この仕事を
やっていてよかった。
そう思える瞬間が
日常の端々、
所々にあれば
それはきっと幸せなことだろう。
安藤祐介『本のエンドロール』
NHK朝ドラ「おかえりモネ」
爽やかさの源泉は清原果耶にあり!
新しい朝ドラ「おかえりモネ」が始まった。第1週を見て浮かんだ言葉は、「爽やか」である。
思えば直近の「おちょやん」を含め、最近は爽やかな気分で見られる朝ドラが少なかった。主人公が抱えた事情や時代の運命によって、見る側も気が重くなるような作品が続いていたのだ。
爽やかさの源泉は、モネこと永浦百音を演じる清原果耶にある。若手女優にありがちな、「私が!」という押しの強さや、「キレイでしょ!」という自意識過剰とは無縁。谷川の清流のようなナチュラル感が実にいい。
物語の時間は2014年。モネは宮城県気仙沼の亀島出身だが、現在は山間部の登米に暮らす。森林組合に勤め始めたばかりの新人さんだ。
そんなモネに影響を与える人たちがいる。山と海のつながりを教えてくれた、カキを養殖する祖父の龍己(藤竜也)。樹齢300年のヒバの木を通して、ゆっくり成長することの大切さを伝えてくれた、山主の新田サヤカ(夏木マリ)。
そして、気象予報は未来予測だと気づかせてくれた、気象キャスターの朝岡覚(西島秀俊)だ。いずれも魅力的な人物で、このドラマが温かみと厚みを持つ物語であることを予感させる。
また、モネが彼らの話を聞く時の真剣な表情や目の輝きは、彼女の人となりをよく表している。安達奈緒子の脚本が冴えており、いいスタートを切った。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.05.26)
朝ドラ60年、家族の物語紡いで
時代のヒロイン、幅広く愛され
NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)が今年、放送開始60年を迎えた。「おちょやん」が先週で終わり、17日から104作目となる「おかえりモネ」が始まった。清原果耶(かや)さんが演じる女性が気象予報士として成長していく物語だ。日本の朝を彩ってきた「朝ドラ」の魅力は、こんなヒロインの成長を視聴者が毎日、見守れること。この伝統を守りながら新しい視点も織り込むことで、幅広い世代に長く支持されてきた。(道丸摩耶) ◇
◆朝刊の連載小説意識
連続テレビ小説が初めて放送されたのは、「上を向いて歩こう」が大ヒットした昭和36年。第1作目は、ラジオドラマとしてその3年前に放送されて好評だった「娘と私」をテレビドラマ化した。月曜~金曜に1回20分、1年間の放送で、NHKによると、長編小説のテレビドラマ化という意味で「連続テレビ小説」と名付けられた。また、朝刊の連載小説を意識して朝の放送となったという。
翌年以降は、月曜から土曜まで朝8時15分開始、15分間の放送に。50年からは、半年間ごと年2作品に。朝の時計代わりに見ている人も多く、平成22年の「ゲゲゲの女房」から午前8時開始に繰り上がった際は、時間の変更自体が話題となった。102作目の「エール」からは、働き方改革に伴う制作現場の負担軽減のため、土曜日の新作放送がなくなっている。
◆企画、2年半前から
大河ドラマと並びNHKを代表するドラマなだけに、制作の準備期間は長い。すでに作品の概要とヒロインが発表されている「ちむどんどん」は来年の放送予定だ。「梅ちゃん先生」(堀北真希主演)、「なつぞら」(広瀬すず主演)などの朝ドラを担当してきたNHKドラマ部の木村隆文エグゼクティブ・ディレクターは「どの時代のどんな女性を描くかという企画が決まるのは2年~2年半前。誰に脚本を依頼するかを決め、舞台となる地域に取材に行くなど準備を進める」と解説する。
“朝の顔”となる主演俳優も、毎回注目を集める。オーディションの有無も作品によって違う。木村さんが初めてたずさわった「純ちゃんの応援歌」(昭和63年度)では、演技経験がなかった山口智子が起用されて話題となったが、最近は実績ある俳優が選ばれることが多い。
放送は半年間だが、撮影期間は1年近くに及ぶことも。その間に「スタッフも含め、皆が家族のようになっていく」のだという。100作目の「なつぞら」には、山口や松嶋菜々子(平成8年度「ひまわり」)、小林綾子(昭和58年度「おしん」幼少期)ら歴代ヒロインが出演して盛り上げた。木村氏は「朝ドラから巣立った俳優が大人になって帰ってきてくれたことに感動した」と振り返る。
◆伝統と新たな視点と
