碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

読売新聞で、「半沢直樹」最終回について解説

2020年09月30日 | メディアでのコメント・論評

 

半沢有終

最終回視聴率32・7%

「恩返しです」名言反響

 

27日に放送されたTBS系連続ドラマ「半沢直樹」の最終回の平均視聴率(関東地区)が32・7%だったことが28日、ビデオリサーチ社の調べで分かった。

初回から一貫して20%台を保ち、最終回はそれまで最高だった第8話から7・1ポイント伸びた。テレビドラマの30%超えは、2013年放送の前作「半沢直樹」の最終回の42・2%(同)以来。

ドラマは、堺雅人さん演じる巨大銀行の行員、半沢直樹が理不尽な仕打ちに立ち向かう物語の続編。放送はコロナ禍で開始が4月から7月にずれ込み、感染予防の関係で第8話の放送が1週間延期されるなど難航した。

一方、奮闘する医療従事者などに感謝の気持ちを表す意味で「施されたら施し返す。恩返しです」というセリフが急きょ脚本に盛り込まれるなど、社会状況を見極めた対応もあり、TBSの佐々木卓社長は「はね返す勢いが、よりすばらしい現場の雰囲気を作った」と話している。

放送中はインターネットのSNS上でも、香川照之さん演じる大和田が半沢に言い放つ「おしまいDEATH!」などの“名言”に多くの視聴者が反応した。

ツイッタージャパンによると、最終回の放送前(午後8時半)から午後10時までの関連のツイートは計43万件に達し、昨年のラグビーW杯日本大会の準々決勝・日本対南アフリカ戦の時の国内でのツイート数(40万件)に匹敵するという。担当者は「スポーツ中継でみられるような一緒に見ながら盛り上がる感じがあった」と話す。

メディア文化評論家の碓井広義さんは「今作は現実社会を取り込んだドラマ作りが痛快で、半沢の姿にコロナ禍での閉塞感(へいそくかん)から解放された視聴者も多かったのでは。TBSは話題作りもうまかった」と分析する。

(読売新聞 2020.09.29)


ドラマに政界を取り込んだ「半沢直樹」

2020年09月29日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

ドラマに政界を取り込む

 

日曜劇場「半沢直樹」(TBS系)が終了した。今期ドラマで最大の盛り上りを見せた背景には、いくつかの要素がある。

新型コロナウイルスの影響による制作中断や放送延期が、逆に視聴者の飢餓感をあおったこと。主演の堺雅人はもちろん、歌舞伎界からの援軍も含む俳優陣の熱演。そして福澤克雄ディレクターたちによるダイナミックな演出などだ。

しかし、特に「帝国航空」をめぐる後半の物語が注目を集めたのは、政界という現実を取り込んでいたことが大きい。

帝国航空はナショナル・フラッグ・キャリア(国を代表する航空会社)という設定。「経営危機」「債権放棄」などの言葉も飛び交い、現実の「日本航空」を想起させた。

10年前、日本航空が倒産した際、金融機関などが総額5000億円以上の債権を放棄したことは事実だ。ドラマで描かれたような国土交通省やタスクフォースの動きの有無はともかく、当時の債権放棄が高度な「政治的案件」だったことは確かであり、見る側の興味を引くには十分だった。

さらにドラマにおける政権党の幹事長、箕部啓治(柄本明)の登場だ。航空会社も銀行も支配下に置こうとする箕部にとって、国土交通相の白井亜希子(江口のりこ)も、東京中央銀行常務の紀本平八(段田安則)も単なる手駒に過ぎない。

また銀行からの不正融資20億円と地方空港の新設を悪用した錬金術。フィクションとはいえ、政権党の幹事長がゲームなどにおける最終的な敵「ラスボス」のごとく描かれていたことが秀逸だ。

今月16日、菅義偉が第99代内閣総理大臣に就任した。その菅首相は「安倍政治」の継承者を自任している。

だが、反省より先に不都合なことを隠そうとした、安倍政権の「隠蔽体質」の継承は許されない。半沢の言葉を借りれば、政治家とは「国民それぞれが自分の信じる理念の元に、この国をよりよくするために選んだ存在」だからだ。

新型コロナによる「閉そく感」が常態化している中、視聴者は進行する政治状況も眺めながら、このドラマを楽しんできた。「正しいことを正しいと言えること」を愚直に目指した半沢のような人物、現実の政界にも現れないものだろうか。

(しんぶん赤旗「波動」2020.09.28)

 


