毎週、「週刊新潮」に書いてきた書評で、この1年に読んだ本を振り返っています。
7月は、以下のような本たちでした。
2013年 こんな本を読んできた (7月編)
萩原 浩 『家族写真』
講談社 1470円
男の50代は結構大変だ。目前となった定年。子供の結婚。妻の勤続疲労。親の介護だってある。だが家族あっての自分かもしれない。涙と笑いの7つの短篇が、ふとそんなことを思わせる。
表題作の舞台は瀬戸内の町にある写真館。長年シャッターを押し続けてきた父親が倒れた。引きこもりの末娘は、東京でカメラマン修行をしている兄と、駆け落ちして家を出たままの姉に助けを求める。
吉田拓郎の曲と同名の「結婚しようよ」。主人公は娘と二人暮らしだ。その娘が突然言い出した。「結婚しようと思う」と。相手が挨拶に来るという。父親としてどう迎え撃つべきか。
「住宅見学会」では、家族揃って他人の家を訪問した時の可笑しさが描かれる。同世代とは思えない暮らしぶり。夫も妻も高レベル。理想の家、理想の家族と思えたが・・・。
(2013.05.29発行)
関川夏央 『昭和三十年代 演習』
岩波書店 1575円
いわば関川教授の「昭和30年代論」特別講義である。以前からこの時代に関する文章を書いてきた著者が、最初に表明するのは映画『ALWAYS 三丁目の夕日』に対する違和感だ。歴史的な間違いや細部の嘘を許す観客たちを眺め、「実像よりも、その後の評価によって歴史は歴史となる」ことを指摘する。
松本清張作品とその世界観を探る演習も刺激的だ。『点と線』の背景として、鉄道網の充実に伴う出張や観光旅行の復活を挙げる。また映画『ゼロの焦点』や『張込み』における汽車旅にも注目する。
他に登場するのは三島由紀夫、石原裕次郎、吉永小百合、フランソワーズ・サガンなど。昭和30年代は単なる「貧しくても明るい時代」ではなく、「不便さと『教養』が共存した時代」であり、世界への再参加を切望した時代だったのだ。
(2013.05.28発行)
蜂飼 耳 『空席日誌』
毎日新聞社 1680円
PR誌『本の時間』に寄稿した45の短文と、3つの書き下ろしで構成された散文集だ。池の氷を割る母子。花見会場での餅つき。文房具屋に置かれた絵日記帳。そんな何気ない光景が著者の中を通過するうち、虚実の境が消えていく。詩人の鋭い感性のなせる業だ。
(2013.06.15発行)
滝田誠一郎 『開高健名言辞典 漂えど沈まず』
小学館 1680円
副題は「巨匠が愛した名句・警句・冗句200選」。ただし単なる抜粋ではない。名言を入口に開高健の文学世界の奥へと導いてくれる。抜き書きの文章と呼応する著者の感慨や再発見。まるで生ける開高と会話しているかのようだ。じっくりと読むべし。悠々と急いで。
(2013.06.03発行)
岡田斗司夫 FREEex
『超情報化社会におけるサバイバル術 「いいひと」戦略』
マガジンハウス 1575円
これからは「お金よりも評価が価値をもつ社会」になると著者。これを評価経済社会と呼ぶ。「いいひと」は超情報社会の最適戦略であり、ネット時代のリスク管理だ。大事なのは本音と建前を出来るだけ一致させること。奇想のようでいて実は真っ当な提案である。
(2013.05.23発行)
島地勝彦
『迷ったら、二つとも買え!~シマジ流無駄遣いのススメ』
朝日新書 756円
「人生の大罪は無知と退屈」と言う著者による浪費への誘いだ。無駄遣いはセンスを磨き、教養を高め、人脈を育み、自分の身を助ける。時計、眼鏡、洋服など豊富な浪費体験を開陳し、慈しみを持ってモノと対峙すれば、無駄遣いも「文化への投資だ」と豪語する。
著者の買い物哲学は以下の通り。美しいモノを見たら迷わず買え。どちらにするかで迷ったら2つとも買え。金がなかったら借金してでも買え。ただし身の丈に合った借金を。人生は冥土までの暇つぶし。ならば上質な暇つぶしを。本書は中高年へのアジ演説だ。
