週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
俵 万智 『牧水の恋』
文藝春秋 1836円
創作の源泉としての恋愛を軸に、短歌界の巨人の軌跡を追った評伝だ。ヒロインの名は小枝子。広島に夫と子どもを残して上京した人妻だった。何年にもわたる揺れ動く関係性が多くの歌を詠ませた。牧水の故郷、宮崎に移住した著者が作品と実人生を読み解いていく。
上原善広 『辺境の路地へ』
河出書房新社 1782円
大宅賞作家の著者は言う。「ここではないどこかへ、女と一緒に逃げたいという願望がある」と。妻子を大阪に置いたまま、取材と称する流浪の旅が続く。北海道日高の民宿で、八戸の居酒屋で、そして三重県のはずれにある売春島で出会う、愛すべき危うい女たち。
(週刊新潮 2018年10月11日号)
池井戸潤 『下町ロケット ゴースト』
小学館 1620円
この秋にドラマ化された、シリーズ最新作だ。佃製作所が開発したトランスミッションのバルブ。それを採用したギアゴースト社がライバルから特許侵害を指摘される。巨額なライセンス料に驚いたギ社は、佃航平にある相談をもちかけた。新たな戦いの始まりだ。
千葉雅也
『思弁的実在論と現代について
~千葉雅也対談集』
青土社 1944円
著者は立命館大大学院准教授にして気鋭の哲学者。『現代思想』等での10本の対談・鼎談を収録したのが本書だ。思弁的実在論とは、いわば「無関係の哲学」。いとうせいこうと「引き受けすぎ」の意識について考え、羽田圭介らと「社会とマゾヒズム」の関係を探っていく。
古川雄嗣
『大人の道徳
~西洋近代思想を問い直す』
東洋経済 1728円
今年度から小学校の「教科」となった「道徳」。左派は自由・平等を教えろと言い、右派は公共心・愛国心を植え付けよと主張する。では道徳とは一体何なのか。自由の本質に迫ったデカルト。功利主義の道徳哲学を排したカント。市民の意味を問うルソーなどから学ぶ。
(週刊新潮 2018年10月4日号)