碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

NHK「少年寅次郎」 岡田恵和がつむぐ“母と子の物語”

2019年10月31日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK土曜ドラマ「少年寅次郎」

脚本の岡田恵和がつむぐ“母と子の物語”

 

昭和11年2月の寒い夜、葛飾柴又の団子屋「くるまや」の前に、一人の赤ん坊が置かれる。この家の主は、車平造(毎熊克哉)。この赤子が寅次郎だ。妻の光子(井上真央)は自分たちで育てることを決意する。

NHK土曜ドラマ「少年寅次郎」(全5回)で、まず見入ってしまうのは、「寅次郎の母」を超えて「ニッポンの母」と呼びたくなるような、井上の繊細で的確な演技だ。

お見合いで団子屋に嫁ぎ、道楽者の亭主、病弱な長男、義父(きたろう)の面倒を見てきた。血のつながらない寅次郎を息子として可愛がり、「日本一の妹」さくらを産む。その凜(りん)とした美しさ。やさしさ。さらに筋の通った厳しさと愛情深さは、後年の寅さんが惚れる女性たちの「原像」といっていい。

やがて夫の平造が出征し、長男も病死してしまうのだが、光子は気丈に残された家族を守り抜く。印象的なのは昭和20年3月、東京大空襲の場面。燃える下町を眺めていて朝帰りした寅次郎を、光子は「死んだと思った」と泣きながら叱るのだ。

5歳から小学生時代までの寅を演じる子役の藤原颯音も、「どこから見つけてきたの?」と聞きたくなるほど、渥美清の寅さんにそっくり。いたずら好きで勉強嫌い。でも友達思いのいいやつだ。いつの間にか映画の存在も忘れ、脚本の岡田恵和がつむぐ「母と子の物語」にクギづけである。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2019.10.30)


授業のゲストに、撮影監督の大西健之さん

2019年10月30日 | 大学

大西健之(おおにし・たけゆき)さんは、

私が慶大SFCにいた頃の「碓井ゼミ」メンバー。

現在、フィリピン在住の撮影監督です。

仕事で一時帰国したのですが、

立ち寄ってくれましした。

20年ぶりの再会です。

ありがとう!

 

撮影監督を務めた「ブランカとギター弾き」、秀作です。


追悼・八千草薫さん 『ドラマへの遺言』から

2019年10月30日 | メディアでのコメント・論評

 

 

追悼・八千草薫さんの女優魂

『やすらぎの郷』脚本家・倉本聡氏との交流秘話

 

脚本家の倉本聰氏はスポーツ報知等の取材に答え、亡くなった直後に駆けつけて対面を果たしたことや、故人の思い出を語っている。

倉本氏とは半世紀近い交流があり、何度も八千草さんと仕事をしてきた。自身のキャリアを振り返った著書『ドラマへの遺言』(碓井広義氏との共著)でも、八千草さんの名前は何度も登場する。いくつか抜粋して紹介してみよう。

まず、現在放送中の昼の連続ドラマ「やすらぎ」シリーズの誕生にも八千草さんは関わっていた。かつては民放も毎日放送する形式の連続ドラマを手がけていたが、いつの間にかNHKの朝ドラのみになり、独占状態になってしまっている。倉本氏はそこに疑問を感じたという。

「なぜ民放がそこに斬り込まないのかが不思議だった。そんな話を、加賀まりこや八千草薫さんたちに話していたら、やりましょうよって言い出した。出演料はタダでもいいから出たい、なんていう話になってきて、『やすらぎの郷』のもとになる企画を作ったんですね。そうしたら、テレビ朝日が受けてはくれたんだけれど、やっぱり朝はダメだった」