(2013.06.30発行)
新保裕一 『正義をふりかざす君へ』
徳間書店 1575円
地方における地元有力新聞の力は絶大だ。それは、都会に暮らし、全国紙だけを購読している人の想像を遥かに超えている。多くは地元放送局の大株主であり、複数のメディアを通じて地域に大きな影響力を行使できるのだ。正義の名の元に。
不破勝彦はかつて地元紙の敏腕記者だった。その後、義父の片腕としてホテル業に飛び込んだ。しかしホテの不祥事をきっかけに仕事を続けられなくなる。妻とも離婚し、故郷を去った。それから7年。不破は見たくもない町に足を向ける。元妻の不倫相手で、市長選に出る男を救うためだった。だが、動き始めた不破は何者かに襲われてしまう。
地方都市の表と裏。地域特有のしがらみ。権力者としての地元政治家とマスコミ。全国どこの地方にも存在する現実を素材として取り込み、最大限に生かしきった長編ミステリーだ。
(2013.06.30発行)
朝日新聞西部本社:編 『対話集 原田正純の遺言』
岩波書店 2310円
水俣病研究の第一人者であり、環境公害の撲滅を国内外に訴え続けた原田正純医師が亡くなったのは昨年6月のことだ。
本書には、死の半年前から行われた15の対話が収められている。相手は水俣病患者をはじめ、その家族、支援者、作家、経済学者と幅広い。一貫しているのは、原田が常に患者・被害者と同じ立ち位置にいることだ。
たとえば患者と、公害病が「必ず差別とセットになっている」現実を語り合う。その上で、和解によって責任が曖昧になってしまうことを懸念する。また先輩医師に対して、「“何もせん”ってことは、結果的に加害者に加担しているわけです」と主張。そして作家・石牟礼道子と向き合えば、「治らない病気を前にしたとき、医者は何をすべきか」と自問するのだ。
その真摯な生き方と思想が読む者に伝わってくる。
(2013.05.28発行)
ミシマ社:編
『自由が丘の贈り物~私のお店、私の街』
ミシマ社 1575円
版元のキャッチフレーズは「自由が丘のほがらかな出版社」だ。その地元力を生かして取材した46のお店が並ぶ。しかも1軒ごとに、店側のコメント、自店紹介、ミシマ社メンバーによる案内、そして「とっておきの話」が配される。本のカバーが地図になるのも嬉しい。
(2013.07.03発行)
金平茂紀 『沖縄ワジワジー通信』
七つ森書館 1890円
TBS「報道特集」のキャスターが沖縄の地元紙に連載した時事エッセイ集。08年の米大統領選に始まり、普天間基地移転問題、東日本大震災、原発事故、そして昨年の本土復帰40年までの「ワジワジー(イライラ)状態」が語られる。沖縄から日本を見通す試みだ。
(2013.06.01発行)
柳田邦男 『言葉が立ち上がる時』
平凡社 1575円
著者曰く、この長編評論は「いのちと言葉の循環をめぐる思索の旅」である。極限の危機的状況においてさえ、いのちの支えとなる言葉はどこから生まれてくるのか。何度か登場するのがフランクルの『夜と霧』だ。25歳で亡くなった息子のエピソードも印象に残る。
(2013.06.19発行)
和合亮一 『廃炉詩篇』
思潮社 2100円
東日本大震災の際、自らも被災者でありながらツイッターで「詩の礫」を発信し続けた著者。この最新詩集ではフクシマと向き合った。中でも巻末に置かれた「誰もいない福島」が静かな衝撃を与えてくれる。また表紙の写真は何と詩人・吉増剛造の撮影によるものだ。
(2013.06.20発行)
山口恵以子 『月下上海』
文藝春秋 1365円
第20回松本清張賞受賞作である。舞台は戦時下の上海。魔都に暗躍する男たちと共に時代の運命に飛び込んでいくヒロインは、海運財閥の令嬢・八島多江子だ。
