碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

松下奈緒主演「スカイキャッスル」 最大のポイントは・・・

2024年07月31日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

松下奈緒主演「スカイキャッスル」

最大のポイントは・・・

 

松下奈緒主演「スカイキャッスル」(テレビ朝日系)が始まった。

浅見紗英(松下)、二階堂杏子(比嘉愛未)、夏目美咲(高橋メアリージュン)の3人が暮らすのは、高級住宅街「スカイキャッスル」。夫はいずれも医学界に君臨する「帝都病院」の医師だ。

経歴、容姿、財力に恵まれた彼女たちだが、更なる強い望みがある。我が子を、セレブ医師への最短コースである「帝都医大付属高校」に合格させることだ。高校受験をめぐるマウントバトルが展開されていく。

からんでくるのは、3000万円で合格を請け負う「受験コーディネーター」の九条彩香(小雪)や、3人とは価値観も教育観も異なる、小説家の南沢泉(木村文乃)などだ。特に泉は紗英の「秘めた過去」を知っているらしい。

また「お受験」の成功者である冴島香織(戸田菜穂)が謎の死を遂げたことで、サスペンスの要素も加わった。

原作は韓国のヒットドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」。超学歴社会という現実を背景にした緊迫感は韓国ならではのものだった。

しかし、「ドクターX」を思わせる帝都医大や、日本風セレブの描写に笑ってツッコミを入れながら楽しむエンタメとして悪くない。

最大のポイントは、セレブ妻たちの野心や見栄や秘密がいかに「崩壊していくか」であり、見る側がどれだけ「溜飲を下げるか」だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.07.30)


【気まぐれ写真館】 ベランダ測候所は「40℃」でした

2024年07月30日 | 気まぐれ写真館

2024.07.29


言葉の備忘録382 恐れて・・・

2024年07月29日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

恐れているもののなかへ飛びこめ。

 

 

 

草間彌生の言葉

 

ミア・カンキマキ

『眠れない夜に思う、憧れの女たち』より

 

 

 


【気まぐれ写真館】 猛暑日の「代々木界隈」夕景

2024年07月28日 | 気まぐれ写真館

2024.07.27

 


【新刊書評2024】 北方謙三『黄昏のために』ほか

2024年07月27日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

北方謙三『黄昏のために』

文藝春秋 1870円

この連作小説集の主人公は中年の画家である「私」だ。作品はそれなりに売れている。モチーフにするのは動物の骨や人形など。静物画だけで裸婦は描かない。10年以上も「いま描こうとしている絵」があるが、まだデッサンもできていない。画商・吉野を除けば、決まった交流相手はいない。ひたすら対象を見つめ、絵と向き合うフラットな日常だ。何かを生み出す人間の苦悩と愉悦が行間を漂っている。

 

日高 優『日本写真論~近代と格闘した三巨人

講談社選書メチエ 2420円

写真家とは「私心なく、何よりもじかによく観て、多くを恵みとして受け取る人」だと著者は言う。本書には3人の巨匠が登場する。人間の生活をとらえる報道写真、個の顕れとしての肖像写真を目指した木村伊兵衛。リアリズム写真を主唱し、社会と文化の両方にレンズを向けた土門拳。そして、日本の風土とそこで生きる日本人を見つめ続けた濱谷浩。写真の本質を問う、野心的な評論集だ。

 

松本大輔『クラシック名盤復刻カタログ』

青弓社 2200円

半世紀以上前に生まれたSPやLPのレコードを音源とする復刻版CD。歴史的な名演奏を手軽に聴くことが出来る。本書で紹介されるのは、カラヤン最初の録音である1938年の『魔笛』序曲。バーンスタインがニューヨーク・フィルの音楽監督に就任した当時のシューマン『交響曲全集』などだ。著者はクラシック専門の通販CDショップ店主。マニアックともいえる名盤の醍醐味を語っていく。

 

安田浩一『地震と虐殺 1923-2024』

中央公論新社 3960円

1923年9月1日に発生した関東大震災。その直後に起きた朝鮮人虐殺の悲劇を検証したのが本書だ。現場は東京だけではない。千葉では香川から来た行商団が殺害された。聞き慣れない方言で朝鮮人と疑われたのだ。いわゆる「福田村事件」である。それらは集団心理などで偶発的に起きたものではない。背景に国家権力があった。しかも不都合な真実を封印する動きは、百年後の現在も続いている。

(週刊新潮 2024.07.25号)

 


がんばれ、なでしこ! がんばれ、田中美南選手!

