ヒルトン小田原リゾート&スパ
小田原「だるま料理店」
名物の「天丼」です。ごま油で揚げていて、美味!
2023.02.28
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2023.02.28
散歩の途中で見かけた、桃の花
風向きを感じながら、
今日は西、
明日は東へと
フワフワ漂っていく。
昨日言ったことと
今日言うことが
違ってもいい。
五木寛之『元気に下山』
気がつけば、安藤サクラ主演『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)が、毎週「見逃せない1本」になっています。
もしも未来が分かっていたら、踏まずにすんだ地雷があったはずです。
もしも生き直すことが可能なら、岐路での選択も違ってくるでしょう。
『ブラッシュアップライフ』は、そんな「やり直し人生ゲーム」のドラマです。
まず、基本設定が秀逸です。
ヒロインの近藤麻美(安藤)は突然の交通事故で死亡しました。
気がつくと奇妙な空間にいて、案内人の男(バカリズム)から「来世ではオオアリクイ」だと告げられます。
オオアリクイと知って、「今世をやり直す」ことを選びました。
麻美は、誕生から社会人へと至る「2周目の人生」を歩み始めます。
ただし、以前の人生よりも何かしら「徳を積む」ことが必要です。
保育園で女性保育士と園児の父親との不倫を阻止したり、売れないミュージシャンという未来が待ち受ける同級生(染谷将太)を救おうとしたりします。
人生に修正を施すため、周囲に悟られることなく善行に励む様子が何ともおかしい。
また、幼なじみたち(夏帆と木南晴夏)とのレディーストークも、ユーモラスでリアルな言葉と軽快なテンポが心地いい。
「配役の妙」と言える3人のシーン、ずっと見ていられます。
そんな麻美のやり直し人生も、すでに4周目。
薬剤師からテレビプロデューサーへ。職業も変化する飽きさせない展開は、「バカリズム」によるオリジナル脚本の成果です。
それを体現する、「安藤サクラ」という俳優のうまさも特筆ものです。
バカリズムが初めて脚本を手掛けた連続ドラマは、2014年秋の『素敵な選TAXI』(関西テレビ制作・フジテレビ系)でした。
トラブルを抱えた人物が偶然乗ったタクシー。それは過去に戻れるタイムマシンです。
運転手役は竹野内豊さん。乗客の話をじっくりと聞き、彼らを「人生の分岐点」まで連れて行ってくれる。
タイトルの「せんタクシー」は「選択肢」を意味しています。
たとえば、駆け落ちする勇気がなかった過去を悔いる民宿の主人(仲村トオル)。
不倫相手である社長と嫌な別れ方をした秘書(木村文乃)。
さらに、恋人へのプロポーズに失敗した売れない役者(安田顕)などが乗車します。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、タイムマシンの役割を果たしたのは、ガルウイングドアの「デロリアン」でした。
このドラマでは、40年以上前の古いトヨタ「クラウン」のタクシーというのがうれしい。
乗客たちは問題の分岐点まで戻って新たな選択をします。しかし、だからとって何事もうまく運ぶわけではありません。
物語には苦笑いしたくなるような〝ひねり〟が利いており、よくできた連作短編集のようなドラマでした。
この作品で、「第3回市川森一脚本賞」の奨励賞を受賞しています。
そんな第1作と今回の最新作に共通するのは、「時間」を最大限に活用した脚本でしょう。
時間軸の操作は、見る側を捉えて離さない引力を生み出します。
自分の意図に合わせて時間を操ることは、脚本家の特権の一つでもありますが、そのSF的世界観にリアリティーを与えるのは容易なことではありません。
このドラマでのタイムワープは、大昔ではなく、近い過去へのもの。見る側が自分の体験と重ねることが出来る、懐かしさの「設計」が巧みです。
その上で、鋭い人間観察と独自のユーモアセンスで仕掛ける、絶妙なエピソードの連打。
ヒロインである麻美の人生だけでなく、バカリズムの脚本もまた見事にブラッシュアップされているのです。
ドキュメンタリーの力
今月15日、令和4年度(第77回)文化庁芸術祭賞の贈呈式が行われた。
テレビ・ドキュメンタリー部門の「芸術祭大賞」を受賞したのが、BS1スペシャル「正義の行方〜飯塚事件 30年後の迷宮〜」(NHK)だ。