物語は昭和17年の秋から始まる。中日文化協会の招きで上海を訪れた多江子は、憲兵大尉・槙庸平と出会う。槙は多江子に大物経済人・夏方震に接触し、情報を集めることを迫る。その背景には、多江子と夫、そして彼の愛人の三角関係から生じた事件の秘密があった。
槙の指示通り、夏に接触する多江子。だが、その人間的深さに触れて自分がどう生きるべきかに気づく。やがて暗い野望を秘めた槙との対決の時が訪れる。
この時代、この街ならではの展開は、読む者を一気にタイムスリップさせる。当時の日本人女性という既成概念を超えた八島多江子の個性も鮮やかな、サスペンスロマンの佳作だ。
(2013.06.24発行)
塩澤幸登
『雑誌の王様~評伝・清水達夫と平凡出版とマガジンハウス』
河出書房新社 3150円
清水達夫とは何者か。大正2年、東京生まれ。電通で雑誌「宣伝」を編集。昭和20年に凡人社(後の平凡出版、現マガジンハウス)の設立に参加。「平凡」「平凡パンチ」「アンアン」などの初代編集長を務めた。
本書は清水の評伝だが、同時に一つの時代を築いた出版社の社史であり、編集者列伝であり、さらに戦後雑誌出版史でもある。特に清水が育てた「雑誌王国」の最盛期が興味深い。編集者たちは好奇心と欲望を武器に駆け回り、遊びまくって誌面を作っていたのだ。
著者は戦後の雑誌をスタティックな材料並べの「家型」と、ダイナミックな並べ方の「列車型」に分ける。一つのテーマで全体をけん引する列車型雑誌にかけた清水の情熱はすさまじい。「時代とどう向き合って、自分はどんなメッセージを出すのか」が編集という仕事であることを痛感する。
(2013.06.25発行)
川本三郎 『映画は呼んでいる』
キネマ旬報社 2100円
「映画を見ると細部が気になる」と著者。『探偵はBARにいる』では札幌生まれの洋画家・三岸好太郎の絵が映り込む。『RAILWAYS2』の冒頭で、ゆっくりカーヴしながら画面に入ってくる一両電車。細部が気になるのは、その映画を面白く見ているからだ。
(2013.06.30発行)
井上ひさし:著、山下惣一:編
『井上ひさしと考える日本の農業』
家の光協会 1470円
3年前に亡くなった著者の農と食に関するエッセイ・講演録・対談などで構成された一冊。特にコメについては何度も発言している。農家と水田は安心と安全を担う公共財であること。だから市場・競争原理にそぐわないこと。TPPが迫る今、緊急課題がここにある。
(2013.07.01発行)
加賀乙彦・津村節子
『愛する伴侶(ひと)を失って~加賀乙彦と津村節子の対話』
集英社 1260円
妻を亡くした夫と、夫を失った妻。二人の作家が語り合うのは、それぞれの出会いから伴侶なき日常までだ。浮かび上がってくるのは、夫婦の絆と生き続ける人間の業。病気との向き合い方も、死に対する考え方も異なるからこそ、読む者が自ら考える余地が生まれる。
(2013.06.30発行)
野崎 歓:編 『文学と映画のあいだ』
東京大学出版会 2940円
フランス文学が専門の編者をはじめ、執筆者全員が東大の教授と准教授だ。本書は文学部での連続講義から生まれた。シェイクスピアと黒澤明。ハリウッドとアメリカ作家。長編小説が全て映画化されたカフカ。文学作品は映画化によって何を失い、何を得るのか。
(2013.06.24発行)
円谷英明
『ウルトラマンが泣いている~円谷プロの失敗』
講談社現代新書 777円
円谷英二率いる円谷プロが『ウルトラQ』を世に送り出したのが1966年。そして『ウルトラマン』で特撮ブームは決定的となる。以来、ウルトラシリーズは半世紀近く続いてきたが、現在の円谷プロに一族の人間は誰も関わっていない。
著者は円谷監督の孫で社長も務めた人物だ。当時最高の人材と技術を有していた創造企業が、いかにして転落したのかを克明に綴っている。特に特撮番組が玩具会社のリードで作られる逆転現象と、経営の実権を外部に奪われる過程は痛恨の極みだ。もちろんウルトラマンに罪はない。