倉本氏の脚本で、八千草さんが初主演をつとめたのは「おりょう」。1971年の「東芝日曜劇場」(TBS系)である。

この作品、当初、倉本氏は断ったのだという。そこにはこんな事情があった。倉本氏は俳優の性格を掴んでからでないと書かない、というのを鉄則にしていたという。

「たとえば女優さんって鎧をつけてるんですよ。その鎧(よろい)を外さないと欠点が見えない。欠点を書いてあげないと個性にならない。長所が見えたところでなんにもならない。恋愛って普通、長所を見ちゃうじゃないですか。だから、わりと破綻するでしょう。それと似たようなもので、欠点から入って書くといい。

口のデカい女優さんがね、それを欠点だと思っていると、隠そうとして口が小さく見えるようメーキャップする。逆なんですよ。大きくしてやったほうが個性につながってくる。岸田今日子がひとつの例ですけれども」

ところが、八千草さんの欠点が倉本氏には見えなかった。目に見えるならまだしも、内なる欠点を見つけ出すのはかなり難しい。

「ですからね、八千草さんの場合は、1年半かかった。マネジャーに聞いてもさっぱりなんだから。

『おりょう』のときだって、本当は“あの人のおならの音が分からないと書けない”って一度断ったんです。ですが、そのあと、八千草さんから電話がかかってきて、“私のおならの音、分かりません?”って言われて、慌てちゃって。

そうしたら、八千草さん、ふっとまじめな声になって“でしたら、新珠(あらたま)さんのおならの音も分かりませんでしょう?”って。僕はちょっとドキッとした。この人は、新珠三千代(みちよ)さんに対して嫉妬心を持っているんだっていうのが分かって。それからですね、書けたのは」

この“おなら問答”から倉本氏のドラマにはたびたび八千草さんが出演することになる。そして、結局、現在放送中の倉本作品「やすらぎの刻~道」が八千草さんの遺作となったのである。

(デイリー新潮 2019.10.29)


「同期のサクラ」 ブレないヒロイン

2019年10月29日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

「同期のサクラ」

ブレないヒロイン

 

駄じゃれのようなタイトルだが、侮れない。「同期のサクラ」(日本テレビ系)である。10年前、故郷の離島に橋を架けたいと、大手建設会社に入社したのが北野サクラ(高畑充希)だ。

このヒロイン、性格がかなり変わっている。生真面目すぎて融通がきかない。自分が正しいと思ったことは何でもハッキリと言う。相手が社長であっても間違っていれば指摘する。周囲に合わせる、いわゆる「空気」を読むことをしないのだ。

しかも、サクラが言うことは確かに正論であり、見ている側は、自分が「正論の通らない社会や組織」に麻痺していたことに気づくのだ。このドラマの大きな見所である。

実は現在、サクラは病院のベッドにいる。病名は脳挫傷で意識不明のままだ。眠っている彼女のかたわらに立つのが木島葵(新田真剣佑)、清水菊夫(竜星涼)、土井蓮太郎(岡山天音)、月村百合(橋本愛)といった同期の仲間である。

物語としては、まず10年前の入社時にさかのぼり、そこから毎回1年ずつ、サクラと仲間たちの軌跡を描いていく。元々は土木部志望のサクラだが、遠慮のない言動が災いして人事部に配属された。

だが、そのおかげで社内の様々な部署と接触することができる。このあたり、脚本の遊川和彦(「家政婦のミタ」など)による設定が上手い。

営業部にいる同期、清水は応援部出身の熱血漢。上司から無理難題を押しつけられ、心身ともに限界だった。残業を減らす通達が出たこともあり、サクラはこの上司に正面からぶつかるが、同時に清水に対しても、「仕事と自分」について本気で考えることを促していく。

また広報部の月村は、本来の自分を押し隠して「愛される広報ウーマン」でいることに疲れ、結婚退社を決めてしまう。引き留めようとするサクラだったが、月村との壮絶バトルに。

女性が仕事をしていく上での障壁が、社会や組織など外側だけにあるのではなく、本当は女性自身の中にも内なる壁が存在することを提示して見事だった。

サクラの信条は「自分にしか出来ないことをやる」。まったくブレないヒロインが徐々に周囲を変えていく。そのスリリングな展開から目が離せない秀作だ。

(しんぶん赤旗「波動」2019.10.28)