【気まぐれ写真館】 中央林間にて

2020年09月28日 | 気まぐれ写真館

 

中学時代から社会人になった現在まで、

12年も通っている青年がいます。


言葉の備忘録184 かへすがへすも・・・

2020年09月26日 | 言葉の備忘録

 

 

 

「かへすがへすも断腸の思ひ」が

なぜをかしいか。

腸を断つといふ致命的なことを

何度もくりかへすのがをかしい。

 

丸谷才一 『どこ吹く風』

 

 


この惑星の変化 前向きに捉える「クラフトボス」CM

2020年09月24日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

サントリー「クラフトボス」

この惑星の変化 前向きに捉える

 

堺雅人さんが田舎道を必死で歩いている。後に続くのは地球調査中のトミー・リー・ジョーンズさんだ。「クラフトボス」の新作CMである。

二人は得意先までの遠い道のりに疲れた様子だ。すると目に前にピンクの「どこでもドア」が出現。一気に役所広司さんの農場に到着した。

直接会って説明しようとした堺さん。スマホをかざして「リモートでいいじゃないか」と鷹揚な役所さん。見れば、役所さんの両親が作物運搬用のドローンを操縦している。まるでドラえもんの「ひみつ道具」で遊ぶ、のび太たちみたいに楽しそうだ。

新型コロナウイルスの影響は「一億総マスク化」だけでなく、社会全体に及んでいる。当初は緊急対応かと思われた「リモートワーク」もすっかり日常化してきた。オーバーに言えば「仕事」という概念の再構築だ。

それまで不可能と思われていたことが、何かをきっかけに大きく前進する。原動力は「災い転じて福となす」の柔軟思考かもしれない。

(日経MJ「CM裏表」2020.09.21)


言葉の備忘録183  どうせ・・・

2020年09月23日 | 言葉の備忘録

 

 

 

どうせ、いつかみんな死んでいく。

だからね、せっかくこの世にうまれてきたら、

この世でやりたいことを全部やった方がいい。

 

 

瀬戸内寂聴  『寂聴 九十七歳の遺言』

 

 

 

 

 

 


言葉の備忘録182 あなたを・・・

2020年09月22日 | 言葉の備忘録

 

 

 

あなたを苦しめているのは

「同調圧力」と呼ばれるもので、

それは「世間」が作り出しているのです。

 

鴻上尚史・佐藤直樹『同調圧力~日本社会はなぜ息苦しいのか』

 

 

 

 

 

 

 


「踏み込んだ展開」で果敢に攻める『半沢直樹』終盤戦

2020年09月21日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

「踏み込んだ展開」で果敢に攻める

『半沢直樹』終盤戦

 

盛り上りをみせている日曜劇場『半沢直樹』(TBS系)も、残すところ、あと1回。なんだか、あっという間だったような気がします。

ここまで人気を支えてきたのは、第1に、主演の堺雅人さんを筆頭とする俳優陣の熱演でしょう。市川中車(香川照之)さんはじめ、市川猿之助さん、片岡愛之助さん、尾上松也さんなど、歌舞伎界の強力メンバーの参加も功を奏しました。

次に、「見せ場」をよく心得た丑尾健太郎さんたちの脚本と、福澤克雄ディレクターたちの緩急自在な演出があります。

そしてもう一つ、IT企業の買収を軸とした前半以上に、「帝国航空」をめぐる後半の物語が、いい意味で生ぐさい。つまり、政界という現実を取り込んでいることが、見る側を引きつけているのだと思います。いわば「踏み込んだ」展開です。

このドラマの中の帝国航空は、ナショナル・フラッグ・キャリア(一国を代表する航空会社)という設定になっています。これって、フツーに見ていれば、やはり「日本航空」を思わせる。「経営危機」、「再建案」、「債権放棄」といった言葉が飛び交うわけですから、当然かもしれません。

覚えている人も多いと思いますが、10年前、日本航空が倒産した際には、銀行など金融機関が総額5000億円以上の債権を放棄しました。これは事実。

ドラマで描かれているような国土交通省やタスクフォースの動きが実際にあったのかどうかはともかく、あの時の債権放棄が高度な「政治的案件」だったことは確かであり、見る側の興味・関心を引くには十分です。

そして、半沢の前に登場したのが、ドラマにおける政権党である「進政党」であり、その幹事長である箕部啓治(柄本明)です。

箕部は、半沢たちによる帝国航空の再建を阻止しようとするだけでなく、航空業界も金融業界も自身の支配下に置くことを企む政治家です。

ですから、国土交通省の白井亜希子大臣(江口のりこ)も、東京中央銀行の紀本平八常務(段田安則)も、箕部幹事長にとっては単なる手駒にすぎません。言いなりです。というか、政権を担う党の幹事長というもの、どんだけ権力もってんだ、って話ですよね(笑)。

