信州土産「信州アルクマびより ショコラサンドクッキー」
【新刊書評2023】
週刊新潮に寄稿した
2023年5月後期の書評から
樋口卓治『危険なふたり』
幻冬舎 1760円
樹木希林と内田裕也。他者には想像もつかない、独特の関係を続けた夫婦だ。この2人が主役のホームドラマの制作が決まった。シナリオを手掛けるのは、売れない脚本家の草生介(そうすけ)だ。数々のエピソードは残されているが、それだけではドラマにならない。鬼才と呼ばれる大物監督に罵倒され、悩む草生介。そんな彼の前に現れたのは、何と希林その人だった。笑えて泣ける創作活動小説だ。(2023.04.20発行)
本橋信宏『歌舞伎町アンダーグラウンド』
駒草出版 1760円
上野、新橋、高田馬場などに続くシリーズ最新刊。舞台は「人間の欲望を満たす施設がすべて揃っている」歌舞伎町だ。今回もワケありの面々が登場する。裏社会の男たち、ヤクザの街で暮らす女たち、半生を明かすキャバクラ嬢、生活と意見を語るホストなどだ。彼らの多くが「敗者復活戦ができる街」と言う歌舞伎町。非日常の妖しさと自分だけのチャンスを求め、今日も誰かがこの街にやって来る。(2023.04.29発行)
猪熊弦一郎『マチスのみかた』
作品社 2970円
画家の猪熊弦一郎が亡くなったのは1993年5月。今年は没後30周年にあたる。30代半ばでパリに渡り、マチスの指導を受けた猪熊。本書は当時の訪問記を含め、マチスの人と芸術をめぐる文章を集めた一冊だ。豊富な図版を材料に、作品の変化や技法の秘密に迫っている。たとえば彼のデッサンは美しく、楽しく、ごまかしがないと絶賛。8月まで東京都美術館で「マティス展」が開かれている。(2023.04.27発行)
渡部素次『昭和・平成に誕生した 懐かしの国産車』
三樹書房 3080円
トヨタのパブリカ、コロナ、セリカ。日産のセドリック、グロリア、スカイラインGT-R。そしてマツダのキャロル360、カペラ、サバンナなど。懐かしいクルマたちが当時の「カタログ」で甦る。昭和26年生まれの著者は島根在住の医師。少年時代から集めたカタログは膨大な数で、厳選した42台は個性豊かな傑作車ばかりだ。著者のクルマ愛と作り手たちへの敬意に満ちた解説文も読み応えがある。(2023.05.05発行)
稲田豊史『こわされた夫婦~ルポ ぼくたちの離婚』
清談社 1760円
離婚を経験した男女に、その経緯や顛末を聞いたルポルタージュだ。取材対象としては男性が多い。著者によれば、最近は離婚の背景に「社会問題」があるという。貧困、不妊問題、ジェンダーロール(性別による役割)、虐待などだ。それらを反映した妻たちの暴走が止まらない。夫は「不機嫌をぶつけていい相手」だった妻。「私を察しろ」と迫る妻。反面教師として参考にしたい事例が並ぶ。(2023.05.10発行)
半藤一利『戦争の時代1926~1945 半藤先生の「昭和史」で学ぶ非戦と平和 上』
平凡社 2420円
2021年に90歳で永眠した半藤一利は昭和史に関する多くの著作を遺した。このシリーズは、『昭和史1926-1945』、『昭和史 戦後篇1945-1989』、『B面昭和史1926-1945』、そして『世界史のなかの昭和史』の四冊を、それぞれ二分冊にして全八巻に再編集したものだ。本書で探っているのは満州事変、二・二六事件、日中戦争などの実相だ。昭和史を見つめ直すことで、非戦と平和の意味を再認識する。(2023.04.19発行)
酒井順子『日本エッセイ小史~人はなぜエッセイを書くのか』
講談社 1760円
エッセイストである著者による、エッセイをテーマとしたエッセイ集だ。「際立って輪郭がはっきりとしてしない」ジャンルであるエッセイは、「文芸世界における雑草のような存在」だと著者は言う。「随筆をエッセイに変えた」といわれる、伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』が登場したのは1965年。60年近い歴史を振り返り、時代との連動やテーマの変遷を見つめ、エッセイの未来も語っている。(2023.04.24発行)
森達也『歯車にならないためのレッスン』
青土社 2420円
「僕はジャーナリストではない」と著者。常に優先するのは「自分の主観」だからだ。しかし、そのおかげで客観性を標榜する組織ジャーナリズムが伝えない、物事の本質に迫る評論活動ができる。本書は2017年から22年にかけての時評集だ。敵基地攻撃の正当化に始まり、公文書改ざん、辺野古の新基地建設、「表現の不自由展・その後」の展示中止問題などが並ぶが、その背景は繋がっている。(2023.04.30発行)