1970年(昭和45年)11月25日、
三島由紀夫 没。
享年45。
合掌。
「放送とメディア」を担当した、
『現代用語の基礎知識2025』が
発売されました!
「今日の論点」「注目語」「放送番組と現代社会」
「放送事業の基礎」「放送とネット/新技術」
「放送メディアを考える」
* もアマゾンで購入できます。
読みかけの一冊「劇場」
「月と六ペンス」や
「人間の絆」などで知られる
イギリスの作家、
サマセット・モーム
(1874年1月25日ー1965年12月16日)。
今日、
1月25日は
モームの誕生日。
しかも
「生誕150年」の記念日です。
ぼくがTBSに入社したのは1973年。音楽が好きだったので、音楽番組を作りたくてテレビの世界に入ったつもりだったのですが、結局50年近くドラマ一筋のテレビマンとしてやってきています。
当時、ドラマの現場は理不尽な徒弟制度が今よりずっと厳しくて、音楽番組をやらせてもらえる展望も一向に見えないし、はじめはけっこう腐っていました。
そんな時に、向田邦子さんと縁が生まれました。アシスタント・ディレクターとして、向田さんが脚本を書いた「家族熱」(1978年放送、出演:浅丘ルリ子、三國連太郎、三浦友和)の原稿を取りに行く役目をすることになったのです。週に一度、明け方近くにTBSに電話がかかってきて、南青山のマンションに原稿を取りに出かけるという仕事です。
向田さんはドラマの一話分を一晩で一気呵成に書くというスタイルでした。明け方のことなので、少し恐縮したような感じで原稿を渡されて、とんぼ返りで局に持って帰って清書して、撮影してすぐに放送するという、そういう時代のことでした。
テレビドラマの中心が若い男女のスタイリッシュな恋愛を描くラブストーリーになって久しいですが、その先駆けは「金曜日の妻たちへ」で、これは1983年放送。だからその後に生まれた人には想像しにくいかもしれませんが、テレビドラマの中心はやはりホームドラマでした。学園ものとか青春ものもありましたが、テレビドラマといえばとにかく家族の物語を描くものだった。ぼくはラブストーリーを作るのが苦手なので、「パパはニュースキャスター」「パパとなっちゃん」「カミさんの悪口」など、ずっとホームドラマを作ってきましたが、そういう人間からすると、向田邦子さんは圧倒的な存在です。
何が向田さんの仕事をエバーグリーンなものにしているか考えてみると、やはり家族という不変のものを描く天才だったからですよね。あの観察眼は一体どこからやってくるのか。考えて出てくるものではなく、どこかから降りてくるものだという気がします。
向田さんには姉妹や友人など女同士の関係を描いた作品と、父と娘の関係を描いた作品があります。
ホームドラマを作るということはすなわち、父親のキャラクターを作ることでした。もっといえば、いかに魅力的な欠点や弱点を持っている父親を造形できるかということだった。欠点があるからドラマが生まれるし、チャーミングになるんです。ご自身のお父さんをモデルにした寺内貫太郎がその典型というわけです。『寺内貫太郎一家』は向田さんの作品というよりは、久世光彦さんの作品という感じでしたけれど(ドラマは1974年放送)。
ただ、日本の家族が大家族から核家族的になって、家族同士が互いに“尊重”し合う関係になり、怒鳴ったり殴ったり、堂々と愛人を作って浮気する――つまり欠点だらけの理不尽な父親が見当たらなくなっていきました。だから父と娘の物語は成立しにくくなってしまったかもしれません。テレビドラマの中心がホームドラマからラブストーリーになったことと核家族化は、無関係ではないと思います。
ぼくは田村正和さんと随分たくさんホームドラマを作らせてもらいましたが、今は二枚目な役者はいても、チャーミングな父親を演じられる俳優がいなくなってしまった。
そして向田さんが描く、女同士の関係の辛辣さ。短い言葉で、本人が気がついていないこと、あるいは気づいているけれども見て見ぬふりをしている“痛いところ”を、鋭く鮮やかに描く。阿修羅のように、表情はすっとしていても中身はドロドロと他人に嫉妬して、満ち足りているはずなのに、ないものねだりして。「隣の女」のことばかり気にしていたと思ったら、ふと我にかえって急に恥ずかしがったりして。それは人間の変わらない本質なんでしょう。
脚本家としての絶頂期に小説も書き始めて、『思い出トランプ』に収録されたたった三つの短編で瞬く間に直木賞をとり、その翌1981年に夢のように消えてしまった向田さんですが、今も女優たちが彼女の作品に挑戦したがります。女性の生き方がどんどん変わっているいま、ますます向田さんの作品が読まれる時代なのかもしれません。〔談〕
(『波』2023年1月号より)
発売中の「週刊新潮」に、
『脚本力(きゃくほんりき)』の書評が
掲載されました。
評者は、サイエンスライターの佐藤健太郎さん。
ありがとうございます!
