碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【書評した本】 『清六の戦争―ある従軍記者の軌跡』

2021年07月31日 | 書評した本たち

 

 

 

従軍記者が現代に投げかける

報道の中立性という普遍的な問い

 

伊藤絵理子

『清六の戦争―ある従軍記者の軌跡』

毎日新聞出版 1650円

 

新聞などのメディアに関して、「8月ジャーナリズム」という言葉がある。毎年8月になると、「原爆の日」や「終戦記念日」に合わせるように、戦争や平和についての報道が行われることを指す。その集中ぶり、もしくは他の時期の寡黙ぶりを揶揄するニュアンスがそこにある。

昨年の7月半ばから8月末にかけて、毎日新聞に「記者・清六の戦争」と題する記事が25回にわたって掲載された。本書は、ご都合主義的な報道活動とは一線を画した記事に、加筆する形で書籍化したものだ。

主人公の伊藤清六は1907(明治40)年、岩手県の農家に生まれた。7歳で父を失い、苦学して高等農林学校を卒業。東京日日新聞(現・毎日新聞)宇都宮支局員として記者生活を始める。

農政記者だった清六が系列のマニラ新聞社に出向したのは44(昭和19)年だ。やがて日本軍と行動を共にしながらガリ版刷りの陣中新聞「神州毎日」を作り続け、翌45年6月30日、山中のヤシ林で餓死する。まだ38歳だった。

本書の特色は、清六が著者の曽祖父の弟、つまり血のつながる親族にあたることだ。しかも同じ毎日新聞の大先輩だった清六の足跡を丹念に追っていく。

すると、37(昭和12)年の南京攻略の現場にいたことが判明する。報道統制の中で戦場の惨状を伝えきれなかったこと。記者もまた「加害者」の一員であること。著者は清六の心情を推し量りながら、現在の南京を訪れる。さらに清六の最期の地となったマニラへと飛ぶ。

山中の狭い壕での新聞作りでは、無線を傍受して外電ニュースを取り、ドイツ降伏やヒトラーの死も正確に報じていたという。

現地に立った著者は、極限状態で記者活動を続けた清六に思いをはせる。そこには、「属する組織の中で、個人はどう葛藤し、どう振る舞えるのか」「いつどんな時でも、記者は報道の中立性を守り抜くことができるのか」という、まさに普遍的な問いがあった。

(週刊新潮 2021.07.22号)

 


【気まぐれ写真館】 夕暮れの雲

2021年07月30日 | 気まぐれ写真館

2021.07.30


テレ東らしい試み「八月は夜のバッティングセンターで。」

2021年07月29日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「八月は夜のバッティングセンターで。」

実にテレ東らしい試み



オリンピックの喧騒も静まる深夜。スポーツ、それも野球を取り込んだ異色のドラマが流されている。「八月は夜のバッティングセンターで。」(テレビ東京系)だ。

舞台は都内にある、ひなびたバッティングセンター。経営者である伯父に頼まれ、夏休みのアルバイトとして受付や雑用をしているのは女子高生の夏葉舞(関水渚)だ。

ある日、客のスイングをじっと眺めている不審な男、伊藤智弘(仲村トオル)を発見。伯父の知り合いで元プロ野球選手だという伊藤は、「バッティングを見れば、その人が抱える悩みや苦しみが分かる」と豪語する。

舞と共に、悩める女性客を“バーチャルな野球場”へとワープさせる伊藤。そこには実物の「レジェンド選手」がいて、彼らが人生のアドバイスを与えてくれるのだ。

社内で自分が評価されないと嘆くゆりこ(木南晴夏)に、元メジャーリーガーの岡島秀樹が「雑念を捨てて黙々と仕事をすればいい」と教える。

また、傷つくことを恐れて恋愛に臆病になっていた佳苗(堀田茜)を、楽天などで活躍した山崎武司が「バットを振らなきゃヒットも生まれない」と励ます。いわば“野球に学ぶ人生論ドラマ”という試み。実にテレ東らしい。

ドラマ初主演となる関水の印象は鮮やかで、今後のブレーク必至。女性たちを応援する仲村も、50代半ばの渋さが何ともいい味になっている。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.07.28)

 


『おかえりモネ』真面目過ぎる「朝ドラ」も悪くない!?