(2013.06.20発行)
長岡弘樹 『教場』
小学館 1575円
著者は第61回日本推理作家協会賞短編部門受賞作『傍(かたえ)聞き』をはじめ、心理トリックを使った作品を得意とする。この最新作でも、本人さえ気づかない心の綾が見事に描かれている。
まず舞台が警察学校であることがユニークだ。初任科の短期課程に所属するのは40名の巡査たち。年齢もこれまでのキャリアも様々だ。しかも学校とはいえ、人材を育てるより警察官に適さない人間を排除することを目標としている。このサバイバル・ゲームを生き抜こうとする学生たちと、担当教官・風間との人生を賭けた勝負が展開される。
全6話の連作長編である本書には時折り、学生が書いて提出する「日記」が登場する。教官に読まれることを前提とした文章、そして学生たちの行動と心理。その全てを見抜こうとする風間の驚異の観察眼と心理分析が本書の読みどころだ。
(2013.06.24発行)
塙 和也 『自民党と公務員制度改革』
白水社 1785円
今年の6月末、政府の国家公務員制度改革推進本部がある方針を決定した。各省の幹部人事の一元管理を行う内閣人事局の設置だ。秋の臨時国会に関連法案が提出される予定だが、肝心の権限などは見えていない。
公務員制度改革基本法が成立したのは2008年、福田内閣の時だ。ただし、これは改革の工程を定めたに過ぎず、制度化するには立法措置を必要とした。行革担当大臣・渡辺喜美などが実現に向けて積極的に動くが事態は進まない。人事院から内閣人事局への権限移譲と、公務員の労働基本権回復問題がネックとなり、最終的には頓挫してしまう。
本書は福田政権から麻生政権へという時代背景の中、この制度改革がいかに迷走していったのかを探ったノンフィクションだ。政界、官界、財界、労働界の思惑が複雑に絡み合う構造は今も変わらない。
(2013.07.25発行)
筒井康隆 『偽文士日碌』
角川書店 1680円
この5年間、ネットで続けてきたブログ日記が一冊になった。本を読み、原稿を書き、テレビに出演し、東京と神戸を頻繁に往復。78歳とは思えない活動力に驚かされる。文学賞選考会の裏側や、長編小説「聖痕」が新聞に連載される経緯などファンの興味は尽きない。
(2013.06.25発行)
山折哲雄 『わが人生の三原則~こころを見つめる』
中央公論新社 1470円
宗教学の泰斗が見つけた三原則は、「人について比較しない」「だますよりだまされる人になる」「群れから離れる」。他にも『歎異抄』や『葉隠』をめぐる考察など、表題作を含め10編の随想が並ぶ。生老病死と素で向き合う姿勢は、この時代を生きるヒントとなる。
(2013.06.25発行)
NHK取材班:編著
『日本人は何を考えてきたのか 昭和編』
NHK出版 1890円
思想の巨人たちの足跡を追うシリーズの最終巻だ。北一輝と大川周明の昭和維新を田原総一朗が探る。また生物学者・福岡伸一が西田幾多郎と京都学派の歩みを追体験していく。彼らとその時代が抱えていた課題が、現代と深くつながっていることを再認識できる。
(2013.06.25発行)
岩波書店編集部:編
『これからどうする~未来のつくり方』
岩波書店 1995円
「これから」を議論するための材料集である。登場するのは各界の論客228名。アベノミクスや憲法改正から「3.11」まで、鋭い分析と提言が並ぶ。たとえば、「過去を知って、自分の意見をもつ」は世直しをめぐる澤地久枝の言葉だが、本書はそのために編まれた。
(2013.06.12発行)
原田マハ 『総理の夫』
実業之日本社 1785円
昨年、アートサスペンスの秀作『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞を受賞した著者。その最新長編は、簡潔なタイトルに自信のほどがうかがえる異色の政界エンターテインメントだ。