巨匠の世界構築力に迫る
『脚本力』
倉本聰、聞き手・碓井広義
幻冬舎新書 1034円
評者:佐藤健太郎(サイエンスライター)
筆者は一応物書きの端くれではあるが、テレビドラマの脚本家の頭の中というのはいったいどうなっているのか、全く想像さえつかない。
俳優たちの魅力を余すところなく引き出しつつ、視聴者を飽きさせないような長大なストーリーを組み上げ、しかも各話にきちんと山場を作る。
場合によっては途中での筋書の変更といった芸当さえやってのけるのだから、彼らの能力は神秘的とすら感じる。
『脚本力(りき)』は、「北の国から」などで知られる脚本家・倉本聰の創作の秘密に、碓井広義が聞き手として迫った一冊だ。
驚くべきは、創作の過程を示すために、わざわざ新作の脚本が一本書き下ろされていることだ。
そしてこれが、現代社会の諸断面を取り込んだ抜群に面白いストーリーに仕上がっているのだから、八七歳の巨匠の力に呆れ返る他ない。また、それを伝える本書の構成も実に見事だ。
面白いのは、ストーリーの構築やドラマの構成などではなく、人物の造形に最も時間をかけている点だ。
主要登場人物の処女・童貞喪失の時期、過去に住んでいた街の地図まで作り込むというから、創作とはこういうことなのかと感じ入ってしまう。
テレビ局もドラマに制作費をかけられなくなっている現在、残念ながらこうした脚本の技術も受け継がれにくい状況なのかもしれない。
本書中の脚本もあえて未完とし、後は若い才能に書き継いでほしいとしているのは、後継者の出現を望む気持ちの現れだろうか。
(週刊新潮 2022.11.03号)
アマゾンの『脚本力(きゃくほんりき)』のページに、
読んでくださった方々のレビューが
掲載されていました。
ありがとうございます!
紹介させていただきます。
<Orisさん>
★★★★★ 生きるとは、創ること、狂おしく遊ぶこと
倉本聰、齢87にして創作力はどこから生まれてくるのだろう?そんな答えが詰まった快作と感じる。
本書は一貫してドラマづくりへの過程が書かれているが、なにか仕事に行き詰っている人たちへのヒントも多く、読んでいてドキドキしてくる。
聞き手の碓井氏は、元テレビ番組のプロデューサーで倉本研究の第一人者として、ここ数年共著の作品も多い。
また、本著の特徴は、倉本さんの新作ドラマの脚本が惜しげもなく披露されていることだ。
その過程にするどく切り込む碓井氏のインタビュー力にも驚かされる。
まるで、ドキュメンタリー番組をみたかのような読後感だ。
願わくば、どこかのテレビ局で、この倉本聰脚本「火曜日のオペラ」を創って放送していただけないものだろうか。
<森宮 湊さん>
★★★★★ 脚本力【きゃくほんりき】
本書には、『火曜日のオペラ』の企画書、全七話のシノプシス、第一話のシナリオが載っています。一本のシナリオの製作過程が見られます。ハウツー本や教科書ではないですが、創造の勘どころが多種多様に述べられています。
ラジオドラマの経験からの音への意識、テーマとモチーフの違い、『快感』か『感動』か、感動を生むテーマとしての愛。
第四章は、特に、シナリオ造りの要諦が、登場人物の重要性に収斂されながら教示されています。シナリオのスケジュール、ドラマは化学反応であること、登場人物の作り方、人物の配置、「時間的履歴」・「空間的履歴」。
第五章は、構成でプロットの話となります。構成をもてなすこととして、観光ガイドを例に、かなり分かりやすく説明されます。
第六章は、ハコ書き、です。大ハコ、中ハコ、小ハコ、物語のヘソ。
第七章は、台詞と受信力の重要性。アウトプットの前に、しっかりインプットすること。人間同士の間の微妙な部分を感得すること。
第三章と第八章が、シノプシス全七話とシナリオ第一話〈第一稿〉になります。
【感想】
87歳という年齢を感じさせませんね。エッカーマンの『ゲーテとの対話』のゲーテも年齢を感じさせないところはありますが、巨匠はいつまでも創造をやめず若々しいですね。
構成に関して、観光案内を例にするのは、効果的な見せ方、演出としてのプロットを見事に分かりやすく説明されていて、秀逸です。もちろん、台詞や人物履歴の部分もかなり参考になります。
登場人物の重要性を説いているのは、『プロだけが知っている小説の書き方』と同じですね。人間がドラマを作り、人間こそが物語を作るというのは、シナリオも小説も同様なのでしょう。
<JINGBOOKSさん>
★★★★★ 感動です~今を生きる力になります!