2021年07月27日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

後半突入の『おかえりモネ』、

真面目過ぎる「朝ドラ」も悪くない!?

 
前半の「宮城編」が終了し、先週から後半の「東京編」に入った、朝ドラ『おかえりモネ』。
 
ここまでの印象を、ひと言で表現するなら、「真面目過ぎる朝ドラ」でしょうか。
 
「真面目過ぎて悪い」という話じゃありません。「真面目過ぎる朝ドラも悪くないじゃん」と思うのです。
 
まず、ヒロインのモネこと永浦百音(清原果耶)って、実に真面目な女性ですよね。
 
2011年3月11日、モネの故郷・気仙沼は東日本大震災に襲われました。
 
彼女はその当日、たまたま他の街にいた。つまり、本来ならいるべき「現場」にいなかった。「体験」しなかった。
 
そのことを、家族や友人たちに対して、ずっと後ろめたく思い続けていたモネ。その心のありようが、すごく真面目です。
 
また、自分の進路というか、将来について、あれこれ思案していましたが、最終的に志望したのは「気象予報士」でした。
 
その仕事が、自分のためというより、誰かの役に立つからであり、もっと言えば、「人の命を守る」ことにつながる仕事だからです。とても真面目な考えです。
 
そして、医師の菅波先生(坂口健太郎)の力も借りながら懸命に勉強し、資格試験に挑戦し、見事合格を果たす。真面目だから出来たことです。
 
これまで浮ついたような出来事もなく、地道に働き、地道に学んできた、努力家のモネ。周囲にいるのも、基本的に真面目な人ばかりでした。
 
真面目なヒロインが、真面目な人たちと過ごした、故郷での日々。
 
モネは大きなトラブルや心配事に遭遇することもなく、ほぼ平穏に暮らしてきました。
 
そして東京に来てからも、順調な出足です。
 
採用面接もないまま、いきなり「現場」に放り込まれ、結果的には気象予報の仕事への参加が許された。
 
その真面目さも含め、モネのキャラクターを周囲が認めてくれたからです。
 
気象情報会社「Weather Experts(ウェザーエキスパーツ)」に所属する、気象キャスターの朝岡覚(西島秀俊)。
 
気象予報士の神野マリアンナ莉子(今田美桜 いまだ・みお)、野坂碧(森田望智 もりた・みさと)、内田衛(清水尋也 しみず・ひろや)たちも、みんな真面目ですよね。
 
気象情報は、何よりも大切な「命」を守るためのものであり、彼らはそれを扱うわけですから。
 
そして、ドラマの中の放送局では、気象予報士だけでなく、気象情報を伝えるグループのスタッフも含めた全員で、「正確な情報」を伝えることに真摯に取り組んでいる。
 
その姿勢は、「気象はチーム戦です」というセリフが象徴しています。
 
というわけで、モネが気象予報士として一人前になっていく日々が描かれる「東京編」も、基本的には真面目なエピソードがベースだと思われます。
 
それは、かつての朝ドラのヒロインたちに見られた、自己実現という名の出世物語や成功物語とは一線を画すものでしょう。
 
おそらく、「他者のために、他者とともに」といった精神の持ち主ならではのストーリー展開になるはずです。
 
タイトルが『おかえりモネ』ですから、どんな形かはともかく、いずれは故郷の人々の役に立つべく、故郷に帰ると予想されるヒロイン。
 
でも、しばらくは、東京という未知の「現場」における、主人公の生真面目な切磋琢磨を応援していきたいと思います。
 
不安感と閉塞感に満ちた時代には、地に足のついた、真面目過ぎる「朝ドラ」も悪くはないですから。
 

言葉の備忘録238 卵を・・・

2021年07月26日 | 言葉の備忘録

 