木村氏にとって、朝ドラとは「古典芸能」のようなもの。60年にわたる伝統と100を超える作品があり、王道のスタイルはありつつも、新しい視点も盛り込む。全体の物語に加え週ごとにテーマがあり、その週の全5本に起承転結を持たせるなど編集には工夫が必要となる。
すべての朝ドラに共通するのは「家族の物語」ということだ。「例えば『梅ちゃん先生』は主人公が女医になる物語だが、医療ドラマではない。時代によって形は違えど、家族の物語が根底にある」(木村氏)
元上智大教授でメディア文化評論家の碓井広義(うすい・ひろよし)氏は「半年間、毎日接するドラマは他にはない。一緒に時間を過ごす隣人や友人のように、登場人物を身近に感じられるのが朝ドラの魅力だ」と分析する。
その上で、「NHKも視聴率を気にしなければいけない時代なのかもしれないが、朝ドラには神社仏閣のような、変わらない場所という安心感がほしい」と注文をつける。「朝の支度をしながら耳で音声を聞くだけの日もあれば、1日くらい見られない日があってもついていけるのが朝ドラだ」と碓井氏。伝統をつなぎながらも、新たな魅力をまとった作品の誕生に期待を寄せている。
◇
■「おかえりモネ」 今作は現代版オリジナル
碓井氏によると、朝ドラの「3大要素」は(1)女性が主人公の一代記(2)職業ドラマ(3)自立へ向かう成長物語-だという。2010年代からは、「実在した人物」をモデルにした「実録路線」が盛んになってきた。「カーネーション」「花子とアン」「マッサン」「とと姉ちゃん」「おちょやん」などは、いずれも実在の女性をモデルにした。
実録路線が盛んということは、「現代の魅力的な女性が描きにくい」ことの裏返しでもある。現代を舞台に架空の人物を描いた近年の作品では「あまちゃん」が成功したが、別の作品では「視聴者が離れたり、話が迷走したりすることもあった」と碓井氏は振り返る。17日から始まった「おかえりモネ」は、久々に現代を舞台に架空の人物を描く。碓井氏は「新型コロナウイルスで閉塞(へいそく)感を抱える日本の朝に、どんな物語を届けてくれるか楽しみだ」と話した。
今年度後期は、ラジオ英語講座を題材とした「カムカムエヴリバディ」、来年は、沖縄が舞台となる「ちむどんどん」の放送が控える。
(産経新聞 大阪夕刊 2021.05.20)
向田邦子 関連本出版続く
人々描く感性に共感
脚本家で小説家の向田邦子が亡くなって今年で40年を迎え、エッセーや作品の言葉を通し、彼女の魅力を伝える本の出版が相次いでいる。
仕事や趣味にまい進し、周囲の人々を温かいまなざしで描いた姿勢が、時代を超えて共感を呼んでいる。
1929年、東京に生まれた向田。映画雑誌編集者などを経て放送作家となり、「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」など人気ドラマの脚本を多く手掛けた。
80年「思い出トランプ」収録の「花の名前」など短編3作で直木賞を受賞。81年8月、取材旅行中の台湾で飛行機事故に巻き込まれ、51歳の生涯を閉じた。
昨年3月、向田のエッセーをテーマ別に50編選んだ「向田邦子ベスト・エッセイ」(ちくま文庫)が刊行された。約1年を経て14刷、6万6000部を記録する人気ぶりだ。
八重洲ブックセンター石神井公園店(東京都練馬区)で同書を200冊以上販売した樋口舞さんは「発売直後から継続的に売れている。コロナ禍の外出自粛を背景に本を読みたいというニーズにも合っていたのではないか」と振り返る。
家族との思い出や大好きな食と旅の話題、脚本家の仕事などが豊かな感性でつづられている。収録作を選んだ末妹の向田和子さんは「みんなが思ってもなかなか言葉に置き換えられない感情を言い表している点が、読者が思わず共感し、面白いと感じる部分」と語る。
「戦中の貧しい時代でも、姉は手元にある物だけで遊びを作り出してくれた」。その視点は、エッセーの筆運びにも通底しているという。「どんな時代でも、工夫次第で毎日の生活を面白く乗り切れると教わった。姉の残した財産」と気持ちを込める。
メディア文化評論家の碓井広義さんは今年4月、向田作品のドラマやエッセー、小説から名言を選んだ「少しぐらいの嘘(うそ)は大目に 向田邦子の言葉」(新潮文庫)を刊行。全作品を読み返し、視点と表現が絶妙な約370のフレーズを選んだ。
「向田の言葉が古びないのは、人間の本質まで観察眼が到達しているから」と碓井さん。コロナ禍に触れ、「多くの人が自粛生活を機に自身の家庭をじっくり見つめ直した。向田が描き続けた家族の実相が今再浮上し、改めて注目されているように感じる」と話す。
(河北新報 2021.05.18)
逃げ恥婚でガッキー“ロス”は
ちょっと年下の男子に広がる?