1992年に福岡県飯塚市で2人の女児が殺害された「飯塚事件」。犯人とされた男性は2008年に死刑が執行された。
しかし、えん罪を主張する再審請求が何度も提起され、事件をめぐる動きは現在も続いている。
番組の軸となっているのは当事者たちからの詳細な聞き取りだ。警察官、法医学者、新聞記者などの証言を丹念に再構成していく。裁判で特に重視されたのが、検察によるDNA鑑定と事件当日の目撃証言だ。
番組が進むにつれ、どちらの信ぴょう性も危ういことが分かってくる。
中でも興味深いのが事件を伝え続けた新聞記者たちだ。男性が犯人だとする警察発表をベースに記事を書いてきたが、死刑執行から約10年後に独自の「調査報道」を開始する。その調査対象には自社の記事も含まれた。
記者の一人が言う。「司法というのは信頼できる、任せておけば大丈夫と思ってきたけれども、そうではないと。このことこそ社会に知らせるべきだし、我々の使命だと思っています」
この番組が優れているのは、「えん罪か否か」をテーマとしていないことだ。制作した木寺一孝ディレクターがこだわったのは、事件の当事者がそれぞれに抱える「真実」と「正義」だった。
そのために立場の異なる人たちの考えを多角的に取材し、双方がぶつかり合う様子も提示している。飯塚事件では、決定的な証拠や自白がない中、集められた状況証拠によって死刑判決が下された。
今となっては本人に疑問点を質すことも不可能だ。自分ならどう判断するのか。番組を通して「人が人を裁く重さ」を体感してもらうことが最大のねらいであり、結果的に事件の全体像と司法のあり方に迫る秀作となった。
文化庁芸術祭の公演や作品への贈賞は、今年度で終了することが決まっている。77年を経てメディア環境が激変しつつある現在、テレビ・ドキュメンタリーの持つ力を示してくれたこの作品が、最後の大賞を受賞したことの意義は大きい。
(しんぶん赤旗「波動」2023.02.23)
17日の夜、NHK・BSプレミアムで「浦沢直樹の漫勉neo 手塚治虫スペシャル」が放送された。
「浦沢直樹の漫勉neo」は普段Eテレで放送されているが、これまで亡くなった漫画家を取り上げることはなかった。しかし手塚治虫は別格だ。今回はEテレで放送したものに未公開映像を加えた特別編だった。
巨匠の“創作の秘密”に迫るための材料は主に3つ。手塚の生原稿、さまざまな資料、そして貴重な証言だ。番組には、石坂啓をはじめアシスタントを務めていた漫画家3人が登場した。
盛り上がったのは、堀田あきおが保存していた「ブラックジャック」の描きかけ原稿のコピーが出てきた時だ。手塚は簡単な下描きだけで人物にペンを入れており、手にした浦沢は「ベタ(黒塗り)が入る前の〈描いてる感〉がすごい!」と大興奮だった。
また雑誌「アサヒグラフ」を下敷き代わりにしていた手塚を浦沢が追体験。小指ではなく、手のひらの側面を紙の上に置いた、独特のペン遣いにもトライする。「柔らかな線になる」と驚きながら、アトムの顔をさらさらと描く浦沢。自身も実作者だからこそ、手塚のすごさが分かるのだ。
さらに豊富な資料映像を駆使することで、手塚の仕事ぶりや人となりも伝わってくる。NHKならではの異色のドキュメントであり、見事なエンターテインメントだ。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.02.22)
2023.02.22
人の心は言葉が育てる
児童文学者「はまみつを」の言葉
今日は、
2011年に亡くなった
恩師・浜光雄先生の命日。
合掌。
見る側にツッコまれるという至芸
誰も文句は言わない「伝説の番組」
プチ鹿島
『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』
双葉社 1980円
1953年2月1日、NHK東京テレビジョンが放送を開始した。そして8月28日には初の民放テレビである日本テレビ放送網がスタートしている。今年は「テレビ放送開始70年」という記念の年だ。
70年の歴史を後世に伝える「正史」には登場しないかもしれないが、見た人に今も強烈な印象を残す伝説の番組がある。70年代後半から80年代にかけて、『水曜スペシャル』(テレビ朝日系)の枠で放送された「川口浩探検隊シリーズ」だ。
本書は新聞14紙を購読する時事芸人の著者が、探検隊OBたちへの聞き取り調査を軸に、前代未聞の番組作りの裏側に迫ったノンフィクションである。