今週はじめに菅義偉・内閣官房長官が自民党総裁に選ばれ、16日には第99代内閣総理大臣に就任しました。

ここまでの一連の動きの中で、あらためて浮上したのが二階俊博・自民党幹事長の存在です。何より菅首相が誕生したこと自体、私たちに、その「影響力」を想像させる形となりました。

菅首相は、ご存知のように「安倍政治」の継承者を自任しています。しかし、「隠蔽(いんぺい)ゲーム」ともいうべき出来事が安倍政権時代に多発したように、反省より先に不都合なことは隠そうとする体質を継承して欲しくはありません。

面白いのは、政権党の幹事長が、フィクションとはいえ、ラスボス(ゲームなどにおける最終的な敵)に当る存在として描かれていること。しかも半沢たちは、箕部が銀行から受けた20億円もの融資の実態を問題視している。背後には、地方空港の設置や路線開設にからむ利権が見え隠れします。

視聴者は現実の政治状況も眺めながら、ドラマの展開を楽しんでいるわけです。先々週、この箕部幹事長に頭を下げざるを得なかった半沢ですが、どう巻き返していくのか。どんな「決着」や「落とし前」をつけるのか。

あらてめて言えば、「正しいことを正しいと言えること」を愚直に目指す、半沢直樹という男の姿がすがすがしい。それが国民的ドラマ『半沢直樹』最大の魅力ですが、新型コロナによる「閉そく感」が常態化している今だからこそ、半沢の倍返し、十倍返しに、一服の清涼剤以上の大きな価値があるのです。


デイリー新潮で、Eテレ「お笑い芸人」起用について解説

2020年09月20日 | メディアでのコメント・論評

 

 

「Eテレ」で

お笑い芸人が重宝される2つの理由 

専門家は「カンニング竹山」を高評価

 

“Eテレ芸人”の誕生

 1959年1月、「世界初の教育専門チャンネル」としてNHK教育テレビジョンが開局した。2011年に一般呼称をEテレと変更。今ではこちらしか知らない人も多いだろう。誰もが子供の時には楽しんでいたが、大人になるとなかなか見ないチャンネルでもある。

 実は今、Eテレの番組に多数のお笑い芸人がレギュラー出演していると知れば、驚く方もおられるだろう。

 具体的に見てみよう。「ピタゴラスイッチ」(土曜・7:45)という番組をご紹介する。幼児向けの教育バラエティ番組だ。

 ちなみに監修を務めているのは、電通でCMプランナーとしてヒット作を連発、「だんご3兄弟」の作詞・プロデュースを務めたことでも知られる、佐藤雅彦・東京芸術大教授(66)だ。

 この番組に「アルゴリズムたいそう・こうしん」というコーナーがある。ロケ先でバスガイド、舞子、Jリーガー、野球選手といった面々と共に奇妙な体操を披露するのは、お笑いコンビのいつもここから[山田一成(48)、菊池秀典(44)]だ。

 黄色いサイコロのキャラクター「ぼてじん」の吹き替えを担当しているのは、フットボールアワーの岩尾望(44)。登場頻度は少ないが、相方の後藤輝基(46)も「いぬてん」の声で出演する。

豪華な顔ぶれ

「こんなことできません」というコーナーは、トリック動画の魅力を伝える。例えば「人間がポスターの中に入ったり、飛びだしたりする」といった現実には不可能な動きも、写真を1枚1枚撮りながら、コマ送り動画を作ると実現してしまう。

 実際にコマ送り動画を作るのは関根勤(67)と、タモリ(75)の元付き人としても有名な岩井ジョニ男(生年非公表)だ。

「ねんどれ」と「ナンドレ」という身体が粘土というキャラクターも登場するが、この声を担当するのはサンドウィッチマン[伊達みきお(46)、富澤たけし(46)]の2人だ。

 1本の番組でも、売れっ子のお笑い芸人が大挙して出演している。Eテレが放送する全ての番組に目を向けると、その数は更に増える。主な番組と出演者を2つの表にまとめた。ご覧いただこう。

