常識を知らないと、
非常識なことはできない。
――志村けんの言葉
乾き亭げそ太郎『我が師・志村けん』
<週刊テレビ評>
向田邦子没後40年
家族の「実相」見据えた観察眼
脚本家、随筆家、さらに直木賞作家でもあった向田邦子。亡くなったのは1981年8月22日、台湾での航空機事故だった。享年51。今年は「没後40年」にあたる。
代表作の一つ「寺内貫太郎一家」(TBS系)の放送は74年だ。作曲家の小林亜星が演じた主人公は、どこか懐かしい「昭和の頑固オヤジ」そのもの。沢田研二のポスターを見ながら「ジュリ~!」と身をよじる貫太郎の母親を樹木希林が快演し、人気を博した。
貫太郎の妻、里子(加藤治子)がこんなことを言っていた。「一軒のうちの中にはね、口に出していいことと、悪いことがあるの」。コメディータッチのホームドラマでありながら、家族の深層をのぞかせてくれた作品だ。
また79年の「阿修羅のごとく」(NHK)では、性格も生き方も違う4姉妹(加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュン)を軸に赤裸々な人間模様が映し出される。謹厳実直な父親(佐分利信)に愛人と子供がいたことが判明するという、当時としては衝撃的なホームドラマだった。
娘たちが雑談する場面。「あたし、覚えてるなあ、お母さんが足袋、脱ぐ音」「夜寝る時でしょ、電気消した後、枕もとで」「足のあかぎれに、足袋がひっかかって、何とも言えないキシャキシャした音、立てンのよねえ」といったセリフは向田にしか書けない。
80年「あ・うん」(NHK)の舞台は昭和初期の東京。主要人物は水田仙吉(フランキー堺)と妻のたみ(吉村実子)、そして仙吉の親友である門倉修造(杉浦直樹)だ。門倉は心の中でたみを思い、そのことをたみも仙吉も知っている。不思議な均衡で過ぎる日常を水田家の娘、18歳のさと子(岸本加世子)の視点で追っていく。
ある時、さと子が独白する。「母の目の中に、今までにないものを見ました。子供だと思っていたのが女になっていたという、かすかな狼狽(ろうばい)。ほんの少しの意地悪さ」
思えば家族とは不思議なものだ。互いを熟知しているはずなのに、何かをきっかけとして家族の中に他者を見つけてしまう。向田はそうした瞬間を見逃さない。家族の泣き笑いを慈しむように描きながらも、独特の観察眼でその「実相」を見据えようとしていたのだ。
この3月まで放送された「俺の家の話」(TBS系、宮藤官九郎脚本)も、「ウチの娘は、彼氏が出来ない‼」(日本テレビ系、北川悦吏子脚本)も、その展開から目が離せないホームドラマだった。向田が大切に磨き上げた「家族」というテーマは、今も進化しながら私たちの前にある。
(毎日新聞 2021.03.27夕刊)
3月27日(土)、
新しい本が出ました。
『少しぐらいの嘘は大目にー向田邦子の言葉』
新潮文庫オリジナルです。
昨年3月に出した
『倉本聰の言葉ードラマの中の名言』(新潮新書)
に続く、
言葉シリーズの第2弾になります。
以下は、
新潮社サイトに載っている
この本の紹介です。
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向田邦子:著、碓井広義:編
今なお愛される著者の
全ドラマ・エッセイ・小説作品から
名言・名セリフをセレクト。
没後40年記念。
『阿修羅のごとく』『あ・うん』『寺内貫太郎一家』……傑作ドラマの脚本家として知られ、名エッセイスト、直木賞受賞作家でもあった向田邦子。突然の飛行機事故から40年が経つにもかかわらず、今なお読み継がれ、愛されるのはなぜなのか。日本のテレビドラマ史を語らせれば右に出る者のない編者が彼女の全作品から名言・名セリフをセレクト。いつでも向田作品の世界に没入できる座右の一冊。
