『帰去来』
『海わたる聲』
『鬼子の歌~偏愛音楽的日本近現代史』
『いい女、ふだんブッ散らかしており』
![]() | ドラマへの遺言 (新潮新書) |
倉本聰、碓井広義 | |
新潮社 |
長時間視聴減り 話題性低く
民放 2時間ドラマ枠消滅
「月曜名作劇場」は1989年に「月曜ドラマスペシャル」としてスタートし、枠名を変更しながら30年続いた。「十津川警部」「金田一耕助」などの人気シリーズがある。
2時間ドラマ枠の歴史は、テレビ朝日が77年に作った「土曜ワイド劇場」に始まる。84年には市原悦子主演の「家政婦は見た!」が視聴率30・9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。各局も相次いで2時間ドラマ枠を作った。多くはミステリー作品で、長い放送時間は謎に一層の奥行きを与えた。また、舞台を温泉地などの観光地にし、その旅情でも人気を集めた。
◆動画配信の普及
それが変わったのは、「視聴者の生活で優先順位が変化し、じっくりテレビを見ることが少なくなった」からだと、上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は指摘する。
かつてテレビは家族がお茶の間で囲むものだった。しかしスマートフォンの登場や、2010年代に広がった動画配信サービスなどで多種多様な動画がいつどこでも楽しめるようになると、テレビを長時間見続ける習慣がなくなっていった。碓井教授は「2時間ドラマ1本撮影するのに約4000万~5000万円かかる。CMスポンサーの確保には視聴率が重要で、2時間ドラマは費用対効果が悪くなった」と説明する。
◆広告収入の減少
動画配信サービスの普及に加え、テレビ局を取り巻く環境の変化を挙げるのは、NHK出身のメディアアナリスト鈴木祐司氏だ。近年、テレビ局の広告収入は大きく減っている。「有料オンデマンド事業や見逃し配信サービスでどれだけ稼ぐかが重要となったが、2時間ドラマは、連続ドラマと比べて話題になりにくい」と言う。連続ドラマは徐々に話題になり、それが見逃し配信の利用につながることがあるが、2時間ドラマにはない。
視聴者の中心が中高年であることの影響もあるようだ。現在は多くのテレビCMが、若い世代をメインターゲットにする。「経営が厳しくなる中、広告収入を上げるというテレビ局にとっての重要課題が根底にあるのではないか」と鈴木氏。
2時間ドラマの制作は制作会社が中心だ。長年にわたって様々な作品を手がけてきた制作会社のプロデューサーは、「制作費が全盛期と比べ数十%落ちた。質を落とさないよう歯を食いしばってきたが、いかに安く制作するかという発想にもなっていた」と明かす。脚本に書かれた場所とは別の近場でロケを済ませることもあったという。「作品がやせ、視聴者が離れるという悪循環になっていた」
とはいえ、2時間ドラマは多くの人々から愛されてきた。テレビ局が、今後どのような切り口で幅広い世代が楽しめるドラマを作るのか、注視していきたい。
(読売新聞 2019.03.22夕刊)
[解説スペシャル]
ピエール瀧容疑者逮捕
作品にも「罪」問うべきか
◆配信・公開 割れる判断
俳優でミュージシャンのピエール瀧容疑者が、コカインを使用したとして麻薬取締法違反(使用)容疑で逮捕されたのを受け、出演作の撮り直しや配信停止などの措置が相次いでいる。犯罪をはじめ、出演者の不祥事により作品が影響を受ける事態に、制作者や識者から疑問の声も上がっている。
■「反社会的」
バイプレーヤーとして引っ張りだこだっただけに今回の逮捕後、テレビ各局、映画会社は、瀧容疑者の出演場面のカットや撮り直し、番組の差し替えなど対応に追われた。
瀧容疑者がレギュラー出演していたNHK大河ドラマ「いだてん」では、代役として三宅弘城さんを起用したが、波紋は過去の作品にまで及んでいる。放送後の番組をネット配信する有料動画サービス「NHKオンデマンド」は、同作の瀧容疑者出演回の配信(販売)を停止したほか、連続テレビ小説「あまちゃん」「とと姉ちゃん」など複数のドラマでも同様の対応を取ったのだ。
木田幸紀放送総局長は20日の定例記者会見で、「NHKは受信料で成り立っており、反社会的な行為を容認できない」と強調。容疑者段階での措置については「本人の認否、視聴者に与える影響などを総合的に判断した」と説明した。配信停止の解除は状況を見て、今後判断するという。