Eテレでレギュラー出演している主なお笑い芸人【1/2】

 民放キー局がゴールデンタイムに流すバラエティ番組の出演者と、全く遜色のない顔ぶれと言えるのではないか。

 特に40代以上の、昔の「NHK教育テレビ」のキャスティングを知る方々にとっては、「時代は変わった」と感慨深いものがあるかもしれない。

大人向けの番組にも抜擢

 今なら、厚切りジェイソン(34)が子供向けの英語番組で司会を務めることに違和感はないだろう。

 何しろ英語のネイティブ・スピーカーだ。更に子供の頃から成績が優秀だったことでも知られている。彼は17歳でミシガン州立大学に飛び級入学を果たした。

 とはいえ、「NHK教育テレビ」の時代なら、たとえ英語が極めて流暢に喋れたとしても、芸人が子供向けの教育番組でMCを務めるなど考えられなかったに違いない。

Eテレでレギュラー出演している主なお笑い芸人【2/2】

 2番目の表を見ると、キャスティングは子供向けの番組ばかりではないことが分かる。大人向けの英語番組には太田光(55)が、育児情報番組には「ペンパイナッポーアッポーペン」のピコ太郎でおなじみの古坂大魔王(47)がMCを務めている。

 なぜ、こんなことが起きているのだろうか。元・上智大学教授でメディア文化評論家の碓井広義氏は1981年にテレビマンユニオンに参加、ドキュメンタリーやドラマの制作を手がけた。碓井氏に作り手の視点から、「Eテレでお笑い芸人が重宝される理由」を分析してもらった。

芸人が持つ話術の力

「昔の教育テレビが放送していた番組といえば、堅くて真面目なものしかありませんでした。大人も子供も『勉強するために視聴する』のが大前提でしたから、『番組を必要としない人は見なくていい』というチャンネルだったとも言えます」(碓井氏)

 だが、2000年代から「もっと多くの人に見てもらおう」と番組内容は維持しながら、演出やキャスティングで一般の視聴者にも“門戸”を開いていく。

「一種のリニューアルを行ったわけですが、その過程でEテレは、お笑い芸人が持つ“インターフェイスの力”に気づいたのだと思います。“interface”を直訳すると『接触面』などの日本語になりますが、ここでは番組と視聴者をつなぐ役割のことを指します」(碓井氏)

 お笑い芸人は舞台に立てば、基本的には自分の身体だけで観客と対峙し、話術で笑わせるのが仕事だ。

「歌手も俳優も自分の肉体だけで観客と対峙するのは同じですが、彼らは歌や脚本の力を借ります。芸人の武器はトーク力だけです。Eテレの制作スタッフは『あれだけの話術があるのなら、きっと難しい話題でも噛み砕いて分かりやすくしてくれる』とお笑い芸人に期待し、彼らが見事に応えてきたという歴史があるのだと思います」(碓井氏)

計算され尽くした話術

 お笑い芸人はトーク力を武器に、番組と視聴者を結ぶ“インターフェイス”として活躍しているというわけだ。

「インターフェイスには2つの意味を持たせました。1つは番組制作側が想定する視聴者ではない人たちも“つないで”、興味を持たせる力です。代表例は、子供向け番組に出ているお笑い芸人を見て、親も番組のファンになるというケースでしょう。2つ目は番組想定の視聴者を、しっかりと“つなぐ”場合です。子供たちにとっては難しい算数の番組でも、お笑い芸人が出演することで興味を持つわけです」(碓井氏)

 碓井氏が高く評価するお笑い芸人の1人が、「ドスルコスル」(木・9:45)に出演しているカンニング竹山(49)だ。

「教科で言えば『総合的な学習の時間』を想定した番組で、高齢化社会の弊害や、外国人との共生、環境破壊といった大人でも難しい社会問題を取り上げます。『カンニング竹山さんは、ワイドショーのコメンテーターも務めているから適任だ』と思う方もいるでしょう。ところが竹山さんは、大人向けの情報番組に出演している時とは話術を変え、あくまでも番組想定の視聴者である小学生に合わせて自説を語るのです。本当にお見事で、これなら小学生は『ドスルコスル』を好きになるだろうな、と思います」(碓井氏)

民放キー局も同じ

 大人向けの番組でも,お笑い芸人がキャスティングされるのは同じ理由だ。特にEテレの番組は教育を前提としているものが多く、民放キー局のようにセットに凝ったりするわけにはいかない。

