碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 俵 万智 『牧水の恋』ほか

2018年10月31日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


俵 万智 『牧水の恋』
文藝春秋 1836円

創作の源泉としての恋愛を軸に、短歌界の巨人の軌跡を追った評伝だ。ヒロインの名は小枝子。広島に夫と子どもを残して上京した人妻だった。何年にもわたる揺れ動く関係性が多くの歌を詠ませた。牧水の故郷、宮崎に移住した著者が作品と実人生を読み解いていく。


上原善広 『辺境の路地へ』
河出書房新社 1782円

大宅賞作家の著者は言う。「ここではないどこかへ、女と一緒に逃げたいという願望がある」と。妻子を大阪に置いたまま、取材と称する流浪の旅が続く。北海道日高の民宿で、八戸の居酒屋で、そして三重県のはずれにある売春島で出会う、愛すべき危うい女たち。

(週刊新潮 2018年10月11日号)


池井戸潤 『下町ロケット ゴースト』
小学館 1620円

この秋にドラマ化された、シリーズ最新作だ。佃製作所が開発したトランスミッションのバルブ。それを採用したギアゴースト社がライバルから特許侵害を指摘される。巨額なライセンス料に驚いたギ社は、佃航平にある相談をもちかけた。新たな戦いの始まりだ。


千葉雅也 
『思弁的実在論と現代について
 ~千葉雅也対談集』

青土社 1944円

著者は立命館大大学院准教授にして気鋭の哲学者。『現代思想』等での10本の対談・鼎談を収録したのが本書だ。思弁的実在論とは、いわば「無関係の哲学」。いとうせいこうと「引き受けすぎ」の意識について考え、羽田圭介らと「社会とマゾヒズム」の関係を探っていく。


古川雄嗣 
『大人の道徳
 ~西洋近代思想を問い直す』

東洋経済 1728円

今年度から小学校の「教科」となった「道徳」。左派は自由・平等を教えろと言い、右派は公共心・愛国心を植え付けよと主張する。では道徳とは一体何なのか。自由の本質に迫ったデカルト。功利主義の道徳哲学を排したカント。市民の意味を問うルソーなどから学ぶ。

(週刊新潮 2018年10月4日号)

NEWSポストセブンで、「ムロツヨシ」について解説

2018年10月30日 | メディアでのコメント・論評


『大恋愛』で注目ムロツヨシ 
なぜ美女の相手役に選ばれる?

戸田恵梨香(30才)主演、その恋人役をムロツヨシ(42才)が演じるドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)が好調だ。平均視聴率は第1話10.4%、第2話10.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と2桁台をキープしている。

パナソニックリフォームのCMでは、石田ゆり子(49才)の夫役となったムロ。開設された“夫婦SNS”で日常生活を発信し、「本当の夫婦のようだ」と評判になった。ほかにも、9月から放送されているアサヒグループ食品『MINTIA W&C』の新CMでは、患者役として看護師役の松岡茉優(23才)と共演している。ムロはなぜ美女の相手役に選ばれるのか――。

上智大学文学部教授(メディア文化論)の碓井広義さんが分析する。

「美女と野獣とまではいきませんが、二枚目ではないからこそ、美女が引き立つという理由もあるでしょう。ですが、『大恋愛』を見ていても、ムロさんは戸田さんの演技をしっかりと受け止めているし、ムロさんだからこそ単純な“格差恋愛モノ”にとどまらない作品になっていると言えます」


ネットでも「ムロさんカッコイイ!」という声が多く投稿された。視聴者がこれまでコミカルな役どころが多かったムロの新たな魅力に引き込まれているのがわかる。

「俳優として分類するなら、ムロさんは個性派俳優にジャンルわけされていると思いますが、私はどこにも属さない“ムロツヨシブランド”を確立している気がします。黙っていても笑っていても、何を考えているかわからない顔立ちも含めて、ムロさんは何か起こしそうな雰囲気を持っているので、見る側としては心がざわめきます。相手役の女優にしてみても、自身のプラスアルファを出さないとムロさんの個性に対抗できないから、いつもと違う面が見せられるのだと思います」(碓井さん、以下「」内同)