 

 

卵を割らなければ、

オムレツは食べられない。

 

岸 惠子『岸惠子自伝』

 

 


日刊ゲンダイで、各局「五輪キャスター」について解説

2021年07月25日 | メディアでのコメント・論評

 

 

 

灼熱の東京五輪を100倍楽しく見る方法

〝前代未聞のオリンピック〟が開幕

各局別 顔触れ&見どころを裏読み

テレビ賢者が一刀両断

 

きょう(23日)、開会式を迎える東京五輪。ほとんどが「無観客開催」となる中、競技の様子はテレビで見るしかないが、会場の熱気を伝える各局の中継番組のキャスターが出揃った(表参照)。コロナ禍の予断を許さない状況下、キャスターたちは選手たちの活躍をいかに伝えるのか。知れば100倍盛り上げる、テレビ観戦の〝ツボ〟を本紙がチェック!

NHKは嵐&人気アナで総動員体制

やはり一番気合が入っているのはNHK。コロナによる延期以前から、嵐がスペシャルナビゲーターを務めることが発表されていたが、2020年末の活動停止を挟み、今回、相葉雅紀(38)、櫻井翔(39)のふたりを起用。さらに開会式には和久田麻由子(32)、閉会式には桑子真帆(34)といった同局の看板女子アナを配するなど、アナウンサー総動員体制で挑む。

メディア文化評論家の碓井広義氏はこう話す。

「さすがにNHKらしく、タレントの力だけでなく、アナウンサーの総力戦で五輪を大々的に伝えようという王道の布陣です」

日テレはさんま、上田、有働で盤石

日テレは〝キャプテン〟明石家さんま(66)を筆頭に「Going!Sports&News」の上田晋也(54)、さらに同局の〝夜の顔〟である「news zero」の有働由美子(52)を手堅く揃えた。

「こちらも盤石の布陣と言えるでしょう。ただのタレント起用とは一線を画している。さんまさんも上田さんも根っからのスポーツ好きで、試合の様子や選手の思いをしっかり伝えられる。有働さんも、98年の長野五輪ではNHKの総合司会でしたからね」(碓井氏)

テレビコラムニストの桧山珠美氏はこう話す。

「『zero』で有働さんと組んでいる櫻井クンが嵐の関係でNHKに行ったのは興味深いですね。櫻井クンにとっては、なんでもかんでも混ぜっ返して美味しいところを持っていっちゃうさんまさんと組むより、これで良かったのではないか。日テレは、さんまさんがメインに座ることで、沈みに沈んだこの大会を、どこまで〝から騒ぎ〟して盛り上げてくれるかが見どころじゃないですか」

TBSの安住一本勝負の危険性

8大会連続で同局の五輪キャスターを務めてきた中居正広(48)をクビにして、安住紳一郎(47)一本で勝負に出たのがTBS。

「ジャニーズ事務所に対する忖度がなくなったからなのかは分かりませんが、自局のエースアナをメインに据えたのはTBSの覚悟を感じます。それと著名なアスリートコメンテーターをズラリと揃えたことにも注目。五輪をしっかり伝えようとする意志を感じます」(碓井氏)

ただ、秋からの朝の情報番組のスタートも控える中、何でもかんでも安住一本カブリで大丈夫なのかという懸念は残る。

フジは重みに欠ける村上信五

一方フジは、関ジャ二∞の村上信五(39)がメイン。ジャニーズとしても〝ポスト中居〟として大プッシュ中の村上だが・・・。

「マツコやたけしなどとも堂々渡り合っているが、どうしても〝ジャニーズの小僧感〟が出てしまっている。すでに39歳なんですけどね。メインとしては重みに欠ける感じです」(桧山氏)

