2022.09.30
NHK
「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」シーズン2
映像作家になったオダギリジョーを見逃すな!
1年ぶりの続編となる「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」シーズン2(NHK)がスタートした。前作同様、オダギリジョーが脚本・演出・編集を手掛け、自ら出演もしている。
警察犬係の警察官、青葉一平(池松壮亮)が担当するのがオリバーだ。しかし一平には、この犬が人間に見えるし、会話もできる。
ぐうたらで、飛び切りの毒舌家。酒好き、女好きなオリバーを演じているのがオダギリジョーだ。自分勝手な「おっさん犬」に振り回される一平が実におかしい。
11年前に失踪した少女(玉城ティナ)が遺体で発見され、しかも数日前まで生存していたことが判明する。物語は、この事件の謎解きが軸だ。
しかし、これはストーリーを追うドラマではない。オダギリ監督が力を入れているのは本筋から外れた、脇道のようなエピソード群だ。そのために、何とも豪華なキャスティングを行っている。
たとえば、雑誌編集長は松たか子だ。生活安全課の警察官に黒木華。そしてキッチンカーで働くのは松田龍平・翔太の兄弟である。
いずれも物語展開とはほぼ無関係な人物なのに、出演シーンの濃度が半端ではない。すでにオダギリジョーは、俳優に「彼の作品なら参加したい」と思わせる映像作家になっているのだ。
今回も全3話の短期決戦。夏の終わりを告げる、打ち上げ花火のようだ。見逃すことなかれ!
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.09.28)
9月28日(水)発売!
『脚本力』
(きゃくほんりき)
倉本聰+聞き手 碓井広義
幻冬舎新書
定価1034円(本体940円+税)
昨年秋から半年間、倉本聰さんと何度か対話を重ねて、出来上がった本です。
シナリオ(脚本)を梃子にして、倉本さんの「創ること」をめぐる経験や知恵や哲学を、読みやすい新書としてまとめました。
特色は、この本のために書き下ろしていただいた、『火曜日のオペラ』という「新作シナリオ」が読めることです。
倉本さんによる「企画書」、登場人物の「履歴」、「シノプシス(粗筋)」、さらに自筆の「地図」なども収録し、1本のシナリオがいかにして出来上がっていくのか、そのプロセスを明かしています。
どうぞよろしく、お願いいたします!
最新SFX駆使、ハリウッド映画のよう
大和ハウス工業
「ダイワマンSEASON2 Episode 1&2」篇
冷たい雨が降る、夜のメトロポリス。ジェット噴射で空中に浮かぶ人影がある。
ダイワマンだ。やがて路上へと降り立つと、殺気立った怪しい者たちが迫ってくる。まさに一触即発だが、ダイワマンは戦わない。ダイナモービルに乗って帰る先はダイワハウスだ。
最新のSFXを駆使したハリウッド映画のような映像は、「バットマン」シリーズを想起させる。
それが大和ハウス工業の新企業CMシリーズ「ダイワマンSEASON2Episode 1『登場』」篇だ。主演は西島秀俊さんである。
西島さんは今、最も旬な俳優の一人だ。
アカデミー賞の国際長編映画賞に輝いた映画「ドライブ・マイ・カー」はもちろん、この夏放送されたドラマ「ユニコーンに乗って」(TBS系)でも存在感が際立っていた。
年齢にかかわらず自分の夢に挑戦する役柄が、多くの人の共感を呼んだのだ。
ダイワマンとは何者なのか。
「Episode 2『後継者』」篇では、その正体が「俳優・西島秀俊」であることが明かされる。そのトリッキーな設定がすこぶる愉快だ。
(日経MJ「CM裏表」2022.09.26)
【新刊書評2022】
週刊新潮に寄稿した
2022年6月後期の書評から
芦原 伸『北海道廃線紀行~草原の記憶をたどって』
筑摩書房 1870円
かつて北海道には4100㌔もの鉄路が敷かれていた。現在、すでに4割が消滅している。幌内線は三笠炭鉱から石炭という「黒いダイヤ」を運んでいた。羽幌線では、大漁に沸く「にしん列車」が疾走していた。紀行作家が目指すのは、いわば夢の痕跡。廃線探訪の楽しみは「鉄道の歴史地図を紐解くことにある」そうだ。この夏、古い地図を携えて線路跡や残された駅舎に立つ旅がしたくなる。(2022.05.15発行)