SP前からあった周囲の予感
ガッキーこと、女優の新垣結衣(32)と歌手で俳優の星野源(40)が19日、結婚を電撃発表。ドラマの撮影で長い時間をともに過ごした俳優同士が結婚することはめずらしくはないが、二人の結婚はインパクトが大きかった。
「ドラマの中だけかと思ったら、ドラマの中から抜け出てきて、本当になっちゃうんだから、びっくりというか、フィクションが現実になった感覚ですね」
と語るのはメディア文化評論家の碓井広義氏。
2016年のドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)で共演しブームを巻き起こした2人。今年1月の「新春スペシャルドラマ」(SP)で続編を放送していた。発表文の中で、SPでの再会をきっかけにして撮影終了後に結婚を前提にした交際に発展したと明かしている。
ただ、芸能界では別の見方もある。
「『逃げ恥』のヒットで新垣は女優としてのステージが一段上がったんです。新垣さんはこの5年間、大きなドラマの仕事は年に1、2本しかなかった。そうやって仕事をセーブしていたのは、星野さんとの交際を考えてのことだったのかもしれません」(音楽関係者)
前出の碓井氏も、「ホップ、ステップ、ジャンプみたいなものですね。連ドラがあって、新春スペシャルがあって、今回は結婚へジャンプした感じ」と、結婚までの流れがあったのではないかと語る。
芸能ジャーナリストの三杉武氏はこれから起きる「ガッキーロス」が心配と語る。
「新垣さんは男子大学生とか、彼女よりちょっと年下の男性から人気があるんです。彼女が出演する任天堂のCMでは、寝間着姿、髪ボサボサでゲームやったりして、ずぼらなイメージ。きれいな人なんだけど、親近感が持てるし、インドア派。だから年下の男の子にモテるし、憧れのお姉さんを失った寂しさから、ガッキーロスは広がるでしょうね」
碓井氏は「逃げ恥婚」などと報じられた現象をこう見る。
「この結婚は『逃げ恥』の平匡さん(星野源)とみくりさん(新垣結衣)がリアルに結婚したと受け取られているみたいで。みんなの気持ちは、新垣さん、星野さんに対してというよりも、『みくりちゃん良かったね、平匡さんおめでとう』なんです。この現象が非常に面白いですね」
そして、ガッキーロスが起こるかもしれないほどのみくりの魅力についてこう言う。
「美人なのに、自分が美人であることを自覚していない。どっかで生きづらさを感じていて、平匡さんと手さぐりで2人の関係をさぐるというプロセスがとってもよかったと思うんですよ。みんな、日本中が知っているカップルの結婚に祝福を送っているんです」
新型コロナの感染拡大で、全国のあちこちで緊急事態宣言が発令されている中での結婚発表となったことについては、次のように話す。
「結婚式を延期しようというカップルがいたり、恋人同士だってマスクしなきゃ会えないという状況の中でも、純愛を貫くという爽快感がありました」(碓井氏)
リアル逃げ恥婚に祝福ムードが漂ったが、今回の発表でもう一つ驚きがあった。新垣が公式サイトで、結婚を発表すると同時に、所属事務所との契約終了を同時発表したのだ。
<上記とは関連性のない事で大変恐縮ですが、この度、私、新垣結衣はレプロエンタテインメントとの専属マネジメント契約を終了し、今後は個人として活動していくことになりました。熟慮の末、お仕事を始めてからちょうど20年という節目に皆様にご報告する運びとなり、なんだかまるで二度目の成人式を迎えたような……>
先月15日には、2022年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、小栗旬の相手役として出演することが、発表されたばかり。