さすがに村上だけでは弱いと思ったか、同局でスポーツを担当する人気の宮司愛海アナ(29)、さらに「東京五輪 情報スペシャルキャスター」として小倉智昭(74)も参戦。またBSフジでは、往年の人気アナである中井美穂(56)と内田恭子(45)をメインで起用している。

「これはBSを見てるおじさんたちに対するサービスですね(笑い)。オールドファンは大喜びでしょう」(碓井氏)

テレ朝は“アツい男”修造で丁半博打

「さんまと同じ〝オリンピックおじさん〟として期待がかかる」(桧山氏)のは、テレ朝のメインの松岡修造(53)。ご存じ〝アツい男〟が、ただでさえクソ暑い炎天下での五輪をどこまで熱くするか。

「応援する側の気持ちも選手の気持ちも分かるのは利点で、大いにハシャいで欲しいが、飛ばしすぎて、冷ややかな目線を向けられないかスリリングな展開になりそう」(桧山氏)

一方、碓井氏は、前回のリオ五輪まで五大会連続でテレ朝の五輪キャスターを務めていた福山雅治の名前がなくなったことを指摘する。

「テレ朝としては、今回、そこまでの布陣を組まなくていいと考えたのでしょうか。もしくは今回に関しては、世情を鑑みたタレントサイドから辞退があったのかも知れません」(碓井氏)

テレ東は独自路線で我が道を行く

最後はテレ東。メインを務める小泉孝太郎(43)は、同局のドラマで活躍中だが、スポーツの印象はほとんどない。

「〝テレビ東京の顔〟と言える男性アナウンサーは思いつかないでしょう。そうしたこともキャスティングに影響していると思います。キャスターを務める竹崎由佳アナは、元関西テレビのアナウンサーですが、本来なら、同局で人気だった鷲見玲奈アナがやっていたポジションですね」(碓井氏)

さらにフィールドキャスターに武井壮(48)が入っているあたりも含め、テレ東らしい「独自路線」の人選と言えそうだ。

桧山氏は「聖火リレーに次々と辞退者が出たように、今回の五輪は〝触ると怪我する危険物〟になってしまった」としてこう続ける。

「一番、頑張ってるのは4K・8K放送やネットと同時配信するNHKだけで、民放は諸手をあげて放送するという感じではない。そんな中、さんま、松岡修造という〝二代巨頭〟の明るさが救いになるのか、あるいは世間の顰蹙を買ってしまうのかに注目したい」

一方の碓井氏はこう話す。

「今回、五輪そのものが逆風の中にあり、五輪に関わること自体が悪事に加担しているかのような雰囲気になってしまった。キャスターを務める人たちも、まさかこんなことになるとは思わなかったでしょう。胸中複雑な思いはあるはずだが、今までになくバランスが難しい五輪中継になることは避けられない。無理に盛り上げる必要はないが、下手をすればスベってしまう。いずれにせよ、五輪そのものと競技の中継は別物と切り分けてやるしかないのではないでしょうか」

ともあれ今日から2週間、地上波は五輪一色。前代未聞の夏が始まる。

(日刊ゲンダイ 2021,07.24)

 

 

 


言葉の備忘録237 人生は・・・

2021年07月24日 | 言葉の備忘録

 

 

 

人生は

小さな愉しみのつづれ織り

 

 

吉本由美『イン・マイ・ライフ』

 

 

 


週刊新潮で、「KINCHO」の新聞広告について解説

2021年07月24日 | メディアでのコメント・論評

7月に掲載されたKINCHOの新聞広告(KINCHOのHPより )

 

 

「KINCHO」の新聞広告、

担当者は

「必要とされない広告を

話題にしてもらうために」

 

芸風を受け継ぐ


ラッパ屋『コメンテーターズ』は、 「現在進行形」のスリリングな芝居!

2021年07月23日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

ラッパ屋『コメンテーターズ』は、

「現在進行形」のスリリングな芝居!

