2023.11.30
夜ドラ「ミワさんなりすます」(NHK)
「なりすましドラマ」の大本命!
今年の夏から秋にかけて、「なりすましドラマ」が目立った。
主婦が有名女優になりすました「この素晴らしき世界」(フジテレビ系)。女子大学生が友人のキャラクターを借りて就活をする「わたしの一番最悪なともだち」(NHK)などだ。
なりすますとは、「実際はそうでないのに、なりきった風をする」こと。
それを主要な要素としたドラマを「なりすましドラマ」と呼ぶなら、現在放送中の夜ドラ「ミワさんなりすます」(NHK)は、本命といえる1本だ。
映画オタクの久保田ミワ(松本穂香)は、ひょんなことからスーパー家政婦・美羽さくら(恒松祐里)になりすまし、世界的俳優・八海崇(堤真一)の邸宅で働いている。
現時点でこの秘密を知っているのは八海とさくらだ。八海はミワと映画愛を共有し、さくらはミワを通じて知る八海情報を楽しんでいる。
熱烈な八海ファンであるミワは、正体がバレそうになるたびにドキドキしたり、反省したりと大忙しだ。
原作は青木U平の同名漫画。脚本は「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)や「私の家政婦ナギサさん」(TBS系)などを手掛けてきた徳尾浩司だ。
松本が演じるミワは原作以上に天然系で応援したくなる。また堤の八海は原作よりも人間味があって親近感が持てる。
生きることに不器用でも、何かを「好きであること」自体が才能だと教えてくれる佳作ドラマだ。
(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.11.28)
「週刊新潮」に寄稿した書評です。
山下裕二『日本美術・この一点への旅』
集英社 2420円
美術史家の著者による「美術と出会う旅」の案内だ。たとえば北海道・東北なら三岸好太郎『飛ぶ蝶』や棟方志功『花矢の柵』。関東には青木繁『海の幸』、鏑木清方『一葉女史の墓』がある。また近畿では曽我蕭白『林和靖図屏風』、狩野内膳『南蛮屏風』などを見ることができる。わざわざ旅をして鑑賞することで、感動は何倍にも大きくなると著者。60を超える「現地・現物」が待っている。(2023.09.10発行)
後藤秀典
『東京電力の変節~最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』
旬報社 1650円
2011年3月に発生した東京電力福島第一原発の事故は、多くの人に取り返しのつかない被害をもたらした。しかし近年、東電が裁判所に提出した書面には、避難者への攻撃的な文言が並んでいる。なぜ、そんなことが起きたのか。また攻撃を仕掛ける東電側の弁護士とはどんな人たちなのか。その背景と人脈を探り、東電、政府、裁判所、そして法律事務所による「癒着の構造」にメスを入れていく。(2023.09.20発行)
林哲夫:編『喫茶店文学傑作選』
中公文庫 990円
喫茶店は常に時代の最先端であり、好奇心旺盛な文学者たちが足を運んできた。夏目漱石「野分」には明治のミルクホールが描かれている。昭和初期の喫茶店と若者たちの生態を活写した、植草甚一「東京に喫茶店が二百軒しかなかったころ」。平岡正明「都はるみが露出してきた」の舞台は京都のジャズ喫茶である。喫茶店という場の磁力を痛感させる、文庫オリジナルだ。(2023.09.25発行)
伊集院静『ナポレオン街道~可愛い皇帝との旅』
小学館 2200円
著者によれば、ナポレオンは「いつもどこかにユーモアを持った小さな巨人」だ。流刑地の島を脱出した元皇帝が、パリを目指して進軍したのが「ナポレオン街道」である。本書は約1年にわたる旅のエッセイだ。コルシカ島のカジノで「人生そのものがギャンブル」だった男の生涯を思い、パリのルーヴル美術館で「戦利品」だった数々の美術品と出会う。「英雄」がいた時代の幸と不幸も見えてくる。(2023.09.18発行)
【週刊新潮 2023.11.09号】
エヴァ色の「あずさ」で松本着
「楽都(がくと)・松本」の駅前
老舗の和菓子屋さん
昔からのパン屋さん
信州で「一強」の地元紙
信州を代表する地元銀行
高校時代から通う喫茶店
街中を流れる女鳥羽川(めとばがわ)
川沿いの「繩手(なわて)通り」
よく行った蕎麦屋さん
松本に来たら手を合わせる「四柱(よはしら)神社」
香里奈さん、3年目はいじらいさ披露
大阪王将
ぷるもち水餃子・羽根つき餃子
「忘れられない男」篇
香里奈さんが、イートアンドフーズ「大阪王将」ブランドのイメージキャラクターを務めて3年目になる。
これまでに、友人たちとの中華パーティーで小籠包を熱く語ったり、刑事に扮して立てこもり犯に呼びかけたりと、コミカルな演技を披露してきた。
今年はシリーズCM「忘れられない男」篇だ。
