「『ぴあ』を片手に町へ出よう」の時代があったのだ
本屋さんやコンビニの雑誌コーナーで、ふと、『ぴあ』を探している自分に気づくことがある。あの映画情報誌が”休刊”してから、もう5年は経つというのに。
映画や演劇、コンサートなどの情報を、ネットから自在に入手できる時代になったことが、休刊の最大の要因だ。それは、わかっているけれど・・。
思えば、創刊された1972年当時、自分が観たい映画が「どこの映画館で、何時からの上映か」を知ることは、本当に大変だった。『ぴあ』は、一種の情報革命だったのだ。
掛尾良夫「『ぴあ』の時代」(小学館)は、この雑誌を生み出した矢内廣(創刊時は大学生)と仲間たちが、時代とどう向き合い、自分たちの事業を進めていったのかを辿るノンフィクションだ。
素人集団だった彼らが、手づくりのような雑誌を巨大ビジネスに育てていく過程は、企業物語であると同時に70年代の青春物語でもある。
また、『ぴあ』を足場に、森田芳光、大森一樹、長崎俊一など何人もの映画監督が世に出た。一つの雑誌が日本映画界に与えた影響は大きい。映画専門出版社の社員として、時代と並走してきた著者ならではの一冊だ。
今日、11月29日は、師匠の一人である実相寺昭雄監督の命日。
今年は没後10年であり、年が明ければ生誕80年となります。
参加している「実相寺昭雄研究会」が主催の大規模な上映会も、今日から京都で始まります。
勝賀瀬(しょうがせ)重憲監督の新作ドキュメンタリー「KAN TOKU 実相寺昭雄」も初公開。
以下は、京都新聞の記事です。
「ウルトラ」シリーズ、故実相寺監督の足跡
京都文博で上映
京都文博で上映
テレビの「ウルトラ」シリーズやエキセントリックな映像作品で知られ、今月没後10年を迎える映画監督実相寺昭雄さんの足跡を振り返る上映会「鬼才・実相寺昭雄 映像の世界 〜ウルトラマンから仏像まで」が29日から京都市中京区の京都文化博物館で始まる。
実相寺さんは1960年代に「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の演出を手掛け、日本の特撮映像の第一人者となった。
長編映画デビュー作「無常」(70年・ロカルノ国際映画祭グランプリ)をはじめ、人気幻想小説が原作の「帝都物語」など幅広い作品を発表、2006年に69歳で他界した。
上映会は、実相寺さんに約15年間師事した京都市出身の映画監督勝賀瀬(しょうがせ)重憲さん(48)らが企画した。
命日の29日と12月6〜11日の計7日間で26作品を上映。ウルトラマンシリーズで人気の高い「故郷は地球」「恐怖の宇宙線」などや、京都や周辺を舞台にした「無常」「曼陀羅(まんだら)」「哥(うた)」のATG三部作、62〜63年にTBSで放送され大島渚さんらが脚本を手掛けたドラマ「おかあさん」(6本)などを紹介する。
初日と最終日には、勝賀瀬さんが新作したドキュメンタリー「KAN TOKU 実相寺昭雄」も初上映される。期間中、親交のあった映画人のトークもある。
昼夜2部制(土日は3部制)。各千円。詳細は同博物館TEL075(222)0888。
実相寺昭雄オフィシャルサイト:
http://jissoji.wixsite.com/jissoji-lab
「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
梶山三郎
『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』
講談社 1,836円
初めて目にする著者だが、覆面作家だ。実は現役の経済記者だという。梶山三郎という名前は、梶山季之と城山三郎のミックスではないかと勝手に想像している。
梶山には新車開発の裏側と産業スパイの活動を描いた出世作『黒の試走車』があり、城山にも本田技研の海外進出をモチーフにした小説『勇者は語らず』がある。ペンネームには、敬愛する先輩たちに負けない作品をという自負が込められているようだ。
物語の舞台は、世界トップクラスの自動車メーカーである「トヨトミ自動車」。主人公の武田剛平は、経理のプロとして仕事に徹したため、上層部から「融通の利かない危険人物」として嫌われ、左遷される。海外で実績を残した後、本社に復帰。やがて社長の地位を得ると、様々な改革を断行していく。しかし、「ビジネスは戦争だ」が口癖の武田を、創業家の逆襲が待っていた。
本書が実在の企業や人物をモデルとした小説であることは明白だ。「トヨトミ自動車」は、やはりあの巨大自動車会社なのだろう。希代のサラリーマン社長「武田剛平」と創業者の孫で後に社長となる「豊臣統一(とういち)」も著者は、実在の人物と読めるように書いている。
小説であり、架空の人物であることは承知しているが、それでも豊臣統一に対する著者の目は厳しい。卓越した経営能力と輝かしい血統の両方を持った人物など、そうはいない。