 

新宿の紀伊國屋ホールで、劇団ラッパ屋の新作『コメンテーターズ』が上演されています。
 
物語の舞台はテレビのワイドショー。「現在進行形」のスリリングな芝居です。
 
元々は、昨年4月に行われるはずだったのですが、コロナ禍によって「上演中止」となった作品です。
 
しかし、脚本・演出の鈴木聡さんに直接聞いたところによれば、題名は同じでも、昨年4月に用意していた内容とは、ほぼ別物になったそうです。
 
おやじ系ユーチューバーの冒険
 
主人公は、定年後の再就職もままならない中、ふとしたきっかけでユーチューバーになっちゃった64歳のおっさん、横沢広志(おかやまはじめ)です。
 
おやじギャグと、おっさんの本音みたいなものがウケて、再生回数はうなぎ登り。
 
それに目をつけたのが、朝のワイドショー「おはコメ」こと「おはよう!コメンテーターズ」の女性プロデューサー(岩橋道子)でした。
 
彼女の上司であるワイドショー担当役員(俵木藤汰)のOKも出て、広志の出演が決まります。
 
「おはコメ」の生放送のスタジオには、タイトル通り、何人ものコメンテーターが並んでいます。
 
政権寄りの政治評論家(木村靖司)、反権力のジャーナリスト(宇納佑)、弁護士の経済評論家(谷川清美)など。
 
他に、歌手(北村岳子)やダンサー(黒須洋嗣)、さらに町のパン屋さん(伊藤直樹)まで、ズラリです。
 
そこに、フツーのおっさん、横沢広志が加わった。
 
「現在進行形」の芝居
 
物語の時間軸は、今年の5月下旬から7月初旬という設定。
 
つまり、今回の「緊急事態宣言」発出や、オリンピックの「無観客」開催などが決定される前まで。
 
ワイドショー「おはコメ」では、ほぼリアルタイムな感じで、「コロナ」と「オリンピック」の話題が展開されるわけです。
 
これは、かなりスリリングです。
 
それまで、「プロのコメンテーター」集団が、一定の調和を保ってきた番組に、新人の「素人コメンテーター」が投入されたため、全体のバランスが崩れていきます。
 
また、「コロナ」や「オリンピック」についても、予期せぬ「論」が飛び出すことになります。
 
そして、舞台の上とはいえ、いや、舞台だからこそ、「ワイドショー」なるものの本質や、「コメンテーター」なる人々の正体や、「メディアと社会」の危うい関係性が、どんどん明らかになっていく。
 
でも、そこはラッパ屋です。どんな重いテーマでも、明るさとユーモアを忘れません。
 
観客は、大いに笑って、そして少しほろっとしながら、ちゃんと<大事なもの>に触れていく。気づかされるのです。
 
1993年の『アロハ颱風』以来、約30年間、すべての舞台を観てきましたが、それはいつも変わりませんでした。
 
そのうえで、今回、一番の特色と言えるのは、ここまで世の中の「現実」を、ストレートに取り込んだ作品はなかったということです。
 
鈴木聡さんの言葉を借りれば、まさに「ジャスト・ナウ」。
 
「現在進行形」の芝居であり、観客と「いま」を共有したいという強い意志でしょうか。
 
現実のコロナも、オリンピックも、「なし崩し感」いっぱいであり、「わからないこと」だらけであり、厭世的になりそうな人も少なくないと思います。
 
そんな時だから、ラッパ屋の「喜劇」が、ラッパ屋的「人間喜劇」が、私たちには必要なのかもしれません。
 
ありがたいことに、その舞台を観終わったあと、小さな希望を持ち帰るというか、ちょっとだけ元気になっている。
 
演劇は「不要不急」か!?
 