週刊ポストで、ドラマ「岸辺のアルバム」について解説

2019年10月28日 | メディアでのコメント・論評

 

 

多摩川氾濫、

ドラマ『岸辺のアルバム』で描かれた仰天演出

 

10月12日に東日本を直撃した台風19号がもたらした大雨によって、多摩川沿いの街は泥水に浸かった。

多摩川の氾濫と聞いて記憶に浮かぶのが、山田太一原作・脚本のドラマ『岸辺のアルバム』(1977年・TBS系)だ。ホームドラマの常識を覆した名作の最終話で視聴者をさらに驚かせたのは、1974年の多摩川水害の実際の報道映像を用いるという演出だった──。

良妻賢母役を演じることが多かった八千草薫(88)が、突如かかってきた電話から不倫にのめりこむ──。1970年代はハッピーエンドのホームドラマの全盛期だったが、多摩川沿いに暮らす一家の関係は八千草の不倫を機に、崩壊していく。

最終話では、“家族の象徴”であった自宅が大雨で流される。この洪水は1974年9月に発生した「多摩川水害」がモチーフで、実際の報道映像が使われている。別掲した写真は劇中で使用されたシーンの報道写真だ。

上智大学文学部教授の碓井広義氏が語る。

「もともと脚本の山田氏はこの水害で民家が流されたことをきっかけに作品の着想を得たといいます。ノンフィクションとフィクションを織り交ぜた手法も斬新で印象に残る作品になった」

自宅が濁流に呑まれる寸前、家族が持ち出せたのが、アルバムだった。ラストでは、流された自宅の屋根に崩壊していた1家4人が乗り、笑い合う。そうした希望が持てる様子が描かれながらも、「これは3年前の一家で、いまこの4人がどんな幸せにいるか、どんな不幸せを抱えて生きているかは視聴者に委ねる」という主旨のテロップが入る。

「ドラマの放送は水害からちょうど3年後でした。見る側に“考える余地”を残すラストで、それだけに長く印象に残る作品となった」(碓井氏)

(週刊ポスト2019年11月8・15日号)


言葉の備忘録112 ミステリとは・・・

2019年10月27日 | 言葉の備忘録

札幌2019 

 


ミステリとは、

真実をめぐる物語であるーー

それ以上のものでもないし、

それ以下のものでもない。

 

アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」



カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)
山田 蘭
東京創元社
カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)
山田 蘭
東京創元社


 

 


言葉の備忘録111 ことばは・・・

2019年10月26日 | 言葉の備忘録

札幌2019  

 


ことばは、

もともと魔術でした。

ことばは、

今日でもむかしの魔力を

まだ残しています。

 

フロイト「精神分析学入門」


精神分析学入門 (中公文庫プレミアム)
懸田 克躬
中央公論新社



「視聴覚教育」スタジオ実習

2019年10月25日 | 大学


言葉の備忘録110 いつでも・・・

2019年10月24日 | 言葉の備忘録

 

 

いつでも、

正しいことだけをしようと思っていると、

なかなか、

なにもできなくなるものだ。

人間は、

なるべく気楽に、

なんでもやってみるのがよい。

 

森 毅「ヤジウマの精神」



森毅ベスト・エッセイ (ちくま文庫)
池内 紀
筑摩書房


 


産経新聞で、テレ朝・TBS「やらせ」問題について解説

2019年10月23日 | メディアでのコメント・論評

 

 

テレビ朝日・TBS… 

相次ぐ「やらせ」なぜ

 

「見せたい」と「見たい」に乖離

視聴者、フェイクニュース敏感に

人気バラエティー番組で相次いだ“やらせ”や“不適切な演出”の問題が、報道番組にも及んだ。テレビ朝日は、今年3月に放送された平日夕方の報道番組「スーパーJチャンネル」で“やらせ”があったと明らかにした。同局は謝罪に追われ、早河洋会長らが役員報酬1カ月分の10%を返上するなどの処分に発展。識者からは、フェイクニュースに敏感になっている一般視聴者と、制作者との意識の乖離(かいり)を指摘する声も聞かれる。(石井那納子)