とにかく面白い内容で読めて良かったです! 掲載されてるドラマ脚本『火曜日のオペラ』素晴らしいです〜ドラマ作品実現も見たい! そういう思いへ揺れることもこの本の醍醐味です!
9月28日(水)発売!
『脚本力』
(きゃくほんりき)
倉本聰+聞き手 碓井広義
幻冬舎新書
定価1034円(本体940円+税)
昨年秋から半年間、倉本聰さんと何度か対話を重ねて、出来上がった本です。
シナリオ(脚本)を梃子にして、倉本さんの「創ること」をめぐる経験や知恵や哲学を、読みやすい新書としてまとめました。
特色は、この本のために書き下ろしていただいた、『火曜日のオペラ』という「新作シナリオ」が読めることです。
倉本さんによる「企画書」、登場人物の「履歴」、「シノプシス(粗筋)」、さらに自筆の「地図」なども収録し、1本のシナリオがいかにして出来上がっていくのか、そのプロセスを明かしています。
どうぞよろしく、お願いいたします!
【お知らせ】
9月28日、新しい本が出ます。
『脚本力(きゃくほんりき)』
倉本聰+聞き手 碓井広義
幻冬舎新書
定価1034円(本体940円+税)
ドラマ史に残る名作『北の国から』『前略おふくろ様』から、老人のリアルを描いて話題となった『やすらぎの郷』まで、倉本聰はなぜ60年以上にわたり、第一線で書き続けられるのか。
「構成はおもてなし精神で」「台詞は論理的であってはいけない」「物書きに必要なのは発信力より受信力」――
本書のために書き下ろした新作『火曜日のオペラ』の企画書から完成台本までの創作過程とともに、名作を生む「手の内」をすべて明かす。
87歳の今なお毎日原稿用紙に向かう巨匠の、創造力の源泉に迫る一冊。
photo by H.Usui
【独占インタビュー】
87歳・倉本 聰は、
なぜ60年以上も書き続けられるのか?
(4)
創造の原点は、想像によって別世界へ入ること
今も脚本を書くこと自体が最高の楽しみであり、熱中できることだと言う倉本。その「原点」はどこにあるのだろう。
「想像することでしょうね。想像は自由ですから。あのオードリー・ヘプバーンが遊びにきて、富良野を案内してるとか。今、マリリン・モンローがそこから入ってきたらどうなるんだろうとか。まあ、僕にとってのミューズ(女神)だから登場人物が一時代古いんだけど(笑)。かなり飛びますよ、僕の想像は。これって眠ってる時の夢じゃなくて、目が覚めてる時の想像です。実は想像癖っていうのがガキの時からあって、常に想像を巡らせてる。 戦時中の空襲の時、防空壕で、怖いわけよ。ズドンズドンってそこらに爆弾が落ちてくるわけだから。その時親父だったか、おふくろだったか、僕に空襲の怖い音なんか聞かないで『別のことを考えなさい』って言ったんだよね。あれが元なのかもしれない。息子を楽にしてあげたいと思ったんだろうな、きっと。 学童疎開の時も、先生に言われた気がする。腹が減ったとか、田舎の子たちが意地悪だとかじゃなくて、他のこと考えろって。例えば、海で泳いでる時の楽しさ。『お前は昨日まで15mしか泳げなかったんだけど、今日はほら、20mも泳げた。もうちょっと頑張ると25mだ』って。そんなふうに集中してると、すっと想像が湧いてくる。あっちの世界に入っていく。 この想像によって別の世界に入っていくってことが、僕の創作の原点なんじゃないだろうか。想像と創作は、きっと死ぬまでやめられませんね」
倉本聰の3つの信条
1. 1日3cm、1ヵ月で1m。毎日ゆっくりでも続けること。
「地面に埋まった大きな岩も、時間をかければ少しずつ動かすことができる。創作も同じで毎日机に向かって書くことが大事です。1日休めば、回復に3日かかってしまいます」
2. 怒りはエネルギーだがクールダウンすることが必要。
「怒りは創作のエネルギーになる。ただし書くことは非常に冷静な作業で、怒ったままでは書けません。だから怒りを一度心の中に落としこむ。自分を抑えてクールダウンします」
3. 常に想像を巡らせる。それこそが創作の原点。
「子供の頃から想像癖があり、常に想像を巡らせています。集中していると、すっと想像が湧いてくる。自由な想像によって別の世界に入っていくことが僕の創作の原点です」
<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>