前作の「羽根つき餃子」では、男から「餃子焼いたから羽根だけ食べて。餃子は俺が食べる」と言われ、「あんなしょうもない男にフラれるなんて」と洗面台の前で憤っていた。
そして、新作の「ぷるもち水餃子」。香里奈さんは空っぽのバスタブに膝を抱えて座っている。
今度は男から「大阪王将のぷるもち水餃子は日本で売り上げ1位でしょうか?」と当たり前のことをクイズに出されて、がっかり。さらに「あんなしょうもない男が忘れられないなんて」と悔しがる。
確かに、この男は困りものだ。だが、こんな男にフラれて、しかも忘れられない香里奈さんが、すこぶるいじらしい。
“忘れられない味“は餃子だけではないのだ。
(日経MJ「CM裏表」2023.11.20)
「時をかけるな、恋人たち」
(カンテレ制作、フジテレビ系)
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」への
オマージュが大いに笑えた
吉岡里帆主演「時をかけるな、恋人たち」(カンテレ制作、フジテレビ系)は、「パリピ孔明」と並ぶ今期の“奇作SFドラマ”だ。
「パリピ」では過去からよみがえった諸葛孔明が活躍するが、こちらは未来からやってきたタイムパトロールが騒動を起こす。
ヒロインの廻(めぐ、吉岡)は広告代理店のアートディレクターだ。失恋した夜、「23世紀人」の翔(永山瑛太)から、違法タイムトラベラーを取り締まる仕事に無理やりスカウトされる。
これまでに、未来から駆け落ちしてきた女性教師と男子生徒のカップルや、令和のホストに恋をした未来人の生真面目女子や、令和の女性と組んで人気お笑い芸人になった、未来の売れない作家などに対処してきた。
しかし、このドラマ最大の見所は、やはり廻と翔の「禁断の恋」だ。
先週は“恋の避難所”として選んだ1980年代にタイムトラベル。そこで結婚前の廻の両親と出会う。しかも父のナンパ癖のせいで、カップル解消の危機に遭遇する。
何とか2人の恋を成就させようとする廻と翔。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」へのオマージュが大いに笑えた。
吉岡はコメディエンヌとしての力を存分に発揮し、永山はとぼけた味の未来人を飄々と演じている。
異色のタイムトラベルドラマであり、奇抜な恋愛ドラマでもある本作。どう着地するのか注目だ。
(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.11.21)
左から:
司会のプロデューサー・油谷岩夫さん、
『波の盆』『帝都物語』などの撮影監督・中堀正夫さん、
実相寺組の元助監督で、
平成・令和『ウルトラマン』プロデューサー・北浦嗣巳さん
わたしは、
放送40周年『波の盆』での実相寺監督、
主演の笠智衆さん、
脚本の倉本聰さん、
テレビマンユニオンの吉川正澄プロデューサー、
そして「ラハイナ浄土院」などについて、
話をさせていただきました。
主催:実相寺昭雄研究会
現代女性のハッピーエンドは
廣野由美子
『シンデレラはどこへ行ったのか
~少女小説と「ジェイン・エア」』
岩波新書 1034円
今年の夏に放送された『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)。家庭や学歴に恵まれない女性とセレブな御曹司の格差恋愛ドラマだった。しかし、今どきの若い女性たちがシンデレラに憧れるだろうか。時代を読み違えた作り手による、やや残念な内容だった。
英文学者・廣野由美子は『シンデレラはどこへ行ったのか』で、シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』を起点に少女小説に隠された「脱シンデレラ物語」を探っている。
重要な指摘は、『ジェイン・エア』で描かれた女性像が、それ以前とは大きく異なることだ。この作品は、孤児で貧しい女性が自分の力で幸せを勝ち取る物語である。
そこには、シンデレラのように王子様に助けられるのではなく、自分自身で運命を切り開いて欲しいという強いメッセージが込められていたのだ。
また本書では『ジェイン・エア』の影響を受けた、『赤毛のアン』『若草物語』『あしながおじさん』などの少女小説にも注目し、主人公たちの成長と自立を分析する。
さらに現代の少女小説やディズニー映画における「シンデレラ物語」の変化も考察していく。
読み進めていくと、おとぎ話的なハッピーエンドが多いイメージの少女小説が、娯楽作品という枠を超えて、時代や社会に対する批判や問題提起を含んでいることが分かる。
本書は女性の生き方の変遷に新たな視点を与える意欲作であり、ドラマ制作者も必読の一冊だ。
(週刊新潮 2023.11.02号)
『ブギウギ』スズ子(趣里)の
仕事と恋の「大波乱」を救ったのは?