『大恋愛』は、若年性アルツハイマーに冒された女医(戸田)と、彼女を支え続ける元小説家(ムロ)の王道ラブストーリー。ムロの役柄は、親に捨てられ、児童養護施設で育ったフリーターだ。

「元小説家の役は、いわゆるイケメン俳優でも成立します。でも、あの詩的な言葉を普通の二枚目俳優さんがやっていたら、嘘くさく見えてしまう。ムロさんだから、複雑な過去を背負うちょっと変わった男の役を自然に演じられている。しかも難病を抱えたヒロインの恋愛ドラマなんて、下手をしたら陳腐化しそうな題材を、“ムロツヨシブランド”が入ることによって新鮮に感じさせています」

ムロはコメディアン的なキャラもあることから、美人と絡んでもやっかみを受けないメリットもあると碓井さんは指摘する。

「第1話で、戸田さんとの濃厚なキスシーンが話題になりましたが、ムロさんは戸田さんファンから攻撃をされることもなく、ネットではむしろ好意的に受け止められていました。逆に言うと、美人女優さんだって二枚目俳優とラブシーンを演じると、やっかまれる可能性だってある。それがないというのも女優にとっては安心材料になります」


実際に、『黄昏流星群〜人生折り返し、恋をした〜』(フジテレビ系)では、藤井流星(ジャニーズWEST)のファンが、「中山美穂とのラブシーンは見たくない!」と、悲痛な声をネットであげている。

「この秋ドラでムロさんは、『今日から俺は!!』(日本テレビ系)でコメディタッチの役でも登場しています。『大恋愛』とのギャップはすさまじい。ムロさんの役者としての奥行きを再確認させられました。ムロさんの演技によって“新しい魅力を引き出してほしい”という女優は今後増えていくかもしれないですね」

黒木華(28才)、新垣結衣(30才)、芳根京子(21才)ら、女優の中にも実はファンの多いムロ。今年1月クールの連続ドラマ『きみが心に棲みついた』(TBS系)で共演した吉岡里帆(25才)から「私の分岐点にムロさんが立っている」と役者として絶賛されたこともある。ムロと次にラブストーリーを演じる女優はいったい誰か?

(NEWSポストセブン 2018.10.28)



【気まぐれ写真館】 千歳市・柳ばしで、「むかわ応援!」定食

2018年10月29日 | 気まぐれ写真館

鵡川応援「チカフライ定食」、サクッと美味なり




札幌芸術の森美術館で、「五十嵐威暢(たけのぶ)の世界」

2018年10月29日 | 舞台・音楽・アート

五十嵐威暢先生と



























「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」芳根京子についてコメント

2018年10月29日 | メディアでのコメント・論評


「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」
芳根京子が助演女優賞 『高嶺の花』で好演


【18年7月期ドラマ賞】芳根京子が助演女優賞 
『高嶺の花』妹役で石原さとみと“競演”


オリコンによるエンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』が主催し、有識者と視聴者が共に支持する質の高いドラマを表彰する「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」が、18年7月期(第13回)の結果を発表。「助演女優賞」には、、脚本家・野島伸司氏が“美女と野獣”の超・格差恋愛を描いた『高嶺の花』(日本テレビ系)に出演した芳根京子が受賞した。

芳根が演じたのは、華道の名門「月島流」本家に生まれ、美貌、才能、キャリア、財力とすべてを持ち合わせた主人公・月島もも(石原さとみ)の異母姉妹・月島なな。ななは完璧な姉を心から慕う優しい性格の持ち主。それ故に、はじめは少々か弱さを感じさせたが、月島流に取り入ろうと次期家元候補の姉に近づく新興流派の華道家・宇都宮竜一(千葉雄大)に心奪われてから一変、自ら家元を継ぐために姉に対抗心を抱き、立ち向かっていく。

芳根は純真な女性が“愛すること”を知ったことで、みるみる豹変していく様を好演。前半と後半とで別人のような印象を与えた。審査員からは、「石原さとみさん演じる姉と差別化しながら、自分の立ち位置、役割を果たしながら、芳根京子さんらしいところもしっかりと見せてくれた」(碓井広義氏/上智大学文学部新聞学科教授 メディア文化論)などと支持を集めた。