2024年07月26日 | 日々雑感

パリオリンピック。

女子サッカーの初戦、スペイン戦が始まった。

我が家の「推し」は、田中美南(たなか みな)選手。

息子と幼稚園の同級生で、

当時、園庭で一緒に

サッカーをやっていました(笑)。

その美南ちゃんが、

東京五輪に続いて

パリでもピッチに立っている。

うれしいことです。

がんばれ、なでしこ!

がんばれ、美南ちゃん!

2024.07.26


【気まぐれ写真館】 近づく雷雲

2024年07月25日 | 気まぐれ写真館

2024.07.24

 


「西園寺さんは家事をしない」一見、適温のラブコメだが・・・

2024年07月24日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

一見、適温のラブコメだが・・・

松本若菜主演

「西園寺さんは家事をしない」

 

猛暑の中、暑苦しい恋愛ドラマは見たくない。その意味で、松本若菜主演「西園寺さんは家事をしない」(TBS系)の温度と湿度は好ましい。

アプリ制作会社で働く西園寺一妃(さいおんじ いつき、松本)は38歳の独身。仕事は好きだが、家事は大嫌い。

最近、家賃収入が見込める賃貸付き物件の中古住宅を購入。家事ゼロの日常を目指してリニューアルしたばかりだ。

ところが、その賃貸の部屋に同じ会社のエンジニア・楠見俊直(松村北斗)と4歳の娘・ルカ(倉田瑛茉)が住むことになる。

優雅で気ままな一人暮らしは一転し、大家と店子の関係を超えた「偽(にせ)家族」としての生活が始まってしまった。

幼い娘を抱えて仕事と家事の両立に追われる楠見。彼を助けることで、西園寺の理想の生活が脅かされるのではないか。楠見も見る側もそれを心配した。しかし西園寺は言う。

「やりたくないことをやってる人を、やらなくていいようにすることが、私のやりたいことだからやってるの!」

その言葉の背後には、完璧に家事をこなしていた母親が、突然家を出てしまったという少女時代の苦い記憶がある。

家事とは炊事、洗濯、清掃、さらに育児なども含む、毎日処理すべき生活上の実務全てだ。家事との向き合い方は、その人の「生き方」に関わっている。

一見、適温のラブコメだが、意外な奥深さがありそうだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.07.23)

 


ビッグマックCM「あしたも、笑おう。」篇は、最強コンビとのコラボ

2024年07月23日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

最強コンビとのコラボ 拍手

日本マクドナルド ビッグマック

「あしたも、笑おう。」篇

 

このCМが流れると、思わずにっこりしてしまう。日本マクドナルドのビッグマック「あしたも、笑おう。」篇である。

画面には世代や性別も様々な人々の笑顔が映し出されていく。背景も公園、海辺、プール、街の歩道と多彩だ。

楽しそうに、おいしそうにビッグマックを頬張る人たちに混じって、どこかで見たことのある、3人の女性の歩く後ろ姿が目に入ってくる。

しかも流れている曲は「I feel Coke」だ。見る側は喧騒と熱気の1980年代後半へと一気にワープしてしまう。

昨年、ビッグマックと一緒に最もよく飲まれたドリンクがコカ・コーラだったそうだ。

どちらも71年の日本マクドナルド創業時からメニューに並んでおり、半世紀を超える「最強コンビ」と言えるだろう。

とはいえ、他社が過去に放映したCMのイメージを取り込むのは容易なことではない。懐かしい曲まで巧みに復活させた「コラボ力」に拍手だ。何より記憶を呼び覚ます音楽の力に驚いた。

今後のCM界にも少なからぬ影響を与えそうな好企画の1本だ。

(日経MJ「CM裏表」2024.07.22)

 


【気まぐれ写真館】 本日は「大暑」、ベランダ測候所 40℃なり

2024年07月22日 | 気まぐれ写真館

2024.07.22


【気まぐれ写真館】 7月の満月「バックムーン」

2024年07月22日 | 気まぐれ写真館

2024.07.21


言葉の備忘録381 覆された・・・

2024年07月21日 | 言葉の備忘録

日本橋・人形町にて

 