番組の内容もさることながら、各回のタイトルが秀逸だった。「恐怖! 双頭の巨大怪蛇ゴーグ! 南部タイ秘境に蛇島カウングの魔神は実在した!!」、はたまた「謎の原始猿人バーゴンは実在した! パラワン島奥地絶壁洞穴に黒い野人を追え!」。
実在したという双頭の巨大怪蛇も謎の原始猿人も、「世紀の大発見」として放送翌日の新聞紙面を飾ることはなかったが、誰も文句を言わなかった。当時から、「川口浩探検隊」は見る側にツッコまれるという至芸を確立していたのだ。
今ではヤラセの元祖のように扱われる探検隊だが、あるスタッフは「ドキュメンタリーじゃなくエンタメ」だったと語る。また「ストーリーをまず作ります。オチを決めてからルートを考える」と証言するのは放送作家だ。
とはいえ現地の伝説をもとに制作しており、完全な創作ではなかったところがミソだ。しかも現場ではリアルな危険や困難と遭遇し、それを乗り越えての「巨大怪蛇ゴーグ」だった。
それまでネタとして許容されてきたものが、ある時期からヤラセと断罪されるようになっていった経緯も明かされていく。
本書にあふれる“過剰なるテレビ愛”は、放送開始から70年の今こそ必要なものかもしれない。
(週刊新潮 2023年2月16日号)
2023.02.20
遥かに行くことは、
実は
遠くから
自分に
かえって来ることだったのだ。
森 有正 『バビロンの流れのほとりにて』
<週刊テレビ評>
「ブラッシュアップライフ」
時間軸自在に バカリズムも進化
人生は一度きりだ。「あの時、こうすればよかった」と思っても過去は変えられない。だが、もし生き直すことが可能だったらどうだろう。未来が分かっていれば、運命の分岐点での選択も違ってくるはず。安藤サクラ主演「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系)は、そんな“やり直し人生”のドラマである。
まず設定が秀逸だ。ヒロインの近藤麻美(安藤)は突然の交通事故で死亡。気がつくと奇妙な空間にいて、案内人の男(バカリズム)から「来世ではオオアリクイ」だと告げられる。抵抗した麻美は「今世をやり直す」ことを選ぶ。ただし以前の人生よりも何かしら「徳を積む」必要があった。
誕生から社会人へと至る「2周目の人生」を歩み始める麻美。保育園で女性保育士と園児の父親との不倫を阻止したり、売れないミュージシャンという未来が待ち受ける同級生(染谷将太)を救おうとしたりする。
人生に修正を施すため、周囲に悟られることなく善行に励む様子が何ともおかしい。また幼なじみ(夏帆と木南晴夏)とのレディーストークも、ユーモラスでリアルな言葉の連射と軽快なテンポが心地いい。そんな麻美のやり直し人生は既に4周目。職業も変化する飽きさせない展開は、バカリズムによるオリジナル脚本だ。
バカリズムが初めて脚本を手掛けた連続ドラマは、2014年秋の「素敵な選TAXI」(関西テレビ制作・フジテレビ系)だった。タイトルの「せんタクシー」は「選択肢」を意味している。
トラブルを抱えた人物が偶然乗ったタクシー。それは過去に戻れるタイムマシンだった。運転手役は竹野内豊。乗客の話をじっくりと聞き、彼らを「人生の分岐点」まで連れて行ってくれる。
たとえば駆け落ちする勇気がなかった過去を悔いる民宿の主人(仲村トオル)、不倫相手である社長と嫌な別れ方をした秘書(木村文乃)などが乗車する。彼らは問題の分岐点まで戻って新たな選択をするのだが、何事もうまく運ぶわけではない。バカリズムの脚本はひねりが利いており、よくできた連作短編集のようなドラマだった。
第1作と最新作に共通するのは、「時間」を最大限に活用した脚本だ。時間軸の操作は見る側を捉えて離さない謎を生み出す。自分の意図に合わせて時間を操ることは脚本家の特権の一つだ。だが、そのSF的世界観にリアリティーを与えるのは容易ではない。
ヒロインの人生だけでなく、バカリズムの脚本術もまたブラッシュアップされているのだ。
(毎日新聞「週刊テレビ評」 2023.02.18 夕刊)
金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』(TBS系)の主人公・悠依(井上真央)は、美容室の店長。
家庭の事情から、里親に預けられた過去があります。
里親の家で一緒に暮らした直木(佐藤健)と2年前に偶然再会し、洋食屋のシェフである彼と恋人同士になりました。
ところが突然、直木が姿を消してしまう。
生死もわからないままでしたが、ある日、直木は幽霊となって現れます。
