川本ちょっとメモ

★所感は、「手ざわり生活実感的」に目線を低く心がけています。
★自分用メモは、新聞・Webなどのノート書きです。

<憲法9条> 産経ニュースの憲法9条改正論が余りに粗雑なので批判してみました

2016-07-15 00:13:16 | Weblog

[クリック]
2016/07/01 明治憲法下の日本は戦争つづきでした 憲法9条を護ろうではありませんか
2016/04/06 自爆テロと旧日本軍特攻の類似性について――わが内なる血に心せよ
2005/07/06 憲法9条についてどう考えるか-自衛力整備も考慮に入れて



きょうネットで、2016/05/03 産経ニュースの憲法記事を読みました。余りにも粗雑、理屈の通らない憲法9条改正論議なので、批判してみたくなりました。

下に、記事本文を転載し、青字番号をつけて、一つづつ批判をしてみます。


   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

   憲法記念日 施行69年、国民を守れない憲法…
  今こそ9条の改正や緊急事態条項の創設が欠かせない


産経ニュース 2016/05/03
http://www.sankei.com/premium/news/160503/prm1605030030-n3.html


 現憲法は3日、施行69年を迎えた。

 連合国による占領、東西冷戦とその終結、中国の海洋覇権の追求や北朝鮮の核・弾道ミサイル開発…。

 日本を取り巻く環境は大きく変容してきたが、「戦力不保持」をうたう憲法は一文字も変わることはなく、日本の安全保障政策はその都度、大揺れを繰り返してきた。

 集団的自衛権の行使を限定的に認める安全保障関連法が今年3月末、施行された。それでもなお、「憲法9条の呪縛」は解かれておらず、[1] 緊急事態への備えも不十分なままだ。

[1] 集団的自衛権の行使を限定的に認められただけでは、緊急事態への備えが不十分である――と決めつける理由・根拠は何か? 何の説明もない。従って、「根拠のない主観的決めつけ」と批判されてもしかたありません。

[2] 日米安保条約の見直しや在日米軍撤退に言及する米大統領選の候補も現れた。[3] 大規模災害が多発する時代に適した憲法が今ほど求められているときもない。

[2] 米大統領候補トランプ氏が言うように日米安保条約見直しや在日米軍撤退という環境が来たとしても、日本の安全保障政策の変更という問題であって、「だから憲法9条改正」と言うのは筋違い、問題のすり替えです。安倍首相も、この類の問題すり替え答弁が得意です。

[3] 「大規模災害が多発するから憲法改正」というだけでは、改憲の理由になりません。必要な法整備をすることで解決できるでしょう。東日本大震災、熊本地震に便乗する論でしかありません。災害で困っている人々を憲法改正に利用するなんてあさましい。しかも、こういう立論をする論者でありながら、福島原発事故で土地を追われた十万という被災者を見ても、「原発廃止」とは言いません。

[4] しかし、9条は日本の守りを損ない続けている。

[4] 1945年(昭和20年)敗戦後の被占領時代、1952年(昭和27年)被占領終了後の日米安保条約下日本において今日まで、日本が侵略されたことは一度もありません。従って、憲法9条が日本の守りを損ないつづけている――とは、事実無根の言いがかりです。

[5] 4月20日午前、航空自衛隊那覇基地に緊急発進(スクランブル)の指令が入った。航空警戒管制のレーダーが、沖縄本島と宮古島の間の公海上空に機影を捉えたからだ。数分後、F15戦闘機2機が南西海上に向けて飛び立った。

 確認されたのは中国の早期警戒機。空自機を無視するように数時間飛行し、大陸方面へ去った。

 中国機へのスクランブルはこの5年で激増した。平成23年度は156回だったが、27年度は3・7倍の571回に上った。

[5] これは領空侵犯ではありません。だから日本側から先に攻撃することは、できません。この場合、どこの国にあっても同じです。論者は当然、このことを知ったうえで書いているでしょう。読者の中国への危機感を煽って、敵愾心をかきたてるためにする、文章です。

[6] 9条の下では、空自機から領空侵犯機を撃つことはできない。相手が警告を無視して領空を自由に飛び回っても、攻撃されない限り空自機は退去を呼びかけるだけだ。

 相手からミサイルや機関砲を撃たれて初めて「正当防衛」や「緊急避難」で反撃できるが、編隊を組む別の空自機は手出しができない。爆弾を装着した無人機が領空に侵入しても、攻撃を仕掛けてこない限りは、指をくわえて見ていることになる。

 9条が羽交い締めにしているのが、日本の守りの実態である。自衛隊に普通の国と変わらない、実効性ある防衛を認めるには、憲法を改正して軍隊とするほかない。

 「あらゆる軍事手段を繰り出せる相手と対峙しているのに、『自衛隊は土俵の中央で相手を投げてはいけない。土俵際でうっちゃる程度ならいい』と、ハンディキャップを負わされている」