だが、国の経済全体にまで影響を及ぼす企業のトップとして、「この人物でいいのか」と思わせる危うさが統一にはあるのだ。トヨトミ自動車がリーマンショックにリコール運動と創業以来の危機に見舞われる中、社長自ら公聴会で答弁する場面など、読んでいて冷や汗が出る。
本書は自動車産業史ともいえる背景を踏まえ、著者が記者として得た情報と知見を投入した企業小説の力作だ。また、巨大企業を形作っているのも人であることを痛感させてくれる、リアルな人間ドラマである。
加藤典洋 『言葉の降る日』
岩波書店 2,160円
登場するのは太宰治、坂口安吾、三島由紀夫、吉本隆明、鶴見俊輔など。いずれも著者の核となる部分に影響を与えた文学者や思想家たちだ。彼らの言葉と行動が静かに提示しているものとは何なのか。「自分と世界のあいだをつなぐ手がかり」だと著者は言う。
(週刊新潮 2016年11月24日号)
「イチオシ!モーニング」土曜日。
プロ野球のベストナインの話題では、日ハムの大谷選手が、投手と指名打者の2部門で同時受賞というので、岩本さんを中心に、大いに盛り上がりました。
スタジオに用意された、「えぞ但馬牛」のしゃぶしゃぶも、これまた賑やかに。
25日(金)の朝、テレビ朝日「グッド!モーニング」で、NHK「紅白歌合戦」について話をさせていただきます。
インタビューVTRが流れるのは、たぶん、7時30分から8時までの間かと思われます。
結構あれこれ話をしましたが、どんな編集になっているのかは、私にもわかりません(笑)。
今日は、11月25日です。
1970(昭和45)年11月25日、三島由紀夫自決。
45歳で亡くなってから、今年で46年になります。
毎年この日は、その年に出版された“三島本”を読みます。
たとえば、2002年の橋本治『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』。
05年は、中条省平:編著『三島由紀夫が死んだ日』。
椎根和『平凡パンチの三島由紀夫』は、07年です。
昨年は、佐藤秀明:編『三島由紀夫の言葉 人間の性(さが)』(新潮新書)を手に取りました。
さまざまな作品からの抜き書き、引用を、男女、世間、国家などの項目で括った、いわば箴言集です。
最後に置かれているのは、有名な、そして今も生きている、あの文章でした。
「私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機質な、からっぽの、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである」
2016年11月25日(金)。
今日は、文庫本が出たばかりの、岩下尚史『直面(ヒタメン) 三島由紀夫 若き日の恋』(文春文庫)を読もうと思っています。
合掌。
日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。
今週は、NHK・BSプレミアム「獄門島」について書きました。
NHK BSプレミアム「獄門島」
新たな金田一像の創出だ
新たな金田一像の創出だ
先週土曜の夜、NHKBSプレミアムで、横溝正史原作「獄門島」が放送された。これまで何度も映像化され、何人もの俳優が探偵・金田一耕助を演じてきた作品だ。
昭和20年代の片岡千恵蔵はともかく、市川崑監督作品での石坂浩二(75)の印象が強い。またドラマ版では古谷一行(72)を中心に、片岡鶴太郎(61)、上川隆也(51)などが金田一に扮してきた。
そして今回、長谷川博己(39)に驚かされた。これまでとは全く異なる金田一だったからだ。石坂や古谷が見せた、どこか“飄々とした自由人”の雰囲気は皆無。暗くて重たい変わり者がそこにいた。
背景には金田一の凄惨な戦争体験がある。南方の島での絶望的な戦い。膨大な死者。熱病と飢餓。引き揚げ船の中で金田一は戦友の最期をみとり、彼の故郷である獄門島にやって来た。また事件そのものも、戦争がなかったら起きなかったであろう悲劇なのである。
最後まで鬱屈を抱えた金田一だが、戦友のいとこの妹・早苗(仲里依紗)に思いを寄せる。「一緒に島を出ませんか」と一種の告白をし、静かに断られる。せつなく、そして美しい場面だった。
制作陣が目指したのは、戦争と敗戦を重低音とした原作世界への回帰であり、新たな金田一像の創出だ。長谷川博己は見事にその重責を果たした。次回作があるとすれば、「悪魔が来りて笛を吹く」か。ぜひ見てみたい。
(日刊ゲンダイ 2016.11.23)
川崎市市民ミュージアム
実相寺昭雄監督作品「帝都物語」(1988)
上映後は、撮影監督・中堀正夫さんのトークショー
「実相寺昭雄研究会」代表でもある中堀さん
実相寺昭雄研究会による
「実相寺昭雄オフィシャルサイト」
http://jissoji.wixsite.com/jissoji-lab