人間は一本の葦にすぎない。
自然の中でも最も弱いものの一つである。
しかし、
それは考える葦なのだ。
(中略)
だから、
わたしたちの尊厳は、
すべてこれ、
考えることの中に存する。
『パスカル パンセ抄』
ブレーズ・パスカル、鹿島茂:訳
人間は一本の葦にすぎない。
自然の中でも最も弱いものの一つである。
しかし、
それは考える葦なのだ。
(中略)
だから、
わたしたちの尊厳は、
すべてこれ、
考えることの中に存する。
『パスカル パンセ抄』
ブレーズ・パスカル、鹿島茂:訳
そうか、その手があったか。緊急事態宣言で「都道府県をまたぐ移動」はままならない。でも、「大島」は東京都だ。堂々の都内ロケじゃん!
制作陣がそう考えたのかどうかはともかく、水ドラ25「東京放置食堂」(テレビ東京系)の舞台は伊豆大島だ。都心から120キロの距離。高速ジェット船に乗れば最短1時間45分で着く。
島にある居酒屋「風待屋」の店主は、祖父から引き継いだ小宮山渚(工藤綾乃、好演)。旅人としてやって来た真野日出子(片桐はいり)が手伝っている。彼女は元裁判官らしいが、事情が判明するのはこれからだろう。
とはいえ、劇的な物語が展開されるわけではない。島の外から来た、それぞれに悩みを抱えた客。日出子は彼らの話を聞き、名物の「くさや」を焼いて食べさせ、アドバイスの言葉を添えるだけだ。
先週、店のカウンターに座ったのは、アイドルの小松原美織(桜井玲香)だった。酒もたばこも好きでヤンキー気質な素の自分。常に笑顔で夢と希望を振りまくアイドルの自分。そのギャップが苦しくて、サイン会から逃げ出したというのだ。
「期待に応え過ぎないほうがいいよ。あんたは、あんたでしかないんだから」と日出子。美織は仕事に戻ることを決意する。
そこに立っているだけで見る側の気持ちをザワつかせる片桐は、これが連続ドラマ初主演。くさやと同様、一度味わうとクセになる深夜ドラマだ。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.09.29)
いま注目の1冊!
「人生到るところ浮気あり」「女は死ぬ覚悟で恋をしたのよ」「私の勝負服は地味である」……
こんな言葉を目にしただけでも、続きを読みたくなりませんか。
「阿修羅のごとく」「あ・うん」「寺内貫太郎一家」など数々の傑作ドラマの脚本家であり名エッセイスト、直木賞受賞作家でもあった向田邦子さん。
取材先の台湾で飛行機の墜落事故に巻き込まれて今年で40年が経ちます。
40年といえば高校生が定年間近に、子が親になってもおかしくない歳月。
それでも新聞、雑誌、テレビが取り上げ、特別展には若い人が多く訪れました。
向田さんの全活字作品から名言、名ゼリフを精選して収録した本書も発売5ヶ月で6刷に達し、目立つのは読者に20代、30代の女性が多いこと。
思えば向田さんはキャリアウーマンの先駆けであり、同時にファッションセンス抜群、旅行と猫と食を愛してやまぬ方でした。
時を経た今だからこそ、「言葉の達人」であると同時に「生き方の達人」でもあった向田さんの作品に触れたくなるのかもしれません。
(新潮社『波』2021年10月号「いま話題の本」より)
庭の片隅に
自然は
見たいものの眼には
顔を見せてくれるけれど、
見る気のないものには
絵葉書ほどのものも
見せてくれない。
開高 健 『もっと広く!』
10月8日(金) 「『北の国から』黒板五郎の言葉」発売!
金なんか望むな。倖せだけを見ろ。
そして謙虚に、つつましく生きろ。
我々が生きるべき“座標軸"を示した奇跡のドラマ『北の国から』放送40周年記念。
田中邦衛氏演じる黒板五郎が過ごした20年の日々を、名場面と名セリフで追体験する1冊。
「夜になったら眠るンです」
「人には上下の格なンてない。職業にも格なンてない」
「人を許せないなンて傲慢だよな」
「男が弱音をな――はくもンじゃないがな」
「疲れたらいつでも帰ってこい 息がつまったらいつでも帰ってこい」
「男にはだれだって、何といわれたって、戦わなきゃならん時がある」
「お前の汚れは石鹼で落ちる。けど石鹼で落ちない汚れってもンもある」
黒板五郎は決して饒舌ではない。むしろ無口な男だ。しかし、五郎が発する言葉だけでなく、度々の沈黙の奥にも、語り尽くせない喜び、悲しみ、悔しさ、そして愛情が溢れている。そこに込められた、家族と周囲の人たちに対する熱い気持ちは普遍的なものであり、古びることはない。(「おわりに」より)
1981年10月にスタートして82年3月末に全24話で放送を終えた『北の国から』と、83年〜2002年に放送された8本のスペシャル全話からピックアップした、現代人に響く黒板五郎の名セリフ。
(Amazon)
<予約受付中>
さっき
大谷翔平選手の
試合を見ようと
NHKBS1をつけたら、
今日の実況は
福澤浩行アナウンサー(画面左)。
福澤くんは
松本深志高校の同期で、
聴きやすくて
落ち着いた語り口が、
いいのです。
大谷選手、
今日こそ
敬遠じゃなくて
勝負させて欲しい!