この点について、数多くのテレビ番組を手がけた元プロデューサーの碓井広義・上智大教授(メディア文化論)は「脇役の一人の行為によって作品を全部封印するのはどうかと思う」と疑問を投げかける。配信停止の根拠として木田総局長が「受信料」を持ち出した点には、逆に「受信料で制作した番組が見られないのは、それを払った多くの視聴者に大きな不利益を与える。視聴者への思いが欠けている」と批判する。
一方、瀧容疑者はテクノバンド「電気グルーヴ」の一員としても活動。同バンドのCDや、DVDなどの映像作品は出荷停止、店頭から回収され、配信も止められた。CDなどを発売するソニー・ミュージックレーベルズは「青少年などを対象としたビジネスを行っている企業の社会的責任を重視した」と説明する。
これに対し、音楽家の坂本龍一さんはツイッターで「ドラッグを使用した人間の作った音楽は聴きたくないという人は、ただ聴かなければいいだけなんだから。音楽に罪はない」と憂慮する。
■東映が一石
こうした声に呼応するかのように東映は20日、記者会見を開き、瀧容疑者の出演映画「麻雀放浪記2020」を予定通り4月5日に、出演場面もカットせずに公開すると発表した。
多田憲之社長は「(映画は)有料で、鑑賞の意思のあるお客が来場するので、テレビやCMとは違う」などと理由を説明。公開中止などの措置について「行き過ぎだなという印象を持っていた」とし、「マニュアル的にやることがいいか疑問」と問題提起した。
会見に同席した白石和彌監督も「作品そのものに罪はないのではないか。議論せずに、流れの中で決まっているかのように蓋をするのはおかしい」と述べた。
エンターテインメントの本場、米国では薬物のほか、最近はセクハラ行為への批判が厳しい。だが、ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト・吉川優子さんは「例えば、映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン被告は、数十人の女性にセクハラを告発され、2人に対する性的暴行などの罪で起訴されたが、彼が手がけた作品が配信停止となることは原則なかった」と話す。
事実、米国資本の動画配信サービス「ネットフリックス」や「Amazonプライム・ビデオ」は、瀧容疑者が出演した映画「凶悪」や「怒り」などの作品の配信をこれまで通り続けている。ネットフリックスは「配信を続けることが、アーティストやクリエイターを守ることにつながる。クリエイターファーストの精神でグローバルに同様の対応を取っている」とコメントしている。
◆安易な自粛 疑問
強制性交罪で起訴された俳優の新井浩文被告が2月に同容疑で逮捕された際にも、主演映画「善悪の屑(くず)」は公開中止となり、NHKオンデマンドでは、出演した大河ドラマ「真田丸」などの配信が見合わされた。
瀧容疑者の逮捕について、映画監督でもあるタレントの松本人志さんは、17日のフジテレビ系の情報バラエティー番組「ワイドナショー」で、主役級の俳優が「薬物という作用を使ってあの素晴らしい演技はやっていたのかもしれないと思ったら、それはある種『ドーピング』。ドーピング作品になってしまうので、監督としては公開してほしくない」と発言。場合によっては、作品にも「罪」があるとした。
また、関西大の亀井克之教授(リスクマネジメント論)によると、こうした自粛は「企業イメージ上の危機管理。理にかなっており当然の措置」とする。企業側の論理としてやむをえない一面もあるというのだ。とはいえ、過去の作品の流通停止などは「過剰ではないか」とも話す。
自粛の流れは、娯楽産業に限らず、広く現代的な現象とみる専門家もいる。
佐藤卓己京都大教授(メディア史)は「あらかじめ不快なものを除き、面倒なことを避けようとする傾向」を指摘。「本来ならこうした事態に対応する内規を設けるのが適切だが、そうした議論が起こる機会も排除している。議論がないところに文化の成熟はない。複雑な判断を避けようとするのは、人間の思考を機械化するものだ」と警鐘を鳴らす。
作品に関わった一人の無責任な行為により、観客や利用者が作品全体に嫌悪感を催すのは理解できる。それに対して制作者らが配信停止など社会的責任を負うのは当然だ。とりわけ家庭に浸透した放送では、出演部分のカットなどは納得できる措置だ。
ただ、その上で、作品を楽しむ権利とどうバランスを取っていくか。業界全体で議論し、何らかの基準を作る必要もあるのではないか。◇文化部 大木隆士
(読売新聞 2019.03.22朝刊)
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