芸能事務所関係者も率直にこう話す。
「『上記とは関連性がない』という言い回しも、えっという感じでした。新垣にとっては初の大河ドラマ挑戦で、それが発表されたばかりだったので、なおさら急な感じですね。芸能界デビューしてから20年たち、独立したいと思い描いていたことも、背景にはあったのかも」
事務所の後輩として、女優の内田理央、川島海荷らも育ってはいるが、ガッキーは女優としては芸能人トップクラス。事務所の看板女優のはずだ。
「レプロさんに限らず、どこの大手事務所も本社を売却したり、移転したりと、芸能界がとても厳しい時代。そんな中、看板女優である新垣の独立を許したのは、彼女の長年にわたる貢献度があったと思います」(前述・芸能事務所関係者)
ただし、新垣は「レプロとのマネジメント契約を一部継続し、引き続きサポートしていただく形で、自分のスタイルをじっくり構築していただきます」とも続けている。
「たぶん、まだレプロがとってきた仕事が残っているから。一般的には既存のコマーシャル契約とか、そういうものは独立しても、事務所を通してとなる。これからは個人事務所をどう運営していくかですね」
公私ともに新しい道を歩み出したガッキー。末永くお幸せに。【AERAdot.編集部 上田耕司】
(AERAdot. 2021年05月20日)
NHKドラマ10「半径5メートル」
“陰の主役”永作博美の存在感
ドラマ10「半径5メートル」(NHK)の主人公、前田風未香(芳根京子)は週刊誌「女性ライフ」の編集者だ。以前は芸能ゴシップを追う「1折班」にいたが、取材中の失敗を機に「2折班」に異動した。2折は生活情報を扱うページ。ネタは「半径5メートル」の身近なところで見つける。
風未香が書いてきたのは、レトルトおでんを買った主婦と手作りを主張とする「おでんおじさん」の対立。女性用の風俗サービス「出張ホスト」。さらに、断捨離の逆で「私はこれを捨てられません」という記事などだ。
テーマを決めた時点での思い込みが、取材を通じて徐々に崩れていき、最後は自身の「ものの見方」がちょっと変わってくる。そんな風未香をアシストしているのが、指導係でもあるベテランのフリーライター、亀山宝子(永作博美)だ。
料理における「手作り」の範囲が曖昧であることを検証し、2折班デスク(尾美としのり)の妻から「出張ホスト」の体験談を聞き出し、絵本作家(塚本晋也)からもらったアンティークチェアを使って、人と物との関係を探る実験まで行う。
常識に縛られないユニークな視点で物事の本質に迫る宝子を、永作が飄々と楽しげに演じている。“陰の主役”とも言える存在感だ。そして永作がいてくれることで、芳根ものびのびと表現できる。最近の出演作ではピカイチの一本となった。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.05.19)
60年に雄鶏社を退社した向田は、筆一本で生きていく道を選ぶ。そんな彼女にまず活躍の場を提供したのがTBSだった。
メディア文化評論家・碓井広義氏は言う。
「従来のホームドラマが母親中心だったのに対し、『寺内貫太郎一家』は父親を軸に家族を描いた。それは画期的な事でした。向田作品の魅力は、欠点だらけの男たちにあります。橋田寿賀子ドラマなら『ああいう男ってよくいるよなぁ』と他人事で済ませられるのに、向田さんが描く人物像には、いつもぎくりとさせられた。認めたくはないが、自分の中にもどこか思い当たる節があり、それが男性に向田ファンが多い理由でもあるのでしょう」
78年、向田は、妹と共に小料理店「ままや」を赤坂に出店する。そこは向田が男の世界で切り結ぶための礎(いしずえ)だったのだろう。
(週刊現代 2021.05.22・29号)