[6] 憲法9条規制下の空自機は、他国機が領空を自由に飛び回っても撃つことができない、無人爆撃機が領空侵犯しても撃つことはできない――よくもまあこんなウソ話を書けるものだ。これは真実ではありません! この事態では、憲法9条規制下であっても、攻撃は法的に可能です。領空侵犯は、法的には自衛行動発動の対象になります。ただし、実際に攻撃するかどうかは政治的判断になります。その攻撃が大戦争の発火点になるかもしれないので。

 元陸上自衛隊幕僚長の火箱芳文氏はこう嘆く。

 9条2項は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とする。自衛隊を「違憲」とみなす憲法学者は多い。

[7] 世論の理解が徐々に進んできた安全保障関連法にしても、冷戦時代の政府の憲法解釈に固執し、廃止を求める声が野党や憲法学界では大きい。今の憲法が、現実の危機に備える取り組みを妨げる方向へ作用しているのは明らかだ。

[7] 憲法9条が戦争のやり方を制限しているのは事実です。これを良しとするか、悪しとするかは価値観の相違です。

[8] 自衛隊を憲法上、軍隊だと明確化していないことは自衛隊員の身を余計な危険にさらしている。

 国際平和協力などのために自衛隊が米国や他国の軍隊に対し、物品や役務を提供する「後方支援」は、安保関連法で活動範囲が戦闘現場以外の幅広いエリアに拡大された。しかし、自衛隊員が敵対的な国の軍隊に身柄を拘束されたら、どんな扱いを受けるのか…。

 普通の国の軍人であれば捕虜となり、国際法上の保護を受けられるが、自衛隊員は曖昧だ。岸田文雄外相は昨年7月1日の衆院平和安全法制特別委員会で「後方支援は武力行使にあたらない範囲で行われる。自衛隊員は紛争当事国の戦闘員ではないので、ジュネーブ条約上の『捕虜』になることはない」と述べた。

 自衛隊員は、同条約が義務付ける、捕虜への人道的待遇が保障されない。自国民である自衛隊員を害するのが、「平和憲法」の実態なのだ。

[8] 安保法制反対論に立つ人々は、「後方支援」は危険だからダメと言ってきました。後方支援のない戦闘部隊などあり得ず、それゆえに後方支援は戦闘行動とワンセットになっているからです。しかし、「後方支援は安全だ」と政府・与党は言い切ってきました。

政府と一体になって安保法制実現の論陣を張ってきた産経ニュースで、安保法制が成立してしまえば、「自衛隊員が敵対的軍隊の捕虜になったら」などと、とんでもないことを言い出す。報道・言論の一員として「恥を知れ」と言いたい。

しかし仮に南スーダンなどPKO自衛隊員に被害が出たとするならば、政府は「テロ」とか、「治安」とかの言葉を使って、安保法制による責任を回避するでしょう。

さらに、もう一つ問題があります。PKO派遣されている南スーダンにしてもその他の紛争地にしても、反政府軍、アルカイダ系戦闘組織、ISなど、それら戦闘組織が国軍同士の国際法を守るかどうか、当てになりません。


[9] 日大教授(憲法学)の百地章氏は「9条2項で自衛隊を『軍隊』と位置付けてこそ、本当の意味で『切れ目のない防衛』が可能になる。自衛隊員も万一の際に人道的な扱いを受ける」と指摘し、9条改正の必要性を訴える。

[9] 自衛隊員が捕虜になったときに国際法上の扱いを受けられない――わざわざ政府側論者が宣伝して、それが引き金になってさらに自衛隊員を危険にさらすのではないか、と私は疑っています。安倍首相の「私には国民を守る責任がある」という政治姿勢によって、国民がテロにさらされる危険度が増しているように思われることと同じように、政府や政府側論者を疑っています。

[10] 憲法に緊急事態条項を設け、大規模自然災害などに対処する態勢をつくることも急務だ。東日本大震災の際に陸幕長だった火箱氏は「各省庁の対応がバラバラで支援物資が十分に行き渡らなかった」と振り返る。

 政府が一時的に、強力に被災者を救う態勢をとることが望ましかった。

 安全保障も災害対策でも今の憲法は現実に追いついていない。国民のため、憲法改正が必要なゆえんである。

[10] 災害対策に憲法改正が必要とは、唐突な議論でむちゃくちゃな話です。理由、根拠もまったく説明がありません。

東日本大震災は、自然災害の地理的な広域性において、原発災害という最悪の人災を伴った点で、戦争災害を除けば、近代日本最大の災害でした。この経験を防災、災害対応に生かすことは大変重要なことです。しかしこれは政策と法整備で対応できることで、憲法改正でなければできないという理由は何でしょうか? 理解に苦しみます。

東日本大震災の経験を大切にして憲法改正のネタにするのなら、同じ経験を大切にして「原発廃止」の提案がなければ、整合性がありません。こんな荒っぽい立論ならばそのうちに、テロ対策を憲法改正のネタにするのではありませんか。


(政治部 内藤慎二、力武崇樹)

コメント