思えば、スマホやSNSによって、生身の人間関係が希薄になってきたのは確かです。
 
しかし、「つながり孤独」という言葉が象徴するように、私たちには、どこかで生身の人間を感じたいという欲求があります。
 
コロナ禍の中で、演劇は「不要不急」のものとして扱われてきました。
 
ですが、劇場で見る演劇は、身近に現実の人間の存在を感じる、貴重な機会であることもまた確かなのです。
 
年に1度の「ラッパ屋」を観て、あらためて、そんなことを思いました。
 
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ラッパ屋 第46回公演「コメンテーターズ」
2021年7月18日(日)~25日(日)
東京・新宿 紀伊國屋ホール
 
 
脚本・演出の鈴木聡さんと(紀伊國屋ホールにて)

「サ道2021」なぜサウナに入ると雑念が消えるのか

2021年07月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

テレ東ドラマ25「サ道2021」が提示した

なぜサウナに入ると雑念が消えるのか

 

現在のサウナブームの火付け役となった、伝説の番組が帰ってきた。ドラマ25「サ道2021」(テレビ東京系)である。

主要人物も変わっていない。上野の「サウナ北欧」に集う、プロサウナーのナカタ(原田泰造)、偶然さん(三宅弘城)、イケメン蒸し男(磯村勇斗)の3人だ。

このドラマは、彼らによる細かすぎて笑ってしまう「サウナ談議」と、ナカタが一人で訪れる実在の「極上サウナ」が、入れ子細工の構成で進んでいく。登場するサウナは今回も実に魅力的だ。

栄えある復活第1弾は「東京ドーム天然温泉・スパ ラクーア」。とにかく館内が広くてキレイで、複数のサウナがある。特に小部屋でのセルフロウリュ(サウナストーンに自分でアロマ水をかけて蒸気を発生させる)が楽しそうだ。

また錦糸町の「黄金湯」では、ナカタが100度の高温サウナ、16度の水風呂、さらに気持ちのいい外気浴までを堪能。いつものトランス状態のような快感、「ととのった~!」がやってくる。

3人の間で、「なぜサウナに入ると雑念が消えるのか」が話題となった。結論は「思考から感覚に切り替わるから」。確かにそうかもしれない。サウナの効能の一つだ。

ちなみに、魅惑のテーマ曲「サウナ好きすぎ」は、五輪開会式作曲担当で話題の小山田圭吾の作品。サウナの恍惚感を見事に楽曲化している(編注・テレビ東京は第3話より差し替えを発表)。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.07.21)

 


『テレビの教科書』が、電子書籍で復刊!

2021年07月21日 | 本・新聞・雑誌・活字

 

 

<お知らせ>

『テレビの教科書』(PHP新書)が、

電子書籍として復刊しました!

 

 

テレビの教科書

 ービジネス構造から制作現場までー

 

日本でテレビ放送が始まり50年。現代人はテレビの情報により思考し、行動するようになった。だからこそ、テレビの危うさも指摘されてきた。視聴率主義、やらせ、偏向報道などである。

▼いまや、情報を鵜呑みにするだけではない、賢い視聴者が求められている。80年代以降、盛んと呼びかけられてきた「メディア・リテラシー」という視点である。

▼本書は、その「メディア・リテラシー」の概念をベースに、テレビの歴史、CM、ドキュメンタリーの作られ方、映像の仕掛けなどをわかりやすく解説する。

▼さらに、制作現場を深く知る著者は、作り手からテレビの構造を解剖。学生たちによる「ドキュメント『町』~渋谷篇」の番組づくりという体験的ワークショップの事例を紹介。

企画・構成・取材・撮影・演出がどのようになされているかが見えてくる。その本質を知れば、テレビの見方がガラリと変わる。教育の場で、さらにマスコミ志望の学生に最適のメディア・リテラシー入門。

(アマゾンより)

 

 

 

 


『孤独のグルメ』松重豊さんは大人の男のためのヒーロー

2021年07月20日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『孤独のグルメ Season9』

松重豊さんは、

大人の男のためのヒーロー!