テレビ朝日によると、問題となったのは今年3月15日に放送した同番組内の企画「業務用スーパーの意外な利用法」。業務用スーパーをあえて利用する個人客の人間模様を描く内容で、客として登場した5人が、番組スタッフである男性ディレクター(49)の知人だった。男性ディレクターは事前に取材場所や日程を教え、店では初対面を装っていた。

この企画は、同局の関連会社「テレビ朝日映像」が制作したもので、テレビ朝日系の14局でオンエアされたという。

担当した男性ディレクターは映画監督経験もあり、派遣会社からテレビ朝日映像に派遣されていた。昨年4月〜今年3月に、問題となった企画を含め計13本の制作に携わった。同局の調査に対し、「番組づくりに自信がなくなっていた。知人に声を掛けることは演出として許されないが、明確な指示さえしなければいいのではないかと都合よく解釈した」と話しているという。

会見に臨んだ篠塚浩常務は、「(やらせや仕込みと)指摘されても否定はできない不適切な演出だった」と謝罪し、企画の中止を発表した。

              ■ □ ■

撮影にあたっては、テレビ朝日映像から出された企画提案をもとに、企画会議が行われる。とっぴな内容や、撮影が困難を極めると想像される場合には見直しが求められることもあるが、今回の企画案はテレビ朝日も了承した。

テレビ朝日映像には男性ディレクターの上にチーフディレクターやプロデューサーもおり、放送に至るまでには、テレビ朝日のデスクらも交えて3回のプレビューが実施されたという。だが、これだけのチェックを通しても、不適切な演出に気付くことはできなかった。

男性ディレクターが動機に挙げた「自信がなくなった」という点について、篠塚常務は、男性ディレクターが過去にも類似した企画を撮影していたことをあげ、「その時に自分が思うようなものができなかったということではないか」と推し量った。

              ■ □ ■

9月に問題となったTBSのバラエティー番組「消えた天才」では、映像を早回しすることで、実際の投球速度よりも速く見えるような加工が行われていた。一部のスタッフはTBSの調査に対し「天才の度合いを強調したかった」と話したという。同番組とバラエティー番組「クレイジージャーニー」の2番組が打ち切りとなった。

両ケースとも、制作者側に理想のストーリーや映像があり、それを際立たせようとするあまり不適切な演出が行われたことがうかがえる。長年テレビ番組の制作に携わってきた上智大学文学部教授(メディア文化論)の碓井広義教授は「視聴者がやらせや仕込み、フェイクニュースに敏感になる一方、作り手の意識が追いついていない。見たいと思うものと、見せたいと思うものとに乖離が生じている」と指摘する。「安易にやらせに走らないよう、プロフェッショナリズムを持ち続けるには自らが意識してチェックするしかない」と厳しい。

動画配信サービスなどとの競争で、テレビの立場は相対的に弱くなりつつある。碓井氏は「情報の信頼性という点では既存メディアの方にまだ少し利があった。自分たちが描いたストーリーに絵を当てはめるような番組づくりを続けていては、業界として視聴者の信頼を取り戻せなくなる」と警鐘を鳴らしている。

(産経新聞 2019.10.23)

 


『グランメゾン東京』は、今期ドラマの真打か!?

2019年10月21日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

始動した木村拓哉主演『グランメゾン東京』は、

今期ドラマの真打か!?