 スタジオでのシンプルなトークとなれば、舞台で鍛えられているお笑い芸人が得意とするのは言うまでもない。

「実は民放キー局のバラエティ番組も、同じ道筋を辿りました。テレビの黎明期にはNHKのアナウンサーや俳優といった人々の中から、“名司会者”と呼ばれる人々が生まれました。ところが次第に番組のMCは、お笑い芸人が担当するようになります。芸人の皆さんは明るいですし、見ているだけで楽しい。加えて、絶対に『上から目線』になりません。昨今の視聴者は芸能人に親しみやすさを求めますから、お笑い芸人が適任なのです。こうしたテレビ界全体の流れが、Eテレにも及んだということなのでしょう」(碓井氏)

 Eテレの場合、語学番組を筆頭に「博学な講師が無知な視聴者に教える」という構図が避けられないものが多い。

 大学教授が出演することも珍しくなく、彼らの立ち位置が「上から目線」と視聴者に批判される潜在的なリスクは意外に高い。

お笑い芸人が“苦手”な分野

 しかしながら、講師の脇に立つお笑い芸人が1回でもボケてくれれば、リスクの軽減が期待できる。

「もちろんお笑い芸人の皆さんにとっても、Eテレの出演は大歓迎でしょう。政治の世界で言えば、“身体検査”が済んだようなものです。クリーンなイメージが付加されます。官公庁のPRといった仕事も期待できるかもしれません。実際、Eテレのキャスティングを見ると、下品な芸の方々は綺麗に排除されていることが分かります。制作陣も、その辺はしっかりと計算しているわけです」(碓井氏)

 お笑い芸人がテレビ界で圧倒的な力を発揮している理由が明らかになったわけだが、そんな彼らでもEテレが起用していないジャンルがある。

「旅するイタリア語」(火・0:00)は俳優の小関裕太(25)、「旅するスペイン語」(水・0:00)は歌手・女優・モデルなどの肩書を持つシシド・カフカ(35)、そして「旅するフランス語」(木・23:30)はバレエダンサーの柄本弾(30)、と見事なまで美男美女で固められている。

 どうやら英語のような実用性が求められず、習得が憧れの対象となるような外国語の番組に、親しみやすいお笑い芸人は必要ないようだ。

 それこそスターという天空=上からのポジションから視聴者を虜にする、俳優や歌手が適任なのだろう。【週刊新潮WEB取材班】

(デイリー新潮 2020.09.19)

 


さらに盛り上がる「半沢直樹」

2020年09月20日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<週刊テレビ評>

さらに盛り上がる「半沢直樹」 

巨悪との戦い、現実に重ねて

 

終盤に差し掛かって、TBS系日曜劇場「半沢直樹」(日曜午後9時)がさらに盛り上がってきた。理由はいくつかある。まず主演の堺雅人をはじめとする俳優陣の熱演。歌舞伎界からの人材投入も功を奏した。

また「チーム半沢」と呼ばれる、福澤克雄ディレクターたちの緩急自在な演出も見事だ。そしてもう一つ、「帝国航空」を巡る後半の物語が、IT企業の買収を軸とした前半以上に、現実を取り込んだ圧倒的な「攻めの展開」になっていることを挙げたい。

このドラマの中で「フラッグ・キャリアー」(国を代表する航空会社)という設定の帝国航空は、やはり「日本航空」を思わせる。10年前の倒産の際は、金融機関が総額5000億円以上の債権を放棄したはずだ。ドラマで描かれるような国土交通省やタスクフォースの動きが実際にあったかどうかはともかく、高度な「政治的案件」だったことは確かであり、視聴者の興味をかき立てるには十分だ。

そして、東京中央銀行本店の次長に復帰した半沢の前に現れたのが、政権を担う「進政党」の幹事長、箕部啓治(柄本明)である。半沢が進めようとした帝国航空の再建案を潰そうとするだけでなく、航空会社も銀行も自身の権力下に置くことを狙う人物だ。白井亜希子・国交相(江口のりこ)も東京中央銀行の紀本平八常務(段田安則)も、箕部にとっては単なる手駒にすぎない。

今週初めに菅義偉官房長官が自民党総裁に選ばれ、16日には第99代首相に就任した。一連の動きの中で、改めて注目されたのが、自民党の二階俊博幹事長の存在だ。何より菅首相の誕生自体が、その「影響力」を想像させる形となった。

菅首相は「安倍政治」の継承を宣言している。しかし「隠蔽(いんぺい)ゲーム」ともいうべき出来事が政治の中枢で多発したように、反省より先に不都合なことを隠そうとする体質は継承してほしくない。視聴者はこうした現実の政治状況を踏まえながら、ドラマが描く半沢と巨悪の戦いを楽しんでいるのだ。