20XX年、史上初の女性総理が登場する。その名は相馬凛子、42歳。東大法学部からハーバード大に留学。政界に入る前は国際政治学者として活躍していた。そんな彼女の夫が、私こと日和だ。相馬財閥の御曹司にして鳥類学者。妻・凛子をこよなく愛する、心優しき38歳である。
物語は日和の手記の形をとる。しかも公開はその死後だ。すでに亡き人が語る「過去としての未来」。そこにはこの国の大転換と、一組の夫婦のかけがいのない日々が描かれている。女性総理はいかにして誕生し、何を行ったのか。政財界の今を合わせ鏡のように映し出す仕掛けも秀逸だ。
(2013.07.20発行)
蔵前仁一 『あの日、僕は旅に出た』
幻冬舎 1575円
バックパッカーの教祖と呼ばれる著者は、80年代初めから世界各地への旅を続けてきた。その旅のことを書いて出版し、また旅の雑誌を創った。88年にわずか50部で始めたのがミニコミ誌「遊星通信」だ。やがてそれは「旅行人」というバックパッカーのバイブルのような雑誌へと成長する。
残念ながら「旅行人」は一昨年末の第165号で休刊となり、23年の歴史に幕を下ろした。本書は今年57歳になる著者が、これまでに体験してきた旅と雑誌作りと私生活を、まるごと回想した一冊だ。79年の初海外旅行を皮切りに、インド、中国、タイなどのアジア、そしてアフリカまで、旅への没入は加速化していく。
この30年間、世界の様相も旅の形も大きく変わってきた。「人生とはたまたまである」と著者は言う。偶然吹いてくる風に乗って、再び新たな旅に出るはずだ。
(2013.07.10発行)
青島広志 『クラシック漂流記』
中央公論新社 1785円
当誌に連載された抱腹絶倒の音楽エッセイが一冊になった。著者は東京藝大の大学院を主席で修了した作曲家。ピアニストや指揮者としても活躍中だが、やや自虐的な目線から繰り出される文章も一級品だ。クラシックの神髄から下ネタまで、自由人の本領発揮である。
(2013.07.10発行)
山田宏一 『ヌーヴェル・ヴァーグ 山田宏一写真集』
平凡社 2310円
ほの暗い屋根裏部屋の灯りに照らされるアンナ・カリーナ。『トリュフォーの思春期』の子供たちに囲まれるトリュフォー監督。著者にしか撮れなかった光景が次々と現れる。ヌーヴェル・ヴァーグが映画界の奇跡だったように、映画ファンにとって奇跡の写真集だ。
(2013.07.10発行)
塩沢 槙 『百年のしごと』
東京書籍 1575円
「百年続く仕事とは、時間を超えて価値を持ち続けるものなのだ」と著者は言う。陸前高田のヤマニ醤油。東京のトンボ鉛筆。軽井沢の万平ホテル。食に関わり、道具を作り、そして生活に根ざす20の現場が登場する。働く人が語る「仕事と人生」はいずれも清々しい。
(2013.07.10発行)
鈴木涼美 『「AV女優」の社会学』
青土社 1995円
気鋭の女性研究者が探った「性の商品化」の最前線だ。AV女優たちの日常から現場までを追いながら、その動機語りに注目する。自己演出とキャラクター化により、何を得て何を失うのか。また、いわゆる「自由意思」の奥に潜むのは何なのか。論文ルポルタージュの秀作。
(2013.07.01発行)
岡崎武志 『蔵書の苦しみ』
光文社新書 819円
「蔵書の喜び」ではない。苦しみである。自ら集めた数万冊の本に支配された男の奮闘記だ。まず井上ひさしや谷沢永一など先人の戦いを振り返る。続いて市井の蔵書家たちの試行錯誤を紹介する。本のために家を建てた男。トランクルームや図書館の利用などだ。
そしてついに蔵書処分の最終手段が登場する。それが「一人古本市」だ。自分にとっての鮮度が落ちた本は勇気をもって手放すこと。同時に「理想は500冊」であり、「三度、四度と読み返せる本を一冊でも多く持っている人が真の読書家」と知るべきだ。
(2013.07.20発行)