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』。
11月13日から17日までの第7週は、スズ子(趣里)にとって、「仕事」と「恋」の両方で、大きな波乱の連続でした。
第一の波乱は、演出の松永(新納慎也)から誘われたことで始まった、スズ子の「引き抜き騒動」でしょう。
引き抜きに動いたのは、スズ子が所属する「梅丸」の最大のライバルである「日宝」。
言わずもがなですが、梅丸は現在の「松竹」であり、日宝はもちろん「東宝」ですね。
笠置シヅ子のリアル「引き抜き騒動」
この「引き抜き騒動」は、スズ子のモデルである笠置シヅ子にも実際におきたことです。
昭和14年、東宝側からシヅ子に対して、日本劇場(日劇)の舞台に「日劇ダンシングチーム」と一緒に出演してほしい、という話がありました。
しかも当時、松竹の給料が200円だったシヅ子に、300円払うというのです。
この頃は、大卒の初任給が100円くらいで、これが現在の20万円と考えれば、200円は40万円、300円は60万円にあたります。
大阪の養父への仕送りのことだけでなく、例の「桃色争議」で、会社に待遇改善を要求する難しさを体験していたシヅ子。
彼女にとって収入アップは魅力的でした。あまり考えずに契約書にサインしてしまいます。
そこからは、ドラマで描かれていた以上の騒ぎになるのですが、事態をおさめるために奔走してくれたのが、羽鳥(草彅剛)のモデルである、服部良一でした。
スズ子を救った、羽鳥の「思い」
ドラマでは、引き抜きのことを梅丸側に知られ、進退に困ったスズ子が、思い余って松永に迫ります。
「松永さん、ワテと一緒に逃げてください!」
当の松永は、その意味がわかりません。
「ワテ、松永さんのことが好きです。大好きなんです」
松永は、自分にはアメリカに残した恋人がいて、スズ子の気持ちには応えられないことを伝えました。
スズ子、生涯初の大失恋です。
さらに、梅丸にも日宝にも迷惑をかけたことで、しょげかえるスズ子。
新曲を作ろうとしている羽鳥に対して、こう言いました。
「ワテは無責任なことをしてしまいました。ワテに歌う資格はありまへん。こんな人間の歌、ワテ自身が聞きたないですわ」
羽鳥は、すかさず・・・
「僕が聞きたいんだよ!」
そして・・・
「これからもきっと人生にはいろいろある! まだまだこんなもんじゃない。嬉しいことも、辛いことも、たくさんあるよ。だから、嬉しいときは気持ちよく歌って、辛いときはやけのやんぱちで歌う」
嬉しいときは気持ちよく、辛いときはやけのやんぱちで。
まさにスズ子の原点です。
羽鳥は続けて・・・
「福来くんだけじゃない。僕だって、藤村ちゃん(宮本亞門)だって、きっと茨田くん(菊地凛子)だってそうだ。僕たちはそうやって生きていくんだよ!」
これは、単に今回の騒動についての話ではありません。
ショービジネスに本気で関わろうとする人間の「覚悟」であり、ショービジネスに生きる人間の「業(ごう)」を語っているのです。
自分の「生き方」と「居場所」
本来の自分を取り戻したスズ子は日宝に出向き、社長の大林の前で言い切りました。
「ワテは、やっぱり羽鳥センセの歌を歌いたいんです!」
そうこなくっちゃ!(笑)
スズ子は、羽鳥の妻・麻里(市川実和子)にも、迷惑をかけたことをきちんと詫びました。
ちなみに、この市川実和子さんは、女優の市川実日子(みかこ)さんの姉。お間違えなく。
で、この時、スズ子は麻里に、自分が梅丸に残った理由を説明します。
それは「羽鳥の歌」を歌いたいだけでなく・・・
「(羽鳥)センセは、ワテをひとりの人間として見てくれていはるというか……他の人にはなんや勝手にワテの動き方を決められてるみたいで。だから、ワテを大切にしてくれる場所におりたいと思たんです」
自分にとって、一番大切な「居場所」。スズ子に、もう迷いは消えていました。
一方、秋山(伊原六花)は大阪へと戻っていきました。
彼女もまたスズ子と同様、仕事と恋の両方の試練を乗り越え、自分の「生き方」と「居場所」を自分で決めたのです。
下宿のお父さんとの「別れの大相撲」。伊原さんが昨年主演した、配信ドラマ『シコふんじゃった!』へのオマージュとして素敵でした。
そして、舞台でスズ子が歌った『センチメンタル・ダイナ』(作詞:野川香文、作曲:服部良一)。しっとりと力強さの両方が味わえる、いい曲ですよね。
しかし、ますます悪い方向へと傾いていく、戦時下の日本。
スズ子の音楽にも人生にも、新たな試練がやって来そうな気配があり、引き続き目が離せそうにありません。