「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」は
上々のエンタメ作品
この快作を見逃すことなきように!
俳優が映画を監督したり、ドラマの演出をしたりする例は少なくない。ただし、「余技」などと言われないレベルのものは決して多くない。
オダジョー久々の連ドラ主演…「数字が取れない男」がナゼ その意味で、オダギリジョー脚本・演出・編集、さらに出演もしている「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」(NHK)は、上々のエンタメ作品に仕上がっている。
このドラマの「主人公」は警察犬係の警察官、青葉一平(池松壮亮)だ。しかし、「主役」は警察犬のオリバーだろう。一平にはこの犬が人間のおっさんに見えるし、会話もできる。その「おっさん犬」を演じているのがオダギリジョーなのだ。
抜群の嗅覚で地中の拳銃を発見し、裏社会とつながるキャバクラを摘発する活躍を見せるオリバー。
その一方で、飛び切りの毒舌家にして酒好き、女好きでもある。特に目がない「エロ」はオリバーの原動力だ。若くてキレイな女性の顔や胸元に迫る時のデレデレ顔は、見ていて笑ってしまう。
オダギリジョーの演出には、特異な設定が軽いコントに流れることを拒否する美学と、集めたクセのあるキャストたちに演技の暴走を許さないコントロール力がある。
またオリバーの造形はもちろん、画面の隅々にまで気を配った美術へのこだわりも含め、作品の世界観を堂々と押し出していることにも拍手だ。
全3回はあっという間。くれぐれも、この快作を見逃すことなきように!
( 日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!! 」2021.09.22)
<週刊テレビ評>
最終回迎えた「ハコヅメ」
永野×戸田が最高のペア
警察が舞台のドラマは主人公が刑事であることが多い。しかも、ほぼ男性の刑事だ。その意味で、先日最終回を迎えた「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」(日本テレビ系)は新鮮だった。ハコヅメ(交番勤務)の女性警察官、藤聖子(戸田恵梨香)と川合麻依(永野芽郁)の物語だったからだ。
まず2人のキャラクターが秀逸で、藤は刑事課の元エース。パワフルな上に仕事は完璧だ。一方の川合は警察学校を出たばかり。安定した生活を求めての公務員志望だから、勤務についた途端、「もう辞めよう」と思ってしまう。そんな困った新人が、藤と組んだことで変わっていく。このドラマの軸の一つは川合の成長物語だ。
しかも、ドラマ全体が肩の力の抜けたユーモアに包まれていた。藤の強さを「マウンテンメスゴリラ」とからかう同僚たち。川合のことを指す「ナチュラルボーン・ヘタレ」、「無名のゆるキャラ感」といったセリフ。警察署内に漂う「おっさん臭」に困った2人、息を止めてアヒル声で話す抱腹絶倒のシーンなど、脚本の根本ノンジの遊び心がさえる。
川合は藤に憧れるだけでなく、心から信頼し、何でも学んでいく。その真っすぐな気持ちは藤にも伝わり、この後輩を鍛えつつ可愛がる。しかしドラマの終盤では、そんな絆が揺らぎそうになった。
初回からずっと謎だった、藤が交番勤務を望んだ本当の理由。そこには、藤や源誠二(三浦翔平)と同期の女性警察官、桜しおり(徳永えり)が関係していた。3年前、桜はひき逃げされ、一命はとりとめたものの、休職したままリハビリに励んでいる。藤が犯人だと考えたのは、桜に執着していた謎の男、通称「守護天使」。事件後に姿を消した彼をおびき出すため、藤は桜によく似た川合を囮(おとり)にしようとペアを組んだのだ。
それを知った川合の心は乱れる。だが、「後悔している」と謝罪する藤に向かって川合が言った。「藤さんが後悔しているなら、その何倍も、ペアを組んで良かったって思ってもらえるような警察官になってみせます!」
このドラマで、永野はコメディーとシリアスの絶妙なバランスによる出色の演技を見せた。そこには硬軟自在のスタンスで受けとめる戸田の存在があった。戸田の胸を借りて、のびのびと跳ね回る永野が、藤の背中を追って成長する川合と重なって見えてきた。
今も連載が続く原作漫画には、遠い将来、川合が県警初の女性警察学校長になる場面が登場する。いや、そこまで先の話でなくてもいい。最高の「たたかうぺア」の今後を、ぜひ見てみたい。
(毎日新聞 2021.09.18夕刊)