 

 

(くつがえ)された宝石の

ような朝

何人(なんびと)戸口にて誰かとさゝやく

それは

神の生誕の日

 

 

西脇順三郎

「天気」

詩集『ambarvalia』より

 

 

 

 


【新刊書評2024】 『神と人と言葉と 評伝・立花隆』ほか

2024年07月20日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

塩澤幸登『木滑(きなめり)さんの言葉~思想 歴史 発言 そして 記憶

河出書房新社 2970円

木滑良久は「伝説の編集者」の一人だ。1960年代から80年代にかけて「平凡パンチ」「POPEYE」「BRUTUS」などの編集長を務めた。本書はその軌跡と編集思想を伝える一冊だ。考え方の特徴は感覚(感動、感激)と論理の対比だった。そして雑誌作りのポイントは「作る側の自分が本当に面白いと思うものをとりあげること」だ。新しさを追うのではなく、自分が新しくあろうとしていた。

 

太田 光『芸人人語~旧統一教会・ジャニーズ・「ピカソ芸」大ひんしゅく編

朝日新聞出版 1760円

雑誌に連載中の時評エッセイ集、その最新刊だ。2022年秋から今年の春にかけての出来事が題材となっている。安倍元首相銃撃事件と旧統一教会に関する発言で炎上した背景と真意。ロシアのウクライナ侵攻をめぐる「正義」。またジャニーズ問題については2つの側面を挙げる。事件の「検証」とメディア・芸能界の「あり方」だ。猛批判も承知の上で、自身の思うところを語る覚悟がそこにある。

 

武田 徹『神と人と言葉と 評伝・立花隆』

中央公論新社 2750円

立花隆が80歳で逝去して3年。新たな視点を提示する、刺激的な「立花隆論」だ。たとえば、本邦初となる中学時代の作文や大学時代の詩作も引用しながら、情報と文学という「二つの文体」に注目する。また、事実と論理にこだわる立花にとって、「田中角栄研究」はウイトゲンシュタインの『論理哲学論考』の応用編だったと指摘。さらにキリスト教との複雑な関係についても興味深い考察が並ぶ。

(週刊新潮 2024.07.18号)

 


【気まぐれ写真館】 「梅雨明け」の空

2024年07月19日 | 気まぐれ写真館

2024.07.19

 


FRIDAYデジタルに、ドラマ『新宿野戦病院』について寄稿

2024年07月19日 | メディアでのコメント・論評

 

 

池袋発、北三陸経由での〝現在地〟

『新宿野戦病院』は

クドカン流「地元ドラマ」の進化形だ

 

宮藤官九郎が脚本を担当する『新宿野戦病院』(フジテレビ系)が、早くも「目が離せない作品」となっている。

物語の舞台は新宿・歌舞伎町にある「聖まごころ病院」。ヒロインは元軍医の日系アメリカ人である、ヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)だ。英語と日本語(岡山弁)のバイリンガルで、外科医を探していたこの病院で働くことになった。

もう1人の主人公は、院長の甥で美容皮膚科医の高峰亨(仲野太賀)だ。愛車の白いポルシェを乗り回し、夜ともなれば港区女子との「ギャラ飲み」に忙しい。無邪気な“ゆとりモンスター”とも言える30代男である。

この2人を取り巻く人たちもまたクセが強い。アルコールが切れるとメスを持つ手が震える、元外科医で院長の高峰啓介(柄本明)。英語に堪能な看護師長・堀井しのぶ(塚地武雅)はジェンダー不詳。ギャラ飲みとパパ活の区別にこだわる、内科医の横山勝幸(岡部たかし)。さらに地域の支援活動家、南舞(みなみ まい、橋本愛)もかなりのワケアリと見た。

