喫煙と遺伝子変異のガンリスク

国立ガン研究センターや理化学研究所ほか、海外の研究所も一緒になった国際研究グループが喫煙と遺伝子変異の関連について発表しました。

この研究では、タバコを１日１箱１年間吸い続けると、肺の細胞では150個もの遺伝子変異が生ずるとしています。遺伝子の変異はガンのリスクを高めるとされ、今回喫煙がさまざまな部位の細胞の遺伝子に悪影響を与えることを、初めて詳細に解析した成果として注目されています。

国際研究グループは、日本を含むアジアや欧米の5,200人以上のがん患者の症例について、がん細胞のゲノム(全遺伝情報)を解読して遺伝子の突然変異と喫煙歴などとの因果関係を詳細に調べました。調査対象のがんは17種類に及んだようです。

その結果、患者の喫煙とがん細胞の遺伝子の突然変異の間にはっきりした相関関係があることが判明しました。1日1箱のたばこを吸い続けた影響をみると、肺は150個、のどの下方にある喉頭(こうとう)は97個、上方の咽頭(いんとう)は39個、また口腔(こうくう)は23個、ぼうこうは18個、肝臓は6個の遺伝子変異が1年間に発生し、これが年々蓄積すると推計しているようです。

この数値はあくまで非喫煙者の遺伝子変異との比較から算出したもので、それなりに統計的意味はあるようです。突然変異の生じ方は部位によって異なり、肺や喉頭、肝臓などは、たばこに含まれる発ガン物質により変異が起きていましたが、ぼうこうや腎臓では発ガン物質とは直接の関係なく変異が起きていたようです。

この点について研究グループは、ぼうこうや腎臓では、喫煙が細胞の分子機構に影響を与えて間接的に突然変異を誘発しているとみてさらに詳しく研究するとしています。一方、子宮頸や膵臓のガンについては喫煙と突然変異の関係は確認できなかったようです。この間接的に突然変異を誘発するというは、意味がよく分かりませんが、やや無理やり喫煙と関係づけようとしているような気もします。

研究グループによると、タバコに含まれる発ガン物質は約60種類あり、喫煙者がガンで死亡するリスクは非喫煙者と比べて男性では2倍、女性では1.6倍高く、男性の場合喫煙者が肺や、喉頭、尿路のがんになるリスクは非喫煙男性の5倍も高いと結論付けています。

この記事には具体的な症例数なども出ていますが、すべての患者を喫煙と非喫煙だけで分類するのは問題が多いような気がします。例えばこの分類で両者が同じような年齢構成になっているかなど、全く触れていません。喫煙者に高齢者が多ければ、それだけで遺伝子変異数や患者数なども増えてしまいます。

こういった疫学処理的要素が入ると、結果の評価にあいまいさが入ってしまいますが、ガン細胞の遺伝子変異を調べるという新しい手法の結果としては面白いのかもしれません。