 

9年前、2012年1月にスタートした『孤独のグルメ』(テレビ東京系)。
 
今回、ついに「Season9」に入りました。すでに局を代表する人気シリーズの一つです。
 
主人公は、井之頭五郎(松重豊)。個人で輸入雑貨を扱っていますが、五郎の仕事ぶりを描くわけではありません。
 
商談のために訪れる様々な町。そこに「実在」する食べ物屋で、「架空」の人物である五郎が食事をするだけです。
 
この「グルメドキュメンタリードラマ」という基本構造は、ずっと変わっていません。
 
そして、テレビの世界で、いわゆる「食ドラマ」というジャンルを広めて来ただけではありません。「ひとり飯」自体を一種の文化にまでしてしまった。その功績も大きいと思います。
 
新シーズンの初回で登場したのは、川崎市の宮前平にある「とんかつ しお田」でした。カウンターだけの、決して大きくないお店です。
 
とんかつ屋さんに入った時、多くの人が直面する悩み。それが、「ロースか、ひれか」の選択でしょう。五郎も例外ではありません。
 
当初、ロースのつもりだった五郎ですが、居合わせた常連さんが「この店で、ひれかつに目覚めました」と語るのを聞いて、ひれかつに転向しちゃいます。
 
こういう「食べ物屋さん、あるある」も、このドラマの愉しみだと言えます。
 
目の前の「ひれかつ御膳」を堪能しつつ、五郎は言います。例によって、心の中の声、インナーボイスです。
 
がぶりと頬張って、「見た目と違って、これは紳士。いや、紳士というより淑女」。
 
どんな味だ? と思っていると、続けて「脂身至上主義の俺もひれ伏す、魔性のひれかつ」ときた。
 
食への好奇心・遊び心・感謝
 
五郎の言葉には、「ひとり飯のプロ」としての説得力があります。
 
食への「好奇心」、食に対する「遊び心」、そして食への「感謝の気持ち」。この三拍子がそろっている。
 
いや、もうすっかり五郎のペースにはまり、一緒に食べている気分です。
 
この「ひれかつ御膳」だけではおさまらず、五郎は「魚介のクリームコロッケ」も注文。クリームの中を泳ぐタコやイカと遭遇しました。
 
さらに「エビフライ」にまで食指が伸びる五郎。
 
本当は3本がセットのところ、五郎に無理がないようにと1本だけ出してくれたのは、お店のご好意です。
 
このエビフライについてきた、タルタルソースが実に美味そうでした。
 
ちなみに、この「とんかつ しお田」さん。びっくりしたのは、ご近所の店だったからです。
 
9年目ともなると、ついに自分が暮らすエリアにも五郎がやって来るのか、と感慨がありました。
 
知っている店の内部が、違う空間のように見えてくる面白さ。
 
しかも、放送の翌日、通りかかったのですが、お店の前には、見たことのないほどの「行列」が出来ていました。
 
恐るべし、『孤独のグルメ』と五郎の力!
 
「変わらない場所」の安堵と癒し
 
ドラマもシリーズ化されると、つい以前とは違った要素を加えたくなるものです。
 
しかし、『孤独のグルメ』の最大の美点は、いくらシーズンを重ねても、何ら変わっていないことにあります。
 
有為転変、千変万化の時代に、「変わらない場所」があることの安堵と癒し。
 
松重豊さんの井之頭五郎は、往年の『007』ジェームズ・ボンドや『男はつらいよ』車寅次郎などと並ぶ、大人の男のためのヒーローなのです。

【気まぐれ写真館】 猛暑!

2021年07月19日 | 気まぐれ写真館

2021.07.19


言葉の備忘録236 準備なんて・・・

2021年07月19日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

「準備なんてものは、

 限られた時間の中でおこなうもんだ。

 そうだろう」

 

 

大沢在昌『漂砂の塔』

 

 

 

 

 


【気まぐれ写真館】 梅雨も明けて・・・

2021年07月18日 | 気まぐれ写真館

2021.07.18