フィクションとはいえ、政権党の幹事長がラスボス(ゲームなどにおける最終的な敵)に当たるキャラクターとして描かれる。しかも箕部が銀行から受けた20億円の巨額融資の実態が追及されようとしているのだ。背後には地方空港の設置や路線開設に絡む利権が見え隠れする。

正しいことを正しいと言えること、そして世の中の常識と組織の常識を一致させることを愚直に目指すのが半沢だ。前回、一旦は箕部に頭を下げざるを得なかった半沢が、ここからどう巻き返していくのか、注目だ。

(毎日新聞「週刊テレビ評」2020.09.19)


言葉の備忘録181 「フェイク」は・・・

2020年09月18日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

「フェイク」は

人々を憎悪に導きますが、

「ファクト」は

共感につながります。

 

 

海堂 尊『コロナ黙示録』

 

 

 

 

 

 


「おじカワ」で発見 何歳になっても世界は広がる

2020年09月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

読売テレビ制作、日本テレビ系

眞島秀和「おじカワ」で発見

何歳になっても世界は広がる

 

誰にだって「好きなもの」はある。「おじさんはカワイイものがお好き。」の主人公、小路三貴(眞島秀和)はカワイイもの全般に目がない。

特に好きなのは犬のキャラクター「パグ太郎」だ。しかしバツイチで独身の43歳、部下の信頼も厚い敏腕課長としては、会社の人間などに自分の趣味・嗜好を知られたくない。勝手な決めつけや誤解は迷惑だからだ。

救いは取引先のアートディレクター、河合ケンタ(今井翼)である。同じ「カワイイもの好き」と分かり友情が芽生えた。一方社内では、小路をライバル視する年下の課長、鳴戸渡(桐山漣)が何かと目を光らせている。

とはいえ、大きな事件が起きるわけではない。会社でカワイイものに過剰反応してあわてたり、出張先で鳴戸の目を盗んで「ご当地グッズ」を入手するのに苦労したり。演じる眞島もすっかり「カワイイおじさん」だ。

10日に最終回を迎えたこのドラマが手渡してくれたメッセージは、自分にとっての「消せない好き」を大事にすることだ。そして「好きをあきらめない」こと。さらに大切な相手には、自分が思っていることを「言葉で伝える」努力をする。いずれもパグ太郎の教えだ。

いや、小路の「発見」がまだあった。それは「何歳になっても世界は広がる」ということだ。パグ太郎のキーホルダー、お守りとして一つ欲しくなってきた。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは‼」2020.09.16)


週刊ポストで、ドラマの「悪役」について解説

2020年09月16日 | メディアでのコメント・論評

 

財前五郎、吉良上野介、冬彦さん… 

名ドラマの名ヒールたち

 

 現在放送中のドラマ『半沢直樹』(TBS系)は、悪役の見本市だ。銀行内の情報を流している裏切り者と判明した紀本平八常務(段田安則)、反発する半沢を徹底的につぶそうとする白井亜希子国土交通大臣(江口のりこ)やその白井の背後にいる“巨悪”の箕部啓治幹事長(柄本明)らの面々が『半沢直樹』の人気を支えている。

「主人公の行動を阻む悪役という障害があり、その立ちはだかる壁を乗り越えていくことで物語が進んでいく。壁が高ければ高いほど、それを乗り越えた時にダイナミズムが生まれてくるという物語論の基本をがっちり抑えているのはもちろん、その壁となる悪役が重厚に描かれている。タイプの違うキャラが次々登場してくるのは、ドラマ作りとして見事だと思います」(メディア文化評論家の碓井広義氏)

 しかし何といっても“主役”は大和田暁取締役(香川照之)である。

 1作目では、半沢に不正を暴かれ、最終回では頭取の前で屈辱の土下座をさせられたが、今シリーズでは第4話でまさかの“味方”となった。碓井氏は、それゆえに大和田の魅力がいっそう高まったと分析する。

「目的のためなら手段を選ばず容赦しない。しかしそれでいて可愛らしさがあり、人間味がより深まった。単なる私利私欲だけでなく、大和田自身も葛藤を抱えている。そうしたところもしっかりと描かれているので、ドラマに彩りが加わっている」

いい人のイメージを覆した

『半沢直樹』はドラマファンの間で「現代版時代劇」とも評されるが、古くから時代劇に悪役は欠かせない。

「なんといっても何度もドラマ化されてきた『忠臣蔵』の吉良上野介でしょう。特に1982年のNHK大河ドラマ『峠の群像』の吉良(伊丹十三)は見事でした」

 そう話すのは、芸能リポーターの石川敏男氏だ。

 朝廷勅使の接待役を命じられた浅野内匠頭(隆大介)が、藩財政が火の車の中、必死で費用を工面して準備を整えたところで、吉良が『なぜこのような地味なものを』と一喝する場面をはじめ、伊丹の悪人演技が光った。