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テレビ朝日がユーチューブやツイッターでこのほど公開した「報道ステーション」のウェブCMが批判を浴びている。
■「社会的な問題に関心のある女性は偉いという“上から目線”」が露呈
「どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかってスローガン的にかかげてる時点で、何それ、時代遅れって感じ」などと、若い女性がカメラ目線で話し掛ける場面(写真)からはじまり、「化粧水買っちゃったの。もうすっごいいいやつ」「それにしても消費税高くなったよね。国の借金って減ってないよね?」などと続ける。そして「9時54分! ちょっとニュース見ていい?」と言うと画面に「こいつ報ステみてるな」とのテロップが大写しされ、番組ロゴが表示されるというもの。
これが公開されるやSNSでは「ぜんぜんジェンダー平等じゃないのに」「女性蔑視が過ぎる」といった批判コメントが殺到。コラムニストの小田嶋隆氏はSNSで「CM制作者が低能だなんてことは、いまさらびっくりしてみせるような話でもありません。ただ、このCMを正面突破で通してしまったテレ朝のガバナンスの崩壊というのか、現場の退廃ぶりには、やはり、落胆を禁じえません。さようなら」とし、思想家の内田樹氏はこうつづった。
「視聴者も広告出稿も減り続けて、ビジネスモデルとしては先のない民放テレビの『終わり方』がどういうものになるのかが何となくわかりました。なるほど、ここまで落ちるのか」――。
「太鼓持ちか」
報ステといえば、今年1月に菅首相への生放送インタビューを行った際、番組キャスター富川悠太アナの露骨なすり寄りぶりが話題になり、「太鼓持ちか」などと批判が集まった。
「その富川アナは昨年、元タレントの夫人が中学生の息子を怒鳴り散らして警察と児童相談所が自宅に出動する騒ぎも週刊誌で報じられました。家族のDV疑惑のみならず、2019年には番組最高責任者である当時のCP(チーフプロデューサー)のセクハラ事件が報じられたことも。その際にはCP解任とBSへの出向処分を下したテレ朝に対しても甘すぎるとの批判が上がりました。今回のCMには、番組OBからも『あまりに悲しい』などと、声が上がっています」(スポーツ紙放送担当記者)
実際のところCMの内幕はどうだったのか。某放送作家の見立て。
「4月から同じ時間帯に引っ越すテレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』に対し、何か手を打っておこうと施策を講じたのかも。といっても、攻めというより報ステの固定客をWBSに取られないようにとの守りでしょう。テレビ離れの進むなか、新規顧客獲得は至難の業ですから『うちは今まで通りの路線でいきますね、忘れないでね』くらいの甘い認識だったのでしょう」
報ステの公式ツイッターは24日、「ジェンダーの問題については、世界的に見ても立ち遅れが指摘される中、議論を超えて実践していく時代にあるという考えをお伝えしようとしたものでしたが、その意図をきちんとお伝えすることができませんでした」と謝罪声明を発表し、動画を削除したが後の祭りである。
メディア文化評論家の碓井広義氏はこう言う。
「今、この時期に、こうした発信をする際には、メディアはより慎重になるべきという好例だと思います。このCMを作ったスタッフは、自分たちは女性を応援している“女性の味方”であり、いいことをしていると考えていたと思います。ただし、そこには時流への安易な迎合が見え隠れしている。若い女性でも、こういう社会的な問題に関心のある女性は偉いね、ヨシヨシという手つきが見えてしまった。つまり“上から目線”なんです。そうした立ち位置が問題を起こしていると思います。背景には、テレビや放送の現場が最もジェンダー平等が遅れていることもあると思います。そうした世間との感覚のズレも関係しているかも知れません」