 

始まりましたね、木村拓哉主演の日曜劇場『グランメゾン東京』(TBS系)。10月クールの、いわゆる秋ドラマも、他の作品がすでに2~3話を放送したタイミングでのスタートです。

以前は、よくフジテレビが月9でやっていた、「後出しジャンケン方式」(と私は呼んでいます)ですが、普通に始めても、他局より遅らせて始めても、ダメなドラマはやはりダメなので、作品の評価とはあまり関係ありません。

それでもTBSの関係者は、少しヤキモキしたかもしれません。何しろ、この日はラグビーW杯の日本vs.南アフリカ戦が他局で放送されていたし、TBSも巨人vs.ソフトバンクの日本シリーズ中継があったりして、日曜劇場も大幅に遅れてのスタートでした。

さて、『グランメゾン東京』です。冒頭、いきなりのパリでした。主人公の尾花夏樹(木村拓哉)がシェフを務める自分の店で、フランス大統領はじめ要人たちの会食です。

順調にメニューが進んでいたのですが、突然、食事中の大統領が倒れてしまいます。え、何が起きた? よくわからないまま、レストランの中は大騒ぎに・・・というのが「3年前」の出来事でした。

そして、現在のパリ。あるレストランの面接で、自分を採用して欲しいと熱弁を振るっているのは、早見倫子(鈴木京香)です。試しに料理を作って、それで判断してもらうことになります。

部屋の窓の外では、今は無職らしい尾花が、その成り行きを聞いていました。しかも尾花は中に飛び込み、「自分をもう一度使ってくれ」と訴えて、追い出されます。尾花はこっそり倫子をサポートしましたが、結局、彼女は採用されませんでした。

帰国しようとする倫子。街の中を尾花と並んで歩きます。ここで視聴者には、3年前の出来事は、料理にアレルギー食材が入っていたために起きたことが明かされます。また10年間やってきた店を閉めた倫子が、パリで一から修行して出直そうとしていたことも。

そんな倫子に、尾花が提案します。「レストラン、やらない? 俺と」「2人で世界一のグランメゾン、つくるっての、どう?」って、かなりイキナリだけど、木村拓哉に誘われたんじゃなあ(笑)。

というわけで、舞台は東京へ。倫子の家のクルマで寝泊まりする尾花。ある日、2人は評判のフレンチの店に出かけます。その店「gaku」で再会するのが、かつて尾花と一緒にパリの店「エスコフイユ」をやっていた、京野陸太郎(沢村一輝)でした。

京野は、江藤(手塚とおる)がオーナーのこの店で、ギャルソン(給仕)をしていたのです。また、尾花にとっては、パリの三ツ星レストラン「ランブロワジー」での修行仲間だった、丹後(尾上菊之助)が「gaku」のシェフでした。

尾花の動きを警戒した丹後は、この後、倫子を自分の店に引き入れようとします。しかし、倫子は逆に京野を引き抜こうと、江藤と丹後に正面からぶつかっていきました。京野が肩代わりしてもらっていた、1000万円の現金を持参して。殴り込みの京香姐さん、貫禄の見せ場です。

そして、とある古いビル。倫子と尾花が店を開こうという場所です。そこに京野がやって来ました。「gaku」のオーナーが、料理も客も無視して、経済効率だけを考えていることに嫌気がさしていたし、やはり尾花の料理には「人を動かす力」があるのです。

これで3人がそろいました。とはいえ、しばらくはメンバー集めが続きそうです。パリ時代からの知り合いである、料理研究家の相沢(及川光博)や、尾花の店で働いていた平古(玉森裕太)も東京にいるからです。それに、「gaku」の丹後たちも、目障りな尾花に対して、このままではいないでしょう。さらに、3年前の食物アレルギー事件にも、どうやらキナ臭い真相が隠れているようです。

初回を振り返って、一番印象に残ったのは、というか一番ホッとしたのは、木村拓哉さんが、ちゃんと「尾花夏樹」に見えたことでした。いや、「そんなの、当たり前じゃん」と言うなかれ。これって、「木村拓哉主演ドラマ」では大事なことなのです。

木村さんの主演作が、時として「キムタクドラマ」などと言われてきたのは、まさに、そのあたりの問題でした。パイロットや天才外科医を演じていても、登場人物より、木村さん本人が前面に出ていて、物語に集中できなかったりしたのです。