永井 隆
『キリンを作った男~マーケティングの天才・前田仁の生涯』
プレジデント社 1980円
キリンビールの人気商品である「一番搾り」「淡麗」「氷結」などを生み出した男。それが前田仁だ。独自のマーケティング戦略で挑んだ「一番搾り」。その成功直後に突然の左遷。やがて復活し、今度は発泡酒の開発に取り組んだ。前田はなぜ、困難な課題を背負いながら結果を出せたのか。見えてくるキーワードは「本質」だ。本書は優れた評伝であると同時に、商品論であり企業論でもある。(2022.05.30発行)
養老孟司、ヤマザキマリ
『地球、この複雑なる惑星に暮らすこと』
文藝春秋 1650円
昆虫のメカニズムを分析しながら人間について考える脳学者。昆虫の誕生から死までを観察しながら人間の有りようを思う漫画家。そんな2人の対談集だが、昆虫を足場に家族、社会、そして死に対する見方まで、話題は自在に広がっていく。中でも新型コロナをはじめ、環境・経済問題などについて地球規模で展開される対話が刺激的だ。世の中への違和感こそが、自分の頭で思考する第一歩だと知る。(2022.05.30発行)
みうらじゅん『マイ修行映画』
文藝春秋 1650円
雑誌『映画秘宝』の名物連載7年分だ。映画館は逃避の場であり、「道場」でもあると著者。ある映画を「つまらない」と感じる、自分の常識を疑うための道場だ。そこで得るのは新たな映画の見方であり、マイ価値観である。『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネーション』は「安請け合い映画」。『007/ノー・タイム・トウ・ダイ』は「ボンドはつらいよ映画」。78本の修行の成果だ。(2022.06.10発行)
岸見一郎『ゆっくり学ぶ~人生が変わる知の作り方』
集英社 1650円
「学び」の本質を説く著者は、『嫌われる勇気』などで知られる哲学者。本書は年齢に関係なく、学ぶ楽しさを堪能するための指南書だ。学びに目的は不要。そこには知らないことを知る喜びがある。また学ぶことで自己中心性から脱し、どう生きるかを決められるようになる。さらに読書や書くことの意味や具体的な方法もアドバイス。家で過ごすことが増えた人にとって参考になることが多い。(2022.06.10発行)
読売新聞取材班:編
『報道記録 東京2020オリンピック・パラリンピック』
読売新聞社 2750円
東京2020大会の開催から約1年になる。本書は紙面画像も含めた記事の再録を中心に、「その出来事が生じた時の臨場感を再現」することを目指した一冊だ。招致、延期、開催といった経緯をたどる一方で、選手、支える人たち、関係者などのヒューマン・ストーリーも盛り込んでいる。それにしても都知事から首相まで、12幕もの交代劇は前代未聞。客観的検証が行われるなら、本書は有効な資料となる。(2022.06.11発行)
【新刊書評2022】
週刊新潮に寄稿した
2022年6月前期の書評から
椎名 誠『シルクロード・楼蘭探検隊』
産業編集センター 1320円
椎名誠には「探検」の文字がよく似合う。少年時代に憧れたシルクロード。本書では二つの旅を回想している。敦煌までのツアーに参加したのが1980年。8年後には日中共同楼蘭探検隊のメンバーとしてタクラマカン砂漠に足を踏み入れる。風景の変化に感動し、「砂の海」の過酷さを味わい、敬愛する探検家・ヘディンを思った。長い時間が過ぎた今だからこそ分かること、書けることがあるのだ。(2022.05.23発行)
中丸美繪『鍵盤の天皇~井口基成とその血族』
中央公論新社 3300円
約40年前、75歳で没した井口基成。ピアノ演奏者・教育者として日本音楽界の巨人的存在だった。戦後、齋藤秀雄や吉田秀和などと一緒に「子供のための音楽教室」を開設。小澤征爾も中村紘子もその一期生だ。鬼教師として君臨する一方、酒と美食を愛し、スキャンダラスな私生活を送った。本書は基成だけでなく、優れたピアニストだった妻・秋子、妹・愛子の生涯をも明らかにする本格評伝だ。(2022.05.23発行)
マイケル・ケイン:著、太田黒奉之:訳
『わが人生。~名優マイケル・ケインによる最上の人生指南書』
集英社 2310円