テレビマンは東京五輪組織委員会の森前会長の女性蔑視発言や渡辺直美の“ブタ演出”が猛批判を浴びた本当の理由がわかっていないようだ。
(日刊ゲンダイ 2021.03.25)
20日夜、スペシャルドラマ「エアガール」(テレビ朝日系)が放送された。原作は中丸美繪の「日本航空一期生」。戦後の占領期に「日本の空」を取り戻そうとした人たちを描くノンフィクションだ。この原作を踏まえ、ドラマは2つの軸で進む。
ひとつは「エアガール」と呼ばれた、現在のCA(キャビンアテンダント)の大先輩たち。戦争で両親と兄を失った佐野小鞠(広瀬すず)もその一人だ。新たな職業の苦労も「先が見えないほうがワクワクしていい」と前向きな小鞠。兄の戦友だった三島優輝(坂口健太郎)との淡い恋も含め、広瀬が魅力的に演じた。
そしてもうひとつの見どころが、戦後初となる「日本の航空会社」設立をめぐる物語だ。松木静男(吉岡秀隆)は、「戦後日本航空業界の父」と呼ばれ、日本航空の社長や会長を務めた松尾静磨がモデル。
当時、海外の航空資本と手を結ぼうとしていた白洲次郎(藤木直人)と激しくぶつかる。「(吉田茂の)側近という立場を利用して日本の未来を海外に売り飛ばすだけのブローカーだ!」と白洲に詰め寄る場面は圧巻だ。
1951年に日本航空の前身である「日本民間航空」が就航してから今年で70年。「はじめて物語」として見応えがあり、連続ドラマでやってもいいほど濃い内容だった。脚本は今秋放送の日曜劇場「日本沈没―希望のひと―」(TBS系)も手掛ける橋本裕志だ。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.03.24)
その著書『論語と算盤』にもあるように、利益を得るだけでなく、倫理観をもってビジネスを行うべきだと考えていた、渋沢栄一。そんな「日本資本主義の父」に、今、聞いてみたいことがあります。
NHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公、渋沢栄一。
天保11年(1840)に現在の埼玉県深谷市の農家に生まれ、一橋慶喜の家臣として幕末を生き、明治維新後は官僚となりました。
やがて実業界に転じ、第一国立銀行(現・みずほ銀行)や東京海上保険(現・東京海上日動火災保険)などの設立や運営に携わっていきます。
創設に奔走した会社は500を超え、「日本資本主義の父」と呼ばれています。昭和6年(1931)没。91歳でした。
とはいえ、最近まで、名前は知っていても業績や人物像はよく分からないという人が多かったのではないでしょうか。
いきなり注目が集まったのは2019年4月。24年に発行される新一万円札の肖像画に決まったのです。
当時、NHKでは21年の大河ドラマの主人公を検討中で、渋沢も「候補」の一人でした。
すでに抜擢されていた脚本家は、15年の連続テレビ小説『あさが来た』を手掛けた、大森美香さん。
波瑠が演じたヒロインのモデルだった、広岡浅子と同時代の大物実業家として、渋沢が浮上したのかもしれません。
いずれにしても、渋沢を主人公に決めた時点では、まだ新型コロナウイルスは出現していませんでした。
制作陣も、その波乱に満ちた生涯を描けば、異色の「偉人伝」になると思ったはずです。
しかし、コロナ禍は社会全体を大きく変えました。
政治や経済はもちろん、これまで当り前と考えられてきたものを、あらためて見直すことを迫られたのです。
それは「暮らし方」だけでなく、「働き方」にまで及んでいます。
当然のように存在してきた「会社」や、その基盤である「資本主義」とは何なのか、という問いかけも必要となりました。
今回の『青天を衝け』は、そんな状況下での大河です。
渋沢と他の実業家との違いは、著書『論語と算盤』にもあるように、単に利益を得るだけでなく、倫理観をもってビジネスを行うべきだと考えていた点にあります。