「伊丹さんの冷淡ないびりぶりに、視聴者は毎回腸が煮えくりかえったはず。あの目つき、嫌味たらしい言動、憎々しさでは歴代最高でしょう」(石川氏)

 1970~1980年代には社会派ドラマも脚光を浴びた。

 その金字塔ともいえる『白い巨塔』(1978年・フジテレビ系)は、主役の財前五郎(田宮二郎)自らが悪役という設定が強烈なインパクトを残した。

 天才外科医・財前は、出世のためには手段を選ばないダークヒーローとして描かれている。

「財前とは対照的な里見(山本學)と対立するシーンで財前が『教授になるためだったら人殺しだってする』と鋭い眼光で言い放った場面は、鬼気迫るものがあった」(同前)

 1980年代の社会派ドラマに登場する悪役として、コラムニストの吉田潮氏が挙げるのは、『少女に何が起ったか』(1985年・TBS系)の川村刑事(石立鉄男)だ。

 川村刑事は、使用人として働きながらピアニストを目指す主人公の野川雪(小泉今日子)に執拗な嫌がらせをする。

「いつも深夜12時に現われては、『お前は薄汚ねえシンデレラだ!』などとキョンキョンを罵倒するイヤミな役。

 最後には雪と和解しますが、人格否定にセクハラ、言葉の暴力と、生理的嫌悪を催すほどの名悪役ぶりでした。石立は『パパと呼ばないで』(1972年・日本テレビ系)などで築いてきたコミカルな“いい人”のイメージを、この役で見事に覆しました」(吉田氏)

マザコン冬彦さん

 1990年代に社会現象を巻き起こした悪役といえば、(1992年・TBS系)の冬彦さん(佐野史郎)だろう。

 主人公の美和(賀来千香子)はエリート銀行マンの桂田冬彦と結婚。しかし、七三分けに銀縁メガネの冬彦は、とんでもないマザコンだった。

 結婚後、一度もセックスしようとしない冬彦。ある夜、美和が意を決して冬彦のベッドに入ろうとするも、「疲れてる、おやすみ」といって寝ようとする。

「美和が思わず『普通の夫婦なら愛し合うのが当然でしょ』と言うと、冬彦は『淫乱』となじる。その後、大切にしていた蝶の標本をメスで切り刻むシーンには、背筋が寒くなりました」(石川氏)

 SMクラブに連れていかれてハマッてしまった冬彦が「君に喜んでもらおうと思って」と、SMビデオを見せ、レザーの拘束衣とハイヒールを渡すなど、衝撃的なシーンが毎回のように展開。

「美和が離婚を決意するのも当然ですが、冬彦本人に悪気はなくて、とにかく一途。だからこそ余計に怖かった」(同前)

 また1990年代には野島伸司脚本のドラマが印象に残る悪役を生み出した。

『高校教師』(1993年・TBS系)で、教え子をレイプしたうえビデオを隠し撮りした、英語教師の藤村知樹(京本政樹)。

 同じく学校を舞台にした『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(1994年・TBS系)には、堂本剛が演じる生徒を孤立させ、自殺に追い込む社会科教師・新見悦男(加勢大周)が登場する。

「野島作品には、“実はいい人だった”という救いがなく、本当に嫌われる悪役がいた。政治家や警察の上層部といった“巨悪”ではなく、身近なところにいる悪を最大化させる手法が上手かった」(テレビ解説者の木村隆志氏)

 近年のドラマでは、『半沢直樹』の大和田をはじめ、どこか“憎めない悪役”が増えている。木村氏がそうしたタイプの代表として挙げたのは、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(2012年・テレビ朝日系)に登場する東帝大学病院病院長の蛭間重勝(西田敏行)だ。

「温和そうな顔をして、裏切り者はバッサリと切り捨てる冷血漢。主人公・大門未知子(米倉涼子)に積年の恨みを抱いているが、いつも“返り討ち”にされてしまうのがお決まりのパターン。

 はじめは憎らしかったのに、“ヘタレ”な面があるから愛されキャラになっていく。こうした描き方の変化は、シリーズものならではの面白さです」(木村氏)