悠依には姿も見えず、声も聞こえませんが、霊媒の能力を持つ刑事・魚住(松山ケンイチ)を介して会話することが出来ます。
なぜ自分が死んだのか、なぜ幽霊になったのかが分からず、自ら探ろうとする直木。その死は、魚住が担当する殺人事件と関連性があるようです。
同じ里親の元で暮らしていた莉桜(香里奈)や、直木が働いていた洋食屋のオーナー・池澤(荒川良々)といった謎めいた人物たちがいますが、まだ真相は見えてきません。
井上真央さん、佐藤健さん、そして松山ケンイチさんという力のある俳優陣のおかげで、サスペンスとファンタジーの要素を持ったラブストーリーとして、見応えのあるドラマになっています。
このドラマの中に、佐野洋子さんの絵本『100万回生きたねこ』(1977年刊)が登場します。
タイトルに「100万回」と入っていることからも、何かしら物語と深い関係がありそうです。
『100万回生きたねこ』の主人公は、何度も生まれかわる「ねこ」。
その都度、飼い主が変わります。王様だったり、船乗りだったり、泥棒だったり。
ねこは、そんな飼い主たちが嫌いでした。
死ぬこと、生まれかわること、つまり自分の「人生(猫生?)」に対して、どこか投げやりでした。
そんなねこが、一匹の「白い うつくしい ねこ」と出会って、変わります。
「そばに いても いいかい」と尋ね、許しを得るのです。
白いねこと一緒に、いつまでも生きていたいと思う、ねこ。
しかし、白いねこは年老い、死んでしまいます。
ねこは100万回も泣いて、やがて「しずかに うごかなく」なります。
そして、そのまま、もう、生き返ることはありませんでした。
生きること、死ぬこと、愛することを描いた寓話として、『100万回生きたねこ』は何度も読み返したくなる名作です。
ドラマの第1話では、恋人時代の悠依と直木が、本屋さんでこの本を手に取り、互いに「好きな本」だったと言い、悠依が入手。子ども食堂で、朗読しました。
さらに幽霊となった直木は、自分の存在を悠依に信じてもらおうと、魚住を通じて「白いねこ」という言葉を伝えます。まるで2人の間の「秘密のキーワード」のように。
第2話には、2人が暮らした里親の家で、この絵本の結末をめぐって会話する場面が出てきました。直木が幽霊になる前のことです。
「私は嬉しくないなあ、こんなの。私が白いねこだったら、100万回泣いてくれるのは嬉しいけど、(ねこに)死んで欲しくない。100万回泣いたら、そのあとは元気に、ピンピン生きてって欲しい」
ここでの悠依は自分を「白いねこ」に、そして直木を「ねこ」に置き換えています。
そんな悠依に対して、直木は「すごく好きだって言えばよかった」と後から悔やみます。
まさに「100万回、言えばよかった」と思うわけです。
そして、3日に放送された第4話。
悠依の部屋で、脳神経内科の医師・宗(シム・ウンギョン)と向き合っている時、この絵本の話になりました。
「心から愛せる相手と出会えたら、生まれかわらなくなった、っていうお話ですよね。死が永遠の愛になる、美しいお話」と宗医師。
悠依が言います。
「確かに、ねこは白いねこと出会ったことで、愛情みたいなものを知ったんだと思うけど、でも大好きな相手が死んじゃったら、自分の人生もあきらめちゃう。それは、なんか違うって思う」
この「大好きな相手が死んじゃった」のは、現在の悠依も同じです。
今度は、ねこを自分に置き換えているのでしょうか。
ねことは違って、あきらめたりはしない、という決意表明のように聞こえました。
その後、直木の遺体が見つかります。
霊安室で冷たくなった直木と対面した悠依ですが、取り乱したりはしませんでした。
怒りと悲しみの中で、あらためて直木の死の真相を明らかにしようと思う悠依。
里親の家で、死んだときの直木が手にしていた花を見つけます。
しかしこの時、悠依には見えませんが、直木の体に異変が起こりました。
遺体の発見と関係があるのかどうか。このまま直木は、幽霊として「第2の死」を迎えてしまうのか。
『100万回生きたねこ』の中で、飼い主たちの勝手な都合のために、戦場や海などへ連れ回された、ねこ。
親によって、病気の弟を支えることを余儀なくされた直木と、ねこのイメージが重なります。
白いねこに向って、「そばに いても いいかい」と言った時の、ねこの気持ち・・・。
今後の物語展開と共に、脚本の安達奈緒子さん(『透明なゆりかご』『おかえりモネ』など)が仕掛けた、『100万回生きたねこ』という奥深いモチーフの行方が気になります。