富は広く配分し、独占をよしとしないというのが「渋沢イズム」だと言えます。
今、多くの企業が、その自己防衛のために、個人を切り捨てることをためらいません。
ならば、そもそも会社は誰のためにあるのか。そんな素朴な疑問に、「日本資本主義の父」は何と答えるのでしょう。
極端な生き方に固執せず、
何ごとも
自分にちょうどいい按配で
バランスよく生きることが大切だ
という考えが
〝中道〟ですよね
爪 切男『もはや僕は人間じゃない』
「容姿いじり、もう笑えない」
受け手の変化、作り手超す
東京五輪・パラリンピックの開閉会式の演出を統括していた佐々木宏氏が、タレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱するようなメッセージを演出チーム内に送っていたことを謝罪し、辞任しました。テレビのバラエティー番組で頻繁に目にしてきた「容姿いじり」はどう変化しているのでしょうか。元テレビプロデューサーでメディア文化評論家の碓井広義さんに聞きました。
◇
テレビで女性の容姿がいじられるようになったのは1980年代。当時大ブレークしていたビートたけしさんらが中心だったように思います。
女性を「ブス」といじったり、お年寄りをからかったり。それまで笑いの世界がネタにしてこなかったタブーに挑戦する、という試みがウケた。お笑い芸の中でなら容姿などをいじっていいというコンセンサスが生まれました。
男性中心のお笑い界において、容姿のほか、年齢や「モテない」「結婚できない」を笑いのアイテムとし、自分のポジションを確立してきた女性芸人が多数います。
いじられることをうまく芸にすることを楽しんできた人もいるだろうし、そうしなければ男性たちが並ぶ場所に割って入ることができなかったという面もあるでしょう。
その空気を変えたのが2017年、セクハラや性暴力を許さない世界的な運動「#MeToo」です。
女性芸人が容姿で笑いを取るのを何十年もあたりまえだと思っていた視聴者の意識が、作り手より先に変わった。容姿いじりではもう笑えない、不快だ、と感じる人が増えた。女性芸人の側もネタの中身で勝負するようになってきた。渡辺直美さんはその代表格です。
女性だけではありません。
19年に南海キャンディーズの山里亮太さんと俳優の蒼井優さんの結婚が報じられた時、山里さんの容姿を揶揄(やゆ)した情報番組のコメンテーターに批判が集まりました。あからさまな容姿いじりも以前よりは減ったし、新人が容姿を売りに世に出ようとしても従来のようにはいかないでしょう。
13年にフジテレビで「10匹のコブタちゃん」という深夜のトーク番組が放送されていました。
森三中やハリセンボンの近藤春菜さん、柳原可奈子さんらと一緒に、ブタの鼻をつけてレギュラー出演していたのが渡辺さんでした。フジの深夜番組らしいノリで多少はウケたかもしれませんが、番組は1年経たずに終わりました。
佐々木さんの発想は、「#MeToo」もなかったこの時代で止まっていたのかもしれません。受け手の変化が作り手の想像を超えていたことに気付かなかったのでしょう。
テレビプロデューサー時代、1998年長野冬季五輪の開会式の制作に3年間関わりました。総合演出の浅利慶太さんを中心に、そもそも五輪の開会式とは何なのかというコンセプトづくりから取り組むところを近くで見ていました。
世界に向けて何を伝えるのかを考えなければいけない。アイデアの断片だったとはいえ、「渡辺直美の容姿をいじる」からは何も見えません。15秒のCMの世界とは違うということを理解していたのか、疑問です。(聞き手・伊木緑)
うすい・ひろよし 1955年生まれ。メディア文化評論家。テレビマンユニオンのプロデューサー、上智大教授などを務めた。
(朝日新聞DIGITAL 2021年3月19日)
「愛の不時着」の次に観るべき韓ドラは?
