視の小堀秀明を女性の弓子にしたことだ。黒木は凛とした佇まいと挑むような目で弓子になり切っている。
さらに若き日の古賀を演じる三浦貴大と妹役の入山杏奈(AKB48)にも注目だ。特に入山は、美少女から大人の女優へと転進する勝負所になるかもしれない。
(日刊ゲンダイ 2018年06月21日)
是枝監督が絶賛の「松岡茉優」
敵なしの魅力
敵なしの魅力
カンヌ映画祭で是枝裕和監督の「万引き家族」がパルムドールを受賞したのはご存知の通り。
この作品でリリー・フランキーや樹木希林など大ベテランの好演技に埋没することなく、存在感を発揮したのが松岡茉優(23)である。
飛ぶ鳥を落とす勢いの注目若手女優を知らない、お父さんのための“松岡茉優”講座――。
すでに連ドラで主演も張ったことのある松岡。しかし、スポーツ紙の芸能記者によれば、
「今回の作品へはオーディションを経て参加。是枝監督は松岡の演技にベタ惚れだったといい、彼女のために脚本が書きなおされたほど」
そんな松岡にも、不遇な下積み時代があったといい、
「8歳の頃、妹が芸能事務所のオーディションを受けた際、担当者の目にとまり、“ついで”で事務所入り。子役の頃は良い役に恵まれず、ドラマに出演することが出来たとしてもワンノブゼムで、光は当たらなかった」(同)
脚光を浴びるきっかけになったのは、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」で、
「その後は、役者業だけでなくバラエティ番組にも引っ張りだこ。本人も女版“八嶋智人”を目指すと公言していて、演技力はもちろん、喋りも同世代の役者の中で群を抜いている」(同)
上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)も、
「彼女は何が求められているのかを瞬時に察知していく女優です。もう一つの目で自分を俯瞰し、共演者を邪魔せずに奥行きのある演技が出来るのです」
向かうところ敵なし、か。
(週刊新潮 2018年6月14日号)