女優・中川梨絵と「日活ロマンポルノ」
『週刊朝日』(9月23日号)に掲載されている、脚本家・内館牧子さんのコラム「暖簾にひじ鉄」。その中に、女優・中川梨絵さんのことが書かれていた。知らなかったが、6月14日に亡くなっていたのだ。内館さんとは、都立田園調布高校の同級生だったという。
中川さんといえば、黒木和雄監督の『竜馬暗殺』(主演・原田芳雄)などが知られている。しかし、個人的には神代(くましろ)辰巳監督『恋人たちは濡れた』が印象に残る。言わずと知れた、日活ロマンポルノの名作の一つだ。
”70年代の若者”としては、こうして「日活ロマンポルノ」と文字にするだけで、やはり懐かしい。
小沼 勝『わが人生 わが日活ロマンポルノ』(国書刊行会)を開いてみた。
創立から、すでに100年を超える映画会社の日活。小沼監督は1961年に助監督として入社し、71年から始まる日活ロマンポルノを舞台に、怒涛の監督生活を送ってきた。この本は、自身の歩みとロマンポルノの興亡を綴った貴重な回想記である。
街に映画館が20館以上もあった時代の北海道・小樽に育ち、日大の映画学科で学んだ若者が見た日活撮影所は、石原裕次郎映画を軸に若さと活気に満ちていた。助監督修業を重ねながら、映画という虚構(ロマン)を作ることに没頭していく。
また本書には、ロマンポルノに咲いた女優たちの姿も活写されている。まずは、著者がロマンポルノ史上最高傑作と呼ぶ、『四畳半襖の裏張り』(神代辰巳監督)の宮下順子だ。
自身の監督作では、『ラブハンター熱い肌』の田中真理、『隠し妻』の片桐夕子、『昼下がりの情事古都曼陀羅』の山科ゆりといった懐かしくも艶めかしい名前が並ぶ。中でも『花と蛇』に主演した谷ナオミは別格で、SMの教養のない監督をリードする存在感と輝きは絶大だった。
さらに、小沼監督の映画に対する哲学が披露されるのも本書ならではだ。曰く、「完成を目指さないところに映画美は存在する」。また曰く、「映画とは充たされなかった夢を紡ぐ装置だ」。
読了後、急に日活系映画館の暗闇と、映し出された女優たちが恋しくなった。
中川梨絵こと中川栄(さかゆ)さん、享年67。
合掌。