通が教える作品リスト、
恋愛モノから社会派まで
暦の上では春でも雪解け遠い日韓関係とは対照的に、日本では空前の韓流ブームが沸き起こっている。きっかけとなったドラマはとうに最終回の放映を終えたが、行き場をなくしたファンの心はさまようばかり。ロスを抱えた人々に送る「韓国ドラマ」の処方箋である。
何度も何度も見返してしまう。泣いてしまうのは分かっているのに……。コロナの巣ごもり生活が始まったのは約1年前からだが、奇しくも同じ頃に日本で配信開始された韓国ドラマ「愛の不時着」(以下『不時着』)ロスに陥る人が多い。
未だその人気は衰え知らずで、1月の日本国内における有料動画配信ランキングでも、海外ドラマとしては1位をキープ。東京・原宿で1月から始まった、スタジオセットなどを再現した展示会も多くの観客を集め、今月5日からは場所を大阪に移して開催されている。
物語のヒロインはソン・イェジン(39)演じる韓国の財閥令嬢。パラグライダーの事故で北緯38度線を越えて北朝鮮に不時着し、ヒョンビン(38)扮する北朝鮮軍のリ・ジョンヒョク中隊長に発見される。なんとか彼女を無事に南へ帰そうと奮闘するうち、二人の間に恋が芽生えるストーリーだ。
前代未聞の設定だが、実は2008年に韓国の女優らが乗ったボートが黄海上で漂流した事件がモデルになっている。軍事境界線を越えてしまった彼女らには、北の警備艇の手が迫ったが、韓国軍に救助されたという。
「ラブストーリーを土台にしながら、朝鮮半島情勢など現代社会の問題もしっかり描き切ったことが、ヒットの要因だと思いますよ」
と解説するのは、メディア文化評論家の碓井広義氏。
「同じく大ヒットした、『梨泰院(イテウォン)クラス』も、単純な復讐劇ではなく韓国経済やビジネスの世界が垣間見える内容です。日本のドラマは未だに男女の恋愛をメインに描き切ろうとする傾向がありますから、『不時着』のような設定の作品がなかなか出てこないのは、ある意味で当然だと思います」
そう、「不時着」ロスに苦しむ人々にとって不幸なのは、この名作を忘れさせてくれるほどのドラマに、未だ出会えていないことに尽きる。それは本家・韓国でも同じらしい
「ヒョンビンより人気」
韓流エンタメ事情に詳しい韓国コラムニストの児玉愛子氏も、
「この1年で『不時着』を超える韓流ドラマは現れませんでした。次はこれを観るべし! という作品を一つだけ挙げるのは難しい」
とはいえ、主演男優に的を絞れば、かのヒョンビンを超えるイケメンたちに出会える作品もあると続ける。
「ヒョンビンが持つ、王子のような雰囲気が好きな方にお薦めなのがパク・ソジュン。『キム秘書はいったい、なぜ?』では、秘書と恋の駆け引きをするツンデレな御曹司を演じました。これを観た人は全員が彼を好きになると言われるほど、韓国では今ヒョンビンより人気が高い。とにかくカッコいい王子様を求めるなら、『ザ・キング:永遠の君主』で主演したイ・ミンホも注目です」
イケメン揃いの韓流スターだけに、容姿だけみればヒョンビンと拮抗する俳優は数多い。ここに多くのファンが陥る「不時着」ロスへの処方箋がありそうだ。
ソウル在住で、最新の韓流エンタメ作品をいち早く視聴している人気ブロガーのMisa氏が解説する。 「『不時着』はラブストーリー以外の要素もたくさんあって、いろんなポイントでハマることができました。ロスに陥った人は、『不時着』の何にハマったのか。次にどんな作品を観たいのか。今の自分の気持ちを整理してみてはどうでしょう」
韓国好きが高じて現地に移住した彼女が提案するのは、「ヒョンビン」「韓国ドラマ」「ラブストーリー」という三つのキーワード。今回は「夫婦で観たい」という視点も加えて、「今観るべき韓国ドラマ」をセレクトした。作品名一覧は掲載の表を参照していただきたいが、まずは「とにかくヒョンビンに逢いたい」という人向けのドラマを紹介しよう。
再びMisa氏が言う。
「最初にお断りしたいのは、ヒョンビンが『不時着』で演じたリ・ジョンヒョク中隊長を超えるハマリ役は、他作品でも見ることはできません。それでも外せないのは『私の名前はキム・サムスン』。最高視聴率50%超を叩き出した彼の出世作です」