 石川氏が“憎めない悪役”として挙げるのは、『下町ロケット』(2015年・TBS系)の水原重治(木下ほうか)だ。

「イヤミな役、ヒール役としてお茶の間の人気者である木下さんですが、大企業・帝国重工の本部長・水原役では、冷徹に人を切り捨てる一方、社長には頭が上がらない人間味がうまく表現されていた」(石川氏)

 木下ほうかが振り返る。

「悪役の場合、台詞がきつく、強く響きがちなのでなるべく過剰にならないように細心の注意を払いました。

 相手を罵倒する台詞は、表情と態度は抑えめにしても伝わるので、表現を最小限にする。答えを出しすぎずに、視聴者に解釈を委ねるくらいのほうが悪役の不気味さが伝わるんです。

 僕なんか実際に悪い人、怖い人だと思われることも多く、街中で遠くから怯えた目で見られることもありますが、それは自分の演じ方が正しかったという裏返しでもあると思う」

(週刊ポスト 2020年9月18・25日号)


【気まぐれ写真館】 深夜のコンビニにて

2020年09月14日 | 気まぐれ写真館


朝日新聞で、「政治家のキャラ化」について解説

2020年09月13日 | メディアでのコメント・論評

 

 

<ニュースQ3>

ゲーム登場・愛称

「キャラ化」する政治家

自民党総裁選を前に、政治家がキャラクター化して親しみやすさをまとう動きが目立つ。人気ゲームへの登場を計画してみたり、ネット上で愛称をつけられたり。政治家の「キャラ化」がもたらすものとは何か。

 ■自民総裁選を前に

石破茂元幹事長の陣営は6日、任天堂の人気ゲーム「あつまれ どうぶつの森」(あつ森)を総裁選に活用する構想を発表した。石破氏をモデルにした「じみん島」の「いしばちゃん」を登場させる計画だったが、政治的な主張を含むものの利用を禁じる任天堂の規約に反する可能性があるとの指摘が寄せられ、8日には計画を断念した。

メディア文化評論家の碓井広義さんは「親しみやすさを演出する狙いがあるのだろう」と指摘する。

岸田文雄政調会長は自身を「『キッシー』と呼んで」とアピールし始めた。10日、自民党のインターネット番組「カフェスタ」の総裁選特番は、岸田氏がツイッターの「#生キッシー」で寄せられた質問に答える試みだった。

「総理お疲れ様でした!」。国会のみやげ店「国会ギフト 思い出屋」には、安倍晋三首相のイラストが描かれたグッズや菓子が並ぶ。「安倍さんまんじゅう」に替わるものとして用意されているのが「菅さんまんじゅう」。「就任祝い」として総裁選翌日の15日から店頭に並べられるよう準備中だ。クッキーにつける予定の菅義偉官房長官のイラストは、実物よりかわいらしく見える。同店の中田兵衛代表は「怖い顔にしたって売れない」と笑う。「こうしてキャラ化していれば、あまり政治に興味のない方も、手に取りやすいんでしょうね」

 ■「ネタ」として消費

キャラ付けはネットの世界でも広がる。ツイッターでは、菅氏の画像が「#令和おじさん」「#パンケーキおじさん」として拡散。菅氏が新元号発表の記者会見をし、メディアの取材に好物はパンケーキと答えていることなどからついた愛称だ。碓井さんは「自分たちが楽しめれば、総理候補であろうとネタとして消費するのがSNSの特徴」と話す。

また、土井隆義・筑波大教授(社会学)は「ネット上は見せる情報をコントロールしやすいので、リアルよりキャラ化しやすい」と指摘。本来、人間のパーソナリティーは複雑だが、キャラ化することで人物像がつかみやすくなる。「政治家は特に、政治信条や政策など主義主張がわかりにくい。見かけや振る舞いから政治家をキャラ化し人物像を単純化することによって、有権者は支持するかどうか決めやすくなる。政治家は自分を印象づけやすく、インパクトを与えられる。有権者と政治家、お互いが求める形で政治家はキャラ化していく」と分析する。

「キャラ化の波にのれなければ世間の話題にもならない。選挙戦が政策論争にならない『脱政治家』の時代になっているといえるかもしれない」

 ■「中身の報道を」

メディアの報じ方が政治家の一面を印象づけることになっていないか。碓井さんは、菅氏について、「『たたき上げ』というワンパターンの表現が多い」と指摘する。「『庶民の味方』という良いイメージを植え付ける。政治家としての中身を報道すべきだ」と苦言を呈する。永野真奈】

(朝日新聞 2020.09.12)