そこに反社、風俗嬢、不法移民、トー横少女など、歌舞伎町に生息する多様な人々がからんでくる。すでに元暴力団の老人による発砲事件もホストの転落事故も起きた。

ヨウコは外科医だが、日本の医師免許は持っていない。しかし、院長のサポート役を装いながら、実際は彼女が患者の命を救っていく。

「目の前の救える命を救うために、私は軍医になった」とヨウコは言う。アメリカでは、患者の貧富の差が、受けられる医療の差になっている。

しかし、戦地では男も女も善人も悪人も命に区別はない。「平等に雑に助ける、それが医者!」が信条だ。「ドクターX」ならぬ、「ドクターY」。手術は雑だが、腕はいい。

◆「池袋」発、「北三陸」経由、「歌舞伎町」行き

当初、新宿・歌舞伎町という「地域限定」の設定から、池袋を舞台にした『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系、‘00年)のような「地元ドラマ」を連想した。クドカンの初連ドラ脚本だ。

主人公の真島誠(長瀬智也)は、賭けボーリングなどで小銭を稼ぐ遊び人。実家の果物屋の店番であり、トラブルシュータ―だ。ストリートギャング「Gボーイズ」の安藤崇(窪塚洋介)たちと組んで、面倒な事件を解決していく。

事件の背景にあるのは援助交際、ひきこもり、虐待、ストーカー、マルチ商法といった社会的病理だ。ドラマは見事なハードボイルド・コメディになっていた。

あれから四半世紀が過ぎた現在、クドカンが見つけた、当時の池袋に匹敵するカオス度の高いエリア。それが今回の新宿・歌舞伎町だ。

しかし、誠たちにとって池袋が「地元」だったのに対し、歌舞伎町はヨウコの地元ではない。そこに流れてきた者、入り込んできた者であり、いわば「異分子」である。だが、その異分子が周囲に影響を及ぼし、変えていく。

その構造は、クドカン脚本の朝ドラ『あまちゃん』(NHK、’13年)を思わせる。

一般的な朝ドラのヒロインたちは、さまざまな体験を重ねることで成長し、変化していく。だが、『あまちゃん』の天野アキ(能年玲奈)は違った。成長はしたかもしれないが、基本的に当人の実質は変わらないのだ。

むしろアキという「異分子」に振り回されることで、徐々に変化していくのは周囲の人たちのほうだった。それは北三陸の人たちも、東京で出会った人たちも同様だ。その様子は、文化人類学者・山口昌男が言うところの「トリックスター」を想起させる。

いたずら者のイメージをもつトリックスターは、「一方では秩序に対する脅威として排除されるのであるが、他方では活力を失った(ひからびた)秩序を賦活・更新するために必要なものとして要請される」(山口『文化と両義性』)からだ。

アキが北三陸に現れた時、地元の人たちにとっては「天野春子の娘」という〝脇役〟にすぎなかった。また、アキはアイドルとなるべく上京したが、本当に待たれていたのは「可愛いほう」のユイ(橋本愛!)であり、「なまってるほう」のアキはオマケだったのだ。

ところが、いつの間にか人々の中心にアキがいた。「トリックスターは脇役として登場しながらも、最後には主役になりおおせる」(山口『文化記号論研究における「異化」の概念』)のだ。

◆地元に降臨した「トリックスター」

ならば、ヨウコもまた、歌舞伎町という地元に現れたトリックスターではないだろうか。

日系アメリカ人っぽい英語と、岡山生まれの日本人である母親(余貴美子)から受け継いだ岡山弁が入り交じるヨウコの語り。それはクドカンらしい〝発明品〟だ。見る側を引き込む、独特の迫力と説得力がある。

「(英語で)私は見た。負傷した兵士、病気の子供。運ばれて来る時は違う人間、違う命。なのに死ぬとき、命が消えるとき、(岡山弁で)皆、一緒じゃ!」

続けて、「(英語で)心臓が止まり、息が止まり、冷たくなる。(岡山弁で)死ぬときゃ、一緒。それがつれえ。もんげえつれえ」

もんげえつれえ(すごく辛い)からこそ、「平等に、雑に助ける」のだ。

「Yes」か「No」の判断が難しい時も、英語の“Yeah”と日本語の”いや“のちょうど中間を狙った、「イヤー」で乗り切っていく。

そんなヨウコの存在は、チャラ系医師の亨をはじめ、患者も含めた周囲の人たちを少しずつ、だが確実に変え始めている。

クドカンが30代で書いた「池袋」、40代の「北三陸」、そして50代での「新宿・歌舞伎町」。『新宿野戦病院』は、20年を経たクドカン流「地元ドラマ」の進化形だ。

(FRIDAYデジタル 2024.07.17)