なお、芳根の受賞コメントは以下のとおり。

◆助演女優賞:芳根京子

賞をいただくという経験がほとんどなかったので、「こうやって自信につなげるんだな」とすごく思いました。頭を使って考えて挑んだことが評価されたのがすごく嬉しいし、自分のなかでやりきれたなって思う作品で賞をもらえたことが嬉しいです。今回、ななが幸せになってくれてよかったというコメントをSNSなどでたくさんいただきました。私もななの幸せを一緒に願っていたので、みなさまがななに寄り添ってくださってとても嬉しかったです。感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。これからもみなさまを魅了できるようなお芝居をしたいし、いつか「芳根が出てるから観よう」と思ってもらえるような存在感のある人になれるようにがんばります。これからも応援よろしくお願いします。

※「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」とは
オリコンのグループ会社oriconMEが発行する、週刊エンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』が主催し、有識者と視聴者が共に支持する「質の高いドラマ」を表彰する賞。視聴者の評価は、『コンフィデンス』が毎週、約700名を対象に調査しているドラマ満足度調査「オリコンドラマバリュー」の累積平均データを使用。審査員の投票結果と合計したうえで、最終的には有識者18名による審査会で決定する。

(ORICON NEWS 2018年10月27日 )

言葉の備忘録 67 谷川俊太郎の「ゆとり」

2018年10月28日 | 言葉の備忘録



ゆとりとは
まず何よりも
空間のことである。

それが欲であろうと、
感情であろうと、
思考であろうと、
信仰であろうと、
動かすことのできる空間が
残っていなければ、
息がつまる。

そして
動かずにこり固まってしまうと
心はいきいきしない、
他の心と交流できない。



―――谷川俊太郎 『ひとり暮らし』

HTB「イチオシ!モーニング」

2018年10月28日 | テレビ・ラジオ・メディア


















HTB北海道テレビ「イチオシ!」

2018年10月27日 | テレビ・ラジオ・メディア














国井美佐アナウンサーの安産祈願!

【気まぐれ写真館】 札幌「まる山」で、いつもの鴨せいろ

2018年10月27日 | 気まぐれ写真館

【気まぐれ写真館】 紅葉の北海道

2018年10月27日 | 気まぐれ写真館

28日(日)のTBSレビューで、「クレイジージャーニー」について話します

2018年10月26日 | テレビ・ラジオ・メディア

秋沢淳子アナウンサーと


「TBSレビュー」
2018年10月28日(日) 
あさ5時40分〜6時00分


テーマ:クレイジージャーニー

クレイジージャーニー、
一般には殆ど知られていない分野で、
独自に活躍する人たち。

その様子をドキュメントVTRと
本人の話で紹介してゆく番組だ。

この番組は、若者たちばかりでなく、
多くの視聴者から支持を得ている。

また、
「第44回放送文化基金賞」
テレビエンターテインメント番組の
最優秀賞を受賞した。

この番組はなぜ支持されるのか。
その理由を探り、
この番組が持つ可能性を探る。


<出演>
ゲスト:
 碓井広義さん(上智大学教授)
 横井雄一郎(番組総合演出)
キャスター:
 秋沢淳子(TBSアナウンサー)


番組サイトより




【気まぐれ写真館】 モノクロのキャンパス

2018年10月25日 | 気まぐれ写真館









2018.10.25

『まんぷく』ヒロインのモデルは、どんな女性だったのか!?

2018年10月25日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


『まんぷく』ヒロインのモデル「安藤仁子」は、
どんな女性だったのか!?