すでに、2015年の『アイムホーム』(テレビ朝日系)で、「俳優・木村拓哉」としての存在感はあったのですが、その後の『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)や『BG~身辺警護人~』(テレ朝系)では、脚本や演出のせいもあり、やや心配しました。

しかし今回は、「尾花夏樹を演じる木村拓哉」ではなく、「木村拓哉が演じる尾花夏樹」を安心して楽しむことが出来そうです。それくらい木村さんの演技はナチュラルであり、他の出演陣とのマッチングや掛け合いにも無理がありません。

初回では、結構大事な場面での「偶然」がありましたが、全体の流れで見ていると、それほど気になりません。物語として、偶然が必然に見えてくる。さすが黒岩勉さん(『メゾン・ド・ポリス』など)のオリジナル脚本です。これがどんなドラマなのか。登場人物たちがどんなキャラクターなのか。テンポのいい展開の中で、巧みに明示していました。

さらに、この初回の演出を担当していたのは、『アンナチュラル』の塚原あゆ子さんでした。どうりで、映像のキレもいいはずです。

ドラマタイトルの「グランメゾン東京」は、これから開く、お店の名前だったんですね。尾花たちは、ミシュランの三ツ星を目指すと言っています。それがどれほど難しいことなのか、私も含め多くの視聴者にはよくわかりません。

またフレンチに関しても、一般的なことしか知らない人が少なくないはずです。それでも、「料理」という舞台で、何か素晴らしいものを生み出そうとする「大人たち」がここにいることは、しっかり伝わってきました。そして、今期ドラマの「真打感」も。初回としては、それで十分だと思います。


10月のUHB北海道文化放送「みんテレ」

2019年10月20日 | テレビ・ラジオ・メディア


【気まぐれ写真館】 10月も札幌「まる山」で、鴨せいろ

2019年10月19日 | 気まぐれ写真館


言葉の備忘録109 スターというのは・・・

2019年10月18日 | 言葉の備忘録

 

 

スターというのはね、

以前から知っていたような

気がするものなんだよ。

 

恩田 陸「蜜蜂と遠雷」



蜜蜂と遠雷
恩田 陸
幻冬舎


 


「まだ結婚できない男」主人公はそのままも周囲に変化が…

2019年10月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「まだ結婚できない男」

主人公はそのままも周囲に変化が…

 

阿部寛主演「結婚できない男」が放送されたのは2006年。主人公の建築家、桑野信介は当時40歳だった。

高身長、高学歴、高収入で独身。かなり独善的かつ偏屈な性格で、言わなくてもいいことを口にする皮肉屋でもある。自分の事務所を持ち、マンションで一人暮らし。クラシック音楽をフルボリュームで流して指揮者の真似事をするのが趣味だ。

13年後の復活となった「まだ結婚できない男」だが、桑野はちっとも変わっていない。独善・偏屈・皮肉も相変わらずで、外では「一人しゃぶしゃぶ」を味わい、家では指揮棒を振って一人悦に入る。そんな主人公の「相変わらずぶり」を、苦笑しながら眺めるのがこの続編の基本的な楽しみ方だ。

本人は変わらないが、周囲には変化がある。かつて関わりのあった内科医(夏川結衣)は弁護士(吉田羊)に、隣人の女性も国仲涼子から深川麻衣になった。そこにカフェの店長(稲森いずみ)が絡んできそうだ。

とはいえ、桑野はもともと「結婚できない」のではなく、「結婚したくない」のである。女性たちとの関係も、価値観や距離感のズレが生み出す笑いどころだ。

50歳以上の男性未婚者が23%を超える現在、53歳の桑野も特別な存在ではない。13年前と一番違うのはこの社会的背景だ。現実に埋没しない、より積極的な「中年シングルライフ」の提示。それが今回の課題となる。

(日刊ゲンダイ 2019.10.16)