05年の作品ではあるが脚本としては古さを感じさせず、その5年後に韓国で放送された「シークレット・ガーデン」と同様、ヒョンビンの初々しさを感じられるという。
韓流作品に詳しい映画ライターの佐藤結氏に聞くと、 「前者は30歳の女性パティシエが、ヒョンビン演じる年下の御曹司と恋をする。後者は、やはり御曹司を演じるヒョンビンとヒロインの魂が入れ替わるファンタジードラマです。カプチーノの泡が口についたヒロインに、ヒョンビンがキスをするシーンは、のちに『カプチーノキス』と呼ばれて有名になりました」
3本目の「彼らが生きる世界」も推すMisa氏は、
「テレビディレクターを演じるヒョンビンと、彼を取り巻く恋愛模様が描かれます。ソン・ヘギョ扮するヒロインの気が強いのも『不時着』と類似していますので、その点は、好みが分かれるところですね」
ちなみに、この作品の放送後、ヒョンビンとヒロイン役の女優との交際が明らかになっている。その後、破局したが、今年1月にも彼は「不時着」ヒロイン役のイェジンとの熱愛が発覚し色男ぶりを知らしめた。かような交際報道が日本でも話題となるほど、冬ソナ以来再びの「韓流ブーム」が訪れているのである。
「半沢直樹」よりも
Misa氏によれば、
「これを機に、韓国ドラマの他作品も見てみたい。そう思っている方には『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』はどうでしょうか。上流階級の人間関係を描いた現代劇で社会を風刺した描写が面白い。放送当時、ケーブルテレビで最高視聴率を記録した韓国でのヒット作です」
加えて、田舎で周囲から冷たい視線に晒されるシングルマザーと純朴な警官との恋を描く「椿の花咲く頃」は、「絶対に見逃せない名作」として強く薦めたいと語る。
「『不時着』で北の人民班長を演じた名脇役の女優キム・ソニョンも出演し、親しみやすい作品です。19年の韓国ドラマ最大のヒット作で、恋愛、ヒューマンドラマ、サスペンスの要素が入り混じった脚本が高く評価されました。人生のバイブルとなるようなメッセージ性のある作品で、明日から頑張って生きようと思える感動が味わえます」(同)
少し玄人向けながら、韓国でシーズン2の放送が決定するほどの話題作という「賢い医師生活」は、大学同期の医師5人と患者との生死を巡る物語だ。
「日本の医療モノにありがちなカッコいい手術シーンや悪者の医者が出てくるわけではありません。医者と患者の日常がしみじみと伝わるドラマで、激しい展開に疲れた人に向いていると思います」(同)
そもそも最近の韓国ドラマは、「不時着」のようにラブストーリーが中心にある作品は減りつつあるんだとか。しかしながら、まだまだ恋物語を楽しみたいという場合にオススメな作品はあるのだろうか。
「『星から来たあなた』は、『不時着』と同じ脚本家によるドラマで、実は宇宙人という設定の寡黙な男性と、気の強い有名女優の恋愛物語。最初に『不時着』のヒロインであるセリのキャラクターを見たときに、この作品の女性主人公を思い出したほどで、ヒット作と共通する要素が楽しめると思います」(同)
韓流らしいファンタスティックな設定の「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」も、切ないラブストーリーである。
前出の佐藤氏曰く、
「900年以上生き永らえてきたお化けのような男(トッケビ)と、彼の命を絶つことができる女子高生の主人公が、いつしか恋におちる。そんなこと起きるわけないやろ! という設定ですが、本当にあるかもしれない……と思わせる脚本の巧みさと俳優の魅力は、『不時着』と重なる部分があります」
「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」は、ヒロインが「不時着」と同じ女優のソン・イェジンだ。
「ここでの彼女もバリバリ働く30代という設定で、パワハラなど職場で受ける理不尽の描写も非常にリアル。そんな彼女の恋の相手役を演じるチョン・ヘインは、年下の癒やし系イケメンとして有名です」(同)