若き日のマイケル・ケインに、ジョン・ウエインが言ったそうだ。スターでい続けたいなら「低い声で話し、多くを語るな」と。自身が80代半ばに達した時、それまでの成功と失敗、喜びと悲惨の体験から得た教訓を伝えようと決意する。例えば「人生は常にオーディション」は役者以外にも当てはまる。さらに人生は逆転できること、真剣に楽しむことなどが多彩な出演作品を背景に語られていく。(2022.05.31発行)
佐藤 卓『マークの本』
紀伊國屋書店 2750円
「マーク」とはシンボルマークのこと。ブランド、施設、組織などを一目で理解させる「顔」の役割を持つグラフィックデザイナーである著者はこのジャンルの第一人者だ。本書には「明治 おいしい牛乳」や「ロッテ キシリトールガム」のパッケージ、音符がモチーフの「島村楽器」のマークなどが登場する。デザイナー自身が開陳する、発想から完成までのプロセスは、まるで知的冒険の旅だ。(2022.05.30発行)
秀島史香『なぜか聴きたくなる人の話し方』
朝日新聞出版 1540円
ラジオは音声だけが頼りだ。それなのに聴く人の気持ちが和むのはなぜか。「もっと聴いていたい」と思われる話し方とは何か。そんな疑問に25年のキャリアを持つラジオDJが答えていく。会話のポイントは「簡潔&完結」。沈黙は「お互いを理解する時間」。大切なのは「もっと知りたいという気持ち」。ラジオの現場から生まれたアドバイスの数々は、リモートによるコミュニケーションでも有効だ。(2022.05.30発行)
倉本 聰『破れ星、流れた』
幻冬舎 1980円
現在87歳の著者、初の自伝エッセイだ。クリスチャンでありながら、ケンカも大好だった父。感性豊かな一方で、小ずるさも見せる息子への無言の教えが素晴らしい。2浪して東大に入るが、芝居と映画と酒にのめり込む日々が続く。やがてラジオのニッポン放送に入社。ラジオドラマ制作の経験が、後の脚本家・倉本聰に大きな影響を与えたことがよく分かる、抱腹絶倒の秘話が語られていく。(2022.06.10発行)
【旧書回想】
週刊新潮に寄稿した
2021年1月後期の書評から
門間雄介『細野晴臣と彼らの時代』
文藝春秋 2420円
活動50周年の細野晴臣、初の本格評伝である。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)で知られる細野だが、そこに至るまでの遍歴時代もすこぶる興味深い。松本隆、鈴木茂、坂本龍一、高橋幸宏、松任谷正隆などとの出会い。エイプリル・フール、はっぴいえんど、キャラメル・ママといったグループ活動。YMOの狂騒の後も細野は自身の音楽を探し続ける。その軌跡はポップス同時代史だ。(2020.12.20発行)
中村 明『日本語の勘 作家たちの文章作法』
青土社 2640円
多くの作家と作品に向き合ってきた文体研究の泰斗が、文章を書く上でのヒントをまとめたのが本書だ。発想、描写、心理、比喩、技法など24項目が並ぶ。たとえば「視点」については、大岡昇平自身が『武蔵野夫人』を例に、作者が斜めから見るスタンダールの方法を語る。また庄野潤三の『静物』では、登場する金魚鉢が平穏な日常に隠された意外な脆さの「象徴」であることが明かされていく。(2020.12.30発行)
北原保雄:編『明鏡国語辞典 第三版』
大修館書店 3300円
初版からほぼ20年、最新の第三版が登場した。定評のある「誤用」解説以外にも新たな特色が加わっている。改まった場面で使える言葉を挙げた品格欄。「開く・空く・明く」などの書き分け欄や、「注ぐ(つぐ・そそぐ)」のような読み分け欄も新設。時代を反映する「食品ロス」、生活密着の「サブスク」、さらに「エモい」などの新語も含め、3500語が増補された。改訂を超える充実ぶりだ。(2021.01.01発行)
中野俊成『ジャケ買いしてしまった‼ ストリーミング時代に反逆する前代未聞のJAZZガイド』
シンコーミュージック・エンタテイメント 2500円
著者はバラエティ番組を手掛ける放送作家。ジャズの中古レコードのコレクターでもある。「ジャケ買い」とは、ジャケットのビジュアルだけで判断してレコードを買うこと。その当たり外れの妙を含め、アルバムを紹介しているのが本書だ。後頭部、落書き、自分の妻といったジャンル分けが笑える。ジャケ買いの成否も「やや失敗」などとランク付け。「モノクロ・ジャケに駄盤無し」は名言だ。(2021.01.10発行)