ご存知のように、NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)には王道ともいうべき三大要素があります。女性の一代記、職業ドラマ、そして成長物語であることです。さらに近年は、実在の人物をモデルにする成功パターンが加わりました。

10月にスタートした朝ドラ『まんぷく』。安藤サクラさんが演じているヒロイン、福子のモデルは「日清食品」創業者・安藤百福(ももふく)の妻、仁子(まさこ)です。

そして、ドラマで長谷川博己さんが好演している立花萬平が、百福をモデルにした人物というわけですね。

ただし、仁子自身は翻訳家(『花子とアン』)でも、実業家(『あさが来た』)でもありません。普通の主婦だったはずですが、ドラマのモデルになるからには、知られざる何かがあるのではないでしょうか。

そんな好奇心から、安藤百福発明記念館:編『チキンラーメンの女房~実録 安藤仁子』(中央公論新社)という本を手にとりました。編者を見てわかるように、いわば仁子の「正史」です。

仁子は1917年(大正6年)、大阪の商家に三女として生まれました。やがて父の経営していた会社が倒産し、貧乏生活が始まりますが、家の中には常に三姉妹の笑い声が響いていたそうです。

家計を助けるために、14歳で電話交換手の見習い職員となります。働きながら女学校に通い、卒業したのは18歳のときでした。京都の都ホテルに就職したことが、後の百福との出会いにつながっていきます。

結婚した百福は、根っからの企業家でした。しかも事業は順調なときばかりではありません。戦後は、えん罪の脱税容疑で裁判にかけられ、財産も差し押さえられました。

また信用組合の理事長になってほしいと頼まれ、結局は倒産の責任を負います。これで再び財産を失うのですが、百福を信頼する仁子の姿勢は決して揺ぎません。

さらに、「インスタントラーメン」の開発も一人の天才によるものではなく、仁子をはじめ家族総出の取り組みでした。何があっても「クジラのように物事をすべて呑み込んでしまいなさい」という母(「私は武士の娘です」の口癖は実話)の教えを守りながら、常に夫を支え続けたのです。

本書を読むうち、仁子を「スーパー主婦」とでも呼びたくなってきました。

モデルがいるとはいえ、あくまでもドラマはフィクションです。萬平が百福そのままではないように(たとえば百福は台湾の人でしたが、ドラマでは大幅に変えられています)、もちろん福子も仁子そのものではありません。

『まんぷく』では、練達の脚本家・福田靖さんが、事実をふくらませた新たなエピソードを随所に盛り込んでいます。本書で描かれた仁子と、ドラマの福子を比べながら視聴するのも一興かもしれません。

「下町ロケット」の小さな不安

2018年10月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


古舘やイモト起用の是非は…
「下町ロケット」に小さな不安

日曜劇場「下町ロケット」(TBS系)は3年ぶりの続編だ。ロケットに搭載するバルブから一転して、今度はトラクターのトランスミッションの開発だという。ヒットメーカー「チーム半沢」による“骨太なドラマ”が一番のウリだ。

また続編のメリットだが、佃航平(阿部寛)をはじめ、技術開発部長の山崎(安田顕)、エンジニアの立花(竹内涼真)、そして経理部長の殿村(立川談春)といった面々には、「久しぶり!」と声を掛けたくなるような親近感がある。それは帝国重工の財前(吉川晃司)や社長の藤間(杉良太郎)も同様だ。

一方、やや心配な点もある。まず、「宇宙から大地へ」というキャッチコピーはすてきだが、農機具であるトラクターはロケットと比べると明らかに地味だ。しかも、いきなり「特許侵害」をめぐる攻防戦に突入した。かつての技術開発合戦とその逆転劇が与えてくれた快感が得られるかどうか。さらに新たな登場人物のキャスティングだ。ダイダロスの代表取締役に古舘伊知郎。ギアゴーストのエンジニアにイモトアヤコ。ケーマシナリーの知財部長に内場勝則などが起用されている。

しかし、いずれもこのドラマの重要人物だ。話題性はもちろん、健闘しているのもわかるが、本当に彼らでよかったのか。物語も配役も、小さな不安を吹き飛ばすような今後の展開を期待している。

(日刊ゲンダイ 2018年10月24日)


言葉の備忘録 66 旅を続ける力って・・・

2018年10月24日 | 言葉の備忘録



「旅を続ける力って、何だろう?」

 ぼくのために、ドアを開けてくれたソフィに訊く。

「疲れ果てて、たとえ目的地にたどり着けなくても、
 旅を始めた場所に戻ること」



早瀬 耕 『未必のマクベス』