23日の『朝日新聞』夕刊。
特集記事「テレビ 被災者の声重視」で、震災報道についてコメントしています。
テレビ 被災者の声重視
大津波被害の惨状、原子力発電所の緊迫、不自由な生活をおくる多くの避難者たち――。テレビは連日、東日本大震災を伝えている。阪神大震災報道の教訓は生かされたのか。多チャンネル化、ネット時代を迎えたテレビの災害報道の役割とは。(岡田匠、田玉恵美)
◆ありのままを伝える
20日正午のNHKニュース。東京電力福島第一原発の状況などの最新情報を報じる一方で、中継を結んだ宮城県南三陸町の避難所から佐藤仁町長が直接、支援を訴えた。
ほかに総合テレビでは、被災者が現状を伝える「テレビ伝言板」をはじめ、阪神大震災で避難所生活をした人たちの体験談も多く伝えている。こうした情報は地震発生3~4日後から目立ってきた。
地震発生当初はNHK、民放各局とも、津波が田んぼや住宅をのみ込む空撮映像や、視聴者が間近で撮影した津波の映像を放送。未曽有の大災害の恐ろしさを伝えた。
だが次第に衝撃的な映像は減らし、「被災者の生の声に重点を置く方針」(NHK)へとシフトしている。民放も同様の傾向だ。
背景には阪神大震災の教訓がある。倒壊した高速道路やビルの映像を繰り返し流し、効果音をつける演出もあった。被災者が求める情報が少ないといった批判が出た。
阪神大震災の被災者でもある小川博司・関西大教授(メディア文化論)は「東京で編集した映像が多く、ドラマ仕立てで刺激的だった。だが今回は東京も被災地の意識があるためか、ありのままを伝えている」と見ている。
被災者の声を拾うといっても、ガソリンを使って大勢で動き、現地で調達しないようにと食料を持ち込む取材への視線は厳しい。ある民放幹部は「被災者のストレスが高まっており、報道陣への嫌悪感が表出している」と明かす。
一方、テレビ報道について朝日新聞に寄せられたメールやはがきには、「山積みの物資を映して『被災地に届かない』と報じるだけでなく、その原因を追及して」といった注文も少なくない。
碓井広義・上智大教授(メディア論)は「そもそも、テレビは大ざっぱになってしまうメディア」と分析する。
「被災者に向けられたカメラが伝える悲嘆の声は、被災地から離れた視聴者の興味は引くが、実は被災者たちが本当に欲しい情報ではない。誰に向けて、何を伝えるのか。そこを考えるべきだ」
◆BSは独自色乏しく
地上波とBSの役割分担も課題だ。民放のBSデジタル各局は地震直後から60時間以上、系列の地上波やCSの震災特番を放送した。BS朝日は、震度6弱以上の地震の際はテレビ朝日の特番に同調することにしている。他局にはこうした内規はないが、「報道の使命として独自に判断した」(BS日テレ)という。
関西大の小川教授は「地上波と同じではなく、BSは局ごとに使い分けては」と提案する。例えば、被災者の癒やしになる音楽や、避難所で必要な情報に特化させる――。
だがBS各局は社員60~70人ほどで、BS―TBS以外は報道部門もない。「独自の災害報道をやれと言われても現状ではマンパワーが足りない」(BS朝日)。「どのタイミングで、どんな番組を流せばいいのか判断が難しい」(BSフジ)という声もあがる。
民放BSが開局し10年。有事の際の地上波との役割分担について、「各局がBSの理念を確立させてこなかった。せっかくの多チャンネルを有効に使っていない」と上智大の碓井教授はいう。
BS―TBSは、「平常時に地上波とどう差別化するかで精いっぱいだった。今回の震災報道を機に、災害時の役割を考えていきたい」。
一方、NHKは地震直後、地上波とBSの計5波で一斉に震災を報じたが、14日以降はBSハイビジョンを通常編成に戻し、教育とBS2は安否情報や子ども番組を流すなど、「複数波を生かした編成を意識している」という。
国内に住む外国人や観光客に向け、副音声を使った多言語放送も実施。英語、中国語、韓国語、ポルトガル語の4カ国語で注意を呼びかける音声を1分間ずつ、津波警報が解除されるまで、総合とBS3波で放送した。
◆ネット配信 海外でも視聴
停電などでテレビが見られない被災者に向け、各局はインターネットの「ユーストリーム」や「ニコニコ動画」などに番組を配信した。テレビとネットの連動で、被災地の惨状が海外へも伝わった。
NHKは11日夜から総合、教育、ラジオ第1の放送を配信した。フジとテレ朝は14日まで、TBSは18日まで配信した。ただ日テレは「動画が通信を圧迫し、かえって被災地の通信事情を悪くする恐れがある」として配信しなかった。
民放はCMに配慮した。TBSは、スカパーに有料で流しているCMがないニュース番組を配信。テレ朝はCMが再開する約6時間前に配信をやめた。フジは「権利の問題も出てくるので、CMの再開に合わせてやめた」と言う。
黒田勇・関西大教授(放送論)は「放送をネットに流した判断は評価できる」とした上で、「その逆が怖い。ネットで騒ぎになった情報をそのまま放送した局もあり、余計な混乱を招く」と話す。
一方、災害時に役立つと言われたワンセグ。携帯電話の通話ができなくても、電波さえ届けばどこでも見られるはずだが、黒田教授は「充電できない被災地では携帯の電池が続かず、動き回ると電波が届かない。結局、ワンセグが役に立っていない現状が浮き彫りになった」と指摘する。
(朝日新聞夕刊 2011.03.23)