同じ「お仕事ドラマ」でも、社会派の要素が加味されて、恋物語に興味がない男性でも楽しめる、いわば「夫婦で観たい」ドラマを以下に並べてみよう。話に現実味がありすぎて、韓国人でさえ“胸が痛くて観ていられない”と話題を集めたのが「ミセン―未生―」だ。
「日本でヒットした『半沢直樹』よりもリアリティがあるといえばいいのでしょうか。組織の中で葛藤する社員の姿は、共感できる点が多々あるはずです」(同)
先の児玉氏によれば、
「一度でも観た人は、“ここ数年で一番面白いドラマ!”と言うほど。ちなみに主人公と同期のインターン生を演じるカン・ソラは、ヒョンビンの元交際相手です」
男女の恋愛要素はゼロでも、早く続きが観たくなるのが「秘密の森」だとか。
Misa氏に聞くと、
「韓国ドラマってベタな恋愛モノでしょう? なんて偏見を持っている人にこそ観てほしい。韓国の検察と警察の関係を風刺しながら、緊張感溢れるサスペンスが展開される。そんな脚本と演技の質の高さも見どころのひとつ。大人の男女が共に楽しみながらも考えさせられる作品なんです」
トリを飾るのは、日本でもフジテレビが広瀬アリス主演でリメイクした「知ってるワイフ」だ。 「夫婦の関係性についての作品なので、男女で楽しめる作品といえます。夫婦関係に悩む夫が、あの頃にタイムスリップして……というラブコメディです」(同)
サブタイトルは〈過去を変えれば、夫婦も変わる〉――。そんな願望を叶えたら現実はどうなるのか。続きはドラマを観てほしい。
(週刊新潮 2021年3月11日号)
長瀬智也主演「俺の家の話」(TBS系)のキーワードは、「プロレス」「介護」「能」の3つだ。
一見バラバラだが、脚本のクドカンこと宮藤官九郎の手にかかると、これまで見たことのない「ホームドラマ」になる。
観山寿三郎(西田敏行)は能の二十七世観山流宗家で人間国宝。2年前に脳梗塞で倒れ、車いすの生活となった。
長男の寿一(長瀬)はプロレスラーだったが、引退して実家に戻った。介護ヘルパーの志田さくら(戸田恵梨香)と共に寿三郎の世話をするためだ。ただし経済事情もあって、介護の合間に覆面レスラー「スーパー世阿弥マシン」としてリングに立っている。
このドラマが凄いのは、何とも秀逸な「介護ドラマ」になっていることだ。クドカンは、本人や家族の思いはもちろん、「要介護」「要支援」といった規定から介護行為の実際までを、見る側を笑わせながら「普通のこと」として物語化していく。
ずっと自宅で介護を受けてきた寿三郎だが、認知症が進んだこともあり、グループホームに入った。複数の他人と暮らす生活は寿三郎にどんな影響を及ぼすのか。観山家の面々だけでなく、見る側にとっても興味深い展開だ。
以前、さくらが言っていた。「介護にまさかはない」と。明日、自分や家族が直面するかもしれない問題の貴重なケーススタディーとして、最終回まで目が離せない。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.03.17)
アサヒスーパードライ
「春、待ってるよ」編
離れていても寄り添える
コロナ禍が続く中、もうすぐ2度目の春がやって来る。以前のようなお花見は出来ないが、花咲く季節の到来はやはり待ち遠しい。
それはアサヒスーパードライの新CMに登場した、元乃木坂46の白石麻衣さんと西野七瀬さんも同様だ。
グループを離れ、自分の道を歩む者同士。本当は仕事や恋のことを会って話したいところだが、今はSNSで励まし合っている。
「会いたいね」「今はガマン、ガマン」「もうすぐ会えるよね」「きっと会えるよ」と言葉が飛び交う。
そんな2人を見ていると、「元気でいるかな」と相手の姿を想像することで、会えない分だけ、互いを思う気持ちがより強くなっていくような気がする。
近くにいることだけが、そばにいることじゃない。遠くにいても寄り添うことは可能かもしれない。白石さんと西野さんの明るい笑顔がその証拠だ。
会えないけど、離れた所にいるけど、同時に空を見上げて、春に乾杯!
(日経MJ「CM裏表」2021.03.14)