「TV見るべきものは‼」年末拡大版
2023年の「秀作ドラマ」トップ5
今年もまた、数えきれないほど多くのドラマが放送された。中には話題を呼んだ大作もあれば、痛々しいほどの不発弾もある。
その一方で、「文化としてのドラマ」という意味で高く評価したい秀作や意欲作も存在した。トップ5の順位をつけてはいるが、それぞれに個性的で魅力的な作品だ。2023年の成果として、ここに記しておきたい。
第5位 「何曜日に生まれたの」(ABCテレビ・テレビ朝日系、8月6日~10月8日放送)
1960年代のヒット曲、ザ・ホリーズの「バス・ストップ」が印象的なこのドラマ、脚本は野島伸司だ。黒目すい(飯豊まりえ)は高校時代のバイク事故をきっかけに、その後10年にわたって引きこもっている。事故を起こしたのはサッカー部のエース、雨宮淳平(YU)だった。
そんなすいが、作家の公文竜炎(溝口淳平)の依頼で新作小説のモデルを務める。売れない漫画家の父・丈治(陣内孝則)が、その小説を原作に作品を描くことになったからだ。
すいの言動を盗聴する、公文や編集者の来栖(シシド・カフカ)。外に出たり人と接したりすることで、徐々に精神的な回復を見せる、すい。最終的に、盗聴を逆利用して、過去の出来事に心を縛られていた公文も救うことになる。
虚構と現実、過去と現在が交錯する物語展開は、まさに野島ワールド。やや現実離れした設定だが、野島が練り上げた台詞の妙と飯豊の自然体の演技が、物語に不思議なリアリティを与えていた。
第4位 「フェンス」(WOWOW、3月19日~4月16日放送)
2022年に本土復帰50年を迎えた沖縄が舞台のドラマだ。雑誌ライターの小松綺絵(松岡茉優)は、米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性、大嶺桜(宮本エリアナ)を取材するためにやって来た。
桜の経営するカフェバーを訪ね、彼女の祖母・大嶺ヨシ(吉田妙子)が沖縄戦体験者で平和運動に参加していることや、父親が米軍人であることを聞く。
一方、綺絵は都内のキャバクラで働いていた頃の客だった沖縄県警の警察官・伊佐兼史(青木崇高)に会い、米軍犯罪捜査の厳しい現実を知る。
浮かび上がってくる事件の深層。ジェンダーや人種、世代間の相違、沖縄と本土、日本とアメリカなど、さまざまな“フェンス”を乗り越える人間の姿が描き出されていく。
脚本は「アンナチュラル」(TBS系)などの野木亜紀子だ。制作会社はNHKエンタープライズ。沖縄の現在と正面から向き合う、緊張感に満ちたクライムサスペンスだった。
第3位 「日曜の夜ぐらいは…」(ABCテレビ・テレビ朝日系、4月30日~7月2日放送)
一見、どこにでもいそうな女性たちの物語である。足の不自由な母(和久井映見)を支えながら働くサチ(清野菜名)。地方在住の若葉(生見愛瑠)は祖母(宮本信子)と同じ工場に勤務。そして翔子(岸井ゆきの)は1人暮らしのタクシー運転手だ。
それぞれの鬱屈を抱えて生きる彼女たちが、ラジオのリスナー限定バスツアーで知り合う。その時3人で買った宝くじが当たり、3000万円を得たことで事態が動き出す。結局、共同出資でカフェを開くことになった。
サチに金の無心をする父親(尾美としのり)や、若葉の有り金を持ち去る母親(矢田亜希子)を振り切り、翔子の口癖である「つまんねえ人生」を変えることはできるのか。
生きることに不器用で、幸福になることを恐れているような3人が何とも切なく愛おしい。等身大の女性の微妙な感情を、脚本の岡田恵和が繊細にすくい上げていく。清野たちのリアルな演技も見どころだった。
第2位 「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系、1月8日~3月12日放送)
主人公は地方の市役所に勤務する近藤麻美(安藤サクラ)だ。仲のいい幼なじみ(夏帆と木南晴夏)もいて、何の不満もなく暮らしていた。
ところがある日、交通事故で死亡してしまう。気がつくと「死後案内所」にいた。受付係(バカリズム)から「来世ではオオアリクイ」だと告げられ、抵抗した麻美は「今世をやり直す」ことを選ぶ。ただし前よりも「徳を積む」必要があった。
麻美は再度の誕生から社会人へと至る「2周目の人生」を歩み始める。周囲に悟られることなく人生に修正を施すため、勝手な“善行”に励む様子が何ともおかしい。しかも、このやり直しが何度も続くのだ。
日常的「あるある」満載の脚本はバカリズム。シリアスなのにユーモラスな言葉の連射と軽快なテンポが心地よかった。
人生のやり直しを通じて「生きること」の意味を探る秀作であり、第39回ATP賞グランプリなどを受賞した。制作会社は日テレ アックスオン。
第1位 「グレースの履歴」(NHK・BSプレミアム、3月19日~5月7日放送)
製薬会社の研究員である蓮見希久夫(滝藤賢一)は、子どもの頃に両親が離婚し、唯一の肉親だった父も他界した。家族は家具のバイヤーである妻、美奈子(尾野真千子)だけだ。
仕事を辞めることにした美奈子は、区切りの欧州旅行に出かけ、不慮の事故で急死してしまう。希久夫は現れた弁護士から、実は美奈子が命にかかわる病気の治療を続けていたことを告げられる。
遺されたのは、美奈子が「グレース」と呼んでいた愛車、ホンダS800だけだ。そのカーナビには彼女が打ち込んだ、いくつもの住所が残されていた。
このドラマ、今は亡き愛する人が仕掛けた謎を追う、いわばロードムービーである。古いクルマでの移動だからこそ味わえる、美しい日本の風景。歴史のある街で出会う、かけがいのない人たち。
そこには人生の苦みや痛みもあるが、まさに再び生きるための旅だ。それを深みのある映像と、絞り込んだ台詞で構成することによって成立させていた。
制作会社はオッティモ。見事な“大人のドラマ”の原作・脚本・演出は、「スローな武士にしてくれ~京都 撮影所ラプソディ―」などの源孝志だ。
2024年への期待
最近の傾向ではあるが、今年は特に漫画原作のドラマが目立った。「きのう何食べた? season2」(テレビ東京系)や「波よ聞いてくれ」(テレビ朝日系)といった佳作もあるが、原作に“おんぶに抱っこ”の作品も皆無ではない。
今回挙げた5作は、結果的にいずれも「オリジナル脚本」だ。ドラマの根幹である人物像とストーリーがゼロから創り上げられている。そこにはドラマならではの新たな挑戦があり、ドラマでしか堪能できない醍醐味がある。
来年も、漫画や小説を足場にしたドラマに加え、1本でも多くのオリジナル作品が登場することを期待したい。それが見る側の気持ちを揺さぶるドラマであれば大歓迎だ。
(日刊ゲンダイ 2023.12.27)